【A&A 其の七−4】   投稿者:小師様  推敲手伝い:事務員

 それから数日過ぎた頃、不意に「御前」が二人の部屋に現れた。先に鬼島洋子が部屋に入り、ドアを開けたままにしている。

 「予告通りに試合だ。今夜は真里谷、お前に頑張ってもらおうかの」
 「・・・はい」

 洋子が再びドアを開けて準備を促す。暁子も促されるままに外に出ていき、続いて洋子が外に出てドアを閉めた。

 (試合・・・)

 また、あのような厭らしい試合をさせられるのだろうか。思わず閉められたままのドアを見つめてしまう。

 「・・・さて」
 「っ!」

 突然後ろから肩に手を置かれ、驚いてしまう。

 「まだ名乗っておらなんだな。儂の事は・・・そうだな、やはり『御前』と呼べ」
 「やはり?」
 「真里谷にもその様に言ったからの。違っては可笑しいであろうが?」

 莞爾として微笑んでいる。馬鹿にしているという風でもなく、単純に楽しそうだった。

 「・・・霧生は娘に礼儀を教えておらんのか」

 突然の重い声にまたビックリする。楽しそうな声の次は明らかに不機嫌であることを伝える為の声だ。

 「し、失礼しました。きひゅ・・・霧生綾乃と申します」

 慌てて頭を下げたが、自分の名前を噛んだことで、顔が真っ赤になる。

 「慌てなくともよい。どれ、もっと近う寄れ」

 呵呵大笑。先程の不機嫌さなどどこへやら。

 「前よりも少し締まったようだの」

 頭の上から爪先までまじまじと見られて評価されたことに、冷や汗をかく。あの時暁子の申し出を断っていたらどうなっていたか。

 「さ、汗を流してこい。ナスターシャ」

 「御前」に呼ばれ、銀髪の黒服、ナスターシャが入ってくる。

 「ナスターシャ、霧生綾乃を風呂場へ案内せよ」
 「承りました」

 いつも思うのだが、この人は本当に銀髪の外国人なのだろうか。実はカツラに特殊メイクで皆を・・・

 「では綾乃さん、ご案内いたします」
 「はっ!? はひっ!!」

 変な妄想を見破られたのか、眉間に少し皺が寄っている。その緊張感で、つい白衣の胸元を掴んでしまう。

 「どうしましたか? 行きますよ?」

 ドアを開けて退出を促される。綾乃は少しギクシャクした動きで部屋を後にした。


 「ふふっ・・・」

 突然先導するナスターシャが笑い出す。「御前」の前とはまるで態度が違う。

 「なんだ、あの動きは。フラワーロックのようだったぞ?」

 ムッとするが、自覚があることなので無駄なことは言わないようにする。

 「私はれっきとした外国人だ。カツラでもないからな」

 高らかに笑いながら歩いていく。

 「ここだ。きっちり体を洗えよ? これから貴様は伽をするのだからな」

 そこまで言うと、ナスターシャは私を中にはいるよう促す。私が部屋にはいると、彼女はそのままドアを閉めた。そのあと、ドアの外から

 「中のものは自由に使え。着替えはそこにあるバスローブだ」

 という指示が聞こえた。



 体を洗い終わり、いつの間にか用意してあった自分用の下着とバスローブを着て外に出ると、ずっと待っていたのかナスターシャがいた。

 「終わったか」
 「はい」

 それだけ言うと、また先程のように前を歩き始めた。部屋に着くまではナスターシャは何も話さなかった。


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