【第四十一話 都修麗羅:プロレス】

 犠牲者の名は「都修(つしゅう)麗羅」。22歳。身長171cm、B86(Dカップ)・W65・H89。黒い短髪、切れ長の目、長い睫毛、常にへの字に結ばれた唇という気の強さを見せつけるような容貌をしている。プロレス団体「JJJ」(トリプルジェイ)に所属するトップレスラー。そのファイトスタイルに加え、苗字の「修」と名前の「羅」を併せて「修羅姫」と呼ばれるラフファイター。打撃技を得意とし、特にエルボーは一撃でKOできるほどの切れ味を持つ。
 最近須座久菊奈の様子がおかしいことに気づいた麗羅は菊奈を問い詰め、<地下闘艶場>の存在を知った。
「あたしがあんたの敵を取ってやるよ!」
 社長の斉原楓に直談判し、麗羅は自ら煉獄のリングへと赴いた。


「くっそ・・・なんだこの水着!」
 麗羅に用意された衣装は、黒のビキニだった。上はハーフカップブラ、下はエグイ角度のTバック。ちょっとでも動けば色々見えてしまいそうだ。
「ま、こんなこともあろうかと用意しといてよかったぜ」
 麗羅は一人呟くと、準備を始めた。

 ガウンを羽織った麗羅が花道に姿を現すと、スポットライトが浴びせられる。強烈な光に怯むことなく、麗羅は歩を進める。麗羅が纏った一流のオーラに、普段は卑猥な言葉を投げつける観客も知らず沈黙し、麗羅を見つめていた。
 麗羅がリングインすると、リング上で待ち構えていたのはレフェリーともう一人。以前、試合が終わった菊奈を嬲ったマスク・ド・タランチュラだった。
 今回<地下闘艶場>へ出場するに当たり、麗羅はマスク・ド・タランチュラ(名前までは知らなかったが)との対戦を条件にしていた。
(菊奈、こいつをぶっ潰してやるから楽しみに待ってな!)
 麗羅の目が鋭さを増した。

「赤コーナー、マスク・ド・タランチュラ!」
 人間離れした長腕を高々と差し上げ、マスク・ド・タランチュラがコールに応える。その口元にはにやけた笑みが浮かんでいる。
「青コーナー、『JJJの修羅姫』、都修麗羅!」
 コールと共にガウンを脱ぎ捨てた麗羅は、自前の紅の衣装を身に着けていた。上半身はVの字とその底辺に横一本線を加えたようなもので、下半身はスパッツを思わせるサイズでサイドにカットが入れられている。
「お前、こちらが用意した衣装を身に着けないのは契約違反だぞ!」
「この下にちゃんと着けてるよ! 見ればわかるだろ!」
 麗羅が示した通り、Tバックの紐が衣装から覗いている。
「じゃあ脱げ! こっちが用意した水着だけ着るんだ!」
「・・・あぁ?」
 麗羅の眼光に、レフェリーが射竦められる。
「こっちがここまで譲歩したんだ、それでいいだろ?」
 静かな口調だったが、レフェリーの頬を冷や汗が流れる。
「くっ・・・こ、今回だけだぞ!」
 麗羅の迫力に負けたレフェリーがマスク・ド・タランチュラのほうを向いて何か言おうとしたその瞬間、レフェリーの体を死角とした麗羅のジャンピングニーパットがマスク・ド・タランチュラに突き刺さる。
「ぐへぁっ!」
 その威力に倒れ込んだマスク・ド・タランチュラはリング下に逃れ、頬を押さえて蹲る。
「おい待て、まだゴングは鳴ってないぞ!」
「んなこと知るか! あたしが始めたいときが試合開始なんだよ!」
「そんな勝手な理屈があるか!」
 麗羅は慌てて止めようとしたレフェリーを振りほどき、睨みつける。肉食獣を思わせる迫力に、レフェリーの腰が引ける。しかしそのとき、リング下から伸びたマスク・ド・タランチュラの両手が麗羅の足首を掴み、一気に引っ張った。
「あっ・・・」
 麗羅が防ぐ間もなくうつ伏せにリングに倒され、股間を派手にコーナーポストにぶつけられる。
「ぐぅぅっ!」
 股間を襲った痛みに、さすがの麗羅も苦鳴を洩らす。
「おーおー、かわいそうに。男じゃなくて良かったな」
 股間を押さえて呻く麗羅に近づき、レフェリーが衣装に手をかける。
「な、なにしやがる・・・」
「なにって、脱がすのさ。当然だろう?」
 しかし麗羅は片手で衣装を押さえ、それをさせない。
「なんだ、先にボディチェックがお望みか?」
 レフェリーはうつ伏せの麗羅に跨り、隙間からバストを触る。
「さ、触んな変態野郎・・・」
「口が悪いな、都修選手。ボディチェックを受けるのはレスラーの基本だろ?」
 その間にもマスク・ド・タランチュラから両足を引っ張られ、股間をポストに押し付けられる。
「麗羅ちゃん、ゴング前に仕掛けてくるのはお行儀が悪いぜ。暫くこの状態で反省しな」
 マスク・ド・タランチュラは足をただ引っ張るだけでなく、上下に揺することで秘部を刺激してやる。
「くそぉ・・・!」
 麗羅は太ももでポストを挟み、ロープも掴むことで足を抜こうとする。それを見たレフェリーが、バストから手を放して麗羅の足側に移動する。
「!」
 レフェリーはコスチュームの下を持ち、下ろしていく。
「てめぇ、やめろクソレフェリー!」
「嫌なら足をそのままにしとけばいいじゃないか。そうすれば脱がそうにも脱がせないんだからな」
「脱がさなきゃいい話だろ!」
 片手でロープを持ち、逆の手で衣装を押さえていた麗羅だが、片手ではレフェリーの力に敵わず、ヒップの下までずり下ろされてしまう。
「くそっ!」
 麗羅は衣装を守ることは諦め、ロープを両手で掴んで無理やり足を引き抜く。
「今だっ!」
 その隙にレフェリーから紅のコスチュームが脱がされ、黒のTバックが観客の目にも晒される。
「ほぉぉ、お尻が殆ど丸出しじゃないか。そんな格好で恥ずかしくないのか?」
「てめぇ・・・自分達で用意しといて何言ってやがる!」
「俺はレフェリーだからな、運営とは関係ない」
 レフェリーは紅の衣装をリング下に投げ、肩を竦める。
「あたしからすりゃ一緒だよ!」
 凄む麗羅だったが、背後から忍び寄ったマスク・ド・タランチュラからフルネルソンで捕らえられる。
「よし、そのまま押さえとけよ」
 近づいて衣装に手を掛けたレフェリーだったが、麗羅の膝が金的に入り、リングに倒れて悶絶する。
「お・・・ぐぅ・・・」
「触んなエロレフェリー!」
「麗羅ちゃん、レフェリーに手を出しちゃ駄目だぜ、っと!」
 マスク・ド・タランチュラからドラゴンスープレックスでリングに叩きつけられ、麗羅の動きが止まる。
「それじゃ、代わりに俺が脱がしてやるよ」
 そのままコスチュームの上も脱がされ、黒のビキニ姿にされてしまう。
「なんだ、出るとこ出てるじゃないか。でも、胸も筋肉じゃないだろうな」
「・・・どこまでもふざけた奴だな!」
 麗羅の怒りのアリキックが、マスク・ド・タランチュラの左太ももを抉る。寝転がった状態からのキックだったが、この一撃にマスク・ド・タランチュラの表情が変わる。
「女だからって舐めてたぜ。ちょっと本気出すぜ!」
 マスク・ド・タランチュラは立とうとしていた麗羅を肩に担ぎ上げ、アルゼンチンバックブリーカーに捕らえる。当然ただのアルゼンチンバックブリーカーではなく、長い腕を伸ばしてバストと秘部を責めている。
「ほーら、どうだい麗羅ちゃん? 苦しいだけじゃないのが堪らないだろ?」
「な、なに言ってやがる・・・あぅっ!」
 腰骨が軋みを上げ、バストと秘部からは不快な刺激を受ける。
「やめろっつってんだろ!」
 麗羅の掌底がマスク・ド・タランチュラの右目を打つ。
「痛っ! なにしやがる!」
 マスク・ド・タランチュラはアルゼンチンバックブリーカーの体勢からショルダーバスターに繋げる。
「ぐぁぁっ!」
 その威力に、麗羅の左肩に激痛が走る。左肩を押さえてのたうつ麗羅に、マスク・ド・タランチュラが馬乗りになる。
「さて、改めておっぱい触らせて貰おうか」
 そのまま麗羅のバストを掴み、捏ね回す。
「思ったとおりの固い感触だな。胸まで筋肉なんじゃないか?」
「ふざけろこの野郎!」
 麗羅はマスク・ド・タランチュラの左手首を捕らえ、左肘に掌底を入れる。
「ぐあっ!」
 肘関節を逆に曲げられる痛みに、マスク・ド・タランチュラは左肘を押さえて蹲ってしまう。この隙にマスク・ド・タランチュラの下から這い出そうとした麗羅だったが、マスク・ド・タランチュラは逃すまいと右手を伸ばす。その指が、ブラに掛かった。
「おっ!」
 ハーフカップブラがずれ、麗羅の乳首が顔を出す。それに気づいたレフェリーが思わず声を洩らす。
「!」
 それに気づいた麗羅が慌ててブラを直す。
「折角見えたのに隠すなよ」
 レフェリーのにやついた顔に鋭い視線を突き刺すが、マスク・ド・タランチュラに後ろからバストを鷲掴みにされてしまう。
「試合中に隙作っちゃ駄目だぜぇ麗羅ちゃん」
「てめぇ、何度も人の胸触んな!」
「お前もレフェリーに金的攻撃をするんじゃない。どれだけ痛いかわかるか?」
 レフェリーは麗羅の秘部を撫で、弄り回す。
「てめぇら、人の身体を弄繰り回してんじゃねぇっ!」
 マスク・ド・タランチュラの顎に頭突きを入れ、レフェリーを蹴り飛ばして男達を引き剥がす。
「あぐぐ・・・」
 油断していたところに食らった頭突きはかなりの威力だった。顎を両手で押さえて呻くマスク・ド・タランチュラだったが、それでもダウンはせず、片膝立ちで痛みを堪える。
「こいつも食らいなっ!」
 麗羅の右肘が一閃する。ぎりぎりでかわしたマスク・ド・タランチュラだったが、そのエルボーでマスクが切れ、左の眉と目元が覗く。
「うぉっ、やべっ!」
 慌てて切れた部分を隠すマスク・ド・タランチュラだったが、麗羅は裂け目に指をかけ、更に広げる。
「なんてことするんだ!」
 レフェリーが麗羅を羽交い絞めにし、マスク・ド・タランチュラから引き離す。
「うるせぇ! このクソ野郎に思い知らせてやんなきゃならないんだよ!」
 怒りの表情の麗羅はレフェリーの手を振り解き、凄まじい眼光で睨みつける。
「しかしな、マスクを破くのは反則だ!」
「うるせぇよ!」
 言い合う麗羅とレフェリーの後ろから、取り敢えずテーピング用のテープで応急処置をしたマスク・ド・タランチュラが忍び寄る。
「麗羅ちゃんよ、覆面レスラーにやっちゃいけないことやってくれたな・・・罰として、ブラは貰った!」
 マスク・ド・タランチュラの手が麗羅のブラを奪い取り、麗羅はセミヌード姿となってしまった。
「へえ、ちっちゃめの乳首だな」
「・・・てめぇ」
 残ったなけなしの理性も吹っ飛び、麗羅がぶち切れた。
「ざけんじゃねぇぞコラァッ!」
 マスク・ド・タランチュラの股間に手加減抜きの一撃を入れ、倒れこんだマスク・ド・タランチュラに蹴りの連打を浴びせる。
「待て、それは反則・・・」
「るっせんだよぉっ!」
 後ろから止めようとしたレフェリーに、振り向きざまエルボーを入れる。プロレスラーもKOできる一撃を喰らい、レフェリーがぐにゃりと崩れ落ちる。
「こンの変態野郎が!」
 大の字になったレフェリーの脇腹にトーキックを突き刺し、血走った目でマスク・ド・タランチュラを睨む。
「お前も同罪だァッ!」
 股間の痛みに抵抗できず、マスク・ド・タランチュラは麗羅の猛撃をガードするしかなかった。

<カンカンカンカン!>

 トップレスになっても怯まぬ麗羅の暴れっぷりに、ゴングが打ち鳴らされる。レフェリーも倒れたまま、<地下闘艶場>では初のノーコンテストとなった。
 黒服三人掛かりで漸く退場させられていく麗羅の姿に、観客達も声がなかった。


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