【第四十話 クリスティーナ・ローゼンメイヤー:パンクラチオン】

 犠牲者の名は「クリスティーナ・ローゼンメイヤー」。愛称クリス。21歳。身長169cm、B98(Jカップ)・W62・H86。肩の下まで伸びた金髪には緩いウェーブがかかり、シャープな顎の線を柔らかく縁取っている。ドイツ人の父とノルウェー人の母を持ち、ノルウェーの一流大学に飛び級で入学、現在は大学院に籍を置く才女。古代ローマの研究を専攻しており、中でも<コロッセオ>で行われた闘いに惹かれ、自分でパンクラチオンを学ぶほどにのめり込んだ。ゲルマン民族とヴァイキングの血は彼女の中で交じり合い、至上の強さを求めていたのかもしれない。
 夏休みを利用し、正倉院に納められているという古代ローマの品を見ようと来日。そのときに酔っ払った白人男性に絡まれ、相手を容赦なく半殺しにした戦闘力に<地下闘艶場>から目をつけられた。
「血が沸き立つほどの闘いをしてみたくありませんか?」という言葉が、クリスを闘いと快楽のリングへといざなった。


 クリスに用意された衣装はダークパープルの水着だった。ただの水着ではなく、喉元から臍の下まで大きなカットが入れられている。側面にも殆ど布地がなく、背中は丸出しとなっている。また水着の根元はハイレグとなっており、太ももの付け根までが露わとなっている。
(プロレスの衣装ってセクシーなものがあるとは聞いていたけど・・・セクシー過ぎない?)
「彼女が歩くとバストが地震を起こす」と言われるほどの巨乳も、胸の谷間と横乳がはっきりと晒されている。
「相手が強ければいいけどね」
 羞恥よりも、闘いへの欲求が上回る。今のクリスは大学院に席を置く才女ではなく、相手を倒すことを喜びとするアマゾネスの顔だった。

 ガウンを羽織ったクリスが花道に現れると、その美貌に観客から歓声が起こる。普段は優しげな笑みを湛えた顔が、今は闘いへの喜びに輝いている。日本語での野次が飛ぶが、彼女は足を止めることなくリングへと向かう。例えノルウェー語であっても彼女は歩みを止めなかっただろう。

 リングインしたクリスの前に、男性選手が立った。アステカ紋様をモチーフにしたマスクを被り、中背ながらバランスの取れた肉体をしている。
「青コーナー、『神秘の獅子』、ミステリオ・レオパルド!」
 ルチャ・ドールであるミステリオ・レオパルド。その派手な動きに固定ファンもでき、今も観客から野太い声援が飛ぶ。
「赤コーナー、『ウーマンヴァイキング』、クリスティーナ・ローゼンメイヤー!」
 コールに応えてクリスがガウンを脱ぎ捨てると、観客から感歎のため息が洩れる。抜ける様な白い肌、モデルを思わせる美貌と長い脚。すっきりと引き締まった体ながら、バスト部分の水着が盛り上がり、その大きさを誇示している。
 観客からの視線に応えるように高々と掲げられた右手には、オープンフィンガーグローブが装着されていた。

 ミステリオ・レオパルドのボディチェックを終えたレフェリーが、クリスのバストを眺めながらにやつく。
「さ、そっちもボディチェックを受けて貰おうか」
 クリスの前に立ったレフェリーは、少し聞き取りにくい英語で話しかけてくる。クリスは英語も堪能であるため、レフェリーの英語レベルでもはっきりと理解できる。
「しょうがないわね。どうぞ」
 そう言った途端、レフェリーがバストを鷲掴みにしてくる。鼻息も荒く、Jカップバストを揉みくちゃにする。眉を顰めて我慢していたクリスだったが、次第にいらつきの表情へ変わっていく。
「もういいでしょう?」
 クリスの冷たい声音に、レフェリーが固まる。
「私はね、早く闘いたいの。それに・・・弱い男に触られるのって、虫唾が走る!」
「・・・そうかい。この戦闘狂め」
 憎々しげに吐き捨てると、レフェリーはゴングを要請した。

<カーン!>

 ゴングを合図に、クリスは両脇を締め、左足を前に出したオーソドックススタイルに構える。そのため美巨乳が左右から挟まれ、淫靡に形を変える。
「うーん、絶景だぶぁっ!?」
 いきなりの左ジャブに、ミステリオ・レオパルドが右頬を打たれる。幾らバストに注意が行っていたとは言え、恐ろしい速さのジャブだった。
「余所見してると、危ないわよ?」
 微笑むクリスとは対照的に、ミステリオ・レオパルドの表情が引き締まる。
「忠告どうも。悪いな姉ちゃん、舐めてたよ」
 英語で返した後、ミステリオ・レオパルドは軽いステップでタイミングを計る。何度かステップインを試みたものの、クリスのジャブで追い返される。ブロックはしているがその腕に鈍い痛みが残る。
「ちっくしょー・・・これだけ鋭いジャブ持ってるのは反則だぜ」
「あら、ジャブが反則だなんて初耳だわ」
「勿論冗談だ・・・よっ!」
 ミステリオ・レオパルドはガードを固めて突っ込んでいく。
(懲りない男ね!)
 先程同様左ジャブで迎撃しようとしたクリスだったが、目標のミステリオ・レオパルドの姿が消える。
「え?」
 ミステリオ・レオパルドはスライディングしてクリスの股の間を抜け、背後を取っていた。そのまま背中合わせにクリスを持ち上げてカナディアンバックブリーカーに捕らえ、バストを持ってフックする。
「しまった! ってどこ触ってるのよ!」
 素早くカナディアンバックブリーカーを掛けたミステリオ・レオパルドは、胸をフックしていた両手を水着の隙間から差し込み、クリスのバストの感触を味わう。
「うっは、生の感触が堪んねー!」
「くっ・・・このっ!」
 不安定な体勢から、クリスの肘打ちがミステリオ・レオパルドの後頭部を捉える。
「いてっ! こんの!」
 後頭部の痛みに腹を立てたミステリオ・レオパルドは、バストを掴んだままリングに叩きつける。
「ったく、油断も隙もなっ!?」
 立ち上がろうとしたミステリオ・レオパルドの後頭部に、クリスの右踵が打ち込まれる。不完全な状態からの一撃のため大打撃とはいかなかったものの、ミステリオ・レオパルドの動きが一瞬止まる。その隙に距離を取ったクリスが素早く立ち上がる。
「闘いの最中に人の胸を触ってくるなんて、随分と余裕があるじゃない」
「だって、それだけおっきいんだぜ? 男ならつい手が出るって」
 ミステリオ・レオパルドの言葉に、レフェリーどころか殆どの観客が頷く。
「まったく、男って嫌ね」
 ただ純粋に闘いたいだけなのに、欲望を剥き出しにして厭らしく触ってくる。パンクラチオンの道場でもそんな男が殆どだった。
「少しは楽しませてよ」
「ご期待に応えて!」
 タイミングを計り、ミステリオ・レオパルドがタックルに入る。上手く左ジャブは掻い潜ったものの、右フックに迎撃される。
「くっそぉ・・・正攻法じゃ無理か?」
 悩む間もなくクリスの連打が襲い掛かってくる。
「それなら!」
 身を低く縮め、前転からバックを取る。
「そぉれっ!」
 素早く腰をクラッチし、ジャーマンスープレックスでリングに叩きつける。しかしフォールには行かずにクリスの腰をフックしたままローリングし、うつ伏せにしたクリスの両足首を自分の脇で挟み、そのまま手首を持って思い切り引き上げる。
 <カンバーナ>。
 釣り鐘固めとも呼ばれる関節技に、クリスの口から苦鳴が洩れる。
「くっ・・・うぅ・・・」
 カンバーナに捕らえられたクリスにレフェリーが近づき、膝をつく低い体勢でクリスの左右のバストを揉む。
「クリスティーナ選手、ギブアップか?」
 レフェリーは重力に引かれてより大きさを増したように見える巨乳を捏ね回し、ギブアップの確認をする。
「だ、誰がこれくらいで・・・んんんっ!」
 四肢の関節と腰に奔る痛みを耐え、ギブアップを拒む。バストへ与えられる刺激は不快感をかき立てる。
「し、試合中にレフェリーが触ってくるなんて、反則じゃないの」
「レフェリーに反則なんてあるわけないだろうが! これはな、クリス選手が意識を失わないようにマッサージしてるだけだよ。親切だろう?」
「何が親切よ、やめて!」
 クリスは首を振ってバスト責めを拒もうとするが、両手両足が極められていてはそれも敵わなかった。
「いつまでもこれじゃ楽しくないよな」
 ミステリオ・レオパルドはクリスの足首を抱えていた両脇のフックを外し、右足でクリスの背中を押さえたサーフボードストレッチの状態から後方へ投げを打つ。
「あぅっ!」
 後頭部をリングにぶつけられたクリスが、そこを押さえて呻く。ミステリオ・レオパルドは余裕を持って馬乗りになり、マウントポジションを取る。
「へへっ、また触らせて貰うぜ!」
 バストへと両手を伸ばすが、クリスに下から左手を手繰られ、体勢を崩したことでするりと上下を逆にされ、自分がマウントポジションを取られていた。
「よくまあ散々、人の身体を好き勝手にしてくれたわね」
 指をぱきぱきと鳴らすクリスの迫力に、ミステリオ・レオパルドの顔が青ざめる。
「そ、そんなに怒るなよ。美人が台無しだぜ?」
「あら、忠告ありがとう。では、冷静に殴らせて貰うわ」
 クリスは軽く握った拳の小指側を、ミステリオ・レオパルドの顔にこつり、こつりと当てていく。ミステリオ・レオパルドにとってはまるでダメージがないが、ブロックしようとしたその手の隙間を抜けられ、またもこつり、こつりとやられる。痛みがないだけに逆に不気味だった。
 そんな状態が一分も続いただろうか。
「あなたの癖もだいぶわかったし、そろそろ・・・本気で行かせて貰うわね」
 クリスの浮かべた極上の笑みに、ミステリオ・レオパルドの脳裏には「もしこれがベッドの上ならば」と不謹慎な考えが浮かんだ。
 その報いは強烈だった。
「がぶふっ!」
 いきなり鼻に熱が生じ、痛みが遅れてやってくる。
「がはっ、ぷぁっ、ぶはっ!」
 痛みに声を上げようにも、鼻で呼吸ができずくぐもった声しか出ない。鼻をガードしても目や頭にパンチの連打が降って来る。痛みと衝撃に徐々に意識が遠のいていく。
「とどめ、いくわよ!」
 クリスが右拳を振り上げた瞬間、ミステリオ・レオパルドの指が下半身へ伸び、一点を突く。
「あっ!」
 水着の上からとは言え淫核を押さえられ、クリスが思わず腰を浮かす。隙間ができたことでミステリオ・レオパルドはブリッジから体を捻ってクリスを落とし、漸くマウントポジションから脱出する。
「あっつっつ・・・凄ぇパンチ力だな。鼻折れてないだろうな・・・」
 ミステリオ・レオパルドは左の鼻の穴を押さえて右の穴に溜まった鼻血を吹き出し、反対側も同じようにして通りをよくする。鼻血はもう止まっているようで、苦しそうな呼吸はしていない。
「また変なところを触ってきて・・・お仕置きが足らないみたいね!」
 素早いステップから、クリスの連打が開始される。
「くそっ、相変わらずスピードが落ちないな・・・これでどうだ!」
 ミステリオ・レオパルドは連打の僅かな隙間にローリングソバットで割り込み、連打を止めようと試みた。
「そんな蹴り!」
 クリスはミステリオ・レオパルドのローリングソバットをうなじを掠らせるようにしてぎりぎりでかわし、まだ宙に浮いているミステリオ・レオパルドの腰を掴んで後方に投げ捨てる。
「がはっ!」
 この威力に、さすがのミステリオ・レオパルドも苦鳴を放つ。
「これで、とどめ!」
 すかさず追撃にいこうとしたクリスだったが、ぷつり、という微かな音が耳に入った。何の音かと疑問に思う前に、水着の紐が落ちていくのが目の端に入る。
「きゃぁぁぁっ!」
 首の後ろで支えていた紐が切れ、美巨乳が零れそうになってしまった。慌てて胸元を隠し、紐を結び直そうとしたクリスだったが、ミステリオ・レオパルドがその隙を見逃す筈がなかった。
「チャーンス!」
 タックルで転がし、再びマウントポジションを取る。太ももの辺りに座ると、クリスの股間を撫で回す。
「くっ、今度はそこ? 厭らしいことしてないで、闘いなさいよ!」
 左手で胸元を隠しながら右のパンチを放つが、ミステリオ・レオパルドに軽くいなされる。
「片手で俺を殴ろうなんて、無理無理。両手ならわからないけどなぁ」
(悔しいけど、彼の言うとおりだわ。覚悟を決めて・・・)
 両手をバストから放した瞬間、レフェリーからその両手を押さえ込まれてしまう。
「なっ!」
「おっと、まだ水着が引っ掛かって乳首が見えないな」
「レフェリー、選手に手を貸すってどういうこと!? 恥を知りなさい!」
 クリスの正当な非難にも、レフェリーはにやつきを返すだけだった。
「なに、今から恥ずかしい思いをするのはクリスティーナ選手だよ」
「そうだぜ、ほら、少しずつ胸が見えていくぜ・・・」
 ミステリオ・レオパルドが水着の端を持ち、徐々に下げていく。
「ほらほら、おっぱい丸出しになってもいいのかな? ギブアップするなら今のうちだぜ?」
 クリスがギブアップなどしないとわかった上での挑発だった。クリスの頬が屈辱と羞恥に赤く染まる。
「負けることの悔しさより、見られる恥ずかしさのほうがまだましよ!」
「ギブアップしないのかい? それなら・・・ほーら、見えたぁ!」
 ミステリオ・レオパルドが水着を捲ったことで遂に美巨乳が露わとなり、観客から大歓声が上がる。クリスの呼吸に合わせて量感たっぷりの巨乳がふるふると揺れ、その頂点には薄い桃色の乳首が色づいている。
「くっ・・・」
「うわぉ、ちょっと動いただけで波打ってるぜ」
 ミステリオ・レオパルドはクリスのバストから目を離せず、重たげに揺れる様を眺め続ける。
「・・・おっと、見てるだけじゃ勿体無い、それじゃこれから」
 ミステリオ・レオパルドは拍手(かしわで)を打った後、クリスのバストを撫でる。
「うお、これだけで揺れてる。どんだけ柔らかいんだよ」
「いい加減にしなさい! ちゃんと闘いなさい!」
 身を捩りながら正当な闘いを望むクリスだったが、男達にクリスを解放する気などなかった。
「そうやって動くたびにおっぱいが色っぽく弾んでるぞ。畜生、俺も生乳触りてぇ」
 クリスの手を押さえているため手出しができないレフェリーが、恨めしげに呟く。
「まあそう言うなよレフェリー、俺が代わりにしっかり揉んでやるから!」
 ミステリオ・レオパルドはクリスの美巨乳を鷲掴みにし、捏ね回す。
「なんだこのおっぱい、うっわ、堪んねぇ!」
 どこまでものめり込むような柔らかさなのに、指を跳ね返そうとする弾力も備えている。
「い、いつまでこんなこと・・・くぅっ」
 身を捩るクリスなど気にも留めず、レフェリーは淫らに揺れる乳房に目が釘付けになってしまう。
「見てるだけで堪らんな、まるで別の生き物みたいだ」
「そうだろ? ほら見てみろよ、こうすると・・・ぷるるーんってなるぞ、ぷるるーんって!」
 ミステリオ・レオパルドは何度もクリスの乳房を下から弾ませ、柔らかな揺れを楽しむ。
「乳首も綺麗な色してるなぁ。あんまり遊んでないのかな?」
 ミステリオ・レオパルドは乳首を弄り、乳房を捏ね、自分の欲望を満たそうとする。
(くっ、人の胸を好き勝手して・・・あ・・・)
 しつこく責められたことで、クリスの意思に反して乳首が立ち上がってしまう。
「お、乳首が大きくなったぞ。闘いもいいけど、気持ちいいこともいいだろ?」
「・・・なに言ってるの」
 クリスの冷たい声音に、ミステリオ・レオパルドの動きが一瞬止まる。
「・・・いいさ、俺は触ってて気持ちいいからな」
 それでも乳房と乳首を弄り続けるミステリオ・レオパルドだったが、クリスの次の一言で頭に血が上ってしまう。
「触らないでよ下手くそ」
「・・・そういうこと言うのか。それじゃ折角だ、下も拝見させてもらうぜ!」
 ミステリオ・レオパルドは水着の端を掴み、腹部まで露出させると更に下げていく。この男心をそそる光景に、レフェリーも思わず身を乗り出してしまう。これでクリスを押さえる力が弱まり、金的を打たれてリングに倒れこむ。
「あ、やべ・・・」
 危険を察知したミステリオ・レオパルドだったが、クリスの反応が速かった。上半身を起こすと同時にミステリオ・レオパルドの頭を脇に抱えて喉に右腕を巻きつけ、フロントチョークに捕らえる。
「ぐえぇぇ・・・」
 ミステリオ・レオパルドの後頭部にクリスの極上のバストが押しつけられているが、喉を絞められる苦しさに柔らかい感触どころではない。
「二対一でかかってくるだけじゃなく、人の大事なところまで見ようなんて・・・もうお仕置きでは済まないわよ」
 クリスは逃げられないように両足でミステリオ・レオパルドの両膝をフックし、一層締め上げる。
「あぐぅ・・・」
 苦しみながらタップするミステリオ・レオパルドだったが、止めるべきレフェリーは倒れており、クリスも知ったことかとばかりに締め上げ続ける。ミステリオ・レオパルドの両手が力を失って垂れ下がったときに、ゴングが鳴らされた。

 <カンカンカンカン!>

 ゴングを聞いたクリスは、やっとミステリオ・レオパルドを解放した。水着の紐を手早く首の後ろで結び直し、もたれてくるミステリオ・レオパルドの体を蹴飛ばして立ち上がる。
「まったく、時間の無駄だったわ」
 金髪を手櫛で後ろに流し、クリスが吐き捨てる。リングに横たわる男二人に冷たい視線を投げた後、リングを降りて花道を下がっていく。
 美しくも凄まじい強さを見せつけたクリスの退場を、観客は声もなく見送っていた。


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