【第三話 於鶴涼子:合気道】

 新たな犠牲者は「於鶴涼子」。21歳。身長163cm、B84(Dカップ)・W60・H83。「御前」の所有する企業の一つ「奏星社」で受付をしている。長く綺麗な黒髪と涼しげな目、すっと通った鼻梁、引き結ばれた口元。独特の風貌を持つ和風美人である。
 社内外での男性の人気は高いものの、近寄りがたい雰囲気が有り、付き合っている異性は居ない。父親が合気道を教えており、本人も幼い頃から合気道を父親から習った。夜道で暴漢に襲われた時、まったく取り乱さずに暴漢を投げ飛ばし、腕を捻り上げて警察に突き出したという武勇談も持つ。この涼しげな美貌が色責めで歪む姿が見たい、という「御前」の欲望が、彼女を<地下闘艶場>へと導いた。


 <地下闘艶場>の説明は、父親もいる前で行われた。母は幼い頃になくなり、父は男手一つで涼子を育ててくれた。最近では合気道の道場生も減り、父親は憂慮していた。そこへ「ファイトマネーだけで三十万、勝てば百万円を支払う」という<地下闘艶場>の誘いが涼子にあった。しかも涼子が勝てば、道場への援助も考えると言う。
 父の喜ぶ姿を見て、涼子は出場を決めた。


 涼子は長い黒髪をポニーテールに纏め、ガウンも羽織らず入場する。
 涼子の衣装は上半身は白い道衣、下半身は黒い袴というものだった。だが普通の道衣ではなかった。道衣は袖がなく肩が剥き出しで、左右の合わせ目を紐で結んでいるだけのもので、胸の谷間がはっきりと見える。丈は胸を隠すまでしかなく、綺麗な腰のラインも晒されている。袴には腰まであるスリットが左右に入れられ、すらりとした美脚が晒されている。せめてサラシを着けさせて欲しいという涼子の要求は却下された。
(なるほど、そういう趣向ですか)
 観客には男性の姿しか見えず、自分の姿を舐めるような視線が周囲全てから飛んでくる。
 リングに辿り着き、階段を登ってロープを潜る。
 涼子はすっ、と前を向く。対戦相手も男性だった。髪は金色だが、おそらく日本人だろう。涼子の胸や脚を注視し、下卑た笑いを口の端に浮かべている。オープンフィンガーグローブを着け、バランスのとれた体格を見ると総合格闘技の選手だろうか。身長も180cm以上はあるだろう。
 涼子はある筈のない姿を探してしまっていた。<地下闘艶場>出場の条件として、父親のセコンド及び観戦は認められなかった。父がセコンドについてくれれば心強かったのだが・・・
「赤コーナー、サンダー・桝山!」
 コールに応え、右手を掲げる桝山に観客の声援が飛ぶ。責め方の要求、と言った方が正しいか。
「青コーナー、於鶴涼子!」
 名前を呼ばれた涼子が優雅に礼をする。その動作に隙はない。

 レフェリーが桝山のボディチェックを終え、涼子の前に立つ。こちらも下卑た笑いを浮かべながら、いきなり胸を触ってくる。
「・・・・・・」
 涼子の冷ややかな視線がレフェリーを捉える。この反応に戸惑ったのか、レフェリーは胸から手を放してしまう。
 レフェリーがひとつ咳をいれ、「袴をめくれ」と指示をしてくる。涼子は冷ややかな視線のまま、静かに袴の裾を掴んで持ち上げる。普通の袴にある両脚の間の境目がなく、美脚と純白の下着が晒される。袴の下につける水着は用意されていなかったため、今日身に着けて来た下着だ。これにはレフェリーも驚いたようだが、すぐに喜色を浮かべ、足首から太ももまでを撫でていく。
「脚にはなにもありませんが」
 涼子の問いかけに対し、
「じゃあこっちを調べないとなぁ」
 と言いながらレフェリーが下着をつついてくる。
「そこは女性の大事なところです。お止め下さい」
「隠す奴ほどそんなことを言うんだよ! ボディチェックだ!」
 涼子の訴えなど聞き入れず、レフェリーは秘部を触る。涼子は太ももに力を入れて阻止しようとするが、そうするとレフェリーは太ももを撫で、感触を楽しむ。
(ほんの少しの辛抱です)
 そう自分に言い聞かせ、袴の裾を持ったまま力を抜く。涼子が力を抜いたと見たレフェリーは秘部に刺激を与え始める。表情を緩めたまま秘部を弄る姿は、どう見てもボディチェックではなかった。
「・・・もう宜しいでしょう?」
 秘部に指を這わしていたレフェリーに声を掛ける。その冷たい声音に、レフェリーは思わず指を放していた。
 と、レフェリーに注意が行っていた涼子を桝山が襲う。いつの間にか涼子の左側面に回りこんでおり、脚を狙ってタックルしてくる。
 入った、と観客が思った瞬間、桝山の体が宙を舞っていた。綺麗な弧を描き、マットに叩きつけられる。ここでゴングが鳴らされた。

<カーン!>

「不意をついて女性を襲うとは、情けない殿方ですね」
 涼子の静かな非難に飛び起きた桝山が再びタックルに入る。しかしその左手は涼子に届く前に巻き取られ、先程同様マットに叩きつけられる。
「くそっ!」
 桝山は舌打ちしながら立ち上がり、涼子を睨めつける。さすがに今度は距離を取り、ステップを踏みながらタイミングを計る。
 軽くジャブを出しながら距離を詰め、タックルのフェイントを入れ、右のハイキックを放つ。が、蹴り脚は涼子の両手に巻き込まれるようにして捕まり、右脚を支点にして投げられ、腹這いでマットに落ちる。右脚を捕まえられたまま腰を踏まれ、足首を極められる。
「がはぁぁぁぁ!」
 右足首を激痛が走る。手を握り、歯を食いしばって耐える桝山だったが、涼子が更に足首を捻ると口から絶叫が迸った。灼熱の棒を突き刺されたような痛みに、堪らずタップしてしまう。

<カンカンカンカン!>

 ゴングが鳴らされ、涼子が桝山を解放する。折るまではしていないが、靭帯を痛めたかもしれない。何の見せ場もなく破れた桝山に対し、観客席からは凄まじいブーイングが起こる。
 レフェリーがリング下の黒服と早口で会話し、頷いた後マイクを握る。
「只今、桝山選手はボディチェックの最中に於鶴選手に攻撃致しました。桝山選手の反則を取り、今の試合はノーコンテストといたします!」
 観客のブーイングがトーンダウンし、ざわめきが起こる。ではどうするのかとレフェリーに注目が集まる。
「もう一度最初から試合を再開したいところですが、桝山選手の負傷の為それができません。よって、これから於鶴選手には控え選手と闘っていただきます!」
 レフェリーの放送に観客が沸く。美しい女性が責められる姿を見に来ているのだ、このままでは帰れない。
(・・・私を嬲りものにしなければ気が済まない、ということですね)
 それならば出てくる選手を全員倒すまでだ。涼子は覚悟を決め、静かに次の相手を待った。

 入場してきたのは、中肉中背の二人の男だった。身長、体格、リングタイツやシューズまでが一緒で、お揃いの覆面をつけている。
 「マンハッタンブラザーズ1号2号」。1号が涼子と闘い、2号はセコンドだと言う。1号のボディチェックを行ったレフェリーが涼子に近づくが、冷たい視線に阻まれて立ち止まる。鮮やかな涼子の技を思い出し、躊躇したのだろう。
「くっ・・・ファイト!」

<カーン!>

 涼子にとっては二試合目が始まった。両手を軽く開き、半身に構える。1号はしきりに涼子の周囲を回り、フェイントを繰り返す。先程の試合をモニターで見でもしたのか、中々近づこうとしない。
(これは・・・こちらから行くしかありませんか)
 かかって来ようとしない1号に考えた涼子が、背後の気配に気付いた時には遅かった。いつの間にか2号がリングに上がり、涼子を羽交い絞めにしていた。
「くっ」
 油断した。自ら前に倒れこみながら腰を跳ね上げ、2号が下に落ちるように背中から倒れこむ。2号の口から息が吐き出され、腕の力が緩む。転がって逃げようとした涼子だったが、1号に脚を捕まえられてしまう。動きが止まったところで涼子の下にいる2号がその体勢のまま羽交い絞めにしてくる。
「よーしお前達、そのまま捕まえておけ、ボディチェックがまだ終わってないからなぁ」
 ここぞとばかりにレフェリーが近寄り、道衣の上から胸を揉み始める。
「・・・二人がかりは反則でしょう?」
 それでも静かに告げる涼子に、
「ボディチェックを受けさせない方が悪いんだよ!」
とレフェリーが喚く。その間もバストを揉む手を止めない。
 道衣の上からでは物足りなくなったのか、道衣の間に差し込んで直接乳房を揉み始める。吸いつくような感触に驚き、レフェリーの手が思わず止まる。だがそれも一瞬で、美乳を激しく揉みしだく。
「くっ・・・」
 さすがに直接触られるのは刺激が強い。思わず声が漏れてしまう。
「そういえば、まだこっちは確認の途中だったな」
 レフェリーは左手で乳房を揉みながら袴を捲って下着を露わにし、わざとらしく涼子に聞く。
「先程随分熱心に調べられたと思いますが?」
 それでも涼子はまだ冷静だった。しかし、レフェリーが袴を捲ったまま下着の中に手を入れてくると顔色が変わった。
「そうそう、そういう表情が見たかったんだよ」
 涼子の秘部を弄りながらレフェリーがにやける。2号も下から手を伸ばし、乳房を強く揉んでくる。
「くっ・・・あぅっ」
 何とか声を押し殺す。そんな涼子を見て、レフェリーと2号は声を上げさせようと益々責めを強くする。
 暫くそのままの体勢で嬲られたが、涼子は声を出さずに耐え抜いた。レフェリーが下着から手を抜き、涼子から離れる。入れ替わりに1号が涼子の股間に顔を近づけ、舌で舐め始める。2号は直接乳房を揉み出した。
「ふ、二人がかりは・・・あっ・・・反則でしょう・・・!」
 当然の抗議をする涼子だったが、
「んー・・・どっちが2号だったかなぁ? セコンドは外に出ないとなぁ」
 レフェリーは惚けて顎を摺る。どうやらまともに試合させる気はないらしい。
(そういうつもりなら!)
 乳房を責めていた2号の指を取り、逆関節を極めてやる。2号が叫び声をあげ、胸から手を放す。自分の股間を舐めている1号の頭を太ももで挟み、後頭部に肘を落としてやる。この一撃に1号が打たれたところを押さえて転げまわり、その隙に立ち上がって距離を取る。
「セコンドを外に出していただけますか?」
 視線をマンハッタンブラザーズから離さずにレフェリーに要求する。レフェリーは仕方なく2号をリング下に下ろし、1号を立ち上がらせる。
(今回は一対二・・・いえ、一対三と考えた方がいいようですね)
 このレフェリーがまともなジャッジをするとは考えにくい。相手の反則を取ることはないだろうし、涼子が捕らえられれば嬉々としてセクハラをしかけてくるだろう。サンダー・桝山を倒したように関節技で仕留めるのが無難か。
 涼子は滑らかな動きで1号に近づき、1号が伸ばした右手を掴んで小手投げでリングに叩きつける。プロレスのリングである以上、投げ技はそれ程ダメージがいかない。1号の首を左足で押さえ、右手首を極める。加えて肘にダメージがいくように角度を変え、絞り上げる。
 1号が絶叫し、左手で右手を押さえようとする。しかし首を踏まれているため体勢が変えられず、それも叶わない。このままギブアップが取れると思った時、後ろから2号に襲われた。首に手を回され、股間を弄られる。
「くっ!」
 思わず1号から手を放し、2号の指を取ろうと手を伸ばす。その時には2号は涼子から離れ、リング下へと降りていた。1号も素早くリング下へと降りている。二人は一度リングの下側へと潜り、二人一緒に出てきた。これではどちらが1号か2号かわからない。そのまま堂々と二人でリングへ上がる。
「どちらかを降ろしてください!」
「どっちか分からんから降ろせんよ。1号はどっちだ? セコンドの2号は?」
 白々しく確認するレフェリーを余所に、マンハッタンブラザーズは沈黙を保ったまま涼子へと近づいてくる。片方が涼子の後方へと回り、挟み込むような位置になる。前方の一人がタックルに来るところを投げようと身構えるが、後ろから束ねた髪を引っ張られてしまう。
「あっ!」
 そのままロープ際まで押し込まれ、素早く両手両足をロープに絡められる。まったく身動きができない涼子の姿を、欲望を剥き出しにした三人がじっくりと視姦した後、一斉に襲い掛かってくる。
 1号は右の乳房を、2号は左の乳房を、レフェリーは秘部を弄る。1号と2号はシンクロした責めを見せ、同じタイミングで揉んだり、わざとずらしたり、乳首を弄ったりしている。レフェリーは秘部を弄りながら太ももも撫で回している。肌の滑らかさを味わいながら、秘部へ細かい振動を与えている。
「あっ・・・ひ、卑怯ですよ! 放してください! あくぅっ!」
 最早まともな試合をするつもりはないらしい。涼子の非難になど耳を貸さず、三人は涼子を嬲る。
「はぅっ・・・くっ」
 同時に三ヵ所の女の急所を責められ、声が抑えられない。身を捩ってみるものの、そんなことくらいではロープから外れない。その間も左右の乳房、秘部への責めは止まない。加えて乳首と秘豆にも刺激が与えられる。
「ああぁっ! くふぅ」
 心ならずも涼子の口から熱い吐息が洩れる。
(なんとか、なんとか逃れないと・・・!)
 一か八か体重を全て下にかけ、ロープに無理やり隙間を作って手を抜き、抜くと同時に足を捕らえていたロープも緩め、前転して脱出する。
 しかし前転で逃げる涼子の袴を1号が掴み、引っ張ったことで袴が破れ、脱げてしまう。それを見た観客からどよめきが起こり、次いで歓声が起こる。スリット入りとはいえ袴を取られ、涼子の美脚と下着が剥き出しとなってしまう。
「か、返してください!」
 羞恥に顔を染めながら右手で股間を隠し、左手を1号に伸ばす。1号は袴に顔をつけて匂いを嗅いで見せると、涼子に差し出す。しかし涼子の手が掴む寸前に引き、渡そうとしない。
 何度かそうやって玩ばれると、後ろからの2号のタックルにうつ伏せでリングへと倒れこんでしまう。
(・・・未熟者!)
 羞恥心に負け、後ろからのタックルに気づかなかった。すぐさま逃げようとするが、2号はそのまま涼子の両脚を押さえ、1号は涼子の腰に座ってキャメルクラッチを極める。
「くっ・・・!」
 声も出せず、喉を圧迫される苦しさに耐える。すると1号は涼子の顎をフックしていた両手をバストに下ろし、胸を揉み始める。2号は左手で涼子の左脚を、両脚を使って涼子の右脚を開き、右手で股間を弄る。柔軟性を持つ涼子の脚は180度に開かれ、ほぼ一直線となっていた。
「あぅっ、いやっ!」
 反射的に股間を隠そうとするが、体を押さえられているため首を振るくらいしかできない。乳房と股間からの刺激を逃がすこともできず、喘ぎ声しか洩らせない。
 暫くそうして嬲られていたが、今度は仰向けにされ、両手両脚を押さえられる。大の字に拘束された涼子にレフェリーがゆっくりと歩み寄る。
「純白の下着が眩しいねぇ、於鶴選手」
 ニヤニヤと笑いながら全身を嘗め回すように視姦してくる。唇を噛んで耐える涼子だったが、羞恥のため頬が赤い。レフェリーは涼子のお腹の上に跨り、両手で道衣の上から胸を揉む。涼子は顔を背け、声を出すまいと口を結ぶ。
「嫌われたものだな、顔ぐらい見せてくれよ」
 右手を道衣の中に突っ込んで直接乳房を揉みながら、レフェリーは左手で涼子の顎を掴み自分の方に向けさせる。涼子の反応を見ながら揉み方や強弱を変えたり、乳首を爪で引っ掻くようにして責める。
 目を閉じて耐える涼子に、レフェリーは意地でも声を上げさせてやろうと直に乳房を責め始めた。道衣の下側から両手を突っ込み、乳首を刺激しながら大きく円を描くように乳房を揉む。
 暫くそうやって乳房と乳首を責めていたレフェリーだが、涼子のお腹から降りて狙いを股間に定める。下着の上から触って刺激し、それでも耐える涼子を見て下着の中に手を入れ、直接秘部を擦る。中指を曲げて浅く秘裂に沈め、入り口と中を同時に刺激する。
「あっ・・・っ・・・くぅぅっ!」
 声を抑えようとして洩らしてしまい、それでも涼子は唇を噛んで耐えようとする。体をくねらせて逃げようと試みるが、複数の男達に押さえられてはそれも叶わない。結果腰を振る格好になってしまい、股間から受ける刺激を強くしてしまう。
「於鶴選手、まだまだ刺激が足りないようだなぁ。そんなに腰を振ってくれると俺も張り切らないとなぁ」
 レフェリーは右手で秘裂を責めながら乳首を弄ってくる。
(勝手な事を・・・! あ、はぅっ!)
 息を止めて耐える涼子だったが、遂に乳首が立ち上がってきてしまう。
「おーおー、喜んでくれたみたいだな、俺も張り切った甲斐があったよ」
 レフェリーは責める標的を乳首に定め、両手で刺激してくる。親指と人差し指で挟んでしごき、軽く潰すような刺激を与え、上から押し込んで玩ぶ。
「はっ・・・ああっ・・・あくぅっ!」
 止めていた息とともに喘ぎ声も洩れてしまう。クールな涼子が喘ぐ姿を見て、レフェリーだけでなく観客も興奮していく。
「くくっ、もっと声を出せよ、ほら、我慢するな!」
 乱暴に乳房を揉み、乳首を潰すように責める。
「痛いです! 放してっ!」
 涼子の訴えにも耳を貸さず、レフェリーは自分の思うままの責めを加える。
「そろそろギブアップするか? うん?」
 レフェリーはギブアップの確認を、乳房を揉みながらしてくる。
「・・・嫌です!」
 息を荒げながらもレフェリーを見据え、きっぱりと拒む。
「そうか。なら、まだ嬲るだけだ」
 レフェリーは涼子の両手を押さえていた1号と入れ替わり、1号と2号は涼子の両足を持つ。
「お客様にもサービスしてやれ」
 レフェリーが涼子の両手を押さえたまま1号と2号に指示し、それぞれが涼子の片脚を持ってゆっくりと開いていく。開脚を阻止しようと太ももに力を込める涼子だったが、男二人の力に勝てるわけもなく、純白の下着を観客に晒してしまう。羞恥に頬を高潮させる涼子。涼子の大開脚に沸く観客。それに気を取られたのか、レフェリーの手が少しだけ緩む。
「!」
 涼子はその隙を見逃さず、レフェリーの両手首を極め、梃子の原理で投げを打つ。レフェリーの体が2号に当たり、縺れて倒れる。
(好機!)
 空いた両手と左脚で1号を仰向けの体勢でリングに倒し、1号と2号の背に膝を乗せ、それぞれの右手、左手を極める。そのまま容赦なく角度をつけていくと、ごぐり、という鈍い音がした。それぞれの右肩、左肩が外れた音だった。絶叫を放つマンハンッタンブラザーズを見たレフェリーが慌ててゴングを要請する。

<カンカンカン!>

 ゴングが鳴らされたが、レフェリーはリング下から受け取ったマイクを持った。
「只今、於鶴選手はレフェリーを投げ飛ばすという暴挙を行いました! この反則のペナルティーとして、於鶴選手にはもう一試合闘っていただきます! 控え選手の入場まで暫しお待ち下さい!」
 予想していた事とはいえ、まだ終わらないのか。それでも涼子はリングから降りようとせず、破れた袴をパレオのように腰に巻き、新たな対戦相手を待った。

 しかし、対戦相手の姿を見た涼子の表情が変わった。
 2mを越す身長。首、肩、胸筋、後背筋、腹筋、側筋、太もも、脹脛、全ての筋肉が盛り上がっている。リングに上がって涼子と対峙した時、涼子の目線に相手の顔が入らないほどの身長差。体重差は何倍になるのだろうか。
 「ダン"ザ・マッスル"ホフマン」。この男の持つ肉体の迫力に、さすがに観客も息を止めて二人を見守っている。レフェリーはボディチェックすら行わず、即座に試合を開始する。
「ファイト!」

<カーン!>

 涼子にとっては三戦目の開始合図だった。ダンがいるだけでリング上の面積が削られ、思うように距離が取れない。
 と、ダンがゆっくりと巨大な右手を涼子に向かって伸ばしてくる。鈍々と迫ってくる右手に涼子は恐怖を感じていた。合気道とは相手の力を利用して相手に返す武術である。それがこのように蝿が止まるような速度でしかないのなら、相手に返せる力も僅かでしかない。逡巡の間にもダンの右手は涼子に近づいてくる。
 目前に迫った右手に覚悟を決め、柔道の背負い投げのように巻き込み投げを打つ。しかし道衣を掴んで止められ、そのままダンの肩に担がれてカナディアンバックブリーカーに極められる。ダンは軽くジャンプするようにして体を揺らし、涼子の乳房を両手で押さえる。
「ああっ! ふっ、くふっ!」
 背中を小刻みに突き上げられ、呼吸が苦しい。加えて乳房が揉みくちゃにされる。なんとか背中を支点に脱出しようとするが、揺らされることで支点がずれ、中々脱出できない。指を手刀で叩いて怯ませ、右足でダンの背中を蹴ることでカナディアンバックブリーカーから脱出する。
 リングに着地する寸前で前転することで衝撃を逃し、ダンから距離を取る。立ち上がった涼子の前に、またもゆっくりと右手が迫ってくる。瞬時には対応を思いつかず、後ろに下がる。
 と、背中にロープが当たり、意識が後ろに行く。その瞬間道衣の襟首を掴まれ、気づくとダンの胸に抱え込まれていた。
「あ!」
 逃げなくては、と思った時には両手をダンの左手に捕らえられ、吊り上げられる。その格好のまま、ダンの右手が涼子の乳房を道衣越しにつついてくる。動く両脚でダンを蹴る涼子だったが、ダンは涼子を捕らえたままリングに座り込み、涼子の両脚の上に自分の両脚を乗せる。
「くっ!」
 涼子の脚は、まるで岩が乗ったようにぴくりとも動かせなかった。改めて涼子の乳房を揉み始めるダンの姿は、巨人が人形遊びをしているような微笑ましい姿にも見えた。
「痛いぃぃぃっ! 嫌ぁぁぁっ!」
 揉まれる本人してみれば人形遊びどころではない。ダンにしてみれば普通の力でも、涼子にとっては堪らなかった。乳房が潰されるかと思うほどの痛みが襲う。ダンは乳房から手を放し、腰に巻かれていた袴を外す。
(あの力で股間を責められたら・・・!)
 涼子を恐怖が襲う。女性器が壊されかねない。全身の力を振り絞ってもがくが、やはり全く動けない。そこにレフェリーが近づき、涼子に手を伸ばすが、その手をダンが振り払う。
「Don't touch! She's mine!」
 早口の英語で捲し立てる。どうやらレフェリーが涼子に触ることを許せないらしい。それで引き下がるレフェリーではなく、ダンと英語でやりあう。とうとうダンは涼子を放し、膝立ちのままレフェリーと口論になる。
(ここしかない!)
 筋肉の化け物のような男が見せた初めての隙。踵で股間を蹴り上げ、痛みに声をあげるダンの左足首を取り、体を回転させながら渾身の力で捻る。股間を蹴られては力が入らず、圧倒的なダンの肉体も耐え切れずに足首の靭帯が断裂する。
「GaaaOoooo!」
 リング上で横倒しになり絶叫し続けるダンを見て、呆然としていたレフェリーが我に帰ってゴングを要請する。

<カンカンカンカン!>

「くそっ、ダンが駄目でも、次は・・・」
 またもマイクを取ろうとロープ際に歩み寄るレフェリーを後ろから投げ飛ばし、涼子は右腕を捕ったまま剥き出しの太ももを首に巻きつけ三角締めに極める。あっさりと失神したレフェリーを解放し、袴を腰に巻くと静かに一礼してリングから下り、控え室へと引き上げる。
 自分よりも大きな男性選手四人に加えレフェリーを実力で倒し、試合中散々嬲られたにもかかわらず、凛として退場していく涼子。その背に涼子の闘いに魅了された観客から拍手が送られた。
 リング上には呻き続けるダンとレフェリーが残された。レフェリーは失神しながらも、幸せそうな表情を浮かべていた。

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