まだ日が顔を出すことのない早朝、若い女性の姿が数十畳ほどの畳の上にあった。女性はその右手に持った扇子を開くと同時にその手足を柔軟に動かし始める。

時に緩く、時に疾く。緩急を織り混ぜたその動きこそ日本古来から伝わる踊り『日本舞踊』であった。

微塵の無駄の無いその踊りは見る者の心を浮き立たせ、女性がゆったりと旋回するその様は見えるはずの無い蝶々や花びらが舞っているように思わせるほどであった。

畳の上で見事な舞を踊るその若い女性は、絹のような黒髪を臀部まで届くほど伸ばし、暗闇でも妖しく光る冷たい瞳を持っていた。

平安時代より伝わる民族衣装「十二単」を纏うその身体は、いくつもの布越しでも女性特有の見事な曲線を描き、その立ち振舞いに布の重さを全く感じさせない。

その女性こそ、かの「御前」に並ぶ権力を持ちながらその詳細を知るものはいない存在。裏社会の人間からは「かぐや姫」と呼ばれる女性であった。

やがて「かぐや姫」の動きがピタリと止まる。「かぐや姫」が携えた扇子が役目を終え、蝶が羽を休めるがごとくゆっくりと閉じていくと同時に「かぐや姫」の口からは吐息が漏れる。

「…ふっ…。」

その吐息が朝靄の中に消えていくと「かぐや姫」は周囲に視線を配る。

そこには「かぐや姫」に付き従う侍女たちが数名。息をするのも忘れ、その舞に魅了され、幻想の世界に誘われていた。

「…お前たち。」

「は、はいっ!」

「茶の準備をせよ。」

「か、かしこまりました!直ちに!」

突如「かぐや姫」に呼び掛けられ、幻想の世界から現実に帰ってきた侍女たちは慌ただしく一礼すると、自らの主君に捧げる茶を入れにその場を離れた。

それを見届けた「かぐや姫」は再び一息付くと、右手に添えていた扇子を懐にしまい。侍女たちが入れてくる茶を待つために畳に敷かれた座布団に正座する。

「…。」

ふと「かぐや姫」は再び右手を懐に入れると、今度は扇子では無く一枚の写真を取り出す。そこには以

前〈地下闘艶場〉で行われた試合で闘っていた「辻倉美雨」が写っていた。

「辻倉、美雨か…。」

その呟きは誰にも聞かれること無く、静まり返った和室に消えていった。




【雨と月 3話】   投稿者:はぐれ観戦者様  推敲手伝い・加筆:事務員




「お、お待たせしました。」

数分後、「かぐや姫」は侍女たちが入れ、遠慮がちに差し出された茶を優雅な動作で受け取ると、湯飲みに両手を添えながら口を付けて飲んでいく。

「…。」

運動後の身体に水分が浸透していくのを感じながら「かぐや姫」が一口飲み終える。

ふと「かぐや姫」が侍女たちに視線を送ると、そこには緊張した面持ちで主君が茶を飲む様を見つめる侍女たちがいた。

「…安心せよ、其方(そなた)らが入れる茶はいつでも美味い。」

「かぐや姫」がそう言葉を投げかけ、柔らかく笑みを浮かべると、侍女たちはその表情を歓喜の表情に変える。

「ご苦労であった、下がれ。」

「はいっ!失礼しました!」

侍女たちは再び一礼すると、心なしか嬉しそうに襖を閉め、部屋を後にする。

残された「かぐや姫」は二口目の茶を飲むため、湯飲みに手を添えようとするその時。

『ダンッ!ダンッ!ダンッ!』

木製の廊下を何者かが駆けてくる足音が聞こえてくる。

「…そろそろ帰ってくるころであったな。」

その音を聞いた「かぐや姫」は湯飲みに口を付けずにそばに置き、来るべき衝撃に備える。

足音が「かぐや姫」のいる和室の前で止まると、先ほど侍女が出ていった襖が勢いよく開かれる。

「お姉様ぁー!ただいまっ!」

それと同時に白い塊が「かぐや姫」の胸元に飛び込んでくる。「かぐや姫」はそれを難なく受け止めると子供をあやすかのように撫でさする。

「ご苦労であったな、真樹(まき)。」

白い塊の正体はまだ幼さが残る少女であった。

真樹と呼ばれたその少女は長い黒髪を頭部の片側面でまとめ、肩まで垂れ流す、いわゆる「サイドテール」と言われる髪型にしており、その顔立ちやボディラインは幼さを残しつつ、健康的な色香を放っていた。

一見するとただの少女である彼女も裏社会の人間であり、「かぐや姫」が信頼を寄せる側近の一人。様々な工作活動や少女であることを活かした潜入活動をこなしていた。真樹もまた、「かぐや姫」を崇拝し、「お姉様」と呼び付き従ってきた。

「えへへ、真樹ね、ちゃんとお仕事できたよ!」

真樹はしばらく「かぐや姫」の豊満な胸元に顔を埋めていたが、その顔を上げるとまるで親に語りかける子供のように「かぐや姫」に話し始めた。

真樹を撫で続けながら「かぐや姫」がそれを聞いていると真樹の後を追うように別の足音が二人のいる和室に近付く。

「おい、真樹!邸内は走るなとあれほど…。」

真樹に続いて今度は長身の若い女性が和室に入ってくる。

「要芽(かなめ)か、其方もご苦労であったな。」

「ひ、姫様!?」

要芽と呼ばれた女性は煌めく金髪を肩まで伸ばしており、日本人のみの血ではあり得ない褐色の肌とライトグリーンの瞳を持っていた。長身に見合うバストやヒップはパンツタイプのスーツを着た上からでもはっきりと分かり、見るものを魅了した。その要芽もまた、「かぐや姫」が信頼を置く側近の一人であった。

要芽は部屋に真樹だけでなく「かぐや姫」がいることに気付くと、すぐさまその場に跪く。

「も、申し訳ありません姫様!また真樹が無礼を!」

「もうよい、それより要芽・・・報告を。」

「あのね!お姉様!あのね!」

「かぐや姫」の促しに応じたのは要芽ではなく真樹であった。

要芽は立ち上がると「かぐや姫」に抱き付く真樹のワンピースの裾を掴み、「かぐや姫」から引き剥がす。

「あっ、要芽お姉ちゃん何するの!」

「真樹、キミが喋るとややこしくなるんだ、ここはボクに任せて黙っていたまえ。」

主君の前では畏まった態度を見せた要芽も真樹の前では本来の特徴的な喋り方と「ボク」といった一人称が覗く。

「重ね重ね申し訳ありません!姫様!この馬鹿にはボクからキツく言い聞かせて…。」

「よい、報告を続けよ、要芽。」

「はっ!」

引き剥がした真樹を脇に座らせると要芽は「かぐや姫」の前に跪く。

「ここ最近見張りの侍女たちが不審な人影を目撃しています。」

「…ふむ。」

「やはり、姫様の存在に感付き、姫様に近寄らんとする輩がいるかと考えられます。」

要芽の報告通り、「かぐや姫」の近辺では不審な人影を目撃したとの報告が相次いでいた。

裏社会の謎の1つである「かぐや姫」の存在を探ろうとする者はこれまでも多くいたが・・・。

「目撃頻度が多すぎるな・・・。」

これまでと違い、あまりにも目撃頻度が高かった。しかも各地に派遣した侍女たちからも報告が上がっており、今回の相手は巨大な組織であることが考えられる。

「ねぇねぇお姉様!そんな怪しい人なんか捕まえてみーんな壊しちゃえばいいんじゃないの?」

真樹の無邪気な笑顔からはとても似つかわしくない発言が飛び出す。

それを聞いた要芽は跪いたまま溜め息を漏らす。

「真樹、だからキミはもう少し知性を付けるべきだと言っているんだ。」

「えーっ!?要芽お姉ちゃんひどいよ!また真樹のことバカにした!」

「実際キミはバカじゃないか。」

「バカじゃないもん!真樹、やっと掛け算の九九言えるようになったんだから!」

「…確かキミの年齢は15と記憶しているけど?」

要芽はもう一度深く溜め息をつく。

「いいかい?こちらの本拠地を叩いてこない以上、相手はこちらの存在を特定できていない。ここで奴らを始末すれば、ボクらがここにいると言っているも同然だろう?」

要芽の言葉に「かぐや姫」も頷く。

「まだ始末するには時期尚早だ…余に近寄らんとする不届者には罰を与えねばならぬが、情報が足りぬ。」

「うーん、じゃあどうするのお姉様?」

「ボクらが出向いても顔を知られるリスクがあるし、敵もボクらのことを把握している恐れもある…できれば顔が知れていない者を使うべきだけど…。」

真樹の問い掛けに「かぐや姫」は一瞬考える素振りを見せる。

「顔が知れておらず、余の直属の部下でない隠密行動に長けた人物か…。」

「かぐや姫」は脇に避けていた湯飲みから一口茶を啜る。そして、茶の水面に浮かぶ自らの表情を見つめ、呟く。

「…奴を試すには調度いい機会かもしれぬな。」

「姫様?何を…。」

水面に浮かんだ口元が歪みを見せたその瞬間、要芽の問い掛けに応じず、「かぐや姫」は立ち上がる。

「余は少し出かける、真樹、留守を任せる。要芽、護衛の者を少数集めよ。」

「ひ、姫様!どこへ!?」

そのまま和室を出んとする「かぐや姫」に要芽は呼び掛ける。

「何、少し親友に会いに行くだけだ…それに…。」

和室を出た「かぐや姫」は要芽に振り返らぬまま呟く。

「余にはどうしても欲しいものがある…。」

口元を妖しく歪める「かぐや姫」の懐には自らの興味を引いた存在。「辻倉美雨」の写真が仕舞われていた。




太陽は地平線へ身を隠し、光輝く満月が地上を淡く照らしつける深夜。

街は夜の顔へと姿を変え、昼間とは違った賑わいを見せる中、街並みの喧騒から外れた山奥にその男は在った。

並大抵の人間では踏みいることすら叶わぬほどの秘境、そこには自然が作り出した地形の段差を水がほぼ垂直に落下していく巨大な滝があり、その滝口にある岩場に男は座禅を組み、たたずんでいた。

数十メートルはあろうかという高さから落下する滝に打たれても男は瞳を閉じたまま微動だにせず、声ひとつ上げず、ただそこに在った。

『禊(みそぎ)』

そう呼ばれるこの行為は滝に打たれることで自らの身を洗い清め、穢れを祓う。「日本神話」で伊弉諾命が水で心身を清めたことが由来とされる儀礼であった。

突如の風が木々を揺らす。それにより生い茂る葉の間から月光が漏れだし、男の顔を照らす。

青白い光に照らされた男は豊かな白髪を持つ老人と見えた。しかし、黒い道衣越しでも分かる筋肉の盛り上がりと肌の張りはおよそ老人のものでは無い。

強靭な肉体を持つその男こそ「御前」と呼ばれ、絶大な権力を握る謎の男であった。

滝に打たれる「御前」の意思は自然と同化し、欲や煩悩を越え、もはや「無」の境地にあった。

いかに絶大な権力を持つ「御前」であってもあくまで人間。広汎たる大自然の前ではちっぽけな存在に過ぎない。しかしその大自然すら呑み込もうとする気概で自然と対峙する。

「御前」は自然と一体化しながらも、自然に阿ることを拒絶する。

絶大な権力を持ちつつもその地位に拘泥することなく、更なる上昇を求める。

それが「裏社会の帝王」たる「御前」の覇気だった。

『ガサッ…ガサッ…』

鋭敏な「御前」の耳が滝音にも負けず、布が擦れる音、草木を踏みしめて何者かがこちらに歩いてくる音を捉える。

この場所は鬼島洋子や元橋堅城といった配下の中でも特に重役である者にしか教えてはいない秘境であり、さらに、常人ならばここにたどり着くまでの山中で力尽きるのが関の山だった。

(いや、もう一人この場所を教えた者がいたな…。)

「御前」は瞳を閉じたまま、気配でその者が何者であるのかを察し、今まで言葉を発さなかった口を開く。

「最近は能く能く儂の顔が見たいようだな、姫よ。よもやここまで出向くとはの。」

そこには「十二単」を身にまとい、草木を踏み分けてこちらに向かってくる「かぐや姫」の姿があった。

「友人の元を訪ねるのに躊躇いなど必要なかろう?「御前」よ?」

「姫らしい。」

突然の来訪に驚くこともせず、「御前」は瞳を開き、滝口のそばの岩場に腰かけている「かぐや姫」を見やる。「かぐや姫」もまた滝に打たれる「御前」を一瞥し、言葉を投げかけた。

「…禊、か…そのような滝水で其方(そなた)の穢れにまみれた身体が清められるとも思わんが?」

「少し違うな、姫。儂は穢れを祓おうなどとは考えておらぬ。これは鍛錬の一種に過ぎぬ」

そこには「かぐや姫」を弄(いら)う調子も含まれている。

「人と穢れは常に共に在り、この世は穢れだらけよ。裏社会においては人とは即ち穢れよ。お主もこちらの世界の人間、理解できるであろう?」

「フン、一理ある、な…。」

裏社会を牛耳る「御前」を相手にしても物怖じせずに会話ができる。それは「かぐや姫」が「御前」と友好関係にあるからこそであった。

「どうだ姫、共に滝に打たれてみんか?さすればお主の考えも変わるだろう。」

座禅を解き、滝壺から離れた「御前」は「かぐや姫」の座る岩場まで歩いていく。まるで水が自ら「御前」を導くかのような滑らかな動きだ。

「妙齢の女性を水辺に誘う、それこそ穢れだと余(よ)は考えるが?」

「おなごを誘うは、男としての本能よ。」

滝に打たれ、濡れた道衣のまま「御前」は「かぐや姫」のそばで胡座をかくが、「かぐや姫」は気にする様子を見せない。

「さて、お主が用もなくこの様な場所に現れるとも思えん、儂に何を望む?」

「そうだな、少し其方に相談があってな・・・。」

二人の権力者の間を一陣の風が吹き抜ける。「かぐや姫」は風に揺れる長髪をかき上げ、言葉を続ける。

「単刀直入に言おう、辻倉美雨を余の物としたい。」

深夜、夜も眠らぬ大都会の一角にその建物はそびえ立っていた。いくつもの壁やあらゆるセキュリティで守られたその建物は表向きは平凡な製薬会社だが、その裏では、裏社会と繋がっている組織「神城(かみしろ)製薬」の本部であった。

その組織は広大な裏社会のネットワークを利用し、邪魔になりそうな組織は片っ端から潰し回り、非人道的な実験も進んで行っていた。

それゆえに裏の人間からは恨みを買うことが多く、総本部であるこの建物は厳重なセキュリティと閉鎖的な空間で守られていた。

「異常無し、っと。」

本部のとある廊下、黒服を着た男が懐中電灯を片手に歩いていた。

この男は「暮内グループ」に雇われている警備員であり、一般企業の警備員と違い、特殊な訓練を受けたエリートの集まりの一人であった。

「しかし、D班からの連絡が遅いな・・・。」

男が前方から意識を逸らし、懐の通信機に気を向けた一瞬、男のそばを鋭い風が駆け抜けた。

「っ!だ、誰だ!」

男は瞬時に懐中電灯を風が吹いてきた方向へ向ける。

しかし、向けた方角には何もおらずただ無機質な廊下が続いていた。

(気のせいか?しかし、完全に密室であるここに風が吹くわけが…。)

気になった男が別の場所の警備にあたっている班に連絡しようとした次の瞬間。

「なっ、ぐぅっ!」

後方から突如伸びた手に口を塞がれ、首もとを絞められる。

「ぐっ、うぅっ…。」

口と気道を塞がれ、呼吸を制限された男はこの状況から逃れようと抵抗を試みる。

しかし、後方から口を塞いでいる人物は男に後ろからしがみつくように纏わりつき、足を両腕ごと胴体に絡ませることで男の両腕を戒めていた。

「…眠って…。」

その鈴を鳴らしたような声や背中に当たる柔らかな膨らみから後ろにいる人物が女性であり、その軽さや小柄な体型から年端もない少女であることが分かる。だが男が知れたのはそこまでだった。

呼吸を制限され、助けも呼べず、両腕を封じられたことで銃を使うことも通信機で助けを呼ぶこともできない男は血流内の酸素が不足し、やがて意識を闇に手放した。

「…。」

男が意識を失ったことを確認すると少女は男から飛び退く。

先ほど男が感じた風は少女が一瞬の隙をつき、目にも止まらぬスピードで男の背後に回り込んだ風圧であったのだ。

「…あった。」

少女は地に伏す男のスーツを探り、1枚のカードを取り出す。これこそ少女の求めるものであった。

(確か…この先…。)

男が手放した懐中電灯が立ち上がった少女の顔を照らす。

潜入用の黒一色のツナギを身にまとった少女は美しさを秘めるがあまり手入れされていないボサボサの黒髪を持ち、その前髪は目元にかかるほど伸びていた。しかし、前髪の奥には整った可愛らしい顔を隠し持っているその少女こそ裏社会では「辻倉美雨」の偽名で通っている美少女であった。

美雨はとある組織に依頼を受け、神城グループの本部に潜入していた。その依頼は「神城グループ重役の名簿が入ったデータの奪取。」美雨が男から奪ったカードはデータが保管されている部屋へのカードキーであった。

(あとは、このキーで部屋を開けてデータを奪うだけ…でも、変。)

美雨は潜入していた時からある違和感を感じていた。

(セキュリティが…甘すぎる。)

事前にリサーチした情報よりも警備の数が少なく、さらには美雨が無効化する前にすでに無効化されているセキュリティシステムまでもがあった。

(…何か、ある。)

裏社会で鍛えられた美雨の勘が警鐘を鳴らす。しかし、美雨が今やるべきことは依頼を完遂することのみ、美雨は警戒を怠らずに廊下を歩いていく。

(この近くに、例の部屋が…っ!)

「思っていたより遅かったな。」

目的地にたどり着いた美雨を待ち受けていたのは、見覚えのある銀髪であった。

忘れるはずもない、〈地下闘艶場〉の試合から数週間が経過しているがリング上で美雨を打ち負かし、男たちによる淫獄に飲まれる引き金になった女性がそこにいた。

「ナスターシャ…ウォレンスキー…!」

「久しぶりだな、あの試合以来か。」

そう、そこにいたのは「御前」の付き人であるナスターシャ・ウォレンスキーだったのだ。




場所は移り変わり薄暗い一室、ここは「御前」が膨大な量の仕事をこなしていく公務室。「御前」の部下の中でも限られた者しか入室を許されておらず、「御前」の部下である黒服も見当たらない。

もっとも、ここに部下を配置しないのは「御前」は必要最低限の護衛のみしか必要としないほどの実力者であるが故だが…。

「これで満足か、姫よ…?」

部屋にその主の声が静かに響く。ナスターシャと美雨が再会を果たしている時と同じくして、メイド服に身を包んだ付き人を従えた「かぐや姫」は「御前」の公務室を訪ねていたのだった。

「ああ、感謝するぞ「御前」。」

「友、ましてや絶世の美女の頼みだ、断るわけにはいかぬからな。」

「其方はいつでも欲に忠実よな。」

「かぐや姫」は「御前」の軽口を慣れた素振りで受け流す。

「しかし、姫よ、辻倉美雨の潜入先を割り出し、儂からナスターシャを借りてまであの娘を捕えようとするとは…何故そこまであの娘に執着する?」

「ふん、ただの気まぐれ、遊戯の一環よ…その中に意味など存在せぬ。」

「ふむ、意味は無いか…儂にはよほど執着する何かがあるように見えたが…。」

「御前」が言の葉を紡ごうとしたが、それは控えめなノックの音で遮られる。

「…入れ。」

「はい…失礼、します…。」

扉を開けて入ってきたのは漆黒のドレスを身に纏い、前髪で目線を隠し、陰気な印象でありながら妖気のような魅力を放つ女性。

「御前」の部下であり、〈地下闘艶場〉の女性選手としても活動する唐辻(からつじ)巳詩夜(みしよ)であった。

「ご歓談中、失礼します…先ほどナスターシャさんから…神城グループに潜入した、と…報告がありました…。」

「そうか、ならば辻倉美雨に接触している頃合いであろうな…ご苦労様であった…しばしそこで控えよ。」

「ウフフ…ありがとうございます…。」

「御前」は椅子に座ったまま立てかけてある時計を確認しつつ、巳詩夜の報告を受ける。

「だが、あの娘は逃げ足だけは一流…ナスターシャとはいえど確実に捕えられる保証などできんぞ?」

「そのために余の部下も一人潜入させている…雅(みやび)!」

「かぐや姫」はそばで待機していたメイド服の付き人の名を呼ぶ。

「…いかがいたしましたか、姫。」

雅(みやび)と呼ばれた付き人ははち切れんばかりのバストとまろやかな曲線を持つ身体をメイド服で包み、感情の起伏が見えない切れ長の瞳を持っていた。頭部にはメイドの証であるヘッドドレスを装着し、その整えられたロングヘアーの銀髪を美しく引き立てていた。

雅は「かぐや姫」の呼びかけに答えると「かぐや姫」の隣に立ち、「御前」に無駄のない一礼を見せる。

「要芽が潜入してからどれほど経過しておる?」

「はい、神城グループに潜入したとの報告があったのが42分34秒前…すでに全セキリュティを無効化している頃合いかと…。」

雅は「かぐや姫」の問いに表情を変えず、機械的に答える。

「余の部下も潜入は完了している、何も問題はあるまい…。」

「フッ、確かに杞憂であったな、それにしても姫よ…。」

椅子にもたれかかり、「御前」は「かぐや姫」の隣に立つ雅を品定めするかのごとく見据える。

「雅といったか…興味深い配下に恵まれているな?」

「…だからどうした?其方にくれてやるつもりなぞ毛頭無い。」

「姫よ、別に奪おうというわけではない…ただその雅とやらを使って儂と一つ賭けをせんか?」

「賭けだと…?」

雅の身体を舐めるかのように視線を這わせながら、「御前」は微笑を浮かべる。

「そう、ただの戯れ…賭けだ。」

「ふん、何を賭けるというのだ?余と其方の間に今更賭けられるものなどあるまい。まさか金とは言わぬであろう?」

「そのようなくだらない物を賭けるのは俗物の行いだ…賭ける者は…『辻倉美雨の所有権』というのはどうだ?」

呆れたように「御前」の言葉に耳を傾ける「かぐや姫」はその一言で表情を変え、刺すような視線を「御前」に送る。

「…何だと?」

「儂はお主から辻倉美雨を捕える協力はすると言った…しかし、所有権を姫に譲るとは一言もいってはおらぬのでな、ここは賭けで決めようではないか。」

「…賭けの内容を聞かせてみよ。」

「簡単な話だ、ナスターシャが任務完了の報告をするまでに儂が雅の身体を玩ばせてもらう、任務完了までに雅は達しなければ所有権は姫に譲ろう、しかし、一度でも達したならば…。」

暗がりの中でその鋭い眼光と威圧感をもって「御前」は告げる。

「辻倉美雨は儂のものだ…。」

「…。」

沈黙が両者を支配する。数刻の後、沈黙を破ったのは「かぐや姫」の含み笑いであった。

「フッ…「御前」よ、其方らしい提案だ…。」

「ほう、では姫よ儂の賭けに乗るということだな?」

「いいだろう、其方の遊戯に付き合ってやる。それで良いな、雅?」

隣で立っている雅に向かい「かぐや姫」視線のみを送ると、雅は数秒の迷いもなく答える。

「問題ありません…我が身はすでに姫の物…どうぞ姫の思うがままに…。」

「そうか、では…。」

「待て、「御前」。」

椅子から立ち上がり、雅に手招きする「御前」を「かぐや姫」は片手を上げることで静止させる。

「ただ其方が楽しむだけでは興が無い…ここは前哨戦といこうではないか。おい、そこのお前!」

次に「かぐや姫」はナスターシャの報告に来たまま一部始終のやりとりを見ていた巳詩夜に呼びかける。

「えっ…わ、私…?」

「そうだ、其方だ…名は?」

「唐辻……巳詩夜…。」

「では巳詩夜よ、これより其方には雅の身体を弄ぶ権利をやろう。「御前」の前に其方が雅を達せさせてみよ。」

「えっ…?」

「「御前」から其方の話は聞き及んでおる…女同士でまぐわることを良しとしているのであろう?」

思ってもみなかった「かぐや姫」の命令に巳詩夜は若干の戸惑いをみせ、控えている雅に視線を送る。

「…。」

物静かな立ち振る舞い、銀髪の髪にメイド服、そして服の上からでも主張する豊満な曲線美…それらが自分の手で乱れていったらと思うと巳詩夜の疑念は吹き飛び、内側から昂るものを抑えられなかった。

「ほ、本当に…いいん、ですか…?」

「これは「かぐや姫」としての命だ、拒否することなぞ許さぬ。そうだな、もし雅を達せさせられることができたあかつきには褒美もくれてやろう…よいな、「御前」?」

「…なかなかに興味深い趣向だ「かぐや姫」…巳詩夜、儂からも命じよう、その者を達せさせてみよ。」

「ウフ、フフフ…承り…ました…フフ。」

「御前」の後押しも受け、巳詩夜は喜々として雅の目の前に躍り出る。

異常とも言えるほど興奮している巳詩夜を目の前にしても、雅は迷いも戸惑いも無く向きあう。

「フフフ…よろしく……えっと…?」

「…雅…と申します、以後、お見知り置きを。」

雅は両手を後ろに回し、巳詩夜に身体を差し出す様な姿勢をとる。胸を張るようにそらした際にたわわに揺れたバストを見た途端、巳詩夜は舌舐めずりしつつ手を伸ばす。

「ああ、雅ちゃん、すごいおっぱい…大きい。」

巳詩夜は早速、衣服越しでもその大きさ主張するバストを正面から鷲掴みにし、揉み始める。

「大きいだけじゃなくて、柔らかい…ウフフ、いっぱい揉んであげるね?」

「…。」

巳詩夜は自らの欲望のままに雅のバストをゆっくりと揉み続けるが、雅は声ひとつ上げない。

「ねぇ、雅ちゃん……おっぱい…気持ちよくなってきた?」

「いえ…不快指数の方が上昇しています…。」

巳詩夜は〈地下闘艶場〉の女性選手に対してするように淫らな動きで雅のバストを責めたてる。

それは数々の試合で磨かれた妙技であったが、雅は息を乱すことすらしない。

巳詩夜は女性を責めることに関して無意識に自信を抱いており、少しでも雅を乱そうと次の行動に移る。

「それじゃあ…こっちはどう?」

「…。」

巳詩夜は右手で雅のバストを揉んだまま左手をロングスカートの中に入れ、下着越しに女の弱点とも言える秘部を撫で上げる。

「ほら、雅ちゃん…おっぱい揉まれて…アソコも触られてる、よ?恥ずかしく…ないの…?」

言葉でも雅を責めようとするが、一切の反応は無い。

また、雅のそこは全く潤みを帯びておらず、巳詩夜の指に下着の上質な布の感覚を伝えるのみだった。

「…どうして…何で……?」

「もう十分かと…これ以上は時間の無駄かと思われます。」

巳詩夜はさらに右手で雅の手に余るバストを揉みしだき、左手では下着の中に手を差し入れ、直接秘部を弄り回す。

しかし、雅はまるで精巧な人形の如く動じず、淫らに踊る手に反応することは無かった。

「どうして…どうして…ドウシテ………あっ!」

「もうよい、巳詩夜。」

突如として巳詩夜の手が止まり、嬌声が上がる。

それは巳詩夜の背後に回っていた「御前」が脇から手を入れ、巳詩夜のバストを揉んだからであった。

「あんっ……ご、「御前」…そんないきなり…んっ!」

「十分な働きだ巳詩夜、お主には褒美をくれてやらねばな。」

「御前」は巳詩夜の背中のファスナーを下ろし、漆黒のドレスを脱がしていく。

巳詩夜は大した抵抗もせず、「御前」にされるがままとなり、ワンピースタイプだったドレスは巳詩夜の身体に沿って床に落とされる。

「ああっ…「御前」…お客さんも、見てるのに……脱がしたら…。」

「何を言う?その方が好みであろう?」

あっという間に男の加虐心をそそる紫の下着姿にされた巳詩夜の身体に「かぐや姫」や雅の感情の無い視線が刺さる。

その無感情な視線がかえって巳詩夜の被虐欲を刺激する。

「「御前」…ご褒美…ご褒美を下さ…あんっ!」

「御前」は巳詩夜のブラジャーを上にずらし、乳房を露出させるとその先端を痛いくらいにつまみ上げる。

「ふっ、正直に申せ巳詩夜よ…お主が真に欲しているのは褒美ではなく…罰であろう?」

「は、はい…「御前」…不甲斐ない私に…罰を…あひぃ!」

「御前」の手が勢いよく振り抜かれ、巳詩夜のヒップを叩く。

巳詩夜が悦に浸る間もなく2度3度と激しい音が響く。

「はふっ、「御前」、乱暴すぎます……はぁあん!」

「これは罰だ…乱暴にするくらいでないとな?」

「御前」は右手でヒップを叩きつつ、左手では乱暴に乳首を捻り、時折パンティに手を入れ、秘部を掻き回す。

乾いた音、水音が響くたび、同時に巳詩夜の嬌声も上がる。

「さて、そろそろか…達する時はちゃんとそう宣言してから達するのだぞ?」

「は、はひっ、イ、イきます……イきますぅぅ………ぅぅぅ!」

「御前」が一層強くヒップを叩いたと同時に巳詩夜の身体はピンと仰け反った後、脱力する。

「はぁ………はぁ………はぁ………。」

「………其方の配下もずいぶんと興味深い者であるな、「御前」?」

巳詩夜の艶姿を見せられても冷たい沈黙を保っていた「かぐや姫」が声を上げる。

「そうであろう?そして、部下に対して適切な報酬を用意するのも主の務め……巳詩夜に関しては『飴と鞭』どころか『鞭』すら『飴』になりかねんのが難点だがな。」

「………下らん茶番だ……。」

「御前」は脱力した巳詩夜を寝かせると雅に視線を送る。

「お主の配下…雅も面白い素質を供えておる……『飴』も…そして『鞭』すらも意味を成さぬとはな。」

巳詩夜の行為により皺が付いた衣服を整える雅を見据えつつ、「御前」不敵な笑みを浮かべた。

「この女、不感症か……。」



『不感症』

それは性的な刺激に対して何の興奮も覚えないこと、また、特定の事象に対して感情による反応がないことである。

その原因は様々であるが、過去のトラウマや性的嗜好など複雑に絡んでおり、雅が巳詩夜の愛撫に全く反応しなかったのはその行為に対し、我慢をしていたわけではなく。性的興奮が湧かなかったためであった。



「その通りだ「御前」、雅は少々特殊でな、並の責めでは不快感すら引き出すことはできぬ。」

「かぐや姫」静かにほくそ笑みつつ、そう告げる。

「どうする「御前」よ?賭けを取り止めるなら今のうちぞ?」

「いや、その必要は無い、たとえ戯れであろうと敵は強敵であるほど良い……。」

「……それも男の本能とやらか?理解の範疇を越えておるわ。」

「御前」は公務用の椅子に座ると、自らの膝元を叩き、雅を招き寄せる。

「ほれ、雅とやら、こちらに来い。」

雅はそれを受け、「かぐや姫」に視線を送る。

それを受けた「かぐや姫」は視線のみで合図を送ると、雅は「御前」の目の前まで移動する。

「………失礼、いたします。」

雅は「御前」に背を向けるとそのまま「御前」の右大腿を跨ぐように座り、その体を鍛え抜かれた巨躯にもたれ掛からせる。

「さて、まずは服を脱いでもらおうか?」

「…服、ですか……それは…。」

「ふむ、どうした?今さら恥じらっておるのか?」

「いえ、服が皺になりますので…。」

服を脱ぐことに躊躇いをみせる雅だが、「御前」の問いに返ってきたのは全く色気が無い返答であった。

「なるほど、せっかくの奉仕服……脱がさぬまま致すのも良いかもしれんな、しかし……!」

「御前」は雅の背後から手を回し、そのはち切れんばかりのバストを掴む。

「女としての恥部は晒してもらうぞ?」

「……かしこまりました。」

雅は「御前」の指示通り、背中のファスナーを少し下ろし、緩くなった胸元を広げると清楚な白のブラジャーに包まれ、圧倒的な存在感を放つバストが露になる。

「わかっておるな?下着もだ。」

「……直ちに。」

躊躇うことなく雅はブラジャーの継ぎ目のフロントホックを外し、その美巨乳を解放させる。

「うむ、これは中々……。」

あまりに大きく、ブラジャーとメイド服に押さえ込まれていた乳房はようやく訪れた抑圧からの解放にうち震えるがごとく揺れ動き、先端を彩る乳首は尖りを見せてはいないが、可憐な薄桃色で男の視線を誘う。その光景は「御前」の獣欲を引き立てるのに十分であった。

「これほどまでに大きいとはな、どれほどの大きさがある?」

「バスト96、ウエスト56、ヒップ90……推定Iカップと記憶しております。」

雅は「御前」のセクハラまがいの質問にも平然と答える。

その申告通りIカップを誇る乳房を「御前」は後ろから鷲掴みにし、揉みしだき始めた。

「これほど大きいと男の目を引くであろう?」

「……ご配慮感謝いたします。」

反応をみせない雅を気にすることなく「御前」はロングスカートを捲り、左手を伸ばすとブラジャーと同じく純白のパンティ越しに秘部をなぞり上げる。右手はその巨乳を揉みつつ、指先で乳首を刺激する。

しばらく「御前」の責めは続くが、雅は達するどころか快感を得ている様子もみせない。

「……不感症になる経緯には様々な理由があるが、大半が性的行為に対するストレスと聞く…。」

「……そうですか…。」

「申してみよ、雅、お前の過去に何があった?」

「……。」

乳房と秘部を責めながらの問いに雅は黙して答えることは無かった。さらに、並の女ならば数回は達している「御前」の緩急をつけた責めに対しても雅は快感を感じることはなく、その乳首は尖りをみせず、秘裂からは一滴の愛液も垂れない。

それを見かねた「かぐや姫」はため息をつく。

「無駄だ「御前」、雅にはどのような揺さぶりも効かぬ。そろそろ諦めるべきではないか?」

「ふっ、手ごわいおなごほど征服し甲斐があるというもの、時間はまだ十分あるであろう?諦めるには早計というものよ。」

「ふん、好きにせよ…どうだ雅?」

「…特に異常はありません、任務遂行は可能です。」

雅の返答に「かぐや姫」は勝利を確信し満足げな笑みを浮かべた。

「姫よ、ストレスによる人の防衛本能は存外強固なもの、確かに雅の不感症は儂の手をもってしても突き崩せぬ代物かもしれぬな。」

「…ほう?」

「しかし、姫はこう言ったな?『並な責めでは不快感すら引き出せぬ。』と…この世に突き崩せぬ事柄などない、常に何かしら弱点を抱えているものよ。」

「御前」は一度雅の乳房から手を離し、その身体を後ろから密着させるように抱き寄せる。

「そう、並な責めで感じることができぬのであれば、予想外……意識の外側からの責めならばどうかな?」

「…何を……ひぅ!」

抱き寄せられ、されるがままになっていた雅は「御前」が後ろから耳元に唇を押し当て、耳の穴に息を吹きかけたことで小さな悲鳴を上げる。

「ほぅ?雅よ、今の声は何だ?」

「…い、異常はありません、聞き間違えかと……はぅ!」

再び耳元に息をかけられ、雅は肩をすくめる。



不感症である雅は乳房や秘部、女性を象徴し、普通ならば性的興奮を醸し出す部位への刺激では快感どころか不快感を得られない身体になっていた。しかし、普段意識しないが敏感である部位への刺激は耐性が付ききっておらず、僅かずつながら雅の封じられていた性感を引き出し始めていた。



「よい反応をするようになったな、さて、再びこの乳を堪能させてもらおうか。」

「……あっ、んんっ!」

雅の耳たぶを舌でなぞりつつ、「御前」は再度雅の乳房を捏ね回し始める。

耳への刺激で快感を引き出され始めた雅は乳房への愛撫であっても快感を得るようになり始めていた。

「ふぁ、んうぅう!」

「ほれ、乳首が立ち上がり始めたぞ?やはり想定外の刺激には弱いようだな?」

少しずつ快感を得始めた雅の乳房はそれを象徴するかのごとく、先ほどまで変化を見せなかった乳首を朱色に染め、さらなる刺激を求めて硬くしこらせ始める。

「御前」はさらに雅を追い詰めるため、立ち上がり始めた乳首に刺激を加える。

「ひぃううう!」

「一度決壊した快感を止めることは容易ではなかろう、さぁ、儂の手で乱れてゆけ。」

尖りをみせていく両乳首を乳房に押し込み、指で弾いたかと思えば指先で何度も弾かれる。乳首だけでの刺激では終わらず、気まぐれに美巨乳を揉み始め、耳元を唇でなぞることで責めの焦点を絞らせない。

「くぁああ!んんっ!」

「いい声色になってきおったな」

唇の端を上げた「御前」は、ある視線に気付く。

それは先ほどまで快感の余韻をさまよい、横たわっていた巳詩夜のものだった。

巳詩夜は下着姿のまま座り込み、「御前」の手の中で乱れ始める雅の姿を物欲しそうに眺めていた。

「…巳詩夜よ、お主も混ざるか?」

「えっ……。」

そういった「御前」は椅子を巳詩夜の方向に回転させ、雅の身体を仰け反らせることで巳詩夜に雅の身体を触らせやすいようにする。

「い、いいんですか……また、雅ちゃんと………。」

「女同士でないとできぬ責めもあるであろう、よいな姫よ?」

勝利を確信した笑みから一変し、神妙な顔つきに戻っていた「かぐや姫」。しかし、その返答に迷いは無かった。

「よかろう、好きにせよ…。」

「ウフフ、また頑張るね…雅ちゃん……まずはおっぱい…。」

巳詩夜は再び雅のIカップを誇る乳房を鷲掴みにし、揉み始める。

「はぁっ、お、お待ちくださ……んぁああ!」

「さっきまでの澄ました顔が……こんなに……私まで、昂っちゃう…。」

巳詩夜は直接乳房を揉みしだきながら、すでに硬度を増していた乳首を指先で弾く。

「ふぅうううん!」

「雅ちゃん…乳首立ってる………そうだ。」

巳詩夜は自らブラジャーを脱ぐと雅の巨乳に自らの乳房を擦り合わせるように押し付ける。

「あああっ!」

「フフフ、一緒に……気持ちよく、なろう…?」

巳詩夜が身体を擦り付けるたびにお互いの乳首が擦れ合い、堪らぬ快感を生み出してしまう。

巳詩夜も雅もさらに乳首を硬く立ち上がらせ、それにより接触面積が増えて快感係数が止まること無く上昇する。

「あぁあん、そ、そこは…ふぅうううん!」

「雅ちゃん…どんどん乳首硬くなってる……悦んでくれてる、んだね…。」

二人の美女が乳房を擦り合わせ、快感を貪り、昂り合っている。

それをさらに促すかのように雅の両脇から「御前」が手を差し入れ、擦れ合っている二人の乳首を左右同時に摘まむ。

「ひゃうううう!」

「ふぁああああ!」

「くくく…どちらも良い反応を示してくれる…。」

「御前」は押し付け合うことで潰れた形になる二人の乳房を捏ね回し、美女たちに絶えず快感を与える。

時折、雅の耳をねっとりと舐め上げ、快感のスイッチを入れ直すことも忘れない。

「あぁあん!そ、それ以上…耳は……ああっ、乳首も…。」

「はぁああん!「御前」…雅ちゃん…もっと、もっと激しくぅぅっ!」

「そろそろ頃合いか………雅よ、自分で秘部を儂に見せてみよ。」

「御前」は一度手を止め、雅の両手を掴み、ロングスカートまで導く。

「………そ、それは…。」

「どうした?出来ぬのか?」

一瞬躊躇するが、雅はロングスカートを自らめくりあげ、純白のパンティに守られた秘部を「御前」の前にさらけ出す

下着越しでも溢れた愛液が染み込み、跨っている「御前」の袴の上にシミを作っていた。

「ほう、潤みきっておる、淫らな光景よな?」

雅の羞恥を煽るため、耳元で囁く「御前」。それだけの刺激でも雅は身体を震わせてしまう。

しかし、それだけでは終わらず、「御前」の手が秘部に伸びるとパンティの中に侵入し、秘裂をなぞり始める。

「ふぁあああああん!」

「本来ならば胸のみでここまで快感を得ることができたということか・・・不感症にしておくにはもったいない器よ。」

「御前」には秘裂をなぞられ、愛液の滴る指で陰核を潰される。巳詩夜は一度身体を離し、雅の美巨乳を搾り上げるように揉み、出もしない母乳を吸うかのごとく乳首にしゃぶりつく。

「雅ちゃんのおっぱい…美味しい……乳首もゴムみたいに硬くなってる…。」

「はうっ!搾らないで…んんっ!乳首は…ああっ!」

「こちらも溢れきっておる、儂の手では掬いきれんほどだぞ?」

「あぁっ…こ、これは違います…くぅううう!」

「御前」には愛液で濡れた指を見せつけられ、自らの身体が女性として淫らに変えられていくのを再確認させられ、そのまま愛液を陰核に再び塗りたくられる。

「雅ちゃん……耳が弱いんでしょ、いいことしてあげる…。」

「お待ちください……まさか……。」

巳詩夜は雅の頬を舐め上げると、その舌を雅の耳まで運ぶ。「御前」もそれに呼応して、逆の耳に息を吹き掛け、舌を近づける。

「ま、待ってください!両耳は…ひぃいいいい!」

「御前」に右耳を巳詩夜に左耳を舐められ、雅は悲鳴に近い嬌声を上げる。

「ほら、またおっぱいで気持ちよくなりましょ?」

「くぁああああん!」

両耳を舐められながらそう囁くと、巳詩夜はお互いの再び乳房を重ね合わせ乳首を刺激しあう。さらに片手をパンティの中に差し入れ、雅の秘裂を指で往復する。

「我慢は身体に良くはあるまい…諦めて儂に身を捧げてはどうだ?」

「ああっ、ひゃあああ!」

「御前」もまた、耳を舐めつつ、右手で雅の巨乳を弄び、指先で巳詩夜の乳首と同時に弾く。左手はパンティの中を蠢き、陰核を絶妙な力加減で刺激する。

二人から強制的に送られる快楽の渦に飲まれ、雅は絶頂まで刻々と導かれつつあった。

(ああっ…思考が追いつかない、私がこんなことになるなんて…。)

不感症と言う壁が崩されたことで快感に抗う意思が弱まっていき、徐々に絶頂に身を投じ始めた雅の耳に自らが使える主の声が届く。

「雅……。」

たった一言、いや、一言と呼べるかも怪しい。しかし、それだけでも快感に溺れる雅に僅かながらに冷静さを取り戻させるには十分だった。

(姫…そうだ、姫は私を信頼して下さってこの賭けに乗ったはずだ…。)

虚ろだった瞳に再び光が灯る。絶頂に向かおうとしていた身体はその直前で踏みとどまる。

「くぅうううううう!」

「ふむ、まだ耐えてみせるか…面白い…!」

「御前」と巳詩夜の責めは勢いを弱める様子をみせない。しかし、雅は確固たる意志で絶頂はせずに耐え続けていた。

(私は…屈するわけにはいかない…!)

「御前」と「かぐや姫」、二人の淫らな賭けは終演の兆しすらみせず、絶えず響く嬌声、淫らな音と共に続けられていくのであった。




時を同じくして、神城グループの本部ではナスターシャと美雨が望まぬ再会を果たしていた。腕を組み、壁にもたれ掛かって立っているナスターシャの鋭い眼差しに当てられた美雨は試合に敗北し、男たちの責めを延々と与えられた記憶を嫌でも思い出させられる。

「……何で、こんなところに。」

「フン、お前と同じでこちらも任務でな。」

戦慄する美雨をよそにナスターシャは落ち着き払った態度で返し、もたれ掛かっていた壁から離れると美雨に対峙する。

「辻倉美雨、貴様を捕縛する!」

「っ!」

言葉と同時にナスターシャの足が冷たい廊下を蹴り、凄まじいスピードで駆ける。対する美雨の判断も速かった。すぐさま後方に飛び退き、ナスターシャの突撃を回避しつつ距離を置く。

「相変わらずそのスピードだけは賞賛に値するな。」

ナスターシャは更なる攻撃に移るために姿勢を低く構える。一方、ナスターシャのリーチから離れ、美雨も体勢を立て直すが内心戸惑っていた。

(私を…捕縛する?何で今更…?)

〈地下闘艶場〉の試合に負けた美雨は今後一切「御前」に関わることを禁じられていた。しかし、今度は「御前」側から美雨に干渉しようとするとは思ってもみなかったのだ。

しかし、美雨は退くわけにはいかなかった。今回の依頼に必要なデータを手にするためには目の前の敵を排除しなければなかなかったのだ。

(やるしかない・・・こいつを仕留める!)

美雨は全身のバネを推進力とし、攻撃に移ろうとしていたナスターシャに接近する。

「…邪魔するなら…消す!」

「フン、来るか!」

ナスターシャは咄嗟に攻めの姿勢から美雨の攻撃に備え、精神を研ぎ澄ませる。

(辻倉美雨の動きは読めている・・・こいつは頸部や鳩尾を狙うクセがある。)

前回の試合でナスターシャは美雨の『攻撃のクセ』を見抜いていた。

一撃のパワーに欠け、スピードに長ける美雨はまず敵の動きを封じるため、まずは呼吸器につながる鳩尾や首を狙う傾向にあったのだ。

ナスターシャの読み通り、美雨の貫手が鳩尾に向かって突き出された。

(いくらスピードがあろうと読めていれば容易い。)

ナスターシャは美雨の攻撃を防ぎ、その手を捉えるべく鳩尾あたりを腕でガードする。

だが、鳩尾に向かうはずの貫手は予想を外れ、脇に逸れていく。

「なにっ!?」

そのまま美雨は体を捻らせ、ナスターシャの頭部を目掛けて回し蹴りを放つ。

(フェイントだと!?)



美雨は〈地下闘艶場〉に敗北した後、ただその事に打ちひしがれていたわけでは無かった。自分が敗北した試合を思い出し、反省を重ね、自らの武術に磨きをかけていたのだ。

ただ、同時に試合後の男たちに与えられた官能の嵐まで甦ってしまい、修行の合間に自らを慰める羽目になったのだが・・・。



(間に合うかっ!?)

ナスターシャはすぐさま両手を側頭部に移し、美雨の蹴りを弾こうとする。

しかし、咄嗟の防御では勢いを殺しきれず、蹴りを防いだナスターシャの体幹は大きくぐらつく。

「くぅっ!」

なんとか体勢を立て直したナスターシャだが、そのダメージは確かにナスターシャの体に蓄積されていた。

「……。」

ダメージが蓄積されたのはナスターシャだけでは無かった。ナスターシャにより蹴りを弾かれた美雨の足はツナギが一部破け、さらに内出血を起こし、軽い炎症を起こしていた。

無理な体勢で繰り出された蹴りは普段よりも威力が抑えられていたとはいえ、ナスターシャのパワーは『受け』に回ったのにも関わらず、逆に美雨の足にダメージを与えていた。

(蹴りを入れたのは私なのに、なんて力なの…。)

一度距離を置いた美雨はナスターシャに更なる一撃を叩き込むため、足の痛みを堪えながらも冷たい床を蹴り、突貫する。

「少しはできるようになったか、だが!」

ナスターシャも素早くぐらついた体幹を正中位に戻し、美雨に応戦するために地を駆ける。

二つのしなやかな影がお互いを仕留めんと徐々に接近していく、その影が交差するかと思われた次の瞬間。

「そこまでだ!」

「っ!?」

ナスターシャと美雨を遮るかの如く、もう一つの影が二人の間に割り込んでくる。

乱入者との正面衝突を避けるために二人は推進力に使った足を今度はブレーキに使い、緊急停止する。

「……誰!?」

美雨が乱入者の正体を確かめるべく顔を上げると、そこには褐色の肌を持つ美女が立っていた。

「やぁ、はじめまして、辻倉美雨……でいいのかな?ボクの名前は要芽っていうんだ、よろしくね♪」

乱入者の正体は『かぐや姫』の側近が一人、要芽と呼ばれる女性であった。

要芽はニヒルな笑みを張り付けながらまるで貴公子のように柔らかく乱れの無いお辞儀を見せる。

(要芽…?そんな人、私のデータには…。)

突然現れた女性に美雨は困惑する。美雨が「御前」の懐に潜入する際に調べあげたデータには「要芽」などという女性の名前は無かったのだ。

「要芽、何故邪魔をする?」

「ダメじゃないかナスさん、レディーのエスコートにしてはキミのそれは少しばかり乱暴すぎるよ?」

「……その呼び方はやめろ。」

「いやいや、君のとこの早矢仕(はやし)杜丸(とまる)君、だっけ?彼が君のことをそう呼ぶのを聞いてね、可愛いと思うよ?『ナスさん』。」

「やめろと言っている。」

「連れないねぇ・・・そうだ!キミもボクのことを好きに呼びたまえ!『カナちゃん』なんてのはどうかな?」

「断固拒否する。」

困惑する美雨を他所に要芽はナスターシャに向き合うと話始める。自らの任務を邪魔されたナスターシャは殺気すら放っているが、それに当てられても要芽は不敵な笑みを崩さない。

「「御前」の命令で手を組むことにはなったが、邪魔をするなら貴様も排除させてもらうぞ?」

「ははは、怖い怖い、だけどボクも姫様の命令なのは同じさ、目的は変わらないんだ、美女同士仲良くしようじゃないか。」

美雨の存在を無視し、飄々と話し続ける要芽、そしてナスターシャに美雨は困惑を通り越して呆れが生まれる。

(この人、私を捕まえる気があるの?)

しかし、これはチャンスでもあった。要芽とナスターシャの注意は美雨に向いていない、今なら二人の脇をくぐり抜け、目的地に辿り着けるはずだ。

美雨は最も二人の妨害を受けるリスクの少ないルートを瞬時に割り出し、いざ駆け出さんとした時。

「おっと!動くんじゃない!」

美雨の動きを見透かしたかのように要芽はナスターシャに向き合ったまま叫ぶと、胸ポケットから一枚のICチップを取り出す。

「っ!?そ、それは…!」

「キミの求めるデータは全てこの中にコピーしてある。ちなみに元のデータは削除してしまったからこの先には無いよ?」

ICチップを手元でチラつかせながら、要芽は美雨の方に振り返る。

「それを、渡して・・・!」

「まぁこんな物はボクらにとっては不要だ、ちょっとボクらとのお喋りに付き合ってくれたらこれは君にあげよう。」

「…お喋り?」

要芽の持つデータが無ければ依頼は達成できない、しかし、2対1な上にナスターシャが控えているこの状況では強行突破は困難。

(でも…あの要芽って人だけなら…。)

臨戦態勢のナスターシャに比べ、要芽と名乗った女性には油断・隙が伺える。さらにパワーでは劣るが美雨はナスターシャよりもスピードで勝る。

美雨は要芽からICチップを奪い去り、そのままナスターシャを振り切り、脱出する算段を立てる。

(私なら…できるはず…。)

「…どうやらお喋りに付き合ってくれるつもりは無いみたいだね。」

気付けば距離を取り、警戒していたはずの要芽は美雨のすぐ目の前まで迫っていた。

ナスターシャのようにこちらに攻撃する素振りもみせず、また、警戒する様子もなく近づいてきた要芽に対し、逆に美雨の反応は遅れてしまったのだ。

「なっ…!?」

「おっと、逃がさないよ?」

再び距離を取ろうとする美雨。しかし要芽がその腰を左手で抱き寄せ、右手を美雨の顎に当て、恋人がキスを迫るように上を向かせる。

「ボクとのお喋りがそんなに嫌かな?ちょっと身体にきいてみようか。」

「何を…あっ!」

要芽は美雨の顎に添えられていた右手を首、鎖骨、肩、脇へと滑らせた後に美雨のバストに優しく触れる。

「やっ、ダメ、触らないで…。」

「〈地下闘艶場〉での戦いぶり、いや、乱れぶりはみさせてもらったけど…やっぱり相当敏感みたいだね?」

あやす様にバストを揉みしだかれ、逃げようとした美雨の身体からは力抜けていく。

「んぅ、や、やめて…あぁん。」

「ククク、そうだなぁ、ボクとのお喋りに付き合ってくれるっていうならやめてあげてもいいよ?」

「…。」

胸を揉む手を止めず、要芽はそう告げる。このまま要芽の思い通りになることを拒み、ICチップを奪って脱出する希望を捨てきれない美雨は沈黙にてその答えを示す。

「そうか、じゃあもうちょっと身体にお願いしてみようか?」

美雨の後ろに回った要芽は両手で美雨のバストを鷲掴みにし、ゆっくりと円を描くように揉んでいく。

衣服の上から揉まれているだけだというのに要芽のツボを押さえた触り方に美雨の身体にはもはや抵抗する力は入らなかった。

(ああっ…おっぱい触られてるだけなのに、逃げなきゃダメなのに、力が入らない…。)

「身体の方はボクに心を開いてくれてるみたいだね?こんな邪魔な服は脱いでしまおうか。」

「ま、待って!脱がしちゃダメ…んぅぅっ!」

美雨の静止をバストの揉み上げで遮り、要芽は背中のファスナーを探り当てるとそのまま下ろし、ツナギを肩から滑らせ、脱がしていく。

その間もバストを揉む手は止めず、美雨は抵抗できないまま腰辺りまでツナギを脱がされる。

「あっ、やだ…。」

潜入のためにスピードを重視し、最低限の装備であった美雨はツナギの下には下着しか身に着けていなかった。

白を基調とし、フリルや赤いリボンをアクセントとして可愛らしく彩られたブラジャーが露わになる。

「ふーん、〈地下闘艶場〉の時も今日も可愛い下着を着けているね?こういうこと、期待してたのかい?」

「ち、違う…そんなわけ…はふぅ…。」

元々羞恥心の強い美雨は同性とはいえ、脱がされ、下着を露出させられる行為に顔を赤らめる。

しかも、要芽に可愛らしい下着を指摘され、ナスターシャの冷ややかな視線にあてられたことで羞恥心は倍増していく。

「ほら、身体は拒否してないじゃないか、こういう気持ちいいのが好きなんだろう?」

要芽は下着越しに美雨のバストを再び揉み始める。

「いやぁ、んんっ、ああっ!」

「おっと、ブラ越しに何か固い物があるのが分かるよ、これは何かな美雨?」

美雨の乳首のあたりを下着越しに指で弄り、ブラジャーの上からでも立ち上がっているのが分かる乳首を見つけると、要芽は大袈裟に驚いてみせ、美雨の耳元で意地悪く囁く。

「知らない…そんなの…。」

美雨は恥ずかしさから耳まで赤く染め上げ、要芽から視線を逸らし、そっぽを向く。

「ホントは分かっているんだろう?これは気持ちよくなって硬く立ち上がったキミの乳首さ…違うかい?」

「ち、違う!乳首、立たせてなんていない!」

初対面の、しかも同性からの愛撫で快感を得ている自分を認めたくない美雨は要芽の問いに反抗するが、それが虚勢であることは誰の目からも明らかだった。

「へぇ?じゃあ答え合わせしてみようか?」

「え…や、やめ… !」

美雨が抵抗する間もなく、白のブラジャーは要芽の手により上にずらされる。

すると、美雨のEカップの乳房とその頂点でそそり立つ朱色の突起が露わになる。

「ほら、やっぱり乳首を立たせてるじゃないか。」

「いやっ…見ないで…言わないで…。」

前回の試合以降、他人に固くしこりきった乳首を見られる機会など無かった美雨は、たとえ相手が同性であっても目が眩むような恥ずかしさを感じてしまう。

その様子をみてニヤリと笑った要芽はその乳房に直接触れ、揉むと同時に指先で乳首の先端を引っ掻いていく。

「あああっ!あっ、くふぅうううう!」

「良い乱れっぷりだね?こんなに感じちゃって。」

女性特有の繊細な肌を持つ褐色の手が這い回り、ゆったりと乳房を揉む。

「んんっ!」

「乳首まで固くしちゃって…。」

ネイルに手入れが施され、尖った爪先が同じく尖っていく乳首の先端を引っ掻く。

「ひゃあああんっ!」

「なのに嘘までついて誤魔化して…可愛い人だね、でも…。」

要芽は美雨の耳元に息を吹きかけ、囁く。

「嘘つくなんて、いけない子だ…お仕置きが必要かな?」

「ふぁああああっ!」

前回の試合後、自慰行為を続けたことで他者からの刺激を待ち望んでいた美雨の身体は、美雨の意識を離れ、昂ぶり続ける。

昂ぶりきった性感に美雨の両手は〈地下闘艶場〉での試合の時のように意志から外れ、動き始める。

「おっと、またオナニーしたいのかい?させないよ?」

「やっ、そ、そんな…。」

秘部に向かおうとした両手を要芽に掴まれ、片手で纏められると後ろで固定される。

そのまま要芽は空いている左手で美雨の乳首を転がし続ける。

「ひゃふ!は、離して!」

「本当にいやらしい娘だね…姫様が気に入るのもちょっとはわかる、かな?」

自慰行為を封じられ、美雨の身体は要芽のコントロールによって絶頂直前でキープされ続ける。

「ダ、ダメ…やめて、そんなにおっぱいされたら、イっちゃう、イっちゃうよぉ…。」

「…もう一度きこうか?ボクとのお喋り、付き合ってくれるね?」

「そ、それは…。」

「意外に頑張るね…ボクももう少し頑張っちゃおうかな?」

要芽の手が再び美雨の身体を這い始め、腰まで下ろされていたツナギに到達すると一気に太ももまで下ろし、ブラジャーとお揃いのパンティを露にする。

「や、やだっ!」

要芽は舌舐めずりすると、乳房を揉んでいた手を離すと下着越しに美雨の秘裂に触れる。

「ひゃあああぅ!」

「さて、どこまで頑張ってくれるかな?」

同性ということを活かした要芽のツボを押さえた愛撫に美雨の精神は次第に問い詰められていく。


それから数分が経過した、いつの間にか美雨のツナギは完全に脱がされ、ずらされたブラジャーと愛液で濡れ、役目を果たさなくなっているパンティのみの姿にされていた。

快感から立つことすらままならなくなった美雨は床に横たえられ、その上に要芽が覆い被さるようにして責めを継続していた。

「んくっ、あああっ!」

要芽はもはや美雨の両手を解放していたが、美雨には抵抗する力は残されておらず、自慰行為をすることすら叶わなかった。

これほどまでの愛撫であるが、美雨が絶頂しそうになると巧みなコントロールで愛撫の勢いを弱め、決して絶頂には至らせない。

(はぁっ、はぁっ、こんなの…おかしくなっちゃうよ…んんっ!)

要芽の責めは止む気配すらみせず、むしろ笑みを浮かべながら美雨の乳首を吸い、乳房を揉み、秘裂をなぞる。

たった数分だが永遠に感じられるほど濃厚な責めに美雨の精神は次第に磨り減っていく。

「はぁっ………話………聞……く………から………。」

「んー?何か言ったかい、全然聞こえないよ?」

熱のこもった吐息に混じった美雨の降伏の意を軽く聞き流し、要芽は舐めていた乳首に歯を立てる。

「ああっ!聞く!話を聞くから!もうやめて!」

「そうさ、始めから素直になっていればよかったのにね…だけど。」

美雨はたまらず叫ぶが、要芽の手は止まることなく、パンティをずらすと、直接秘部に指を入れる。

「ふああああっ!な、何で?やめるって…。」

「キミが嘘をついたお仕置きがまだだろう?それに…。」

すでに潤みきっていた美雨の秘裂はたやすく要芽の指を受け入れ、中をかき回される。

「ああっ、いやぁああ!」

「そんなのじゃ話が身に入らないだろう?一度イっておきたまえ。」

蓄積された快感が美雨の身体を駆け巡り、頭は白く塗りつぶされていき、瞳の奥で火花が飛び散っていく。

「あああっ!イっちゃう!イくぅぅぅうううう!」

絶頂に導かれた美雨の身体は要芽の腕の中で一度硬直し、後に脱力する。

「思ったより盛大にイったね…でも1回じゃ物足りないだろう?もう少し楽しも…あいだっ!」

甘美な快楽の世界を打ち砕いたのは筋肉と皮膚がお互いに勢いよく打ち付けられた破裂音だった。

先ほどまで控えていたナスターシャが要芽の背後に回り込み、そのヒップを力強く蹴り上げたのだ。

「い、痛いじゃないかナスさん!ボクのお尻は繊細なんだよ!?」

「知るか、遊びがすぎるぞ要芽。」

思わず美雨を手放した要芽をナスターシャは冷ややかに見据える。

要芽の魔手から逃れた美雨は一度絶頂したためか冷静さを取り戻し、放り投げられたツナギを拾い上げ、乱れた衣服を整える。

「いいじゃないか、彼女もボクの話を聞いてくれる気になったみたいだし。」

「何を言っている…今こそ捕えるチャンスだろう?」

ナスターシャに蹴られ、腫れあがったヒップを擦りながら要芽は立ち上がる。

「言っただろう?ナスさんのやり方は少し乱暴すぎる。あんな小娘とはいえ姫様に捧げる供物なんだ。壊れてもらう訳にはいかない、ここは話し合いで平和に解決さ。」

「貴様の主の意向など知らん。」

「まぁまぁ、ボクに任せてみてくれないかな?彼女を必要以上に傷つけることは「御前」も望んでいないと思うよ?」

「……。」

しばし、要芽とナスターシャの間に沈黙が走る。

先に動いたのはナスターシャだった。構えを解き、近くの壁にもたれ掛かる。

「5分だ、それ以上は待たん。」

吐き捨てるようにそう言うとナスターシャは目を瞑る。

「5分か、それだけあれば問題ないね。」

要芽は満足げにそう言うと、笑みを崩さないままで美雨に向かい合う。

美雨は先ほどの絶頂を想起させられ、顔を赤らめるが、要芽は構わず語り始める。

「さて、改めてボクの名前は要芽。この命を「かぐや姫」に捧げ、彼女の剣であり盾となる者さ。」

「かぐや姫」その名前が出た途端、美雨の脳裏に試合に負け、黒服たちに弄ばれた直後に出会った冷たき視線を持つ女性がよぎり、背筋を寒気が走る。

「キミのことは、美雨って呼べばいいのかな?」

「…好きにすれば?」

甦る恐怖に耐えながら美雨はそう返す。

〈地下闘艶場〉で使用した『辻倉美雨』という名前も偽名であるが、美雨は話を合わせるため、あえてその偽名を使うことにした。

「ならばそうさせてもらうよ、美雨。」

ニコリと笑みを浮かべ、要芽は美雨に歩み寄る。

「…。」

「さて、本題だ。今日キミと話したいのは有り体に言えばスカウトさ。」

「…スカウト…?」

歩み寄った要芽は洗練された紳士のような動作で美雨の手を取る。美雨の手の甲に一つ口付けると要芽はさらに言葉を続けた。

「そう、キミには「御前」と「かぐや姫」の元で動いてもらう。」

美雨は慌てて口付けられた手を振り払う。

「「御前」と「かぐや姫」の・・・?」

「そうとも、何故かは知らないが姫様は君のことをえらく気に入ったようでね・・・それに不調だったとはいえ、あのナスさんと張り合えたその実力は「御前」も高く評価している。」

(不調…!?)

善戦したとはいえ、〈地下闘艶場〉で美雨が敗北を喫したナスターシャ・ウォレンスキー。

彼女がその時不調であったという事実に美雨は驚愕する。

「フン。」

ナスターシャは不機嫌そうに鼻を鳴らすが、要芽は構うことなく美雨に語りかける。

「姫様や「御前」ほどになると目の前を飛び回る目障りな羽虫が多くてね…近頃は特に顕著でね、大きな組織が絡んでいる可能性がある…君にはその捜査と駆除を依頼したい。もちろん報酬は弾むよ?」

そう言って要芽が差し出された契約書を見た美雨は我が目を疑った。そこにはこれまで請け負ったどの依頼より遥かに高額な報酬金が書かれていたからだ。

「ただし、キミの身柄はこちらで拘束させてもらう。キミが姫様や「御前」のことを外部に漏らす可能性があるからね。」

「なっ!?」

報酬金に目が眩みかけていた美雨は続く要芽の言葉に過剰に反応した。



美雨は何者であっても自由を奪われ、拘束されることを嫌った。それは両親を殺した暗殺者に自由を奪われてひたすらに暗殺の技術を叩き込まれた経験からきており、今まで組織に属せずにフリーで活動していたのは自由を奪われたくなかったからだ。



「…もし、それを拒否したら?」

「ふむ、それは困るな…ボクたちも任務だからね、あまりやりたくはないが強行手段を取らざるをえないかな?」

要芽は壁にもたれ、待機しているナスターシャに流し目を送る。

「そんなのっ…!」

もはや美雨には選択肢は与えられていなかったのだ。

それに対して美雨が異を唱えようとした時、要芽は畳み掛けるように言葉を重ねる。

「さて!今キミはこう思ったはずさ『理不尽だ!』とね…だが安心したまえ、世の中は全てギブアンドテイク、キミに相応しい報酬をボクたちは用意できる。」

「…報酬金はもう必要ない。」

「金じゃないさ、キミが金なんかよりずっと欲しいもの、裏社会で動き続けてまで求めるがあるだろう?」

要芽の言葉に美雨の思考は止まる。美雨が金よりも求めてやまないもの、それは…。

「まさか…。」

「そう、キミの両親を殺した暗殺者の情報…ボクらはそれをキミに提供しよう。」

美雨が依頼をこなしつつ様々な組織と通じて探し求めてきた両親の仇。

どれだけ時間をかけても僅かな情報すらも掴めず、もはや八方塞がりとなっていた。

「そんなことが…?」

「可能さ、ボクたちの主が誰だと思っているんだい?」

「…。」

「シンキングタイムをあげるよ、さて、どうかな?」

その場を再び静寂が支配する。要芽は笑顔を崩さない。

ナスターシャは壁にもたれたまま微動だにしない。

そして、美雨は瞳を閉じ、自分の人生を変えた『あの日』を想起していた。



まだ幼い美雨が両親に就寝前の挨拶をしに行ったのは、うるさいくらいどしゃ降りの雨の夜だった。

突然鼻孔に流れ込む濃密な血の臭いに、不吉な思いが立ち上る。いつもよりも強張った歩みで部屋を覗いた美雨の目に飛び込んできたのは、部屋の床に伏して動かなくなった両親、その体を紅く彩る鮮血。そして、それらの中にそびえている影。

まだ幼い美雨が惨状を理解する前に影と視線が合う。


『逃げなきゃ、次は自分だ。』

脳は警鐘を鳴らしているのに体は震え上がるのみで一向に動いてくれない。

影がゆっくりと歩み寄ってくる。逃げることもままならず座り込んでしまった美雨は幼いなりに自らの死を悟り、固く目を瞑る。

しかし、いつまで経っても予期していた痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開くと影は座り込む美雨に凶器ではなく優しく手を差しのべていた。


『よかった、まだ生きれる。』

異常ともいえるその行動だが、美雨は怪しむこともなく本能的にそう思ってしまった。

そして両親の仇の手を取り、影に連れられるまま両親の亡骸が転がる自宅を後にしたのだった。



「…。」

その後は暗殺者の元で徹底的に暗殺術を教え込まれる日々が始まった。最初はその日その日を生きるのに精一杯であったため、疑念を持つことなく技術を磨いていった。

しかし、成長するにつれて暗殺者への疑念、そして復讐心が芽生えていく、何度も両親の仇を取ろうと暗殺を図るが軽くあしらわれ、また技術を磨く日々に嫌気が差した美雨は15歳の時に一瞬の隙をついて暗殺者から逃げ出した。

(この人の話に乗れば、アイツに…?)

共同作業の中で暗殺者の正体を探ろうと調べを入れたが隙を見せない暗殺者からは何も得ることができない。暗殺者の目の届く範囲で動いても無駄だと感じ、逃げ出した後も裏社会で活動を続けていたが暗殺者の正体を探るどころか暗殺者が活動をしなくなってしまい、ますます手がかりが失われてしまった。そして、その念願の仇を取れるチャンスが目の前に転がり込んで来たのだ。

「さて美雨!そろそろ時間だ、十分に考える時間はあげただろう、答えをお聞かせ願おうか?」

美雨の思考を途絶したのは要芽の言葉であった。

(この話に乗れば、私は自由を奪われる…でも!アイツに会えるなら、復讐のチャンスを与えられるなら!)

再び瞳を開いた美雨の表情に迷いの色は無かった。

「…わかった、その依頼、承諾する。」

「そう言ってくれると信じていたよ、交渉成立だね。」

要芽は美雨に背を向け、壁にもたれるナスターシャの方へ歩みを進める。

「詳細は追って連絡しよう、今日のところはサヨナラさ。」

「…。」

「おっと、忘れ物だ。」

要芽は美雨目掛けて懐から取り出したICチップを投げてよこす。

「約束だ、それは君の物さ、好きにしたまえ…ちなみに中に入ってるデータは本物だよ?なんなら今から確かめるかい?」

「…別に、疑ってない。」

「ふっ、それは光栄だね。」

ICチップを受け取った美雨は要芽とナスターシャを一瞥すると風のような速度で駆け、来た道を戻っていく。

そして要芽は大袈裟な身振り手振りと共にナスターシャの方に振り返る。

「お待たせナスさん…やれやれ、やっと終った…って、うわっ!?」

ナスターシャからの返事は側頭部を狙う回し蹴りの洗礼であった。要芽は紙一重のところで身を引き、それをかわす。

「な、何をするんだナスさん!」

「時間切れだ要芽、5分以上は待てんと言ったはずだ。」

ナスターシャの言葉に要芽が腕時計を確かめると、美雨と会話を始めた時間から5分15秒が経過していた。

「あー、15秒オーバーか…思いの外美雨のシンキングタイムが長かったからねぇ、でもたかが15秒でそんなに…うわわっ!?」

ナスターシャの2発目の蹴りが要芽を狙う。蹴りの鋭さに衣服の胸元が切れ、褐色の豊かな谷間が覗く。

更なる追撃の一撃の蹴りが繰り出され、直撃はしないものの、ライトグリーンのブラジャーまでもが露わとなった。

「あ、ちょっと待って!」

3発目の蹴りが要芽を仕留めんと飛んでくる。ボロボロのシャツを押さえながら要芽はギリギリ回避するが、今度はズボンを繋ぎとめるベルトとファスナーが切り裂かれ、ブラジャーと同じくライトグリーンのパンティが露わになる。

ほぼ意味を成さなくなった下衣に足を取られ、後方に転倒した要芽はそのまま座り込む。

「ま、待った!タイムだナスさん!参りました!降参さ!」

「…何…?」

「ボクはこう見えて全く戦えないんだ、ボクはあくまで裏工作担当!戦闘は他の娘が専門なんだ!」

両手を上に上げ、下着が露わな状態で降伏の意を示す要芽にナスターシャは呆れたように大きなため息を吐くと胸ポケットから通信機を取り出す。

「…こちらナスターシャ、任務を完了しました、これより帰投致します。」

先程までとは違い、丁寧な口調と声音で通信を行い、通信機を胸ポケットに戻す。

「ありがとうナスさん、許してくれるんだね?」

「勘違いするな、無抵抗な相手をいたぶる趣味は無いだけだ。」

「そんな事を言っても意外に優しいんだね、これが話に聞くツンデレっていう…。」

語り始める要芽を無視してナスターシャは帰投するために出口に向かっていく。

「ちょっとしたジョークじゃないか…しかし…。」

要芽はほとんど下着姿と言っていい自分の姿を見下ろし、褐色の肌をわずかに朱色に染める。

「ナスさんも派手にやってくれたね…これじゃ帰れないじゃないか。」

気絶させた見張りの者がいつ起き出すか分からない、そんな連中に今の自分の姿を見られることを嫌った要芽は服をかき集め、隅に隠れるとナスターシャ同様通信機を取り出す。

通信機に映し出された連絡先は信頼の置ける仲間の一人「雅」の文字だった。

「…あー、こちら要芽、雅かい?」



「ふぁああ、あぁん…。」

「御前」の公務室での雅の身体を使った淫らな賭けは未だに続いていた。

雅は極上の料理のように横たえられ、「御前」と巳詩夜の愛撫を受けていた。

「いやぁああ、ダメ、んんんぅっ…。」

「そろそろ限界ではないか、雅とやら?」

「御前」には右の乳首を口に含まれ、舌で舐め挙げられながら秘部に伸びた手は陰核を刺激され続け、快感を与えられる。あふれ出た愛液は雅の頬や乳首に塗りたくられ、その身体は妖しげに光を放っていく。

「我慢強いのね…私も、気持ち良く…して…?」

巳詩夜には反対側の乳首を舐め責めされ、淫らに揺れる巨乳を揉み続けられる。さらにお互いに下着越しではあるが、秘裂を貝合わせにし、自らの腰を降ることで自身も快感を貪る。



『ピルルル・・・ピルルル・・・。』



その淫劇を妨害するかのように雅が持っていた通信機が着信を告げる。そこには「かぐや姫」の部下が一人「要芽」の文字があった。

「雅よ、通信が来ているようだぞ?」

雅への愛撫をやめないままわざとらしく「御前」は雅に告げる。

「…。」

「どれ、儂が取ってやろう。」

雅のメイド服のポケットから通信機を取り出すと雅の右手にそれを持たせる。雅は一瞬の躊躇の後に通信機を操作し、着信に応答する。

『…あー、こちら要芽、雅かい?』

「はい、こちら雅…。」

『任務は問題なく完了したよ、これより帰投する。』

「了解しました…ご無事の帰還をお待ち…ふあぁああああ!」

通信の合間だというのに雅の口からははしたない嬌声が漏れる。「御前」が雅の乳首を抓み上げ、さらに陰核に振動を与えたのだ。

『えっ、雅…大丈夫かい?すごい声がしたけど…』

「も、問題ありません、あっ、んくっ、ほ、報告の続行を…。」

『あ、ああ…ちょっとボクの服がダメになっちゃってね、できれば真樹に替えの服を持たせて迎えによこして欲しんだけど…。』

「り、了解、しました、ああぁん!直ちに手配いたしま、す、ひゃあん!」

『了解、ボクの居場所は追って連絡するよ。報告は以上だ。』

「かしこまりまし、た…んんっ…ああぁん!」

『…?それじゃあ切るよ?』

二人がかりの淫行に耐えながら通信を終えた雅は最後の気力で通信機を操作し、電源を切る。

「任務は完了したようだな、良く耐え抜いたものだ雅よ…。」

「御前」は雅の下着から手を抜き、乳房から手を離すとその頭を撫で、称えるように話しかける。

「残念……私も…雅ちゃんも…もう少しで、イけそうだった、のに…。」

巳詩夜は不満そうな表情をみせるが、雅の体から退こうとする。

その瞬間、巳詩夜の身体を凄まじい衝撃が遅い、気付けば巳詩夜の身体は宙を舞っていた。

「あぐぁあああぁ!」

裸同然の巳詩夜の身体が勢いよく壁に打ち付けられる。壁伝いに崩れ落ちる巳詩夜を冷たく見据えるのは巳詩夜を掌底のみで吹き飛ばした「かぐや姫」であった。

「さっさと退かぬか…。」

しかし、それを受けた巳詩夜は跳ね起き、前髪に隠れた瞳はギラついた光を宿していた。

「うふ、うふフフ、すゴい……すごい、スゴイ、すごぉおおぃいい!この痛ミ、こノ快感……今マでの、ドんな痛みよりモ、スごいィィいイい!」

巳詩夜は這うようにして「かぐや姫」の着物の裾にすがり付き、冷ややかに見下す「かぐや姫」を見上げる。

「もっと、モっとちょウだい、「かぐや姫」……グッ!」

「かぐや姫」は巳詩夜の首を掴み、軽々と持ち上げる。

「あハッ、グるしい…その『眼』も…スごくイイッ!こんなの、はジめて!」

頸動脈と気管を同時に締め付けられているというのに、巳詩夜は恍惚の表情を浮かべ、もはや視線は宙をさまよっていた。

「痛みを悦とするか…ここには余の理解を越えた者しかおらぬようだ…。」

「かぐや姫」は一度巳詩夜の首から手を離す。解放された巳詩夜は愛液すら垂れ流しながら、荒い呼吸をし、床に崩れ落ちる。

しかし、床に倒れ伏す前に「かぐや姫」の掌底が再び巳詩夜の腹部を襲った。

「ぐがああぁああああ!」

再び宙を舞った巳詩夜の身体は「御前」に受け止められる。「御前」に抱きかかえられた巳詩夜は意識を失っていたが、その表情は苦悶ではなく快楽と愉悦に満ちていた。

「姫よ……元々、悦というものには定型はない、巳詩夜が痛みを悦とすることも問題はあるまいて。」

「問題はない、だが少なくとも正常であるとは思わんがな。」

「正常ではないのは儂らも同じことよ、巳詩夜に最高級の褒美を与えてくれたこと、感謝するぞ、姫。」

「フン…。」

「かぐや姫」は快楽の魔牢から解放され、床に座り込んだまま息を整える雅に近寄る。

「雅、身体に異常はないな?」

「…はい、問題ありません。」

雅は深く一息つくと、衣服を整え、先ほどまで乱れていたのが嘘のように落ち着き払った態度で「かぐや姫」に応じる。

「姫…要芽は自身のサルベージを要求しています、真樹の使用の許可をいただきたいのですが…。」

「いいだろう、好きに使え。」

「ありがとうございます。」

雅は「かぐや姫」に一礼し、「御前」にも頭を下げると部屋から出て行こうとする。

「雅よ…。」

「はい、いかがなされました?姫?」

「かぐや姫」の再度の呼びかけに足を止め、再び振り返る雅。

「褒美をくれてやろう…後で余の部屋まで来い。」

「っ!は、はいっ!失礼いたします!」

雅は「かぐや姫」の言葉に僅かではあるが、嬉々とした表情を受かべ、早足に部屋を出ていく。

その後ろ姿を「御前」は巳詩夜を抱きかかえたまま見送る。

「ふむ、なかなか良い趣向であったぞ姫、あのような部下を隠していたとはな…ん?」

「…今の茶番に何の意味があった?」

巳詩夜をソファに横たえた後に自らも椅子に座り直し、「かぐや姫」に向かい合うように椅子を回転させようとした「御前」の動きは途中で止まる。それは「かぐや姫」が先ほどまでの雅のように椅子に座る「御前」の大腿部にまるで横抱きになるように座ったからであった。

「どうした姫よ?次はお主が儂の相手をしてくれるのか?」

「戯れるなうつけが、この茶番に意味はあったのかときいておるのだ。」

「御前」の大腿に着物越しだが自らの臀部を押し当てて座る「かぐや姫」、しかし、その表情は媚びた女性のものではなく、静かな怒りを秘めており、その眼光は獲物を射抜くような鋭い視線だった。

「茶番?なんのことだ?」

「とぼけるな…其方が手を抜いていたこと、余が見抜けぬとでも思っていたのか?」

何の事だかわからないというような「御前」の態度に「かぐや姫」は冷ややかな視線を変えることなく言葉を続ける。

「其方が本気でかかれば雅をたやすく追い込むことができたであろう?」

「…言っただろう姫、これは戯れにすぎぬと…辻倉美雨の所有権など儂は求めてはおらぬことも、姫は見通していたであろう?」

「…全ては戯れか、やはり余には理解できぬな。」

「ふっ、そうか…ならば儂の本気というものを、その身体で味わってみればわかるであろう。」

「御前」は「かぐや姫」の着物を押し上げ、存在を主張する豊満な胸元に手を滑り込ませようと手を伸ばす。

しかし、その手を払いのけ、「かぐや姫」は「御前」の元からから降りる。

「余は其方の理解しがたい戯れとやらに付き合うほど暇ではない…。」

「それは残念だ。」

やれやれという風に肩をすくめる「御前」。それを見ることもなく「かぐや姫」は出口に向かい、歩みを進める。

「…ナスターシャを借りたことには感謝する…また会いまみえようぞ、「御前」。」

「ああ、姫ならばいつでも歓迎しよう…。」

互いの顔を見ぬままに交わされた会話を最後に薄暗い一室で行われた裏社会を牛耳る二人の権力者による会合は幕を閉じる。

「やれやれ、巳詩夜への折檻は報酬代わりといったところか…姫らしいな。」

「かぐや姫」の去った部屋で「御前」は未だ痛みと快楽の世界から帰還しない巳詩夜を見下ろす。

「執務室だ、すぐに。」

 携帯電話で誰かを呼び出し、巳詩夜の肢体を観賞する。

「失礼致します。」

 ノックの後、側近の鬼島洋子が姿を見せる。その背後には二人の黒服が居る。

「唐辻巳詩夜を休ませよ。なに、治療の必要はない。」

「了解致しました。」

 一礼した洋子は黒服に合図し、巳詩夜を運ばせる。

「お前は残れ。」

「はい…。」

「御前」の命に、洋子の頬が淡く染まる。

「あの……服は……。」

「良い。そのままこちらへ。」

 自分で服を脱ぐかと尋ねた洋子に、「御前」は悠然と手で招く。

「では…あっ!」

「御前」の胸に抱き止められた洋子は、早速胸への愛撫を受ける。

「んっ…あっ…。」

 胸を責められているだけだというのに、洋子の美貌は甘く蕩け、喘ぎが止まらない。「御前」の手は止まることなく、胸を揉みながらシャツのボタンをゆっくりと外していく。

「御前」の左手がシャツの合わせ目から潜り込み、ブラの上から愛撫を続ける。

「んんっ…はぁん!」

「御前」のもう一方の手は下へと下ろされ、洋子の股間で蠢く。

 やがて、洋子の乳首はブラの上からわかるほど硬く立ち上がり、股間からは水音がし始める。

「あっ、あぁっ、ふぁぁん…。」

 洋子は切なげな吐息を零すが、「御前」の責めはある一線を越えようとはしない。快感は溜められる一方で、解消されることはない。

「御前」の責めに耐性がある洋子とは言え、「御前」の手練には翻弄されるのみだ。それでも必死に快感を耐え、「御前」の欲望を受け止めようとする。

 しかし、それも三十分しか持たなかった。遂に、洋子の口から屈服の言葉が洩らされる。

「…ご、「御前」…! もう、お願い…ああん! します…っ!」

「お前は、何時から儂に命令できるほど偉くなった?」

 尚も洋子を嬲りながら、「御前」は言葉でも洋子を責める。

「ああぁ、申し訳…ありま、せん…! こ、このはしたない私に、お情けを…! お願い、致しま…あああっ!」

「聞こえぬな。」

 乳首を絶妙な力加減で潰され、洋子の口からは一段高い声の喘ぎ声が放たれる。それでも絶頂には届かず、身体は快楽ではち切れそうだ。

「もう無理、もう無理ですぅ、おねが、お願いしま…はぁん、はふあああっ!」

「ふん…そろそろ限界、か…。」

「御前」は洋子を放り出すと、和服を脱ぎ去る。老人とは思えぬほどの、鍛え上げられた肉体美が現れる。全身には幾つもの古傷が奔り、その修羅の人生が垣間見える。

「抱いて欲しくば、自分で儂の褌を外せ。」

「…は、はい…。」

 あまりの官能に気息奄々の洋子だったが、気力を振るい起こし、「御前」の脚に取りつくようにして上体を起こす。「御前」の右太ももに縋りつきながら両手を伸ばし、褌の結び目へと手を伸ばす。

「あっ… !」

「うん? どうした?」

 しかし、「御前」の身じろぎで結び目が遠ざかる。「御前」の戯れに、改めて手を伸ばし、結び目を解きに掛かる。

「んんんっ!」

 いきなり秘裂に刺激が加えられる。「御前」が膝で微妙な振動を与えてきたのだ。

「あっ、ああっ…んふぅっ!」

「どうした? 手が止まっておるぞ?」

「御前」の揶揄に歯を食い縛り、必死に手を動かす。

「ひあっ!」

 結び目が緩んだと同時に、褌を弾き飛ばすようにして逸物が跳ね上がる。黒光りする逸物は既に硬く、洋子の乳房を下から叩いている。

「あふぅ…は、外れ、ました…。」

「うむ。では、尻を向けよ」

「御前」の命じるまま、豪奢な椅子に手をつき、「御前」に向けて尻を突き出す。

「ここまで濡らすとはの。そこまで我慢できなんだか」

「は、はい…。」

「御前」の逸物の先端が、洋子の潤み切った秘裂を上下に擦る。愛液が絡む水音に、洋子の期待も高まる。

「では、淫らなここに、突っ込んでやろう!」

 いきなり、奥まで貫かれた。

「くあああっ! あぐぅ、はがぁぁっ!」

 獣のように洋子が叫ぶ。獣のように背後から貫かれながら、あられもない声を上げ続ける。情豪である「御前」の焦らし責めで昂らされ続け、雄渾な逸物で敏感になった膣を最奥まで抉られているのだ。

「今宵は儂も加減ができぬ。覚悟せいよ」

「ひぐぅっ、う、嬉しい…です…あっ、あああああっ!」

 強烈な突き込みに、洋子はあっさりと絶頂していた。

「もう達したか。だが、まだまだ終われぬぞ」

「あぐぅぅぅっ!」

 絶頂したてのところに激しい打ち込みを加えられ、そのまま絶頂する。

「今夜はだらしないの。だが…。」

「ひあーーーっ!」

 逸物を埋め込まれたまま乳房を揉まれ、乳首を転がされ、更に一段上の絶頂へと叩き込まれる。

「どうした、まだ儂は本気ではないぞ?」

「あっ、ああっ…んぐぅ、おぐぅおぉぉぉっ!」

 最早意味のある言葉など発せず、洋子は荒れ狂う官能の嵐に咆哮し続けた。


 この夜、執務室から嬌声が止むことはなかった。


(さて…この先、どう動くか…。)

 一晩中情交を続けた疲れを微塵も見せず、全裸のまま椅子に座る「御前」の頬に、野獣の笑みが浮かんでいた。失神したように眠る洋子の乳房を玩びながら、「御前」は闇の中で策謀を練り上げるのだった。



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