【A&A 其の六−2】 投稿者:小師様 推敲手伝い:事務員
「赤コーナー、『天神流武術継承者』、真里谷(まりがやつ)信広(のぶひろ)!」
身長は175cmくらい、武術継承者を名乗るだけあって体は筋肉で引き締まっている。素足に道着と袴を着ていた。腹には何故かさらしを巻いており、鳩尾あたりから腰あたりまで巻かれている。
「青コーナー、『魅惑のエース』、霧生(きりゅう)綾乃(あやの)!」
コールされると、観衆から指笛と野次が飛ばされる。どれもこれも綾乃が如何に甚振られるかを望むものばかりだ。聞きたくもない卑猥な言葉に頬を赤くして俯く。
「さぁ霧生選手、ボディチェックだ」
「・・・はい」
その言葉に反応し、身を固くする。どうしても前回の公開凌辱のようなボディチェックが脳裏を過ってしまう。
レフェリーはいつも通りのセクハラを行おうとしたが、奥に見える暁子が鉄扇を構えて睨みつけているのが見えた。その尋常でない殺気に気圧され、冷や汗をかきながら普通のボディチェックを行った。
(・・・?)
綾乃からは暁子が見えない為、レフェリーの行動や汗が不可解だった。
レフェリーは信広のボディチェックも軽めに行い、そのままゴングを要請した。
<カーン!>
「よろ、しく、美人の、お嬢、さん」
軽口は聞き流し、信広の動きから目を切らないようにする。例え腐っていたとしても道場で武術を習った男。簡単に勝てるほど弱い筈がない。
「い、いきますよ!」
言葉と共に信広の腕が伸びる。手首を掴もうとするが、これを逆に綾乃が掴んで引き込み、柔道の体落しの要領で投げる。
「ぐっ!?」
信広は投げられたことに驚いていた。どこぞのお嬢様なぞ一捻りにして好き勝手させてもらおう、そう考えていた。それでもそこから先へは攻めさせず、一旦距離を取る。
「・・・ふふ」
舌なめずりをしながらの笑みに、綾乃が眉を顰める。
(同じ流派でも・・・暁子とは中身が違うんだね)
そんなことを考えながら信広を見遣る。信広の目は重たげに揺れる綾乃の胸に向けられている。
「僕、に、負けたら、僕のところで!?」
言葉を遮るように前に出てフックを放つ。ボクシングの要領でインファイト気味に攻めていく。防御はされたが、信広の目には驚愕の色が浮かんでいた。
「破廉恥な言葉は聞きたくありません!」
気合を込めて連打を放つ。徐々に信広をロープ際に追いやっていくが、一瞬の隙を突き信広は一気にリングの外に転がり出て行った。
「何やってるんだよ・・・」
小さな男が呆れた声をかける。
「思ったより、つ、強い」
「とにかく早く戻れって」
「・・・はい」
促されるが、リングの周りをうろつくだけで戻ろうとはしない。
「レフェリーさん、カウントをお願いします」
「・・・そうだったな」
まるで今思い出したかのようにカウントを取り始めた。19まで進んだところで信広が漸くリングに戻った。
だがもちろんそのような隙を見過ごす筈もなく、綾乃は信広が立ち上がった瞬間を狙い低空のドロップキックを放つ。
「!?」
しかし信広はこれを間一髪で躱して距離を取る。
「うまいですね・・・でも、も、もうだいたい、わか、わかりました」
今度は信広が近づき、上着を掴もうと腕を伸ばす。しかしこれはすべて綾乃に弾かれ、叩き落とされる。そのうちに、綾乃の目にだんだんと信広の隙が見えてくる。胴が空いている。
(ここだ・・・!)
「セイッ!」
気合いもろとも右の掌底を叩き込む。綾乃も暁子も観客も、これで終わりだ、と思っていた。しかし。
ゴッ!
「いっ・・・!?」
人の肉ではなく、金属を叩いたような音がした。同時に手首から肩にかけて、まるで電流のような痺れと痛みが走り回る。綾乃は右腕を押さえてうずくまってしまった。
「ごめんね、そこは、か、固いんですよ」
そういいつつ蹲る綾乃の後ろに座り込もうとするが、綾乃も何とか転がって距離を取る。しかし右腕は痺れて上がりそうになかった。
『信広様は武術をたしなんでおいでですが、一方で手段は問わない人です。ゆめゆめ油断なさらないようにしてください』
先程の暁子にかけられた言葉が脳裏を過る。この場でまさか腹に鉄板を仕込むとは思っていなかった。そのため鉄板を叩いた負荷をそのまま右腕一本で受けてしまったのだ。
(あれだけ言われてたのに・・・!)
自分の甘さに舌打ちする。よもや右腕が壊れているということはないだろうが、もうしばらくは上がりそうにない。
「さあ、はん、反撃、開始!」
信広が連打を放つ。なんとか躱していくが、右腕が使えない分被弾も多くなる。
(く・・・躱し切れない・・・!)
男性の連打はやはり重い。受けた数に反比例して自分の動きが鈍っていく。各所に散らされる連打へ意識が集中するあまり、他の事へは気が回らなくなっていく。
「隙、あり!」
信広の急接近に対応できず、綾乃は固まってしまう。そのまま痛めた右腕を手繰られた。
「あ、あああっ!!」
痛みに全身から力が抜ける。そのまま綾乃は一本背負いでリングに叩き付けられた。
「がっ・・・!」
「やはり、女性は、打たれ弱い、ですね」
小馬鹿にするような言葉に反応しすぐに立ち上がる。反論の代わりに信広を睨みつけるが、信広は逆に鼻で笑う。
「・・・怒った、顔も、・・・か、可愛らしいですね。暁子さんが、羨ましいですよ」
この挑発のような言葉に綾乃は目にもとまらぬ速さで接近する。またもインファイト気味にパンチの嵐を繰り出すが、痛みとダメージのせいで先程よりも早さがなかった。
「それでは、あ、当たりませんよ!」
しかし綾乃の狙いは打撃ではなかった。
「あっ!?」
綾乃の動きが急に変化した。信広が綾乃の上着を掴もうと伸ばした腕を逆に掴んでまっすぐ伸ばし、左脚を腹に、右脚を首にかけて一気に絞り上げる。
「ぐぅぅっ・・・!」
それでも信広は対応した。一度伸ばされた腕を、地面に倒れる前に逆の腕で掴んでいた。
「・・・力では、負け、ません!!」
「あ・・・!」
咆哮と共に無理矢理腕を振りほどき、距離を取る。綾乃にとっては最悪だった。また、絶好の機会に決めきれなかった。前回はそれが負ける原因だった。
「惜しかった、ですね、い、今ので決められれば、暁子さんが、楽だったのに」
悔しいが信広の言う通りだ。ここで終わらせることができればリズムに乗って全部勝てた筈だったのに・・・
「まだまだ、楽しみは、これからですよ?」
「っ!」
伸ばされた腕を躱して距離をとる。仕切り直し、と信広の方に向きなおしたとき、肩を叩かれた。
「えっ?」
何が起きたか分からずつい振り返ってしまう。しかしそこには誰もいない。
「お嬢様! よけて!」
「えっ?」
暁子の声が聞こえた。視線を元に戻すと、正面で信広がすでに両手を大きく広げて待っていた。
「ふふ、わ、わざわざ・・・ぼ、僕を待っててくれたんですか?」
抱きしめられると同時に手が尻へ延びる。その瞬間、観客が熱気を取り戻し始めた。ここからやっとショーが始まるのだ。
「な・・・や、やめてください!」
何とか身体の間に挟み込んだ両手で信広の胸を押し返そうとするが、膂力の差は如何ともしがたい。
「あ、だめです、う、ごかない、で」
その押し返そうとする手を素早く背中側で極める。
「い、痛いっ」
痛みに力が緩んだ瞬間、信広が首投げで綾乃を地に這わす。そのまま綾乃をヘッドロックで押さえ込む。
「ぐぅ・・・」
上半身は体で押さえられ、首は極められる。何とか脱出しようした時、突如観客が湧いた。
(一体何が・・・あっ!)
綾乃が力を籠めようとすると、大股開きのような格好になってしまうのだ。それに気付いて慌てて股を閉じるとしっかりダメージを与えられてしまう。
「そうだ、ボディチェックしていないところがあったなぁ」
暁子にも聞こえるようにつぶやき、レフェリーは綾乃の秘部に手を伸ばした。
「ひああっ!!?」
力を込めて脱出しようとした瞬間の甘い刺激。一気に力が抜け、より深く押さえ込まれてしまう。
「まさかここには何も隠していないだろう?」
レフェリーがわざとらしく聞いてくる。
「ひうんっ!」
レフェリーが下着の上からとはいえ秘部や淫核を突くと、綾乃が喘ぐ。敏感な部分をつつかれて身悶える姿は、さながら玩具のようだ。
「お嬢様!!」
見守ることしかできない暁子が必死で声をかける。綾乃を救おうと乱入すれば、どんな言い掛かりをつけられるかわからない。しかし、綾乃が負ければどのような事が起こるか想像もつかない。何としてでも敗北は阻止するつもりでいたが、暁子の思いとは裏腹に綾乃は徐々に追い込まれていく。
「ずる、いですよ、僕の、獲物です」
レフェリーに触発されたように信広も片腕を外して胸を掴む。
「くぅっ・・・」
不快感と快楽の狭間で耐える綾乃は、何とか逃げ出そうと暴れる。しかし下手に動くと、股間と胸から余計な刺激を呼び込んでしまう。
暫くその状態が続いていたが、途中で信広はヘッドロックを外して綾乃の腹の上に座った。長時間の極め技で綾乃も息が上がってしまっている。
「はぁ、はぁ・・・」
「吐息が、色っぽい、ですね」
そのまま胸を鷲掴みにして揉みしだく。その途端、信広の顔が好色そうににやけた。ほぼ同時にレフェリーも責めを再開する。
「や、やめ・・・て・・・ううんっ!」
手を引きはがそうとするが、ただでさえ体力の尽きているのに、さらにセクハラを受けている綾乃では信広の手をどかすこともできなかった。結局良いように体を触られてしまう。
「柔らかい、ですね。この、あたりは、いかが、ですか?」
「ん・・・く・・・ひああああっ!?」
大きな胸の中心を指で突かれた途端、綾乃は喘ぎ声を張り上げてしまった。正確に乳首を突かれ、体中に電流が走った。
「ここ、が、いいんです、か?」
「んっ、んんぅ・・・!」
乳首のあたりを人差し指で押さえられ、胸を揉みしだかれる。それでも持ち前の負けん気で綾乃は声が出ないように気張っていた。
「気持ち、いいん、でしょ? 遠慮、は、体に、毒ですよ」
逃げ出そうとすると思い切り胸を握り潰される。しかしその痛みすら快感に感じられるところまで綾乃の体は追い込まれていた。
「んっ、んうっ・・・!」
「こっちも大分潤ってきたな」
「あ、だめっ・・・あ、ああああんっ!!」
秘部を責めるレフェリーが下着の中に手を入れて直に触り始めると、堰が崩壊したように一気に快楽の沼へと落ちていく。
「ああっ、ああんっ!!」
最早抵抗どころではなかった。声を抑えるのも忘れて与えられる快楽を享受する。そして。
「あっ・・・あはあああああんっ!!」
短時間で一気に絶頂まで持っていかれた。体を弓なりに反らして絶叫する。
「あ・・・あ・・・」
全身が重く、汗ばんでいる。さらに体が細かく痙攣し、動くことすらできない。しかし今回はそこで終わらなかった。
「はや、すぎます。こっち、は、まだまだ、遊び、足りないんですよ?」
そういうと信広は胸を揉む手を止めた。今度は痙攣する両手の指を恋人のように絡められ、手を繋げて押さえ込まれる。
「折角の、獲物、す、隅から、隅まで味わわせて、もらいますよ」
言葉と共に信広の顔が近づいてきた。
レフェリーが綾乃の下着の中に手を入れて直に責め始めた。そして。
「あっ・・・あはあああああんっ!!」
(お嬢様・・・!)
体を弓なりに反らして絶叫する。声が途切れると、目を閉じた綾乃の体は小さく痙攣していた。激しすぎる絶頂の余韻が抜けきらないのだろう。
「あ・・・あ・・・」
「はや、すぎます。こっち、は、まだまだ、遊び、足りないんですよ?」
そういうと信広は胸を揉む手を止めた。今度は両手の指を恋人のように絡め、手を繋げて押さえ込む。
「折角の、獲物、す、隅から、隅まで味わわせて、もらいますよ」
その言葉を聞いたとき、暁子は信広が何を考えているのか悟った。同時に無意識のうちにリングに飛び込もうとした。しかし。
「暁子ちゃん、手助けはダメだぜ」
もう一人の選手がいつの間にか反対のコーナーから近づいてきており、リングのエプロンに立った暁子の脚を払う。
「ぐっ・・・!」
不意打ちに受け身も取れず、エプロンの角に腹を打ちつけてしまい悶絶する。そこへ、険しい表情をしたレフェリーが近づいてきた。
「なんだ真里谷選手、助けようとしたのか?」
「・・・」
「黙ってるってことは本当なんだな。ならばお仕置きが必要だなぁ、ん?」
レフェリーはもう一人の選手に目配せをする。すると、暁子を担いで観客席を隔てるためのフェンスに近づいて行った。
「く・・・放せ・・・! 貴様、リングに入ったな!?」
「知らんな。ま、もうちょっとしたら放してやるから待っとけって」
そういうと目にもとまらぬ早業で暁子の両手首をフェンスに紐で固定してしまった。
「ほい、放したぜ」
約束は違わぬ、と言わんばかりの顔をするが、暁子にしてみれば何も変わっていない。
「この・・・!」
「罰だとよ。綾乃ちゃんが試合している間は何をされても抵抗するなってさ」
「な・・・!?」
「ちなみに抵抗したりするようなら綾乃ちゃんに罰を受けてもらうってよ。どうする?」
「・・・!」
これでは逃げるわけにいかなくなってしまった。試合を見るに、綾乃の体は過敏になってしまっている。それなのにこのセクハラ責めを態々受けさせるわけにはいかない。
「返事は?」
「・・・好きにすればいいではありませんか」
「なんだ、案外聞き分けがいいんだな、つまらん」
断っていれば何をしようとしていたのか。考えたくもない想像が脳裏を過る。
「じゃ、いただきます、っと」
無遠慮に胸を鷲掴みにされ、揉み回される。男を惹きつける体は感触も絶品で、この男も鼻の下を伸ばし、目を血走らせながら暁子を堪能する。
「たまんねぇ! 頼むから終わってくれるなよ!?」
欲望むき出しのまま暁子を蹂躙する。暁子は只管目を瞑って耐えるしかなかった。
「あっ!?」
突然、下腹部に触れられる。目を開くと、男は両手で胸を揉み続けている。
「こんな綺麗どころが近くまできてくれたんだ」
「そうそう、手が伸びるのは仕方がない」
「同感ですな」
拘束された暁子の近くに居た観客までもが、暁子の肢体を弄り始めたのだ。
(観客も下衆の集まりとは・・・!)
怒りを掻き立てられるが、今の暁子に抵抗することはできない。綾乃のことを思えば、じっと耐えるしか選択肢がないのだ。例え胸を揉まれ、太ももを触られ、尻を撫でられ、秘部を弄られたとしても。
「暁子ちゃん、気持ちよくなったら幾らでも声を出してくれよ」
暁子の胸を堪能しながら、男がにやりと笑みを浮かべた。
「んんんっ!?」
一度目線を暁子の方に送った信広だったが、レフェリーが止めに入ったのを見て、そのまま綾乃の口を吸う。
「んっ、んんんんっ!!!」
綾乃も目じりに涙を浮かべながら必死に抵抗するが、甘美な絶頂を受け入れてしまった体には力が全く入らない。
「ぷはっ・・・」
「美味しいん、ですね。それが、よく、わかりましたよ」
好色な笑みを浮かべ、綾乃を見る。その目に、綾乃は恐怖を感じた。何とも言えない気持ち悪さ。まるで自分が蜘蛛の巣にかかった蝶になった気分だった。
「も、も、もうちょっと、楽しませて、くださいね?」
言葉と共に胸を揉まれ、片手がミニスカートの中に侵入し、秘部を軽く触れられる。
「んあああんっ!」
それだけで綾乃は濡れた声を漏らしてしまう。
「ああ、い、いい声」
最初に後れを取った溜飲を下げるがごとく、綾乃からどんどん喘ぎ声を引き出そうと責めを激しくする。暁子がこれを見て地団太を踏んで悔しがることを考えれば言うことなしだ。
「ここは、如何、です?」
「あっ、ああああっ!」
突然綾乃が声を張り上げる。秘部のすぐ上の小さな突起を指で転がされたのだ。
「ああっ、あんんっ!」
信広の手が躍るたびに綾乃の口から喘ぎが出る。
「うん、では、そろそろ・・・」
信広が手を止めて、試合を決めにかかる。信広は暁子の方を向き、リングの中から声をかけた。
リング外の一角では、男たちが暁子の身体に群がったままだった。
「ああ、暁子ちゃん、すごいな、こんな女も素人にいるんだな」
「・・・」
言葉には反応せず、暁子はただ目の前の男を睨みつける。胸を、尻を、太ももを、男たちの手が這いずり回っているのに、その視線は鋭い。
「しかし・・・マグロみたいだな。こっちはこれだけ楽しいのにさ」
「・・・」
「何か言ったかい?」
「別に何も。ただ、ヘタクソ、と」
その言葉に、男の眉尻が吊り上る。
「そうかそうか、もっと激しいのがお好みか」
そういうと男は服の中から何かの器具を取り出した。
(これは・・・?)
暁子にはそれが何なのか全く分からなかった。
「これはな」
暁子の前に翳しながら、得意げな顔をして語る。
「こうやって使うんだ」
そういうとスカート中に手を突っ込み、器具を秘部に押し当てて、スイッチを入れる。
「!!!!?」
突然器具が震えだし、秘部に刺激を与えだした。
(これは・・・結構キツイ・・・!)
文字通り機械的で一定のリズムで振動を与え続けてくる。機械なので、動力さえ安定すれば半永久的だ。人間であればどこかで必ず休むことが必要だが、これでは人間が先に音をあげてしまうだろう。
男は一旦その機械を止めて、話しかけてくる。しかしその間にも観客たちの手は動き続け、這いずり回る。
「覚えとけ、ローターってんだ」
その時だった。
「暁子さん、緒戦は、い、いただきます」
「んっ、くう・・・!」
暁子には逃げ出す術も、主を救う術もなく、ただただ責められるしかなかった。
「暁子さん、緒戦は、い、いただきます」
その瞬間、快楽に縛られていた筈の綾乃が動いた。信広の急所めがけてローブローを繰り出す。
「うぐっ!?」
震える体を叱咤し、綾乃がやっとの思いでロープを掴んで立ち上がる。しかし膝は震えて内股気味になり、目は快楽で潤み、頬は上気している。
「はぁ・・・はぁ・・・ん・・・」
しかし綾乃は立ち上がるのが精いっぱいだった。そこから先に動くことができず、徒に時間だけが過ぎていく。
「・・・や、やりました・・・ね!!」
仕留めた筈の獲物に噛まれたのが余程悔しかったのか、信広は顔を真っ赤にして、咆哮と共に突きを繰り出す。
「ぐぶっ!」
今の綾乃によけられる筈もなく、鳩尾に突きをまともに食らってしまう。
さらにそこから掌打、蹴りと流れるような連打を見まう。
「ハアッ!」
最後は掌底が鳩尾を抉り、綾乃は意識を刈り取られた。
綾乃の様子を見たレフェリーが、すぐに試合を止める。
<カンカンカン!>
綾乃の敗北を告げるゴングが鳴り、綾乃たちの運命が一歩闇の世界へと近づいたことをも告げる。期せずして会場からは拍手が沸いた。
信広はゴングを聞いても信広は冷静にならなかった。
「こ、こんな、ド素人に・・・!」
綾乃を抱え上げて自コーナーに引き上げていく。
「て、徹底、的に、立場を、教え込んで、あげましょう・・・!」
その目には、嗜虐と欲望の光があった。
ゴングを聞き、小さい男は責めの手を止めた。
「んだよ、もう終わっちまったぜ」
そのまま暁子から離れ、向こう側へと去っていく。黒服に睨まれ、観客たちも渋々手を引っ込める。
(終わった・・・)
暁子にとっては長い屈辱の時間だったが、やっと解放された。しかしリングの上を見遣ると、綾乃も信広もいなかった。
「お嬢様・・・?」
「綾乃さん、なら、こっちにいますよ」
信広が反対側のコーナーの陰から顔を出し、暁子に喋りかける。
「あ、暁子さんの試合中は、綾乃さんは、こっちで、負け試合の、ば、罰をうけることに、なってるんです」
「な・・・!」
「あなたが、飛び込まなければ、ね」
今度は、暁子が手助けをしようとした罰を、綾乃が背負うことになってしまった。
「助けたかったら、早く、試合を、終わらせるべきですね。負けても、終わりますけどね」
皮肉気な笑みを浮かべた信広が、コーナーの向こうに姿を消す。その途端、向こう側の観客席が沸く。
「ああっ、いやあっ!」
綾乃の声も微かに届く。
(お嬢様・・・申し訳ありません・・・)
過程はどうあれ、綾乃が負けてしまった事実はもう動かせない。あと二試合を落さないようにするしかないのだ。
(私の、せいで・・・お嬢様が・・・!)
早く、早く勝たなければ。綾乃が崩壊するのが先か、暁子が勝つのが先か。
「真里谷選手、その場で暫く待っててくれ」
しかし暁子の気合いを削ぐように、レフェリーが待ったを掛ける。
「何故ですか!?」
焦りで硬い声が出る。
「いやなに、一試合終わった後だからな、汗を拭かないと滑るだろ? まあ、霧生選手が他のものでも濡らしてしまったけどな」
下卑た笑みと物言いに殺気が沸きかける。
「おっと、余計な動きはするなよ。試合が始められなくなるぞ」
しかしここで綾乃を救出に向かえば、どういう裁定に持っていかれるかわからない。歯噛みしながらも待つしかできなかった。
(お嬢様・・・)
暁子は両手を固く握りしめ、リングの上で行われる清掃を睨みつけていた。