【A&A 其の七−3】 投稿者:小師様 推敲手伝い:事務員
「・・・ん」
暁子が目を覚ますと、すでに外からは光が差し込んでいた。
(もう朝、・・・!)
「お嬢様、起きてください」
「ん・・・」
少し乱暴に綾乃を揺さぶり起こす。
「おは・・・」
「挨拶は後です。外には・・・」
小声ではあるが慌てて起こそうとする暁子は、尚も綾乃を揺さぶり続ける。
「暁子、もう、起きてるから・・・」
「あっ、・・・申し訳」
「あら、もうお目覚め? 皮肉も言えないわね」
直後ノックも遠慮もなくドアを開けて入ってきたのは、黒髪をショートカットにした鬼島洋子だった。
「・・・何の用でしょうか」
暁子の警戒心がこもった声に、洋子は肩を竦める。
「ご挨拶ね。『御前』からの伝言があるというのに。聞きたくないのならいいわ」
そのまま踵を返して部屋を出ていこうとする。
「待ってください」
暁子が洋子を引き留める。
「ちょっと暁子、別にそんなの・・・」
「いえ、ここは聴かなくては駄目です」
暁子の強い口調に、綾乃も口を閉じる。
「それで? 他に言うことは?」
「・・・『御前』からの伝言、お聞かせください」
暁子が両手を揃え、深々と頭を下げる。綾乃も形だけではあるが頭を下げる。
「少しはわかっているようね。頭を上げなさい、『御前』からの伝言を伝えるわ」
洋子は懐から紙片を出すと、聞きやすい速度で読み上げていく。その内容は、「御前」の居ない間にこなすべきノルマだった。二人ともその内容に絶句する。ただ玩具にされるよりもよほどの苦行と思しき量だった。
「精々頑張りなさい。『御前』を落胆させるようなことがあれば、色々と大変になるかもしれないわよ。貴女たちも、父親も」
冷たく告げ、洋子は踵を返して部屋を出て行った。サイドテーブルに「御前」の伝言が書かれた紙を置いて。綾乃と暁子は改めてその内容を確認する。
(私のと少し違うんだね・・・できるかなぁ)
二人の内容を見比べて、綾乃はそんな感想を抱いていた。そんな綾乃に暁子が声を掛けた。
「・・・お嬢様」
「なに?」
「これは絶対こなすべきです。こなせないようならば僭越ながら私がお手伝いさせていただきます」
「・・・へ?」
「さぁ、行きますよ!」
綾乃には自分の父親の事しか見えていなかった。だから暁子がなぜここまで勢い込んでいるのかまでは読み取れなかった。
しかし暁子にはその先まで見えていた。
(やはりこの方は怖い。私とお嬢様に必要なものが、求めるものがわかっている)
この内容を見てすぐに気付かされた。どれだけ長い事調べられていたのかは知らないが、お嬢様の夢も、暁子自身が背負っている才や知識も全て見透かされている。
(真里谷の武術が、必要だとは思えないけど・・・)
少しの疑問を持ちつつも、二人は暁子は綾乃と共に鍛錬に向かっていった。