【A&A 其の六−5】 投稿者:小師様 推敲手伝い:事務員
「結局無反応かよ、つまらん」
飽きたかのようにレフェリーが離れ、ようやくボディチェックが終わった。二人にとっては長い時間だったが、これで終わりではなく、自分たちの運命が決まる闘いの本番はこれからだった。
レフェリーは男性二人に軽めのボディチェックをすると、そのままゴングを要請した。
<カーン!>
綾乃と氏継がリングから出ると、開始のゴングが鳴らされた。
今度は、最初に出てきたのは政哉だった。
「初めまして、かな?」
「そうですかね」
暁子の返事は、人間には興味がない、と言いたげだった。
「ふふ、気が強いんだね。あんまりキツイと美貌がもったいないよ?」
「貴男がどう思おうと勝手ですが、私は貴男達に興味はないんですよ」
「・・・悲しいなぁ。じゃ、俺という人間をもうちっと知ってもらおうかね!」
突然雰囲気が変わった政哉が暁子に肉薄し、連打を放とうとするがその前に腕を絡めて投げを放ち、リングに叩き付ける。
「ぐっ!」
政哉も投げられたもののそれ以上は追撃に来させない。
「うまいものですね」
暁子は素直に感心していた。絡ませた腕をそのまま極めて、場合によっては折って終わらせるつもりだったのだが、読まれていたのか行動を起こす前に逃げられてしまった。
「折られるのはどうにも、ね」
褒められるのは慣れていないのか、政哉は腕をさすりながら苦笑する。
「ま、褒められてうれしくない人はいないよね。でも・・・」
目を細めた政哉が悲しそうな表情を浮かべる。
「俺は・・・」
突然リングの中央で政哉が泣き始めた。
「え・・・」
急展開についていけずに混乱する。戦いに集中できなくなっていることに暁子は気づいていなかった。
「なんてね!」
政哉の動きは速いとは言えなかったが、1テンポ遅れた分だけ政哉に近づかれて手首を掴まれる。
「フッ!」
それでも相手を投げたのは暁子だった。小手投げで政哉をリングに這わせ、裸絞めに移行する。
「・・・ぐっ・・・!」
完璧に極まった裸絞めだったが、邪魔する者が現れた。
「なぁレフェリー、あいつ入ろうとしてるぞ?」
「なにっ、それは懲罰だな!」
氏継の演技に、レフェリーはまるで気のない演技で応えて綾乃の方に近づいていく。
「霧生選手、助勢は禁物だぞ?」
「え? ええ、わかっていますが」
「本当か? 今入ろうとしていなかったか」
「・・・御冗談を・・・」
そんな言い合いをしている中、本当に入ってきたのは氏継だった。
「おいおい、そんなに早く終わっちゃ面白くないだろ」
「なっ!!?」
裸締に極める暁子の胸と股間を弄る。突然の刺激に力が緩んでしまい、政哉に逃げられてしまう。
氏継は目的を達成すると、さっさと自コーナーに戻っていった。
「れ、れ、レフェリーさん、相手の方が!!」
入ってきたのを見た瞬間、綾乃が悲鳴に近い叫びをあげる。
「話を逸らそうとするんじゃない。大人を馬鹿にしているのか?」
しかしレフェリーが取り合おうとする筈もなく、コーナーで押し問答が続いていた。
「本当に入っているのか?」
「入って、入って・・・ああ・・・」
図ったかのように、氏継が出て行った直後にレフェリーが振り向く。
「入っていないじゃないか・・・大人を謀るとは、お仕置きが必要だな、ん?」
レフェリーが手を伸ばし、綾乃の胸を揉み込む。
「あっ、なっ、やめてください!」
「罰だと言ったが? 嫌なら試合が終わるだけだ」
そこまで言われてしまい、綾乃も抵抗できなくなってしまう。
「そうそう、罰はおとなしく受け入れなきゃなぁ」
先程のセクハラボディチェックでも散々胸を揉んだというのに、レフェリーは尚も綾乃の胸を揉み回す。
「貴様!」
抵抗しなくなった綾乃に罰と称したセクハラを行っていたレフェリーだったが、暁子が叫んだ途端に振り向いて、何事もなかったかのように試合を再開させる。
(このレフェリー、またお嬢様に手を出したか・・・!)
神すら刺し殺せそうな視線をレフェリーにぶつけるが、レフェリーは気にした素振りすらせずに平然としている。鬼よりも恐ろしい形相をする暁子に、政哉がまたも話しかける。
「ねぇ暁子ちゃん、君は何をしているときが一番楽しい?」
「・・・は?」
突拍子もない質問が投げかけられ、面食らってしまう。相手が何を考えているのか分からず、政哉の目を睨むように見る。と、一瞬ではあったが、政哉の目が光ったように見えた。
「俺はね、やっぱり夜に女の子と同衾しているときかなぁ」
こいつもか、と思うと同時に、暁子は自分の体の異変に気付いた。
(・・・体が動かない!?)
首から上は動かせるが、腕も足も全く動かなかった。
「・・・何をした」
政哉を睨みつけるが、動けないとわかっている相手がいかに凄んでも効果はなかった。
「別に何も。ただもう俺の声しか聞こえないでしょ?」
言われてみれば、今まで騒がしかった観客の歓声が全く聞こえない。
「可愛いね、暁子は。でももう俺しか見えないでしょ?」
優位に立ったと確信したのか、政哉が地を出し始め、呼び方まで変わる。
「お前のような下衆ごときに呼び捨てなど・・・」
しかしこれもまた言う通り。もう政哉から目を逸らせなかった。
(な、何が、どうなって・・・)
あまりに現実離れしている状況に混乱する。その暁子に、さらに政哉が声をかける。
「じゃ、上着脱いで」
「誰が・・・!」
目で相手を射殺そうとするが、それはできなかった。それどころか、観客が身を乗り出してこちらを見ている。
「暁子は素直ないい子だね」
「わけのわからな・・・!?」
睨みつける暁子の耳に、パサッと何かを落したような音が聞こえた。見ると、自分の衣装の上着がリングに捨てられていた。
「え・・・?」
「ふふ、いい子いい子。上手にできましたね〜」
子供をあやすように暁子の頭を撫でる。不愉快極まりないが、体が動かないので振り払うことができなかった。
「でも、こんなに肌を出して恥ずかしくないのかい?」
露出した二の腕を触れられて鳥肌が立つ。
「うーん、触り心地抜群だね。俺の跡を残しておこうかな」
そういった途端、政哉は二の腕にキスをしてくる。背中を悪寒が駆け抜けていく。
政哉はさらに暁子の肌を舐め、唾液濡れにしてくる。どれだけ不快でも振り払うこともできず、ただ立ち尽くして耐えるしかなかった。観客から見れば、端に暁子が政哉の行為を受け入れているようにしか見えない為、指笛が飛び始めているようだった。
「あぎいっ!?」
突然暁子が悲鳴を上げた。肌を舐めまわしていた政哉が二の腕にかみついたからだった。
「柔らかいねぇ。おっぱいもこれくらい柔らかいのかな?」
政哉が暁子の胸に触ろうと手を伸ばすが、何を思ったのか途中で手を引く。これには観客もざわつきを見せる。
「ねぇ暁子、俺に胸を触られたくないでしょ?」
「当たり前だ! これ以上私に触ればその素っ首切り落としてやる!!!」
政哉の言を遮るように暁子が叫ぶ。しかし次の政哉の発言で、暁子は固まってしまった。
「じゃ、自分で揉んでみせてよ」
「・・・!!」
その言葉を聞いたとき、自分の腕が勝手に動き始める。胸の上に置かれた自分の手を必死で外そうとするが、自分の体なのにびくともしない。
「早く」
催促の言葉が暁子の耳に届くと、信じられないくらい力強く自分の胸を揉んでしまう。
「んっ・・・く・・・」
まさかこんなことになるとは。自分で自分の体を慰める。
(まずい、このままでは・・・闘えなく・・・!)
ただ胸を揉んでいる、否、揉まされているだけなのだが、揉むたびにほんの少しづつではあるが胸から広がる電流が強くなっていく。暁子はそれが何なのか、嫌というほど教え込まされた。
焦る暁子に、さらに政哉が追い打ちをかける。
「なんだったら、下の口も弄ったらどう? たまらなく気持ちいいよ?」
「な・・・!」
腕を止める間もなく、秘部に到達して弄り始める。
「・・・!!!」
雷に打たれたように激しい快感が暁子を攻め立てる。時間が過ぎるにつれて、自分を責める手の動きが激しくなる。
「あはは、下着が濡れ始めてるよ」
「だ、黙れ・・・くぅ!」
自分でもわかっている。下着が濡れそぼり、吸収しきれなくなったものが太ももを垂れていく。
(止まって・・・止まれ・・・っ!)
如何に願ってみても、命令してみても、自分の手の動きが止められない。しかしそれでも、喘ぎ声と絶頂だけは我慢していた。公衆の面前で喘いで絶頂など、恥辱そのものだ。
「・・・!・・・っ!!」
時折目の前で火花が散る。喉まで出かかっている嬌声を何とか飲み込んで耐える。
「へぇ、なかなか耐えるね。普通の女の子だとすぐイっちゃうんだけどな」
暁子の耐久力に素直に感心している様だったが、暁子からすれば何の慰めにもならず、ただ単に状況が悪くなっていくだけだ。
(ひぁ・・・辛い・・・気持ちいい!! でも・・・)
真里谷の嫡流の養子である自分が、人前で自慰をして絶頂を極められるか。どう考えても答えは否だった。しかし時間が経てば経つほど追い込まれ、目の前で政哉のニヤケ顔がさらに歪むだけだった。
「ねぇ暁子、向こうで相方さんが見てるよ?」
ふっと、言葉につられるように自分のコーナーの方を見てしまう。綾乃は赤面して俯き、こちらをチラチラ窺うだけだった。
(お嬢様・・・! 見ないで、見ないで・・・!!!)
綾乃に見られているかと思うと、羞恥が更に高まる。しかしそれに反比例するかのように、自分の手の動きが激しさを増す。
「っ・・・!」
かなり深く自分を追い込んでしまう。とうとう膝から力が抜けて崩れ落ち、前のめりに倒れ込む。
「っ・・・っ!!」
それでも手が止まらない。最初よりもさらに激しく、強く胸を揉み、下着の中に手を入れて直接弄り回してしまう。しかしそれでも声だけは出してやらない。せめてもの暁子の意地だった。
「・・・暁子、こっちを見て」
言葉につられて視線を政哉のもとへ送ると、突然目の前で猫騙しのように両手を打ち合わせた。すると、魔法が解けたように手が止まる。
「はぁ、はぁ・・・」
全身が小さく震えていた。蓄積された快感は体に鉄の鎧を何両も重ねているようだった。
「・・・子・・・!」
小さくではあるが、綾乃が心配そうにこちらを見、声をかけているのが聞こえた。
(私は・・・ここで霧生の家を・・・)
綾乃の姿が暁子に闘志を取り戻させるが、それでも体は言うことを聞かず動こうとしない。
「ふふ、まだまだ可愛がってあげるからね」
そういって政哉が暁子に手を伸ばし、首を持って立たせキスしようとした、その瞬間だった。暁子の体がビクリと大きく跳ねた。
「・・・え?」
突然暁子の口から血が少し流れ出たのだ。これには政哉も完全に固まってしまった。驚いたレフェリーが暁子に近づいていく。
「真里谷選手・・・?」
レフェリーが顔を覗き込んだ瞬間、暁子が動いた。近くにあった衣装の上着を掴むと、一気に自コーナーまで、綾乃のもとへ転がるように走っていく。
「お・・・嬢様・・・!」
「暁子!!!」
最後は綾乃が伸ばした手に向かって飛び込んでいく。
「お嬢様・・・申し訳ありません、私は・・・」
「わかってる、大丈夫だよ」
「目は・・・」
「わかった。ありがとうね」
綾乃はそれだけ言うと、あとは何も聞かず、言わずに敵に向かっていった。
(お嬢様、私は・・・私は・・・)
リングの外に転がり出て、不甲斐ない戦いぶりを思い出してしまう。
悔しさが沸き立つが、それよりも激しい消耗からか暁子にしては珍しく敵地で眠りに落ちてしまった。
綾乃が入ると、観客がまた沸き立つ。今まで全戦で嬲られ尽くしている綾乃に違う意味で期待する者は多かった。
この地鳴りのような声援に、氏継が眉を顰めた。
「ちっ、うるせえな。それより政哉、次はちゃんと決めろよ?」
「はい、次こそは」
主に向かい返事を返して振り返ったとき、政哉の腹にトラースキックが直撃した。
「ぐぶっ!?」
派手に吹っ飛び、ロープにもたれ掛る。
「暁子をいたぶった罪は重いですよ! 覚悟してください!」
ロープに引っかかっている政哉を指さし、宣言する。
「なんだと・・・!」
それでも政哉は諦めず、綾乃の目を見ようとするが、綾乃は目を伏せて絶対に視線を合わせないように努める。
「くそっ、それなら」
目を伏せる綾乃に掴みかかる。しかし武術に関しては素人に毛が生えた程度の政哉の手は綾乃にかからない。
「ちっ・・・」
政哉は苛立ちを隠せなかった。
一方で、綾乃も焦っていた。嬲られ尽くした体に活を入れてもらって無理矢理動かしてはいるが、もう一手先に進めない。躱すだけしかできなかった。
(体が重い・・・)
それでも柔道の経験をフルに使って相手の手を躱していく。足さばきがなっていない攻撃ならばそれで十分だった。その時、政哉が疲れからか少しだけ足を滑らせた。
「!?」
「はああっ!!」
一瞬だけといえど、足元を確認するのは動物であれば仕方のないもの。綾乃はその隙を見逃さなかった。
(ここだ、ここで終わらせなきゃ!)
不用意に立ち上がろうとした政哉の首を抱えて自分の背中を押し当ててから前に飛び、自分は背中からリングへ、相手の首を自分の肩にぶつけるように倒れ込んでいく。
「ぐぶ・・・!」
綾乃はそのまま、潰れた蛙のような声を出して意識を失った政哉を押さえ込む。
「ワーン・・・ツー・・・」
レフェリーのスローカウントにも回復間に合わず、また綾乃が氏継を睨みつけてカットを抑止する。
「ひあ・・・っ!」
何か声が聞こえた気がしたが、綾乃はあえて無視を決め込み政哉を押さえ続ける。
「・・・スリー!」
「スリーカウントにより堀越政哉選手は失格となります」
綾乃はそのまま足で政哉をリングから蹴落とし、リングに入ってきた大男と対峙した。