【第二十九話 芦鷹アウラ:自衛隊式格闘術】

 犠牲者の名は「芦鷹アウラ」。19歳。身長164cm、B86(Dカップ)・W60・H90。陸上自衛隊第三師団に所属する二等曹長。祖父がスウェーデン人のクォーター。黒髪をベリーショートにしているが、逆にその生命力溢れるような容貌を際立たせている。
 一ヶ月前、訓練の一環だと言ってセクハラをしてきた上官を告発し、退官に追い込んだ。その上官の父親が「御前」と繋がりを持っており、元上官の復讐心はアウラを<地下闘艶場>に沈めた。羞恥に歪むアウラの顔を見たいがために。


「特殊任務だと言われたものの・・・」
 アウラは<地下闘艶場>の控え室に通され、一人ごちた。指示する場所に行き、観客の前で自衛官の格闘能力を見せつけてくることがアウラに与えられた任務だった。上官の命を拒むわけにはいかないが、格闘訓練を受けたといっても衛生科部隊に所属する自分にこのような任務が下されようとは。
 まさか自分がセクハラを告発した元上官が手を回し、現上官を通して<地下闘艶場>へと赴かせたとは思考の埒外だった。
(自衛官の格闘能力を見せるというのなら、私程度ではなく、影の精鋭部隊にでも命じればいいのに)
 自衛隊の精鋭部隊と言えばレンジャー部隊だが、更にそこから選抜され、存在すら抹消された影の部隊が存在するとの噂をアウラも聞いたことがあった。
「この中の衣装に着替えろと言われたけど・・・なに、これは」
 袋の中に入っていた衣装は、迷彩柄のビキニとTシャツだった。こんな格好で格闘をしろなどとはふざけている! しかし、上官は<地下闘艶場>の指示には逆らわず、全て言う通りにしろと命じている。
「これも任務、任務の内よアウラ・・・」
 アウラは自分自身に言い聞かせ、ビキニとTシャツを身に着けた。Tシャツの襟元からビキニの紐が覗くのがどこか恥ずかしい。日々の訓練で鍛え上げ、絞り込まれた肢体だが、バストだけは小さくならなかった。Tシャツを中から押し上げ、その存在を誇示している。軽いウォーミングアップを行うが、バストが揺れて落ち着かない。
「せめてワイヤー入りのブラだったらよかったのに」
 不満を洩らしても仕方がない。アウラは入場までウォーミングアップをし続けた。

 入場したアウラを待っていたのは、歓声と視線だった。歓声は男の願望を、視線は男の欲望を纏っていた。特に視線が粘っこく、アウラの顔、バスト、ヒップ、太ももなどに集中している。この異常な空気に、アウラは危険を感じていた。

 リングの上で待っていたのは、レフェリーと男性選手だった。予想はしていたため驚きはしなかったが、危機感がさらに高まっていく。
 対戦相手は脂肪の塊のような男だった。身長はアウラより頭一つ程高く、顔、首、胴体、脚などあちこちが弛んでおり、対戦前だというのにもう汗をかいている。
「赤コーナー、グレッグ"ジャンク"カッパー!」
 コールに答え、グレッグはだるそうに片手を上げる。
「青コーナー、『キューティーソルジャー』、芦鷹アウラ!」
 アウラは自分のコールにも応えず、じっとグレッグを観察する。敵情分析は戦いの基本だ。
(・・・見た目はただのデブ。でも、この脂肪では生半な打撃技は弾き返される筈。油断はできないわ)
 それでも、打つべき手は幾らでもある。アウラの表情は、闘いを控えた闘士のものだった。

 露骨に嫌そうな顔をしてグレッグのボディチェックを終えたレフェリーが、アウラの前に立つ。
「さて、芦鷹選手にもおとなしくボディチェックを受けてもらおう。しかし触られるのも抵抗があるだろう? 脱いで見せてくれるか、俺に触られるか、どちらかを選んでくれ」
 じろじろとアウラを見ながらの発言に、アウラは表情を硬くする。
「脱いで、と言うのは衣装全部ということですか?」
「当然じゃないか。どこに凶器を隠しているかわからないからな」
 まさか大勢の観客が見守る中で裸になる度胸はない。
「触って確かめてください」
「そうか。ならボディチェックが終わるまでじっとしていろよ」
 まずレフェリーは太ももを撫でるように触ってくる。
「ふーん、筋肉の上にうっすらと脂肪が乗って、思ったより触り心地がいいな」
 そのままヒップへと移り、擦る。
「大きいのに引き締まって・・・こういうのもありだな」
 次に脇腹、お腹、肩を押さえていく。
「さて、次はこの出っ張りを調べるか」
 そう言うなり、レフェリーはアウラのバストを掴む。アウラは眉を顰めただけで、逃げ出そうとはしない。
「なんだ、自衛隊だっていうから胸まで筋肉かと思ったら、ちゃんと柔らかいじゃないか」
 レフェリーは表情を緩めながらアウラのバストを揉む。
「反応がないな。不感症か?」
「別に。早く終わらせてください」
 アウラのそっけない態度にカチンときたのか、レフェリーは両手を下に持っていき、左手でヒップを、右手で秘部を触る。
「あ、そこは」
「なんだ? ここがどうかしたのか? それともここか?」
 レフェリーはにやつきながらアウラのヒップと秘部を触り続ける。アウラの表情が変わったことが嬉しいらしい。
「そこまで触る必要はないんじゃないですか?」
「おいおい、女のここは立派な凶器の隠し場所じゃないか。プロレスで凶器を使うのは反則だからな、事前に持込がないように調べるのもレフェリーの役目なんだよ」
 白々しく言うレフェリーに反射的に手が出そうになったアウラだったが、上官からの命令を思い出し、なんとか思い留まる。
 結局レフェリーが満足するまでボディチェックという名のセクハラは続き、試合開始のゴングが鳴らされた。

<カーン!>

 ゴングと同時に、アウラの頭からは先程のボディチェックのことは消えていた。
「はっ!」
 まずは直突きでグレッグの顔面を打つ。
「んん? なにかしたかぁ?」
 牽制とはいえ、この一撃にも鼻を掻いただけでグレッグが前に出てくる。
(駄目、緊張で固くなっているわ。それにあれだけ太い首、顔面への攻撃は効きにくい。なら)
 アウラは冷静にグレッグの動きを見、脂肪の付きが薄い膝へ蹴りを入れていく。
「ぐへっ、ぐべへっ」
 グレッグは奇妙な声を上げて痛がる。余程痛いのか、流れる汗が尋常ではない。とうとうグレッグはアウラに背を向けて距離を取る。
(逃がさない!)
 無防備な後頭部を攻撃しようと距離を詰めたアウラだったが、グレッグの汗に足を滑らせ、リングに背中から倒れこんでしまう。
「あうっ!」
 受身は取ったものの、大量の汗で滑って中々立ち上がれない。
「うぇへへぇ、お返しだぁ」
 焦るアウラに、グレッグがボディプレスをかける。
「がはぁっ!」
 グレッグの巨体に潰された衝撃に、アウラの意識が飛びそうになる。
「これだけじゃ終わらねぇぞぉ」
 グレッグはアウラに馬乗りになり、バストを繁々と眺める。グレッグの汗で体に張りついたTシャツは水着まで透けて見え、直に見えるより厭らしい。グレッグは両手をバストに伸ばし、軽くつついた後で掴む。
「んんっ・・・や、やめて・・・」
 先程のボディプレスはかなりの威力で、鍛えたアウラでももがくことしかできない。
「うぇへへ、柔らけぇ。でも掴むと指を跳ね返そうとしてくるぞぉ」
 グレッグは感触を味わうように、アウラのバストを捏ね回す。汗まみれの男の手は、Tシャツ越しでも気持ち悪い。
「くっ!」
 左手でグレッグの左手首を押さえ、右手でグレッグの左肘を打つ。
「あいでぇ!」
 怯んだグレッグの左手首を捻じることで体勢を崩させ、その隙に脱出する。リングを転がり、ロープを掴んで立ち上がる。
(足場の悪いところでの訓練も経験したけれど、ここまですべるなんて・・・)
 グレッグの汗の量が多すぎ、ちょっとしたことでバランスを崩してしまう。踏ん張ろうとすればするほど、足が滑ってしまう。ロープを掴んだままのアウラに、グレッグが近づく。
「うぇへへぇ、来ないのならこっちから行くぞぉ」
 リングに流れた汗にバランスを崩すでもなく、平然と歩いてくるグレッグに、アウラはロープに体を預けるようにして顔面へと蹴りを放つ。
「ぐべへっ!」
 グレッグは奇妙な声を上げ、鼻を押さえて下がる。その後もグレッグが近づこうとするたび、アウラは蹴りで牽制する。
「芦鷹選手、自衛隊員がロープを掴んだままってのはだらしないだろう。リング中央で闘え」
 膠着状態に業を煮やしたのか、レフェリーがアウラに指示を出す。アウラは渋々ロープから手を放し、エプロンサイドから離れる。バランスを崩すまいとすると恐る恐るとしか歩けず、グレッグに抱き締められてしまう。
「くっ、放しなさい!」
「うぇへへ、嫌なこったぁ」
 グレッグはそのままコーナーまで押し込み、アウラに身体を密着させる。
「くぅっ・・・」
 グレッグの肌が直接触れることで汗のぬめる感触がきつく、押し返そうとしても汗で滑ってまるで離れない。
「うぇへへぇ、いい感触だぁ」
 グレッグはアウラに密着すると、身体を上下に揺すり、アウラの感触を全身で味わう。
「くっ、このっ!」
 アウラはグレッグとの間に右腕を差し込み、滑らせるようにして肩の上に出すとグレッグの耳を打つ。アウラは平手でグレッグの耳の穴を塞ぐように叩き、鼓膜へとダメージを与える。
「ぐへぇっ!」
 鼓膜を打たれたグレッグは耳を押さえ、リングに倒れる。追い討ちをかけようとしたアウラだったが、足を滑らせ尻餅をついてしまう。
「きゃん!」
 自衛官らしからぬ可愛い悲鳴を上げたアウラに、観客から冷やかしの声援が飛ぶ。すぐに立ち上がろうとしたアウラだが、グレッグから足を掬われ、仰向けに倒れる。グレッグはそのままアウラに馬乗りになってきた。
「よくもやったなぁ! お仕置きだぁ!」
 グレッグはアウラのTシャツを掴むと、一気に引き裂く。汗を吸ったTシャツは破れにくいはずだが、薄い布地は音高く簡単に裂けた。
「あっ!」
 Tシャツを破かれ、迷彩柄のビキニが剥き出しとなる。最初からビキニで闘っていればそうでもなかったのだろうが、Tシャツを破かれて露出させられたことに羞恥心が沸き起こる。知らず両手でバストを庇っていた。
「うぇへへぇ、隠したって無駄だぁ。ほぉら」
 汗に塗れたグレッグの手がアウラの両腕の隙間から潜り込み、バストに触れる。
「くっ、このっ!」
 またもグレッグの腕を極めようとしたアウラだったが、今度は汗で滑って腕を掴めない。その隙にバストを揉まれてしまう。
「やんっ! は、放しなさい!」
「いやだぞぉ、こんな気持ちのいいおっぱい放してたまるかぁ」
 グレッグはゲヘゲヘと笑いながらアウラのバストを揉み回す。アウラは必死になってグレッグの腕を掴もうとするが、まるで鰻を相手にしているかのように捕まえられない。
「無駄だぁ、この状態になったら、俺を捕まえることなんてできないぞぉ」
 調子に乗ったグレッグはTシャツを更に破き、アウラの上半身を完全に露出させる。
(こうなったら・・・)
 アウラはグレッグの腕を極めることを断念し、握った拳でグレッグの股間を打つ。
「べふぉっ!?」
 苦しい体勢からとはいえ、男性の最大の急所を打たれたグレッグは股間を押さえてのたうち回る。その隙にアウラは立ち上がるが、足元が気になって追撃に行けない。すると、その後ろにレフェリーが立つ。
「金的への攻撃は反則だ! やめろ!」
 そう言いながらアウラを抱き止める。口ではレフェリーらしいことを言いながら、両手でバストを鷲掴みにし、捏ね回す。
「レ、レフェリー、その手を放してください!」
 アウラはバストを掴む手を引き剥がそうとするが、レフェリーの手は水着の中に潜り込み、直接乳房を揉み始める。
「おほっ、汗でおっぱいが滑って、ローションプレイしてるみたいだな!」
 レフェリーは力を込めるとぷるんと逃げるバストが気に入ったのか、アウラの乳房を揉み続ける。
「放してっ!」
 訓練の賜物か、アウラは無意識にレフェリーの腹部に肘を入れ、拘束から逃れていた。レフェリーは暫く打たれた箇所を抑えて蹲っていたが、何回かの深呼吸で息を整えるとアウラを睨みつける。
「レフェリーに手を上げやがって・・・ただで済むと思うなよ!」
「す、すみません、わざとじゃないんです、つい自然に・・・」
「言い訳するな!」
 胸を隠しながら謝罪するアウラだったが、レフェリーの怒りは収まらない。二人がやり取りしている間に、グレッグも股間の痛みから回復する。
「あいででぇ・・・絶対許さないぞぉ!」
 グレッグは怒りの声を上げ、アウラに掴みかかる。逃れようと身をよじったアウラだったが、グレッグの手が一瞬早く伸びた。しかもアウラが身をよじったために偶然ビキニの紐に指がかかり、結び目が解けてしまう。
「あっ!」
 落ちかかるブラのカップ部分を押さえ、慌てて距離を取る。バランスを崩しかけるが、コーナーポストに寄り掛かって転倒は免れる。しかしレフェリーとグレッグがアウラの前に立ち、怒りのこもった視線で睨みつける。
「金的は攻撃する、レフェリーには手を上げる、許される行為じゃないなぁ、芦鷹選手」
「そ、それは・・・きゃっ!」
 レフェリーの言葉が合図だったのか、男二人の手がバストを隠すアウラの腕に伸びる。グレッグに右手首を、レフェリーに左手首を持たれたアウラは必死に抵抗するも、グレッグに右手をもぎ取られる。
「あっ!」
 落ちかかるブラを左手一本で押さえ、ブラから引き離そうとするレフェリーに抵抗する。
「さっきのペナルティだ・・・ブラを没収する!」
 レフェリーはブラの紐を左手に巻きつけ、一気に引っ張る。
「ああっ!」
 ブラはアウラの手の中から滑り抜け、レフェリーの手の中に納まった。アウラは左手で必死に胸元を隠す。
「うぇへへぇ、おっぱい隠したいならそうしろぉ、こっちを触ってやるからなぁ」
 グレッグはアウラの右手を持ったまま、自分の右手をアウラの股間へと伸ばす。
「そこは駄目っ! やめてください!」
 乳首をさらけ出すこともできず、アウラは体を捻ることでグレッグの手から避けようとする。ヒップをくねらせるような動きに、観客席が沸く。
「なんだ、おっぱい触られる方が良いのかぁ? ここはどうだぁ?」
 グレッグは標的を乳房に変え、アウラの腕の隙間から指でつつく。
「やだ、やめてっ!」
 右手を掴まれた状態では完全に防ぐことはできず、何度かに一度は乳房を触られてしまう。そこへアウラのブラを黒服に渡したレフェリーが戻ってくる。
「芦鷹選手、ロープブレイクをしなきゃなぁ」
「え、何を言って・・・」
「ほら、コーナーから離れな!」
 レフェリーは胸元を隠すアウラの左手首と肘を持ち、思い切り引っ張る。
「だめぇぇぇっ!」
 胸元を隠していた左手が引き剥がされ、乳房が揺れながら解放される。レフェリーとグレッグが勢い良く引っ張りすぎたためアウラを捕まえていた手が汗で滑り、アウラはリングへと倒れ込む。グレッグの汗でぬめるアウラの肢体は、どこか艶めかしいものを感じさせた。
「へぇ、綺麗な乳首をしてるじゃないか。あまり遊んでないみたいだな」
 レフェリーの揶揄に、アウラは慌てて胸を隠す。
「うぇへへぇ、俺も乳首触ってやるからなぁ」
 グレッグは両手の指をわきわきと動かしながらアウラに迫る。アウラは左手で胸元を隠したまま、リングに倒れた姿勢で後じさる。否、後じさろうとしたものの、汗で滑ってまるで動けない。
「うぇへへ、捕まえたぁ」
 グレッグに足首を掴まれた瞬間、アウラは逆足の踵でグレッグの顔面を捉えていた。油断していたグレッグはまともに食らい、鼻血を流しながらリングに前のめりに倒れ込む。
(今が好機、今なら仕留められる!)
 滑らないように慎重に立ち上がり、ゆっくりとロープへと歩く。ロープへと寄り掛かり、その反動を利用してリングを滑り、スライディングキックをグレッグの顎の真横に突き刺す。
「あぐべへっ!」
 その一撃に、体を起こそうとしていたグレッグの動きが止まる。レフェリーが近寄って声を掛けるが、反応がないと見ると両手を何度も交差させ、試合を止める。

<カンカンカン!>

「勝った・・・」
 アウラは胸元を隠すことも忘れ、リングにぺたりと座り込んだ。試合前には訓練で鍛えた自分への過信があったのかもしれない。特殊な体質の持ち主とは言え、ここまで苦戦するとは思ってもみなかった。それでも自衛官としての対面は保てたのではないだろうか。
 座り込んだまま立とうとしないアウラに、レフェリーが近づく。
「どうした、試合は終わったぞ。ほら、手を貸してやるよ」
 そう言ってしゃがみ込んだレフェリーはアウラの後ろから乳房を持ち、乳首を刺激しながら揉み込んでくる。
「ど、どこを持っているんですか! やめてください、試合は終わったでしょう!」
「立てないくらいダメージがあるんだろ? 俺がマッサージしてやるよ」
 レフェリーはぬめる乳房を揉みながら、水着に隠された秘部へと右手を伸ばす。
「この・・・女性の敵!」
 アウラの右手がレフェリーの髪の毛を掴み、右脚が跳ね上がる。強烈な蹴りを貰ったレフェリーはゆっくりと仰向けに倒れ、グレッグの横で大の字になった。
 アウラは乳房を隠しながらリングを降り、男達の欲望に塗れた視線を耐えながら花道を後にした。その顔が赤かったのは、男達の視線と野次のせいか、それとも快楽の残り火だったのか。アウラ自身にもわからぬまま、内股気味の歩調でアウラは控え室へと消えた。


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