【A&A 其の六−3】   投稿者:小師様  推敲手伝い:事務員


 「よし、いいぞ。真里谷選手、リングに上がれ」

 ようやくレフェリーに呼ばれ、トップロープを飛び越えてリングに入り、次の試合の開始を待つ。

 (お嬢様・・・!)

 暁子がこうやって待っている間も綾乃が嬲られているかと思うと、焦りと怒りが心中に充満する。
 相手選手も少し遅れてリングに上がってくる。先程まで暁子を甚振っていた男だ。

 「遅くなっちまったよ、悪いね」
 「・・・」

 言葉とは違って悪びれた風は全くない。それどころか暁子を見てにやついている。

 「綾乃ちゃんに逃げられないようにしろって五月蠅くてね」
 「逃げられないように・・・?」
 「手足を固定しただけだ。特に痛めつけたりはしてないぜ」
 「貴様・・・お嬢様を縛り上げたのか・・・?」

 途端に暁子の目じりが吊り上る。切れ長の暁子の目が吊り上げられると、悪魔も裸足で逃げ出すほどの迫力がある。しかしこの男にはまだ余裕が感じられる。

 「縛り上げるまではしていないから安心しな。彼女じゃちょいと物足りない。やるならもっと鼻っ柱の強いやつじゃないとな」

 そういって唇を舐める。暁子にとってはその行為は不快そのものでしかない。

 「・・・始めましょうか。どうやら私から贈り物を渡さないといけないようなので」
 「美少女からのプレゼントか、期待しようかね」

 その言葉を最後に、レフェリーが二人を各々のコーナーに下げた。



 「お待たせしました、本日の第二戦です!」

 先程の試合の熱気も冷めきらないうちに次の試合が案内される。観客は否が応でも盛り上がった。

 「赤コーナー、『軽業師』、小山(おやま)朝久(ともひさ)!」
 
 コールされた男は、着ていた甚平から鎖打棒を取り出して振り回し、観客の声援に応える。

 「青コーナー、『馥郁たる武闘姫』、真里谷(まりがやつ)暁子(あきこ)!」

 竹刀を手に持ちながらも、コールにはいつも通りメイド風の挨拶で応える。それに合わせるかのように先ほどよりもなお一層大きくなった観客の声。しかしほとんどが暁子への野次と恥辱にまみれる姿を望む欲望に塗れたものだ。

 「なぁ暁子ちゃん、縛られるのは好きかい?」
 「嫌いです」
 「ほう、経験があるのかい?」

 極秘で行われていた道場での修練に置いて、そういう経験はある。しかしそんなことを今言う必要はないだろう、と暁子は考えていた。事実を隠したかったためか、暁子は朝久から目を外した。

 「いえ、別に」
 「なら一回縛られてみないか? もちろんタダじゃない。これ以上ないくらいの快感をプレゼントするから」
 「結構です」
 「そうか、暁子ちゃんは嫌か。綾乃ちゃんは、あそこであんなに気持ち良さそうにしてるのになぁ」
 「っ!?」

 対戦相手が目の前に居るというのに、思わず視線をそちらに向けていた。その視線の先に、仰向けで拘束された綾乃の姿があった。

 (お嬢様!)


 <カーン!>


 突如ゴングが鳴り、ほぼ同時に何かが動いたことを感覚で知る。視線を戻したとき、既に朝久は元の場所にはいなかった。

 (・・・しまった!)

 視線を左右に動かすが見当たらない。と、突然脚が宙に浮いた。

 「俺みたいな雑魚じゃ相手にならないと思ってたかい?」

 脚を払われた、と気づいた時には上から圧し掛かられ、手首を押さえつけられる。それでも一度は押さえつける手を外して朝久をどかそうとするが、もう一度手首を掴まれ、そのままリングに何度も叩き付けられる。その内に手が痺れはじめ、竹刀を放してしまった。その竹刀をリングの外に落とした朝久は、不敵な笑みを向ける。

 「武器はもうなくなっちまったな」

 いつの間にか鎖打棒は手に持っておらず双方とも素手の状態だったが、それでも上に乗っている分だけ朝久の方が有利だろうか。

 「それが如何ほどの事か・・・!」

 何とか抜け出そうと人体に無数にある急所を狙うが、全て未然に防がれてしまう。しかも、その間隙を縫うかのように胸を揉まれ、股間を触れられる。
 暁子にとっては屈辱以外の何物でもなかった。唯でさえ早く倒して綾乃を救わなくてはならないのに、それ以前に自分がいいように甚振られているのだ。

 「ほれほれ、そんなんじゃ綾乃ちゃんが寝取られちまうぞ?」
 「くっ、ほざくな・・・!」

 それでも諦めずに暴れるが、朝久の防御を打ち破る手立てが見つからなかった。

 「もっと頑張れよ、綾乃ちゃんに捨てられちゃうぜ?」

 その言葉に反応して更に手数を増やすが、まだ朝久をどかすには至らない。ただ時間だけが過ぎていく。



 敵陣に連れてこられ、綾乃は内心戦慄していた。

 「助けたかったら、早く、試合を、終わらせるべきですね。負けても、終わりますけどね」

 そう暁子に言い放った信広の目が綾乃に向けられた。そのまま信広はスカートの下着の中に手を入れた。その途端、近くで見ていた観客から順に沸いていく。

 「ああっ、いやあっ!」

 燻っていた炎がまた激しく燃え始めた。綾乃の腰は激しく跳ねまわり、喘ぎ声が引き出されていく。

 「あ、暁子さんの代わりに、可愛、がって、あげますよ。た、達しそうに、なったら、教えて、くださいね?」

 包皮を剥かれた淫核を潰され、秘裂に軽く指を埋められ、胸を揉み回され、キスをされる。弱いところを全て同時に責められるが、綾乃は抵抗できなかった。あまりにも快感が強すぎて腰を跳ねさせる以外にさせてもらえないのだ。しかし信広もその動きに若干苛立っていた。綾乃の体が跳ねまわり、強張るため、思うように責められないのだ。

 「もう、動かないで、ください」

 しかしもうその言葉は綾乃には届いていない。すでに快感が綾乃の許容範囲を超えかけており、何とか快感を逃がすだけで精一杯なのだ。

 「朝久、何とか、してくれませんか。綾乃さんは、初心すぎます」
 「はぁぁ・・・はぁぁ・・・」

 一旦手を止めて朝久に手段を求める。やっと解放された綾乃はとにかく酸素をたくさん吸い込もうと必死だった。
 朝久は観客を遮るフェンスを一つ横倒しにした。思わず前に出ようとした観客を、黒服が視線だけで縫い止める。

 「どこのお嬢様でも遊び歩いてたら嫌だろうが。それくらい我慢しろよ」
 「・・・そ、そんなもの、ですか。あ、あれ、貸して、ください」

 朝久は何かを信広に渡し、またどこから取り出したのか平たい紐で綾乃の両腕、両脚をフェンスに縛り付け、いつの間にかギャグボールまで噛ませていた。

 「これでいいか?」
 「どうも。これで、お、思い切り、遊べ、ます」

 観客席のフェンスにくくりつけられた綾乃に責めを再開する。まずは胸を揉み回す。

 「んぐぐっ、んうう〜〜!」

 体を揺することは辛うじてできるが、声を出すことはできない。

 「ふふっ・・・!」

 信広の嗜虐心に更に火が点いたのだろうか、抵抗できない綾乃を見て黒い笑みが漏れ始めた。

 「ふぐぐぅぅっ・・・!!」

 突然綾乃の体が少しだけフェンスから浮く。信広に淫核を押しつぶされたのだが、それだけで絶頂を迎えてしまった。

 「ここ、す、好きなんですか?」
 「ふぐっ・・・! んぐううっ・・・!」

 さらに淫核を転がし、秘裂を弄る。まるでマリオネットのように綾乃の体が動く。
 そのうちに、だんだんと綾乃の目から光が消え、淫蕩の桃色に染まり始めた。すでに頬は上気し、全身汗みずくになっている。涙を流しているが、悔し涙なのかうれし涙なのか。

 「こっちは?」

 信広の手が乳首を潰す。すると、綾乃の体の中を電流が走り回った。

 「ふううん・・・!」

 先ほどまでとは変わり、漏れる声に艶が混ざりはじめる。その声を聴いて満足したのか、信広の顔がサディスティックに歪む。

 「あ、綾乃さんは、いい、身分ですね。暁子さん、が、あ、あんなに、頑張ってるのに、快楽を貪るんでしょう?」
 「!!!!」

 その言葉を聞き、綾乃の目に光が戻った。自分が罰を受けるのは仕方ないが、このままでは自分の代わりに勝利を手にした暁子が進んで犠牲になるかもしれない。その時、自分は勝手気ままに快楽を貪っていてよいだろうか。

 「ぶ、部下思いの、綾乃ちゃんは、そんな、簡単に、暁子さんを見捨てないですよね」

 うんうんと頷きながら、信広の顔がどんどん歪んでいく。

 「そんな、綾乃さんに、僕から、プレゼントですよ。桃源郷、への、片道切符です」

 言葉と共に綾乃の体を責めはじめる。しかも今度は先ほど受け取ったものを綾乃の秘部に押し当てる。綾乃は首を振りつつ何とか逃げようとするが、朝久の捕縄術は完璧で、少し体を揺すったくらいではびくともしなかった。

 「そ、そうだ。これ、し、知ってます?」

 信広が小さな機械を秘部から外し、綾乃の顔の前に持ってきてスイッチを入れる。蜂の羽音にも似た駆動音が、綾乃を慄かせた。

 「使い方、すら、知らないでしょう?」

 一度スイッチを切った信広は、改めてローターを秘部に当てた。

 「んんんーーー!」

 綾乃は何度も首を振るが、戒めはまるで緩まない。

 「ま、か、身体で覚えて、ください。では、ぷ、プレゼントを、受け取って、くださいね!」

 スイッチを入れると、秘部に押し当てられたローターが動き出す。

 「ふぐう・・・ん・・・!」

 刺激に体を強張らせる。何とか逃げようと体をくねらせるが、もちろん逃げられる筈もなく、むしろ逆に色っぽい動きをしているように見える。

 「そ、そ、そんなに誘って・・・綾乃さんは、スキモノ、なのかな?」

 その言葉に首を大きく振って否定するが、それでも責められると快楽に身を震わせてしまう。無慈悲なローターの振動に、どんどんと追い込まれてしまう。

 (ああ・・・暁子・・・私、もう・・・ダメ・・・!)
 「ううううんっ!!」

 またも激しい絶頂。そしてそのまま綾乃は意識を飛ばしてしまった。



 暁子は焦っていた。どれだけ抵抗してもいなされてしまい、ただただ時間だけが無為に過ぎていく。

 (まずい、まずい・・・! お嬢様が・・・!)

 声は聞こえないが、時折観客が湧きたつ。暁子からは見えないが、恐らく綾乃が徹底的に責められているのだろう。

 「従者ってのはこんなものなのか? これじゃ主を守るどころか足手まといだなぁ」

 言葉の一つ一つが暁子の心に突き刺さり、抉っていく。

 (足手、まとい・・・?)

 暁子の目に、明らかな困惑の色が浮かんだ。
 暁子自身は、霧生家には家の無い孤児としてよりも家政婦として引き取られた、と思っていた。だからこそ、綾乃を守ること、家事を全てこなすことは自分の義務である、と信じて日々を過ごしてきた。その想いを、根底から覆される言葉を聞いたとき、疑問が生まれた。

 (私は、霧生家で役に立っているのだろうか・・・?)

 初めてここで闘った時は勝ちきれなかった。初めてナスターシャや洋子と戦った時は惨敗ではなく完敗を喫した。初めて霧生家に来た時は、綾乃に拒絶された。

 (もしかして、私は最初から霧生家には必要なかったのでは・・・)

 暁子がナスターシャと洋子に勝っていたら。三人組をきっちり叩きのめしていれば。綾乃は大切にしてきた黒髪を切ってまでこのような場所で闘うことなどなかった筈だ。

 「あ・・・」

 暁子の目に涙が浮かぶ。霧生の家に来た時から、感じてはいたが考えないようにしていたこと。その疑念が今、心の中から暁子を痛めつけていた。

 「なんだよ、泣くことないだろ? それとも事実なのか?」

 呆れたような声を出す朝久に、それでも嫌悪の視線を突き刺す。言葉の代わりに動きで否定する。目にもとまらぬ早業で朝久の下から抜けだした。

 「やるなぁ暁子ちゃん」

 朝久は素直に感嘆の声を上げた。それだけの余裕があるのだ。

 「はぁ、はぁ・・・」

 逆に暁子は予想以上に追い込まれてしまっていた。武器戦ならば、と軽く捻る筈が、実際は双方素手で闘っていて、しかも長時間組み伏せられたためにスタミナを無駄遣いしてしまった。

 「もう限界かい?」
 「・・・御冗談を」
 「だよなぁ、今負けたら綾乃ちゃんはどうなっちまうんだろうな」

 この四人の中でさえ、綾乃はお世辞にも強いとは言えない。しかも性的な責めまで加えられ、最早拷問に近いところまで追い込まれている。暁子はなんとしても綾乃を救い出さないといけないのだ。それができなければ、霧生家に呼ばれた意味がないのだ。

 (早く・・・早く・・・!!!)

 焦りが暁子の体を突き動かす。手数だけは多いが、力みが体を固くしており普段の実力を出し切れない。そのちょっとした差が、暁子が朝久を、あの三人組を倒せない理由だった。

 「大振りになってるぜ!」

 ほんの少しだけいつもより強振した掌底を躱され、そのまま腕を手繰られてリングに押さえつけられる。

 「くううっ・・・!」
 「喧嘩慣れしてない感じだな。それじゃどんなに頑張ったって相手を制することはできないな」

 相手を制する。どこかで聞いたような・・・

 「向こうは向こうでお楽しみか。なら俺は俺で楽しむとしよう」

 押さえつけた状態から素早く仰向けに転がし、上半身を立たせて両腕を背中側で極める。朝久自身は暁子の背中側に立ち、両腕を紐できつく縛って拘束し、両脚は暁子の両脚に搦めて開かせる。
 
 「くっ、放して!」

 体を揺するが朝久も紐もびくともしない。ただ胸を揺するだけになってしまう。

 「そんな簡単に取れやしないさ。おっと、これじゃお客さんに申し訳ないな」

 朝久が皮肉気に笑いながら、暁子の股間を隠す前垂れを破り取ってしまう。正面の客からは暁子の下着が丸見えになっており、徐々に熱気が増していく。

 「随分と暴れてるな、真里谷選手。心臓発作でも起こしたか?」

 暁子が動けないと見て、それまでおとなしくしていたレフェリーが近づいてくる。近づくだけではなく、いきなり豊かな胸を両手で鷲掴みにする。

 「くっ・・・」

 幾ら身を捩ろうとも、縛められた身では逃れることができない。

 「おいおい、言葉もないのか? これは心配だな」

 にやにやと笑いながら、レフェリーは暁子の胸を揉み続ける。インナースーツは暁子の肢体にぴたりと張りついているため、下着の線が浮き出ている。それがまた男たちの欲望を煽る。

 「下卑た真似を・・・!」
 「古風な言い回しだな。それより、この前の試合で俺を攻撃したことを忘れてないだろうな?」

 レフェリーの手が、暁子の胸を握り潰す。

 「ぐぅっ!」

 痛みに眉を顰めるが、大きな声は洩らさない。

 「そのお礼だ、暫くマッサージをしてやるよ」

 力を緩めたレフェリーは、再び胸を揉み始める。

 (このレフェリー、また人の胸を好き勝手に!)

 怒りの眼差しでレフェリーを睨むが、レフェリーは気にした様子もなく胸を揉み続ける。

 「霧生選手よりも大きいな。ご主人様より大きいとは、生意気なメイドだ」

 わけのわからない言い掛かりをつけながらも、レフェリーは暁子の胸から手を放そうとはしない。その間、朝久の手が暁子の尻や太ももを撫で回している。

 「さて、そろそろこっちを可愛がってやるか」

 レフェリーは右手で暁子の秘部を撫でる。下着越しとはいえ、不快感は変わらない。

 「お断りします」
 「まだ立場がわかってないのか? お前に断る権利はないんだよ」
 「私の身体は私のものです。権利は私にあります」
 「ここは<地下闘艶場>だぞ? そんなものはないな」

 鼻で笑ったレフェリーは下着の中に手を突っ込み、直接秘裂を弄る。

 「お、本当にパイパンなんだな。これはこれで新鮮でいいじゃないか」

 暁子の無毛の丘を撫で回したレフェリーがふと呟く。

 「そういえば、貫通式は済んでたんだよな」

 人差し指を秘裂の中に埋め、レフェリーがにやつく。

 「おおっ、まだキツキツだな。初々しいあそこだが、気持ちいいだろ?」

 指を出し入れしながらのレフェリーの戯言に、暁子は冷笑を浮かべた。

 「『御前』のほうが遥かに巧かったですね。比べるのが可愛そうなくらいに」
 「貴様・・・!」

 レフェリーの指が奥まで一気に突っ込まれる。

 「あぐぅうっ!」

 突然の乱暴な侵入に、暁子が苦鳴を洩らす。

 「ちっ」

 少し冷静さを取り戻したか、舌打ちしたレフェリーは下着から手を抜く。

 「もういい、後は勝手にしな」

 吐き捨てたレフェリーが暁子から離れ、それまで黙っていた朝久がにやりと笑う。

 「やっと本番か。さぁ、お楽しみだぜ!」

 朝久の宣言を聞いて観客は更に沸き立つ。
 懐からローターを取り出した朝久がスイッチを入れる。

 「さっきも喜んでくれたようだしな、遠慮はいらないぜ」

 更にガムテープを取り出した朝久は、暁子の下着の内側、淫核の部分に震えるローターを貼り付け、スイッチは下着に挟み込む。

 「くぅっ・・・!」

 震えるローターが淫核を責める。さらに朝久の両手は暁子の胸に置かれ、下からすくい上げる様に揉み込んでくる。

 「ああ、たまらんなぁ・・・さっきも思ったんだが、極上すぎるぞ」

 自分の体を淫らに褒められる。それは暁子が大嫌いなことだった。

 「くぅ、この、変態、め・・・あああっ!!」

 如何に暴れても拘束は解けず、せめてもの抵抗に罵声を浴びせるが、わざわざ言い切った後に股間のローターを押し付けてくる。

 「なんとでも言え。今の暁子ちゃんじゃ怖さなんて感じないけどな」

 耳元で囁かれる。生暖かい息が耳にかけられ鳥肌が立つ。

 (こんなところでこんな奴にやられている場合では・・・!)

 どんどん追い込まれ、更に暁子に焦りが募る。普段のクールな真里谷暁子は今この場にはいなかった。

 「ふぅ・・・ん・・・」

 何とか喘ぎ声だけは漏らすまいと口を真一文字に結んで抵抗するが、ローターの無機質な責めに時折吐息が甘くなる。

 「感じてもらえてうれしいぜ。お礼に忘れられないほどの快楽をくれてやるからよ」

 朝久が下着のクロッチを横にずらし、指を秘部に埋めてくる。さらに親指でローターを淫核に押し付けてくる。

 「!!!」

 目の前で火花が散る。体が快感を逃がそうと暴れるが、ガッチリ捕えられてしまっているためにほとんど動かず、逃がすことができない。それでも意地で声を抑え、逆転の契機を掴もうと必死だった。

 「素直に喘いでくれていいんだぜ?」

 朝久が今までになかった優しい、甘い声で囁きかける。普通の女性だったら引っかかってしまうかもしれない罠だったが、暁子には効かなかった。暁子は返答代わりに朝久の腹を思い切り爪で抓む。

 「いてててててて!!!」

 全く考えていなかった奇襲に、朝久はたまらず拘束を解いてしまった。

 「んっ・・・く!」

 その間に暁子はまず後ろ手に縛りつける紐を縄抜けで外し、さらに下着に付けられたローターを毟り取って立ち上がる。

 「はぁ、はぁ・・・」

 拘束時間が長かったため息がスタミナを削り取られ、加えて性的な責めで生み出された雫が太ももを撫で伝う。

 「くそっ、あと一息だったのに・・・!」
 「・・・惜しかったですね」

 朝久は懐から鎖打棒を取り出して構えた。

 「今度は逃がさないからな」

 言葉と共に突進する。しかし、息が上がっている筈の暁子には攻撃が掠りもしない。

 「はぁ、はぁ・・・」

 追いつめられてからやっと、暁子は師範の言葉を思い出していた。


 『常に冷静であれ。周りの風景が常に見えているようでなければ一人前とは言えないぞ』


 (あれだけ言われていたのに・・・!)

 耳にタコができても聞こえるくらいに五月蠅く言われていたのに、そんなことすら思い出せないほど焦っていた。自分の弱さがあまりにもみじめで、穴に入ってしまいたかった。

 (私の名は、真里谷暁子。今すべきことは・・・)

 冷静になった暁子の頭が一気に回転しだす。先ほどまで息が上がっていたことなど、とうに忘れてしまっていた。

 (お嬢様の救出。でもそのためにまずは・・・)

 「うらあああっ!」

 咆哮と共に朝久が距離を詰める。先程よりも攻撃が鋭さを増す。分銅を振り回して暁子を絡め取ろうとするが、それでも暁子には当りそうもない。

 (まずは、降りかかる火の粉を払わなくては、お嬢様に近づけない!)

 「フッ!」

 一瞬、朝久の攻撃が止まったその瞬間、何かが朝久の鎖打棒を捉えた。金属音と共に鎖打棒は宙を舞い、リングの外に落ちていく。

 「な・・・!」

 朝久が言葉を紡ぎ切る前に、暁子の手刀が喉元に突き付けられた。

 「・・・嘘だろ」
 「嘘ではありません。これが事実です」
 「・・・まだ終われないね!」

 軽業師というだけあり、身軽さは天下一品のようだ。突きつけられた手刀で背伸びさせられていたにもかかわらず、後ろに飛んで見せたのだ。

 「さて、次はどうしようかね」
 「次はこちらの番です。一つ手品をお見せしましょう」

 そういうと、暁子は掌を上に向け、口の前に添えた。

 「天神流忍術が一、『幽幻蝶』・・・」

 暁子が掌に向かって息をふくと、それまで何もなかった筈の掌から七色に輝く蝶が舞いあがった。

 「・・・え?」

 朝久は呆気にとられている。観客たちもざわつき始めた。



 「ああ・・・綾乃さん、か、可愛すぎる・・・」

 信広は、失神した綾乃の肢体を尚も嬲っていた。ギャグボールが噛まされた口の端から垂れた唾液を舐め取り、胸を揉み、秘部を弄る。さすがにローターは止めていたが、自らの手で綾乃の感触を堪能する。

 「次に、目を、覚ました、ときは・・・」

 脳裏に幾通りもの責めが浮かび、ぬらりとした舌で自らの唇を湿らせる。そのときだった。

 「信広! なんだこりゃあ!」

 朝久の呼びかけに信広が攻め手を止めて顔をあげると、七色に輝く蝶が舞っていた。

 「こ、これは?」
 「知らねえよ! 暁子ちゃんが出したんだよ!」

 暁子が出した。それを聞いた瞬間、信広は顔色が変わった。

 「あ、暁子さん、こ、これは!」
 「一子相伝の秘術、だそうですよ。ご存じありませんか、信広様?」


 真里谷家の天神流武術の中に、忍術が存在する。しかしそれは川を渡る水蜘蛛や、塀を越える方法、手裏剣や撒き菱の扱い方など、初歩的と言えるものしか伝えられていない。昔はともかく、今は気分転換の遊び程度に忍者になってみる、という子供向けの企画ともいえるレベルの物ばかりだった。それとは別に、真里谷の本家の跡継ぎ、つまり道場師範の後継者となる者には、忍術のなかでも秘伝とされるものすべてが伝えられる。
 しかし先代の師範は子供がいなかった。その為に本来ならば分派の、今回は甥である信広に道場と秘伝のすべてが伝えられる筈だったのだが、先代はこれを良しとしなかったため、分派には道場のみを渡し、暁子には天神流の武術から何から、持てる全てを伝えようとしていた。


 「・・・そ、それでは・・・」
 「先代はあなたを後継者として認めていなかったんでしょうね」

 あってはならない事実。信広の父親も知らない裏を、本来なら真里谷とは何の関係もない暁子だけが最初から気づいていた。そのことに五年経った今、初めて気づいた信広は何もかも忘れて立ち尽くしていた。



 蝶が朝久に近づいてきた。それを追い払おうと手を振る。

 「うわあっ!!」

 手が当たった瞬間、蝶が破裂した。実際には破裂音がしただけなのだが、朝久は爆弾に戦々恐々としていた。

 「お、落ち着いて! そ、そ、それはただの風船です!」

 信広が朝久に声をかける。それはかなり事実に近いのだが、術に囚われている朝久にまでは声が届いていなかった。

 「シッ!!」

 朝久から見れば突然、観客から見ればずっと朝久の前方にいた筈の暁子が、突然後ろに回り込んだ。否、どこかから取り出した鉄扇を振り抜き、残心が綺麗に出ている。

 「天神流鉄扇術が一、『陽炎』・・・」

 流派中最速の抜き太刀の応用技であり、暁子が編み出した独自技術。食らった直後、朝久は膝から崩れ落ちた。それを見たレフェリーは即座に試合を止めた。


 <カンカンカン!>


 暁子が勝利を挙げたことで、観客からは盛大なブーイングが投げられる。
 そんなものなど耳に入らないのか、暁子はそのまま綾乃のもとへ駆けつけ信広を追い払うと、綾乃を捕えている紐を全て仕込み鉄扇で断ち切った。一試合終わった直後に本物の刃で主に傷一つつけることなく紐を斬るあたりから、暁子がどれだけ厳しい修行をしてきたのかが窺える。

 「お嬢様・・・!」
 「あ・・・ああ・・・」

 綾乃には暁子の言葉が届いていないようだった。目の焦点が合っておらず、暁子を認識していない。ギャグボールを外した途端、溜まっていた唾液が零れ落ちる。
 暁子はそのまま綾乃を担ぎ上げて自コーナーに戻ると、膝を枕にして綾乃を床に寝かせた。

 「お嬢様! お嬢様!!」

 綾乃の手を握り、必死に声をかける。すると、綾乃の視線が突然暁子を捕えた。

 「あ・・・あき、こ・・・」

 激しい絶頂を受け入れてしまった綾乃の体にはほとんど力が入らないようだった。それでも、弱々しくも綾乃は暁子の手を握ろうとする。

 「お嬢様・・・」

 何か言いたそうな表情をしているが、綾乃から声は聞こえてこない。

 「お嬢様、今はお休みください。私が何とかいたしますゆえ」

 しかし綾乃は首を横に振る。そして、あろうことか立ち上がろうとする。

 「・・・」

 いくらなんでも無理だ、と暁子は思った。体に力が入らない今の状態では、志願して嬲られに行くようなものだ。そんなことはさせられない。

 「お嬢様、無理はおやめください。お嬢様が壊れてしまったら、社長は悲しみます」

 それでも綾乃は首を振り、何とか立とうと暁子の肩を掴む。握力は無く、ただ肩に指を乗せているだけだった。
 しかし、それでも自分ひとりで次の戦いに勝てるかどうかは怪しいところだ。できるならば綾乃の力添えがほしい。意を決した暁子は、リングの側に置いてあった袋を手繰り寄せた。

 「・・・お嬢様、これをお飲みください。体に力が入りますから」

 綾乃の上半身を寄りかからせるように座らせ、粉薬と竹筒を用意する。

 「・・・?」

 綾乃は声も出せないらしく、視線をこちらに送るだけだったが、言いたいことはわかった。

 「父から教わった、急場凌ぎの気付け薬です。一応持ってきておいて正解でしたね」

 コクリと小さく頷きを返してくるが、腕が上がらないらしい。暁子はすぐに粉薬を綾乃の口に流し込み、竹筒を唇にあてがう。しかし疲労からか、綾乃は上手く水を飲むことができない。

 「お嬢様・・・」

 やや躊躇いつつも、暁子は自分で竹筒の水を口に含み、綾乃の顔へと自らの顔を寄せる。
 次の瞬間、観客席が沸いた。暁子が綾乃に口づけ、直接口移しで水を飲ませたからだ。美少女同士が唇を重ねた光景は、<地下闘艶場>の観客にも新鮮だった。

 「っ!・・・」

 一瞬だけ綾乃の体が硬直するが、すぐに解れていく。咽喉が何度か上下し、暁子が優しく送ってくれる水で薬を飲み込んでいく。

 「・・・飲めましたか?」

 口移しを終えた暁子の質問に、綾乃は手を開閉させながら頷く。目には疲労も見え隠れするが、何よりも光が戻って来ていた。

 「では、行きましょうか」

 エプロンに飛び移った暁子が、セカンドロープとトップロープの隙間を空けながら綾乃を引き上げ、一緒にくぐっていった。


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