【第三十一話 八岳琉璃:総合格闘技 其の二】

 犠牲者の名は「八岳琉璃」。17歳。身長162cm、B89(Fカップ)・W59・H84。世に名高い八岳グループ総帥を祖父に持つ生粋のお嬢様。美しい大輪の薔薇を思わせる外見と高い気位を持ち、それに見合うだけの才能を持つ。勉学、運動、芸事など各分野に置いて一流の実力を身に付け、「この子が男だったなら」と祖父を嘆かせた。
 前回の<地下闘艶場>においてその格闘の実力を遺憾なく発揮し、三連戦全てに勝利を収めた。その相手にはジョーカー、元橋という<地下闘艶場>でもトップクラスの選手も含まれている。現時点で最強の女性選手だと言える琉璃を堕とすため、「御前」は琉璃の祖父と交渉し、かなりの資産を費やして琉璃を再び<地下闘艶場>へと招いた。今度こそ琉璃を快楽地獄へと導くために。


「また心躍るような闘いができるとは聞いたものの・・・今度も闘いには不向きな衣装ですわね」
 今回琉璃に用意された衣装は、舞踏会で着るようなナイトドレスだった。色は白で、生地は最高級のものだと確信できる。袖はなく肩が剥き出しで、正面は胸元から臍が見える程のV字にカットされている。またスカート部分の左前面に大きくスリットが入っており、激しく動くと太ももが剥き出しになってしまうだろう。
「これではブラジャーをつけるわけにはいきませんわね」
 琉璃の美意識では、胸の谷間が見えるような衣装にブラをつけるのは邪道だ。
「でも、ノーブラというわけにもいきませんし・・・」
 そこで何か思いついた琉璃は自分の鞄の中から何か取り出し、ごそごそしていた。それが終わると用意されていた衣装と同じ色の白いハイヒールを履き、長手袋に似せたオープンフィンガーグローブを手に嵌め、入場の合図を待った。

 前回同様、琉璃を待っていたのは男達の欲望に満ちた視線と野次だった。しかし、ドレスを身に纏った琉璃の美しさに圧倒され、財力と権力を持った観客達も野次を止め、琉璃の姿に見入る。琉璃が優雅に歩く度にスリットから素足が覗き、会場のあちこちで生唾を飲む音が聞こえてくる。琉璃がリングに上がり、色素の薄い髪をかき上げると称賛の拍手すら起こった。
 リングで琉璃を待っていたのは、レフェリーの他に四人の男達だった。
(これは・・・一対四、ということかしら)
 さすがの琉璃も、男性選手がリング上に四人も並んでいる光景に少し怯みを覚える。
「お集まりの皆様、今夜も<地下闘艶場>での闘いを楽しんで頂きます」
 リング下でマイクを持った黒服が、観客に説明を始める。
「それでは、今回のバトルロイヤルに参加した選手を紹介させていただきます」
 黒服が観客に選手達を紹介していくたび、スポットライトがその選手に当てられる。
「まず一人目は、マスク・ド・タランチュラ!」
 蜘蛛をモチーフにした覆面をした男が、右手を高々と上げる。その両腕は異様に長く、自分の膝に楽に届く程だ。
「二人目は、草橋恭三!」
 痩せて顔色が悪い男が、軽く頭を下げる。
「三人目、虎路ノ山!」
 髷を結い、スパッツの上からまわしをつけた巨漢が、まわしの上から腹部を叩いて気合を入れる。
「四人目、ミステリオ・レオパルド!」
 中背でマヤ文明を思わせるマスクをつけた男が、ロープにもたれてギシギシと軋ませながら張り具合を確かめている。
「そして今回最後の選手は、前回の闘いでマンハッタンブラザーズの二人、実力派のジョーカー、加えてあの元橋を破った、『クイーン・ラピスラズリ』、八岳琉璃選手です!」
 コールに応えて両手を広げた琉璃に対し、観客から大歓声が起きる。それは琉璃の美しさへの称賛と、男四人から嬲られる光景を想像してのものだっただろう。
「今回は、五人でのバトルロイヤル戦といたします! スリーカウントを取られても失格。リング下に落とされても失格。ギブアップだけは認められません。最後に勝ち残った選手を優勝と致します!」
(なるほど・・・そこまで私を辱めたいと言うのね)
 バトルロイヤルとなれば、他の男達が琉璃に対して全員でかかってもおかしくない。むしろそれが目的でのバトルロイヤル戦だろう。
(元橋の小父様ほどではないにしろ、四人ともかなりの実力者ですわね。さて、どうやって倒していきましょうか・・・)
 例え一対四でも、自分が負けるなどとは考えていない。琉璃は頭の中でどう闘い、勝利するかを組み立てていった。

「さて、八岳選手。今日はボディチェックを受けて貰うぞ」
 男性選手達のボディチェックを終えたレフェリーが、琉璃の前に立つ。その後ろには男性選手達が並び、琉璃を血走った目で見つめてくる。
「この間も言ったでしょう? 私の体に触っていいのは未来の旦那様だけですのよ」
「なら、俺がその未来の旦那になってもいいんだがな」
「・・・笑えない冗談ですわね」
 レフェリーの下卑た顔に、琉璃も顰め面で答えてやる。
「どうしてもボディチェックを受けない、と言うんだな?」
 低くなったレフェリーの声にも、琉璃は動じず頷いて見せる。
「なら、他の選手にも手伝ってもらうか!」
 レフェリーが叫ぶと同時に、男達が襲い掛かってくる。琉璃は素早く身をかわしたものの、マスク・ド・タランチュラの長い右手に捕まってしまう。
「しまった・・・!」
 マスク・ド・タランチュラの手の甲を打って放させたものの、草橋の細身が後ろから絡みつき、羽交い絞めにされ、左脚にも両脚を絡められる。足の甲を踏みつけてやろうと右足を浮かせると、ミステリオ・レオパルドに右の太ももを抱えられる。
「くっ!」
 なんとか動かそうとした両腕は、マスク・ド・タランチュラと虎路ノ山に掴まれる。
「さて、やっとボディチェックができるな。八岳選手、この前の分もたっぷりと時間をかけてやるからな」
 男四人に完全に押さえられた琉璃を見て、レフェリーがにやける。
「やめなさい! 貴方達も放しなさい!」
 それでも琉璃は強気な態度を崩さない。
「さすが生粋のお嬢様だ。こんな体勢にされても威勢がいい。だが・・・それもいつまで持つか見物だな」
 レフェリーはドレスの上から琉璃のバストを擦り、大きさを確かめる。
「触るとまた大きいな。見た目よりも育ってる」
 そのままバストを両手で掴み、やわやわと揉み立てる。
「すげぇ、指を弾き返してくるぜ・・・なんて弾力だ」
「貴方ごときが触っていい身体ではありませんのよ! 放しなさい!」
 琉璃は首を振って逃れようとするが、男四人の拘束はびくともしない。その間にも形のいい巨乳がレフェリーの手の中で形を変える。
「ううっ、こいつはすげぇ、たまらねぇ・・・」
 レフェリーは鼻息を荒げ、ひたすらバストを揉み続ける。
「おいレフェリー、いつまでお前だけで楽しんでるんだよ! さっさと試合を始めろ!」
 マスク・ド・タランチュラが苛立ち、レフェリーを急かす。
「も、もうちょっとだけ・・・」
 まだ揉み続けようとしたレフェリーだったが、男性選手の自分を殺さんばかりの視線を感じると、渋々ながら琉璃が拘束されたままの状態で試合を開始する。

<カーン!>

「草橋、暫くそうやって捕まえとけよ」
 マスク・ド・タランチュラは草橋に指示を出し、自分は琉璃の左のバストを揉む。虎路ノ山は右のバストに手を伸ばし、ミステリオ・レオパルドは琉璃のスカートを捲り、覗きこむ。
「白いパンツか・・・高そうなやつ履いてるなぁ」
 ミステリオ・レオパルドが琉璃の下着に手を伸ばした瞬間、押さえていた右脚に爆発的な力が入り、弾き飛ばされる。
「ぐぁっ!」
 自由を回復した琉璃の右脚は草橋の足の甲をヒールの踵部分で踏みつけ、リングシューズの上から草橋の足の甲に突き刺す。これには草橋も絶叫し、琉璃を放してしゃがみ込んでしまう。
 琉璃は自分のバストを揉んでいたマスク・ド・タランチュラと虎路ノ山の手を掴み、そこを支点として両者の顔面にキックを叩き込む。無理な体勢からの蹴りにもかかわらず、マスク・ド・タランチュラと虎路ノ山の巨体が膝をつく。琉璃は両足を後方に振り、その勢いを使ってフェイスクラッシャーを決める。前転して立ち上がった琉璃の足からはハイヒールが脱げ、素足となっていた。
「貴方達。私の体に触れるということがどれほど罪深いことなのか、心根にまで叩き込んであげますわ!」
 琉璃の頬は怒りで紅潮し、その威圧感に男達が怯む。
「ちぃっ、びびってんんなよお前ら!」
 誰も動こうとしないのを見て、ミステリオ・レオパルドが突っかける。と、琉璃の高速ミドルキックがミステリオ・レオパルドに迫る。
「こなくそっ!」
 ミステリオ・レオパルドはその強力な蹴りをなんとか抱え込み、ドラゴンスクリューを狙ったが・・・
「うえっ!?」
 自分の足がリングから離れた感触に慌てて視線を下げる。なんと琉璃が右脚一本でミステリオ・レオパルドを浮かしていたのだ。
「嘘だろぉ・・・がぶふっ!」
 そのままコーナーポストへと叩きつけられる。
「隙ありじゃい!」
 虎路ノ山が突進からサバ折りを狙ったが、琉璃のカウンターストレートを鼻に喰らい、宙を掴むような格好のままリングに崩れ落ちる。
「おいおい、マジかよ・・・」
 元とはいえ、打撃には絶大な耐久力を誇る力士を一撃で沈めた琉璃に、人を喰ったところのあるマスク・ド・タランチュラも言葉を失う。
「貴方、私の胸を触りましたわね・・・!」
 怒りのオーラを纏い、琉璃がゆらりと近づく。
「あ、あれは、ほら、なんだ・・・」
「問答無用! はぁぁぁっ!」
 ボディへの連打でマスク・ド・タランチュラの頭が下がったところを捕まえ、ブレーンバスターの体勢で一気に持ち上げる。リング中央だったためリング下へ落とすことは諦め、そのまま叩きつける。
「ぐはぁっ!」
 プロレス技には慣れている筈のマスク・ド・タランチュラが、背中を押さえて呻く。その光景に、観客達も静まり返っていた。

「はっ、はっ、はっ・・・」
 リングに、琉璃の荒い息が響く。怒りにまかせて男性選手を叩きのめしてきたが、スタミナ配分を考えない攻撃は琉璃の体力を大幅に削っていた。体力にも自信があっただけに、スタミナ切れが信じられない。
(くっ・・・まずいですわね。ここは攻撃を捌きながら体力の回復を図りましょう)
 それでも琉璃は冷静さを取り戻し、男性選手達に囲まれない位置へと動く。と、その左足を何者かが掴んだ。
「!?」
 琉璃の左足を掴んだのは、足の甲をハイヒールのピンで踏み抜かれた草橋だった。多量の出血と足の甲を砕かれた激痛で朦朧となりながらも琉璃を捕らえた根性に、観客から拍手が起こる。
「放しなさい!」
 琉璃が自由な右足で草橋の顔面を蹴る。この一撃で草橋は意識を失うが、琉璃に大きな隙を作ることに成功した。
「どっせぇい!」
 琉璃の死角から、虎路ノ山のぶちかましが炸裂する。寸前で受け流しを狙った琉璃だったが、体重差には抗えず、コーナーポストまで弾き飛ばされる。
「ぐぅっ」
 痛みを堪えて立ち上がった琉璃の視界に、もう一度突進してくる虎路ノ山の姿が入る。身を翻してかわした琉璃だったが、虎路ノ山の後ろに位置していたマスク・ド・タランチュラから高速のアームホイップでリングに叩きつけられる。完璧ではない受身を取ってすぐに立ち上がるが、周囲を男達に囲まれる。
「散々やってくれたなぁお嬢さん」
「ぬふー、まさしく女傑だな」
「聞いてた以上の実力だぜ・・・でも、ここまでかな?」
 もう男達の顔に油断はない。琉璃のどんな動きにも対応できるように目を配り、僅かな身じろぎにも反応してくる。
「まずは俺からだ!」
 ミステリオ・レオパルドがタックルから琉璃を抱え上げ、自分の頭と肩で琉璃の頭をフックし、両足首を握って頭上に掲げ、琉璃に開脚を強いる。
「くっ、放しなさい!」
 ミステリオ・レオパルドの顔面を打とうとした手が、両側から伸びた手に掴まれる。マスク・ド・タランチュラと虎路ノ山は空いた手を琉璃のバストに伸ばし、ドレスの上から揉む。逆さまの状態で捕らえられているため、スカートが捲くれ上がり、純白の下着が観客の目にも晒される。
「・・・おっぱいもいいけど、こっちも魅力的だな」
「ぬっふぅ、儂が先じゃあ!」
 マスク・ド・タランチュラと虎路ノ山は琉璃の秘部を先に触ろうと争い、ついには掴み合いになってしまう。
「おいお前ら、なにやってぐはっ!」
 琉璃は掌底でミステリオ・レオパルドの鼻を打ち、拘束を解かせる。
「ててて・・・お前ら、仲間割れしてる場合かよ!」
「あー・・・悪ぃ」
「むぅ・・・すまんの」
 ミステリオ・レオパルドの非難に自分達の非を認め、マスク・ド・タランチュラと虎路ノ山の二人も素直に謝る。美しい女性を嬲るためには手を結んでいた方が良い。そのためには、心中のいらつきも抑えておこうという計算だった。
(普段ならあんなタックルなど喰らうわけなどないのに・・・かなりスタミナを消費してますわね)
 体力の低下は注意力の低下も生む。琉璃ほどの実力者が、死角からとはいえ単純な攻撃に対応できていない。
「次は儂じゃぁ!」
 虎路ノ山は後ろから琉璃の腰を抱え、締め上げる。
「くぅぅぅっ!」
 琉璃が痛みにもがく。マスク・ド・タランチュラとミステリオ・レオパルドはそれぞれバストを掴み、捏ね回す。
「うわぁ・・・なんだこの感触、たまんねえ! やっと触れたけど、待ってた甲斐があったぜ!」
「そっかそっか、じゃあ俺はこっちを・・・」
「待て! 今まで我慢したんだ、アソコは俺が先だろ!」
 先程同様、喧嘩が始まりそうな雰囲気となるマスク・ド・タランチュラとミステリオ・レオパルド。この隙に、虎路ノ山の右手が琉璃の股間へと下りて行く。
「ぬふっ、今の内わばはっ!」
 右手を琉璃の腰から外した瞬間、締め上げが弱まり、琉璃に攻撃のチャンスを与えてしまった。琉璃の右足が跳ね上がり、純白の下着を晒しながら肩越しの虎路ノ山の鼻へと爪先を突き刺す。
「がばはっ、ばうわぁーっ!」
 鼻骨を潰され、虎路ノ山の鼻孔から盛大な鼻血が噴き出す。その背後に回った琉璃は膝裏への蹴りで体勢を崩し、虎路ノ山の巨体をバックドロップでリング下へ投げ捨てる。山のような巨漢がリング下へと落ちて行く光景に、観客がどよめく。
「あ、あと二人・・・」
 琉璃は男達から距離を取り、構える。しかし虎路ノ山の巨体を投げたことで更に体力を減らし、いつものような強者のオーラは感じられない。
「あんの阿呆、抜け駆けしようとした上に失格かよ!」
「お前はああなるなよ」
「こっちの科白だ!」
 それでも、まだ数の上では上回っている。マスク・ド・タランチュラとミステリオ・レオパルドには余裕があった。
「次はお前の番だろ」
「ちっ、わかったよ。行くぜぇお嬢さん」
 マスク・ド・タランチュラは琉璃の脚を刈ろうと長い手を振り回すが、疲れている筈の琉璃に尽くかわされていく。
「はっ、はっ・・・」
「くっそ、なんで当たらねぇんだ!」
 避け続ける琉璃だったが、ミステリオ・レオパルドから背後を取られてしまう。
「ったく、どいつもこいつも」
 ミステリオ・レオパルドは両手でバストを掴み、一度揉み込んだ後そのまま後方に投げようとしたが、琉璃は右手でミステリオ・レオパルドの両手を、両脚で膝をフックし、左肘をミステリオ・レオパルドの喉に当てる。ミステリオ・レオパルドの投げの力を使って後方へと倒れ、リングに後頭部をぶつけさせ、喉も潰す。
「ぁぐぇっ!」
 動きの止まったミステリオ・レオパルドをリング下に蹴落とし、ロープを掴みながら立ち上がる。
「あ、あと・・・ぜぇっ・・・ひとり・・・!」
 肩で息をする琉璃の姿に、さすがにマスク・ド・タランチュラの表情にも疲労感と少しの恐れがある。
「あの状態から一対一にまで持ってくるかよ・・・とんだお嬢さんだ」
 しかし、ロープにもたれることでやっと立っている状態の琉璃に抵抗力があるとは思えなかった。タックルに行くマスク・ド・タランチュラにキックを合わせようとした琉璃だったが、そのスピードは悲しいほど遅く、簡単にダウンを取られてしまう。
「しまった・・・!」
「それじゃお嬢さん、俺の必殺技を喰らってもらおうか!」
 マスク・ド・タランチュラの左手と両脚が琉璃に絡みつき、変型のグランドコブラツイスト、<タランチュラホールド>が極まる。マスク・ド・タランチュラの左手は琉璃の右脇の下を通って肩をロックし、両手も捕えている。更に両足を琉璃の両脚に絡め、大きく開脚させている。
「さーて、さすがの琉璃お嬢さんもこうなったら逃げられないだろ?」
 マスク・ド・タランチュラは一度バストを弾ませた後、わざとゆっくりと下半身へと手を下ろしていく。
「まさか・・・そ、そこを触ることは許しませんわよ!」
 マスク・ド・タランチュラの狙いに気づいた琉璃は暴れるが、がっちりと極まったタランチュラホールドから逃れられない。そして、指がそこに到着する。
「やっと触れたぜ・・・これがお嬢さんのアソコか」
 マスク・ド・タランチュラの指が下着の上から琉璃の秘部を撫で回す。琉璃は唇を噛みしめ、屈辱を堪える。
「あれだけの連中を揃えたのに、ここまで抵抗されるとはな・・・」
 レフェリーが拘束された琉璃に近づき、横になっても崩れない胸元に手を伸ばすとそのままバストを捏ね回す。
「くっ、やめなさい!」
 男二人からバストと秘部を弄られ、嫌悪感から琉璃が叫ぶ。
「服の上からこの感触なんだ、生で触ったらどれだけなんだ?」
 レフェリーは一度バストから手を放し、ドレスの布地を持つ。
「それじゃあ、琉璃お嬢さんの生乳を拝ませて貰おうか!」
 レフェリーはドレスを掴み、胸元を広げる。観客席から巻き起こる歓声。ドレスの下には生乳、ではなく、ヌーブラが隠れていた。
「おいおい、こいつは反則行為だぞ? 自前の衣装は身に着けては駄目だって契約の筈だ」
 レフェリーの手がヌーブラにかかった瞬間、琉璃の表情が憤怒に変わる。
「貴方、それだけは許しませんわよ!」
 琉璃の体に爆発的な力が漲り、マスク・ド・タランチュラの手足を弾き飛ばそうとする。
「うっ、ぐぅぅぅっ・・・!」
「おい、嘘だろ、嘘だろぉっ!?」
 完全にフックした腕が、脚が、少しずつではあるが開かれていく。マスク・ド・タランチュラも慌てて押さえ込もうとするが、まるで敵わない。
「はぁぁぁっ!」
 ついに、琉璃が力づくでタランチュラホールドから脱出する。この光景に、今日一番の歓声が起きる。
「よくも、よくも私の大事なところを好き勝手に弄ってくれましたわね。あまつさえ、私の胸を直接拝もうなど・・・天が許しても、私が許しませんわ!」
 マスク・ド・タランチュラの視界から琉璃が消える。その認識が脳に届くのと同時に顎が跳ね上がる。この一撃でマスク・ド・タランチュラの意識は刈り取られ、ボディへの肘打ちで再度覚醒させられる。
「うっ・・・ぐぉっ・・・」
 意識の無い状態での攻撃はまともに響く。喉元まで込み上がったものを飲み下し、反射的に琉璃を捕らえようと両手を広げたマスク・ド・タランチュラだったが、こめかみへのハイキックで意識を完全に飛ばされ、リングへと崩れ落ちる。琉璃はマスク・ド・タランチュラを右足で踏みつけてフォールに入った。
「カウント、宜しいかしら?」
「わ、ワン・・・ツー・・・」
 琉璃の視線の迫力に負け、レフェリーが素直にカウントを取る。
「スリーッ!」

<カンカンカン!>

 試合の終わりを告げるゴングを聞き、琉璃は大きく息を吐き出す。
「くそっ、これで終わりだ、さっさとリングを降りろ」
 悔しげなレフェリーに、琉璃が応じる。
「いいえ、まだ終わっていませんわ」
 琉璃の顔を見たレフェリーが、ぎょっとした表情になる。琉璃が凄絶な笑みを浮かべていたからだ。
「私の身体を触った男が、もう一人残っていますわ」
「もう一人って・・・待て、レフェリーに手を上げる気か? それに、もう試合は終わって・・・」
「関係、ありませんわ!」
 琉璃の渾身の右ストレートが捻りを効かせてレフェリーの左頬をえぐる。レフェリーはコーナーまで吹っ飛び、ポストに跳ね返されてリングへと倒れた。
「ふう・・・これでお終い、ですわ」
 琉璃は満足気な笑みを浮かべ、リングを後にした。男四人、否、五人を相手に最後まで闘い抜き、尚気品を失わずに退場していく琉璃に、盛大な拍手が送られた。


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