【第四十二話 栗栖美葉音:柔道+捕縛術】

 犠牲者の名は「栗栖美葉音(みはね)」。20歳。身長163cm、B93(Gカップ)・W62・H86。赤みがかった長髪と豊かなプロポーションを修道服で覆い隠し、聖母を思わせる優しさと美しい容貌を持つ小さな教会のシスター。洗礼名はマリア。透き通るような歌声を持ち、その美しい賛美歌は遠方より聞きに訪れるクリスチャンもいるほど。
 美葉音はずっと教会で育った。教会の前に捨てられていた赤子の美葉音を神父が拾ってくれ、養子としてくれたからだ。アメリカ人を父に、日本人を母に持つヨハネ栗栖神父は慈愛に満ちた人物で、拠りどころのない子らを養い、苦しい運営ながら何十人もの子どもたちを育て、独り立ちさせていった。養子である美葉音も栗栖神父を手伝い、現在まで苦労と喜びを分かち合ってきた。
 しかし、教会に<地下闘艶場>の使者が現れたその日。美葉音の運命が変転した。
「貴方の本当のご両親を知りたくありませんか?」
 この一言に、美葉音の心は千々に乱れた。自分が捨てられていたという過去は栗栖神父から聞かされている。一時はそのことに思い悩んだが、神父の愛情に救われた。しかし、心の奥底では両親のことを知りたいと思い続けていたのも事実だ。
 神父と両親への想いに悩む美葉音だったが、使者の申し出に心を決めた。美葉音が<地下闘艶場>で闘えば、多額のファイトマネーが手に入る。逼迫した教会の運営も立て直せるかもしれない。しかも勝てばファイトマネーは倍増され、実の両親の情報も教えて貰える。
 教会を救えるファイトマネーと自分の過去。美葉音は裏があると感じつつ、<地下闘艶場>への参戦を決めた。


「こ、これは・・・」
 美葉音に用意された衣装は、普段着慣れた修道服だった。ただし、普通の修道服ではない。腰から上は普通のものだが、下半身はミニスカート仕様となっている。しかもスリットまで入れられ、太ももの付け根までが衆人の目に晒されてしまうだろう。
「こ、こんな破廉恥な格好で闘わなければならないなんて・・・」
 神に仕える身である自分が太ももも露わに闘う。そのことが罪に思え、十字を切って神に謝罪する。
「天におわします神よ、お許しください」
 神からの応えは、届かなかった。

 花道に姿を現した美葉音にスポットライトが当てられ、その楚々とした美貌と露わな脚線美に観客席から歓声が起こる。
(こんなに多くの見物人がいるのですね・・・)
 人の多さに気圧され、歩が遅れがちになる。そんな美葉音に、観客席からからかい混じりの声援が掛けられる。美葉音がリングに近づくにつれ段々と際どい言葉が増え始め、遂には「シスター、俺の息子を慰めてくれよ!」と叫ぶ者まで出てきた。この下品な冗談に美葉音は顔を赤らめ、下を向いてしまう。
 それでもなんとかリングに辿り着き、階段を上ってリングインする。ロープをくぐる瞬間ちらりと下着が覗き、また観客席から歓声が起こる。慌てて隠す姿がまた男の欲情を誘う。
 美葉音は、早くも後悔し始めていた。

「男性が相手、ですか・・・」
 リングにいるのは二人の男性。おそらくレフェリーと美葉音の対戦相手だろう。
(大丈夫、私ならできます。落ち着いて闘えば大丈夫だから・・・)
 高校で柔道を、警察官になった教会出身者に捕縛術を習った美葉音なら、男相手でも闘える筈だ。早鐘のように鳴る心臓からは意識を逸らし、美葉音は自分に言い聞かせた。

「青コーナー、"クラーケン"伊柄(いがら)克彦!」
 <地下闘艶場>初登場となる伊柄。優男で青いレスリングタイツから伸びた手足は細長く、一見すると強さを感じられない。しかし細いと見えた手足は鍛えて絞り込んだ肉体であり、見る者が見れば感心するほど見事なものだった。
「赤コーナー、『麗しきシスター』、栗栖美葉音!」
 コールに応えることもできず、観客からの視線にもじもじと恥ずかしがる美葉音の様子は男達の嗜虐心をそそる。
「今日は三ツ原凱(がい)がレフェリーを務めます」
 美葉音が知ることではなかったが、今日のレフェリーはいつものレフェリーではなかった。前回の試合で都修麗羅から手酷いダメージを受け、今回の試合に回復が間に合わなかったのだ。凱も伊柄とは違った種類の端整な顔立ちで、立っているだけで絵になる。
 レフェリーの凱は伊柄と美葉音を呼び寄せ、諸注意を与えた後一旦コーナーに下げさせる。そうして伊柄に簡単なボディチェックを行う。
 伊柄のボディチェックを終えた凱が美葉音に歩み寄り、ボディチェックを促す。
「どうしてですか? 貴方は男性じゃないですか」
 男性に触られることに嫌悪感を覚える美葉音が、凱から一歩退く。
「ボディチェックで凶器を隠していないか調べる。これはプロレスには必要なことなんですよ」
「か、神に仕える者が凶器などと・・・!」
「その言い方だと、ボディチェックは受けない、と聞こえますよ? そうなると試合が始められないんですがね」
 凱の言葉に、美葉音の表情が曇る。
「わ、わかりました。どうぞ、お調べください」
 試合をしなければ、ファイトマネーを受け取ることも、生みの親の情報を得ることもできない。自らに言い聞かせ、ボディチェックを受け入れる。
「わかって貰えましたか。では、動かないように」
 凱はベールを押さえることから始め、徐々に下へと手を下ろしていく。
「おおー・・・ここは大きいですね。何か入れてますね?」
 凱はわざとらしくバストを掴み、捏ね回してくる。
「そ、そこは胸です! 入れているわけではありません!」
「おっと、それは失礼しました。ここまで大きいとは思わなかったもので」
 言葉では謝罪しながらも、凱の手はバストから放れようとしない。
「これはボディチェックではありません、セクシャルハラスメントです!」
 思わず胸を庇って凱を睨んだ美葉音だったが、凱の態度は揺らぎもしなかった。
「凶器の使用を認めていない以上、試合前にボディチェックするのは当たり前です。しかもこれだけ大きい膨らみ、何か隠しているかも知れないと疑うのは当然でしょう? もし触られるのが嫌だと言うなら、この場で服を脱いで頂けますか?」
 理路整然と述べられると、反論できない。まさかリングの上で裸になることもできず、美葉音は追い込まれた。
「あの・・・うぅっ・・・ボ、ボディチェックを・・・受けます」
「わかって頂けましたか。それでは、動かないでください」
 凱はまた美葉音のバストを掴み、ゆったりとしたリズムで揉んでいく。
「うぅっ・・・」
 男の手に自分のバストを好きにされている状況に、美葉音の眉が寄る。それでも約束どおり逃げることはせず、不快な思いを噛み殺す。
 凱の手は漸くバストから放れ、脇の下を通り、ヒップを撫で回す。最後に太ももへと移り、丹念に擦ったところでボディチェックは終了した。
「それではこれから試合を開始します。ゴング!」

<カーン!>

(神に仕える私が、なぜこのような目に・・・)
 ボディチェックを引きずり、気持ちが切り替わらない。動揺そのままに、伊柄からタックルで倒される。
(しまった!)
 いきなりのピンチに、美葉音のスイッチが切り替わる。圧し掛かってくる伊柄の左手を手繰って体勢を崩し、素早く背後を取る。そのまま左腕を捕ると同時にリングに押さえつけるが、伊柄は完璧に極まる前にリングを蹴り、前転することで関節技から逃れる。
(逃しません!)
 美葉音はまだ掴んだままの左腕を腕ひしぎ十字固めに極めようとするが、伊柄に左手首を持たれ、逆に腕ひしぎ十字を狙われる。
(!)
 寸前で逃れることができたが、伊柄の寝技は恐るべきレベルだった。
「やるのぉシスター。ちぃと甘ぉ見てたわぃ」
 立ち上がった伊柄は唇の端を上げ、小さく笑う。なまじ整った顔立ちのため馬鹿にしたように見え、美葉音の神経を逆撫でする。
(でも、かなりの実力者だわ。簡単には行きそうもない・・・)
 伊柄の実力を知ったことで、気楽には前に出られなくなる。精神的にも受身になってしまったことで、伊柄のタックルのフェイントに引っかかり、逆一本背負いでリングに投げつけられる。
「あぅっ!」
 痛みで動きが止まった美葉音に、伊柄がすかさず袈裟固めに入る。
「くぅっ」
 拘束から逃れようと身を捩るが、凱の一言で動きが鈍る。
「シスター、その体勢で暴れると下着が良く見えるんですが、いいんですか?」
 凱の指摘に膝を寄せ、下着を隠そうとする。しかしそのため大きな動きができず、拘束から逃れられない。
「なんやぁ、逃げんのかぃ?」
 そう言って、伊柄がバストを触ってくる。
「ひっ!」
 男の手の感触が、美葉音を動かす。
(こうなったら、恥ずかしがってなんていられない!)
 足を広げて踏ん張り、そこを支点にして漸く逃れる。清楚なシスターが見せた大股開きと清楚な下着に、観客席が大きく沸く。
「ほぅ。上手く逃げたのぅ。じゃが、ここで諦めときゃぁよかったのに・・・のっ!」
 伊柄の高速タックルに、両脚が綺麗に刈られる。
「しまっ・・・!」
 倒されたとわかったときには伊柄の手足が絡みつき、大股開きの体勢にされてしまう。
「きゃぁぁぁっ!」
 自分が取らされた恥ずかしい格好に、美葉音が悲鳴を上げる。
「丁度いい、それでは失礼して・・・」
 近寄ってきた凱が美葉音の股間を撫で回してくる。
「ど、どこを触っているんですか!」
「いえ、先程のボディチェックでここを調べるのを忘れていまして」
 けろりとした口調で言ってのけ、凱は美葉音の秘部を弄るのをやめようとはしない。
(い、いつまでもこのようなこと、されるわけには・・・!)
 美葉音は羞恥を堪え、自分の左脚を抱えていた伊柄の手の甲を打つ。加減なしの一撃に伊柄の力が緩み、すかさず両脚を抜いて自由を回復する。
「ほぅ、あれを逃げるかぃ。じゃけどな、シスター。パンツ丸見えじゃぞ」
 伊柄の指摘どおり、大股開きの体勢から激しく逃げたことでミニスカートがずり上がり、下着が丸出しになっていた。慌ててスカートを直した美葉音に、観客から冷やかしが飛ぶ。
「なんやぁ、サービスが悪いのぅ」
「・・・は、破廉恥な!」
 顔を赤らめて叫ぶ美葉音に、伊柄は肩を竦めて見せる。
「ほいじゃ、こちらで無理にでもサービスさせて貰おうかぃ。シスター、ちぃと大人しうしといてくれや」
 ゆらり、と伊柄が近づいてくる。奥襟を狙って伸ばされた手に意識が行った瞬間、腹部に灼熱感が広がる。
「ぐぶっ!」
 遅れて来た痛みに膝をつき、喘ぐ。
「なんやぁ、腹パンチ一発に大袈裟やのぅ」
 伊柄は美葉音を無理やり立たせ、背負い投げでリングに叩きつける。
「あぐぅっ!」
 伊柄は動きの止まった美葉音の頭側に移動し、両脚で美葉音の背中に回した手を拘束し、Gカップバストを外側から内側に寄せるようにして弾力を楽しむ。
「やっぱでかいのぉ。こりゃぁ堪らんわぃ」
「ギブアップですかシスター?」
 凱は美葉音の太ももを自分の膝で押さえつけ、秘部を弄りながらギブアップの確認をする。
「い、いや、手を放してくださ・・・あぁっ!」
 バストと秘部を弄り回され、後頭部には硬くなった男性のモノが当てられ、あまりの責めに美葉音の意識はどこかに行ってしまいそうだった。
(か、神よ、お助けください・・・!)
 追い込まれた美葉音は神に助けを求めるが、男達から与えられる刺激に祈りも千々に乱れる。
「頑張りますねシスター。ああ、まだここを直接調べていませんでしたね」
 凱の手が下着の中にまで潜り込み、アンダーヘアを撫でてくる。
「ひっ・・・」
 まさかそこまでされるとは思ってもみず、美葉音の口がギブアップの形に開く。
(でも、お父さんとお母さんのことを知りたい! 我慢しなきゃ、勝たなきゃ・・・!)
 それでも、両親への想いは強かった。必死に耐える美葉音だったが、凱の指は更に奥に進み、秘裂をなぞってきた。
「きゃぁぁぁっ!」
 誰にも触れられたことのない秘処を直接触られ、美葉音の体が跳ねる。それでも男達の拘束からは逃れられず、バストと秘裂が責められ続ける。
(知りたい、お父さんとお母さんのことを知りたい! でも、もう・・・)
「ギ、ギブアップ・・・」
 心とは裏腹に、口からは敗北を認める言葉が零れていた。

<カンカンカン!>

 敗北のゴングが容赦なく鳴らされ、男達の責めも終わる。
(これで、両親のことはわからなくなった・・・お父さん・・・お母さん・・・)
 リングに横たわって両親のことを想っていた美葉音に、凱が声を掛ける。
「よく頑張りましたよシスター」
 凱の慰めに鋭い視線を返す。
「そう睨まないでください。ご両親のことは教えられませんが、ヒントはあげられます」
「え?」
「神父さんに一度、ご両親のことをお尋ねしてみてはどうですか?」
「・・・それは、どういう」
 意味だ、と尋ねる前に凱はリングを降りていた。凱の残した言葉に美葉音の頭は混乱していた。
(栗栖神父・・・養父さん・・・)
 神父が何かを知っているというのか。美葉音の心に、重く、暗いものが圧し掛かってきた。


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