【第二十七話 八岳琉璃:総合格闘技】

 犠牲者の名は「八岳琉璃」。17歳。身長162cm、B89(Fカップ)・W59・H84。世に名高い八岳グループ総帥を祖父に持つ生粋のお嬢様。生まれつき色素が薄い髪を長く伸ばし、女神が嫉妬しそうな美貌を誇る。白く滑らかな肌は名工の手になる陶磁器を思わせる。美しい大輪の薔薇を思わせる外見と高い気位を持ち、それに見合うだけの才能を持つ。勉学、運動、話術、スポーツ、芸事、礼儀作法など各分野に置いて一流の実力を身に付け、「この子が男だったなら」と祖父を嘆かせた。
 祖父の期待を一身に背負った琉璃だったが、祖父と「御前」の賭けが彼女を<地下闘艶場>へと導いた。


「まったく、お爺様ったらこんな怪しい場所で闘えだなんて」
 琉璃は祖父に命じられ、<地下闘艶場>の控え室にいた。しかも用意された衣装はチアリーディング用のもので、上半身は豊かなバストを誇示するような丈の短いワイシャツタイプ、下半身はミニのプリーツスカートだった。アンダースコートなどはなく、最高級の下着が簡単に見えてしまいそうだ。
「お爺様の命じゃなければ、とっとと帰っているところですわ」
 自分の姿を鏡に映し、卑猥さを感じさせる衣装でも自分の輝きが失われていないことに満足し、琉璃は入場の合図を待った。

「ふぅん、どこかで見たことのある顔がちらほらありますわね」
 入場した琉璃を待っていたのは、欲望に満ちた男達の視線だった。中にはかなりの地位にある者や権力を持つ者の顔も見える。しかし、自分の美しさに男共が浴びせてくる視線には慣れている。男が美しい女に惹かれるのは当然だし、俗人は才ある者を嫉妬するものだ。
「見ていなさい、すぐに私の実力で賛美の視線に変えてあげますわ」
 そんな自信家の琉璃もリングへの階段を上がり、エプロンサイドからロープをくぐる際にはスカートを押さえ、下着が見えないようにする。
 リング上で待っていた対戦相手は、覆面を着けた男だった。その隣にも同じ体格で、同じ覆面、同じ色のタイツ、同じ色のリングシューズを身に着けた男が並び、どちらが対戦相手なのかパッと見ではわからない。

「赤コーナー、マンハッタンブラザーズ1号!」
 おそらく1号だと思われる男が右手を上げる。
「青コーナー、『クイーン・ラピスラズリ』、八岳琉璃!」
 自分の名前がコールされると、オープンフィンガーグローブを着けた両手を広げ、スポットライトを全身に浴びる。まるでその姿は、臣民の前に謁見する女帝のようだった。

 マンハッタンブラザーズ1号のボディチェックを終えたレフェリーが、琉璃へと近寄る。
「八岳選手、ボディチェックだ」
「あら、私に触っていいのは未来の旦那様だけですのよ。軽々しく近寄らないでくださる?」
 琉璃の言い草に、レフェリーが怒気を浮かべる。
「ボディチェックを受けて貰わないと、ペナルティを科すことになるぞ!」
「どうぞご自由に?」
 それでも涼しげな表情を変えない琉璃に、レフェリーも引っ込みがつかなくなる。
「それなら、マンハッタンブラザーズの1号と2号、二人を同時に相手にして貰う! いいな!」
「構いませんわ。では、始めましょうか」
 琉璃は自信たっぷりに言い放ち、腕を組む。そのため腕に押し上げられる形でバストが盛り上がり、レフェリーは目を奪われ、生唾を飲み込む。
「こ、後悔するなよ」
 鼻の下を伸ばしての脅迫などまるで迫力がなく、琉璃は鼻で笑う。
「くそっ、ゴング!」

<カーン!>

「さぁ、楽しませてもらいますわ」
 琉璃は軽いステップを踏みながらマンハッタンブラザーズの出方を窺う。琉璃が動く度に豊かなバストが揺れ、プリーツスカートからはチラリと下着が覗き、観客の興奮を煽る。
 マンハッタンブラザーズの二人は、合図もなしに琉璃を挟むような位置取りへと連動して動く。
(なるほど、双子ならではのコンビネーション、といったところかしら。でも・・・)
 レフェリーの目には、琉璃の左手がぼやけたように見えたその瞬間、1号の顔が大きく仰け反り、一拍遅れて2号はリングに倒れこむ。
 琉璃は顔面を押さえてロープにもたれる1号の頭を抱えて膝蹴りを入れ、前屈みになったところに顎へアッパーを入れてダウンを奪う。そのまま1号を踏みつけ、琉璃は手招きでレフェリーにカウントを要請する。
「嘘だろ、そんな一瞬で・・・」
「レフェリー、カウントを取ってくださる?」
 再度の琉璃の要請に、レフェリーは腹這いになってカウントを取る。
「・・・ワン、・・・ツー、・・・」
ゆっくりとしたスローカウントも、1号の回復には間に合わなかった。
「・・・スリーッ!」
 レフェリーがスリーカウントを取ると、琉璃は今だリングに倒れている2号に歩み寄り、右足を持つとスタンディングアンクルホールドに極める。
「ぎぃあああっ!」
 耐える間もなく、2号は絶叫しながらリングを叩き、ギブアップの意思表示をする。これにはレフェリーも慌ててゴングを要請し、試合終了のゴングが鳴らされる。

<カンカンカン!>

「あら、見た目と違って堪え性がないのね。がっかりですわ」
 一瞬でマンハッタンブラザーズ二人を沈めた琉璃の実力に、さすがの観客たちも声がない。
「まったく、もう少し楽しませてくれると思ったのに・・・」
「なら、もう一試合してみるか?」
 欲求不満を洩らす琉璃に、レフェリーが提案する。
「また今の二人みたいな弱い人ではないでしょうね。私、弱い人を苛める趣味はありませんのよ?」
 腕を組んで見つめてくる琉璃に、レフェリーはにやりと笑う。
「今度の相手は今の二人を合わせたより、いや、三人合わせたよりも強いぞ。どうする? このまま帰ってもつまらないだろ?」
「そういうことなら、受けましょう。でも、あまり待たせないでくださいね」
 琉璃はコーナーに寄り掛かり、次の相手を待った。

「それでは、ジョーカー選手の入場です!」
 この発表に、観客から歓声が沸く。ジョーカーならばこの女を嬲ってくれるのではないか、という期待がそうさせた。花道を歩くジョーカーに、口々に声援が飛ぶ。

(こんなふざけた格好をした人が、本当に強いのかしら?)
 リングに上がったジョーカーは顔を真っ白に塗り、目と口には黒いペイントを、鼻には黒い付け鼻をしている。服はだぼっとした黒いナイロン地のもので、頭には黒いシルクハットを被り、手には白手袋をはめている。
(どう見てもピエロ、ですわね)
 サーカスでおどけてみせる道化師に似たその格好に、琉璃は形のいい眉をしかめる。ジョーカーは琉璃が自分を見ているのに気づくと、シルクハットを軽く上げて挨拶してくる。
「お嬢さん、すぐに始めても構わんよな」
「ええ、お願いしますわ」
 琉璃が頷くと、レフェリーの合図ですぐにゴングが鳴らされる。

<カーン!>

 ゴングがなってもジョーカーは構えもせず、ゆらゆらと体を揺らしている。
(ふざけている・・・わけではなさそうですわね)
 隙だらけに見えるが、その動きにはリズムがある。ならばと琉璃は牽制の左ジャブを放つが、これがジョーカーの鼻に当たってしまう。
「え?」
 予想外のヒットに驚き、追撃を忘れてしまう。ジョーカーはリングを転がり、リング下へと逃げ込む。琉璃から姿が見えなくなったと思った瞬間、ジョーカーは目だけを覗かせて琉璃の様子を窺う。琉璃が自分を見ているとわかったのか、鼻を押さえてゆっくりと身を沈める。
(あのジャブは効いていない筈。人を食った態度と動きで相手を油断させるタイプのファイター、かしら?)
 琉璃は並の人間ではない。相手を少し観察するだけで、どのような人間かを判別できた。
「さ、早くおいでなさいな。いつまでもリング下に隠れているわけにもいかないでしょう?」
 琉璃が手招きすると、ジョーカーは頭を掻きながらリングに戻り、そのままペコリと頭を下げてくる。
「そうやって油断を誘っても無駄ですわよ。私ほどになると、ひっかかりはしませんから」
 琉璃は微笑み、改めて構えを取る。ジョーカーはだらりと両手を下げ、琉璃に対する。ジョーカーは上半身をゆらゆらと揺らしながら琉璃との間合いを詰め、手刀の形にした右手を一閃する。
「!」
 ジョーカーが右手を横に振ると琉璃のシャツに切れ目が走り、純白の下着が覗く。
「貴方、その手袋になにか仕込んでますわね! レフェリー、この人の手袋を調べなさい!」
 飛び退いて距離を取った琉璃の指摘を、レフェリーは鼻で笑う。
「おいおい、ボディチェックを受けさせなかったのはお嬢さんじゃないか。ジョーカーだけボディチェックをするのは不公平ってもんだ。それとも、今からでもボディチェックを受けるかい?」
「嫌だと言ったでしょう。もういいですわ。ハンディとしては丁度いいでしょうから」
 レフェリーがジョーカーの反則行為を見逃すつもりであることがわかった以上、琉璃にこだわる気はなかった。先程自分でも言った通り、これくらいのハンディがあって丁度いい。琉璃は力のこもった視線でジョーカーを見据えた。

 ジョーカーの手刀が振られる度に琉璃の衣装に切れ目が入っていく。切れ目からは下着と琉璃の滑らかな素肌が覗き、男達の欲情を誘う。ジョーカーの手刀は琉璃の服だけを切り裂き、肌には少しの傷もつけていない。
(なんて腕前・・・でも、もう慣れましたわ!)
 またもジョーカーの手が振られようとしたその瞬間、琉璃の右手がぶれる。ジョーカーの手が跳ね上げられ、慌てて振られた反対の手も同様に跳ね上げられる。
「はっ!」
 気合と共に放たれたミドルキックに、ジョーカーの体がくの字に折れる。しかしジョーカーも苦痛を堪えながら琉璃の右脚を抱え込み、そのままドラゴンスクリューに繋げようとするが、琉璃の体がふわりと舞い、ジョーカーの顎を蹴り上げる。その蹴りが当たった瞬間、ジョーカーは琉璃の右脚を放すと同時に後方へバク転し、ダメージを最小限に留める。
「ふふっ・・・中々の身のこなしですわね。それぐらいしていただかないと、こちらも楽しめませんわ」
 自分の蹴りをかわされたというのに、琉璃の表情は喜びのそれだった。強い者と闘うことは、琉璃の奥底に潜む獣を満足させてくれる。琉璃はその口元に自然と艶やかな笑みを浮かべていた。
 対するジョーカーは表情を変えず、すり足でじりじりと間合いを詰めてくる。
 間合いに入った瞬間、ジョーカーは大きく左手を振りかぶり、水平に放つ。と見えた瞬間、上から狭い軌道を描いた右手刀が打ち下ろされる。
 観客からはジョーカーの手刀が琉璃に食い込んだように見えたが、琉璃はジョーカーの手刀を左右から掌で挟み、手首の捻りと腰の落としでリングに投げつける。投げが決まった瞬間右手を関節技に捕らえ、首と右肩を両脚で挟み、捕らえた両腕を一気に絞り上げる。
 ジョーカーも暫く耐えていたが、完璧に決まった技を返すことができず、空いた左手でタップする。

<カンカンカン!>

 琉璃が関節技を解いても、すぐにはジョーカーも立てなかった。右手を押さえたまま膝立ちで琉璃を眺めていたが、ゆっくりと立ち上がると優雅に一礼して見せる。琉璃がそれに応えると、シルクハットを被ってリングから降り、花道に消える。
「ぬぐぅ・・・!」
「私の勝ち、ですわね」
 顔を強張らせるレフェリーに、胸元を隠したまま琉璃が微笑む。
「ま、まだだ! まだ、最強の男がいる!」
 最早レフェリーに余裕はなかった。口元から泡を飛ばすようにして切り札を出す。
「最強の男、ね・・・」
 その男を倒せば、さすがにこの男も気づくだろう。誰がこのリングで一番強いのかを。
「ふふっ、宜しいですわ。その最強の男とやらと闘いましょう」

 暫くして、花道に小柄な姿が現れる。徐々に近づいてくる男の姿に、琉璃が驚きの表情を浮かべる。
(あれは・・・まさか!)
 リングに上がったその男は・・・
「元橋の小父様!」
 三人目の対戦相手は、琉璃の既知の人物だった。
「お久しぶりですな、八岳のお嬢。お爺様は元気ですかな?」
 にこにこと微笑むその姿は、昔と何ら変わりが無い。

 元橋は琉璃の祖父に乞われて、琉璃の幼い頃の一時期、彼女に武術を教えていた。一年程でその座を降りたものの、琉璃にはその記憶が鮮明に残っている。
「まさかこのような場所でお会いできるとは、思いもよりませんでしたわ」
「私もですよ、お嬢。しかし、綺麗になりましたなぁ」
 元橋の言葉に、琉璃は微笑を返す。
「でも、リングに上がったということは、私の次の対戦相手が小父様ということで間違いないですわね?」
 琉璃の確認に、元橋はにこりと笑って頷いてみせる。
「一度手合わせ頂きたいと思っておりましたの。この機会、生かせていただきますわ」
 唯一、琉璃が越えることができなかった師匠。今も研鑽を続けることで身に付けた実力を、元橋の体に刻むことで示して見せる。琉璃から立ち昇る気迫と元橋の静かな闘志がぶつかり、リングの上で渦を巻いた。

<カーン!>

 今日三度目の開始のゴングが鳴らされ、琉璃と元橋の闘いの始まりを告げる。立ち上がりは静かなものだった。両者とも軽く構えたままお互いの動きを見つめる。
 先に動いたのは琉璃だった。牽制のローキックから右ストレートを放つ。レフェリーの目にはまったく見えなかったそのストレートを、元橋は左手で柔らかく逸らすことで直撃を避け、そのまま右手を手繰り込んで飛びつき三角締めを狙う。琉璃は引き込まれそうになった瞬間に右手を抜き、逆に上から寝技へと入る。
 袈裟固めでの押さえ込みを狙った琉璃のバストを、元橋の手が掴んだ。
「!」
「お嬢、中々に育ちましたな」
 今迄冷静に立ち回っていた琉璃が、バストを掴まれたことで頬を赤らめ、無防備に立ち上がろうとする失策を犯す。
「おっと、隙だらけですぞ」
 それを見逃す元橋ではなく、琉璃の脛を蹴って膝をつかせ、素早く背中に回り込む。
(なんてこと、小父様相手だというのに情けない!)
 肘を後ろに振るが元橋には当たらず、首に腕を巻きつけられ、右のバストを優しく触られる。
「うっ、くっ!」
 琉璃の決断は速かった。自分のバストを触る元橋の指を掴み、即座に折りに行く。しかし元橋も指を狙われたのがわかった瞬間にはバストから手を放し、指折りから逃れる。琉璃は首に巻きついた腕の肘の急所を打ち、力が緩んだ瞬間に逃れる。
「お嬢、指を折ることに躊躇なしとは・・・年寄りは優しく労わってくれませんかな」
「小父様、私、怒ってますのよ」
 軽口を叩く元橋を、琉璃が睨みつける。自分のバストを触ったことに羞恥と怒りを感じ、構えにも力がこもる。
「はっ!」
 気合と共に拳を振る琉璃だったが、力みから固くなったことで動きにも無駄ができ、その隙を元橋に突かれる。しかし元橋は琉璃を倒そうとするのではなく、スカートを捲る。
「あっ!」
 思わず普通の女の子のようにスカートを押さえていた。スカートに気が行ったことで今度はバストを触られる。それを何度か繰り返され、自分が遊ばれていることに気づく。気づいたことで、琉璃のプライドが頭をもたげる。このことでやっと冷静になり、頭脳が回転し始める。
「こうなったら」
 琉璃はあちこち破れた衣装を自ら脱ぎ捨てる。そのため純白の高級下着が観客の目に晒され、琉璃の美しいボディラインも露わになる。
「お嬢、はしたないですぞ。お爺様が知ったらなんと言うか」
 元橋はやれやれと頭を振って見せる。
「小父様・・・説得力がありませんわよ」
 やんわりと嗜める琉璃に、元橋も笑顔で返す。
「確かに。では、もう少しはしたない姿になって頂きましょうかな」
 ゆるりと前に出た元橋に、琉璃の前蹴りが迫る。ぎりぎりでかわし距離を詰めようとした元橋だったが、琉璃の高速の左ジャブに距離を詰められない。
「ふむぅ・・・これは参りましたな」
 頭を掻く元橋だったが、笑みを浮かべた表情は困ったようには見えない。琉璃は黙って間合いを詰め、鋭いハイキックを放つ。
「お嬢、無造作すぎますぞ!」
 琉璃のハイキックを充分な余裕を持って避け、タックルに行く元橋。しかし、後一歩と言うところでバランスを崩してしまう。
「ぬっ!?」
 琉璃の脱いだ衣装だった。リングに脱ぎ捨てられた布が元橋のバランスを崩した。絶妙な位置取りとハイキックで元橋のタックルを誘い、仕掛けた罠へと追い込む。琉璃の作戦に、本橋程の達人が掛かってしまった。
 瞬時に体勢を整えた元橋だったが、琉璃の左右のフックでこめかみと顎を打ち抜かれる。危険な倒れ方をした元橋を、琉璃が関節を極めながら押さえ込む。
「レフェリー、カウント!」
「嘘だろ、元橋の爺さんがそんな・・・」
 呆然としていたレフェリーだったが、琉璃から何度も促され、カウントを取り始める。
「ワン・・・ツー・・・」
 レフェリーは横目で元橋を見るが、動く気配がない。
「くっ・・・スリーッ!」

<カンカンカン!>

「ふぅ・・・」
 最後はぎりぎりの勝利だった。琉璃は関節技を解き、元橋にもたれたまま吐息を洩らす。そのとき、琉璃のお尻を撫でるものがあった。
「きゃん!」
「負けましたよお嬢。しかしこのままの体勢は苦しいですし、胸の感触が気持ちよくて我慢できなくなりそうでして。どいて頂けるとありがたい」
 元橋が悪戯っぽい笑みを浮かべ、琉璃を見つめている。その表情に、フックのダメージは見受けられない。
「小父様・・・まさかわざと負けたと?」
 レフェリーに聞こえないように小声で話す琉璃に、元橋は肩を竦める。
「まさか。お嬢の実力は本物でしたよ」
 そう言ってまたも琉璃のお尻を撫でる。
「きゃん! 小父様、二度も触りましたわね!」
 再び関節技に捕らえようとする琉璃からするりと抜け出し、元橋はにこにこと微笑む。
「では、お爺様にもよろしくお伝えください」
 軽く会釈すると、呆気に取られたレフェリーを尻目に、さっさとリングを降りる。その歩みに乱れたところは少しもなかった。
「ふぅ・・・敵いませんわね」
 琉璃は微苦笑を浮かべ、髪をかきあげる。自分が下着姿だったということを思い出すのは、立ち上がり、観客からの視線に気づいてからだった。


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