【第四十三話 沢宮冬香:テコンドー 其の三】  イラスト:PAPA様

 犠牲者の名は「沢宮冬香」。21歳。身長161cm、B88(Eカップ)・W59・H91。ショートカットにされた栗色の髪。鋭い光を放つ目と細い眉。常に結ばれた唇。見る者に意志の強さを感じさせる整った顔立ち。現在大学生で、テコンドー同好会に所属している。大学対校試合で活躍し、オリンピック候補に挙がったほどの実力の持ち主。
 過去二回<地下闘艶場>に参戦し、冬香はリングで嬲られ尽くした。それを観戦していた権力者からもう一度冬香の闘いを見たいとの声が上がり、三度淫虐のリングへと招かれることになった。

 <地下闘艶場>で冬香と共に嬲られた義姉・琴音は、冬香の兄である夫に離婚を言い渡したが、離婚の手続きは遅々として進まなかった。離婚の直接の原因である<地下闘艶場>での闘いを他人に話すわけにはいかなかったからだ。公にすることは契約違反だったし、なにより冬香にも迷惑が掛かる。そうなると琴音に有利な材料は乏しかった。

 冬香も離婚には賛成だった。琴音が義姉でなくなることに寂しさはあったが、自分の会社を救うために琴音を<地下闘艶場>へと堕とした兄を許せなかった。しかし兄は狡猾に立ち回り、離婚は成立しそうに無かった。
 そこへ、<地下闘艶場>からの誘いが掛かった。「もし勝利すれば、沢宮琴音の離婚を必ず円満に成立させる」との条件を提示された冬香は、三度目の参戦を呑んだ。対戦相手は因縁の相手、マスク・ド・タランチュラ。このことも冬香の参戦を後押しした。


「ま、またこんなHな衣装を用意して・・・!」
 冬香に用意されたのは、俗に言うチャイナドレスだった。当然ただのチャイナドレスではなく、前面と背面の中央部が大きくくり抜かれている。義姉である琴音もチャイナドレスを着せられたことなど知る由もなく、冬香は暫し固まっていた。
(でも、義姉さんのため、義姉さんのためだもの! 我慢しなきゃ!)
 繰り返し自分に言い聞かせながら私服を脱ぎ捨て、用意された衣装へと着替えた。
「待っててね、義姉さん!」
 義姉の琴音に勝利を誓い、頬を叩いて気合いを入れた。



 花道に現れた冬香に、観客達から指笛と野次が飛ばされる。
 ガウンなしで登場した冬香はチャイナドレス姿だった。前面の胸元から腹部までは大きな穴が開き、そこからラベンダー色のブラの大半が顔を覗かせ、背面の更に大きな穴によって肩甲骨から腰までが露わになっており、ブラの紐も露出している。スリットも両側に深く入れられ、前垂れの長さとのアンバランスさが興奮を誘う。手首には中華風の飾りを着け、足にはなにも履かず、素足で歩を進める。
 口を引き結んだ表情で不快な野次を黙殺し、冬香は花道を進む。過去に二度嬲られたリングに向かうのは辛かったが、琴音のためならば耐えることができた。
(絶対にあのバカ兄貴と別れさせてあげるから、待っててね義姉さん!)

 リングで待っていたのは蝶ネクタイ姿のいつものレフェリー(冬香は知らなかったが、先日退院したばかりだった)と、蜘蛛をあしらったマスクをつけた両腕の異様に長い男だった。
(今日こそはこいつを倒してみせる! 義姉さんのために!)

「赤コーナー、マスク・ド・タランチュラ!」
 <地下闘艶場>で過去二回、冬香を徹底的に嬲ったマスク・ド・タランチュラに対し、観客から厭らしい要求が飛ぶ。
「青コーナー、『ベアパンツ』、沢宮冬香!」
 冬香が初参戦時に熊さんパンツを穿いていたことを揶揄するようなコールに、冬香の眉が跳ね上がる。それでも文句をつけることはせず、大きく深呼吸した。

「さぁ、ボディチェックの時間だ。今回は素直に受けてくれると嬉しいんだがな」
「また厭らしいことするんでしょ!? 嫌よ!」
 レフェリーに噛みつくような視線を投げる冬香だったが、次のレフェリーの言葉に固まってしまう。
「それなら試合はできないな。ということは、琴音奥さんの離婚も成立しないってことだぞ。義姉さん思いの冬香選手にしては冷たいこと言うよなぁ」
 闘いが始まらなければ、勝利することもできない。勝利しなければ、義姉の離婚も成立し難い。唇を痛いくらいに噛みしめていた冬香だったが、やがて僅かに頷く。
「ん? ボディチェックを受けるのか、受けないのか? はっきり言わないとわからないぞ」
「・・・ボディチェックを、受けるわ」
 冬香の言葉に、レフェリーがにやりと笑う。
「そうかそうか。今日は物分りが良くて助かるよ」
 剥き出しの肩を軽く叩き、わざとらしく頷いてみせる。
「それじゃ動くなよ」
 そういって冬香のバストへと手を伸ばそうとしたレフェリーが何かに気づく。
「また熊か。どれだけ熊好きなんだよ」
 ラベンダー色のブラの中央部にはリボンと、リボンの真ん中にデフォルメされた熊の顔がワンポイントで付けられていた。
「い、いいじゃない、あんたには関係な・・・いやっ!」
 冬香の言葉を遮るように、レフェリーの手がバストを掴む。
「相変わらず柔らかいのに張りがあるいいおっぱいだな。少し柔らかさが増したんじゃないか?」
「・・・うるさいわね、さっさと終わらせてよ」
「おっと、レフェリーを急かすってことはここに何か隠しているかもしれないな。それじゃ念入りに調べさせて貰おう」
「なんでそうなるのよ!」
 冬香の憤慨など無視し、レフェリーはブラに包まれたバストを揉み続ける。大きく開いた穴のためバストの下半分が露出しており、バストを揉むのに苦労はない。
「も、もういいでしょ? ボディチェックに時間かけ過ぎよ!」
「そうだな、まだ調べるところも残ってるし、おっぱいはここまでにしとくか」
 レフェリーはバストから手を放し、しゃがみ込む。そのまま素足を触り、脹脛から上に行って太ももを撫で回す。
「なんかムチムチしてるな。ここもいいけど次は・・・」
 そのままヒップに到達したレフェリーが怪訝な表情になる。
「・・・なに穿いてるんだ。まさかこれ、ブルマか?」
 冬香が穿いていたのは、タンスの奥から引っ張り出した高校時代のブルマだった。また下着が見える衣装を用意されたときの用心の品で、紺の地味な色合いだった。
「脱げ」
「こ、これくらいはいいじゃない」
「駄目だ。それとも失格になりたいか?」
 こう言われては抗弁できない。渋々ブルマを脱ぎ、レフェリーに渡す。チャイナドレスを着た勝気な美少女がブルマを脱ぐ姿は妙にエロチックで、観客席からは冷やかしの声援が飛んだ。
「それじゃ、これは預かっておく」
「ちょっと、返してよ!」
「心配しなくても試合が終わってから返すさ。お、冬香選手の匂いが残ってるな」
 レフェリーは冬香の目の前でブルマの匂いを嗅いで見せ、冬香の羞恥を煽る。
「・・・この、変態!」
「・・・人を変態呼ばわりか。なら、それに相応しいボディチェックをさせて貰おうか」
 リング下の黒服にブルマを渡して冬香の前に戻り、冬香を冷たく見据える。
「こいつを自分で捲れ」
 レフェリーが前垂れをつつく。
「な、なんでそんな恥ずかしいこと・・・!」
「嫌なら試合は」
「わかったわよ! こうすればいいんでしょ!?」
 半ばやけくそになって前垂れを持ち上げる。前垂れの下からはブラとお揃いのラベンダーのパンティが現れた。パンティの上部中央にはリボンがついており、その真ん中にも熊の顔の飾りがついていた。
「ブラとお揃いの熊の飾りか。『ベアパンツ』の冬香選手にはお似合いだな」
 冬香の持つ下着の中では一番子供っぽくないやつを選んだつもりだが、また熊の飾りのことを言われるとは思わなかった。新しい下着を買って着けるのも誤解されそうで、それも躊躇われた。
「そのまま持ってろよ」
 レフェリーはしゃがみ込み、ヒップに手を回して撫で回す。
「お尻も相変わらずいい感触だ。程よい弾力とでかさ・・・誰かに触って貰ってるのか?」
 レフェリーの言葉と手の感触を無視していると、レフェリーは立ち上がって冬香の顔を覗き込んでくる。
「答えてくれてもいいんじゃないか?」
「なんでそんな質問に答えなきゃならないのよ! ボディチェックは終わったんなら試合を・・・あっ!」
「おいおい、まだここを調べてないじゃないか」
 レフェリーは冬香の秘部に指を這わせ、逆の手でまたもバストを揉んでくる。
(この変態レフェリー! 蹴り殺してやりたい!)
 殺気のこもった視線でレフェリーを見据えるが、冬香にできるのはそれくらいしかなかった。義姉のためには、ボディチェックという名のセクハラにも耐えるしかなかった。

 五分以上にも渡るボティチェックも漸く終了した。
「よーし、それじゃ試合を始めるか」
 散々冬香の身体を弄んだレフェリーが、試合開始の合図を出す。

<カーン!>

「よー冬香ちゃん久しぶり。会いたかったぜぇ」
 マスク・ド・タランチュラが相変わらずのにやけた笑みを浮かべ、冬香の肢体を視姦してくる。
「・・・私も会いたかったわ」
「そうか、相思相愛だったんだな」
 満更でもないマスク・ド・タランチュラの表情が、突如痛みに歪む。
「あんたをぶっ倒すためよ! 勘違いしないでっ!」
 冬香の前蹴りは、マスク・ド・タランチュラの鳩尾を正確に穿っていた。

 琴音と共に徹底的に嬲られたあの屈辱の日から、冬香は一層テコンドーに打ち込んだ。自分と琴音が男に責められる光景を打ち消すため。なにより、男に負けない強さを身に付けるため! 時には他大学へ出稽古に行き、他流派のテコンドー選手とガチンコの組手をしたこともある。
 元々オリンピック代表候補に選ばれるほどの冬香が本気になったとき、その実力は飛躍的に伸びた。今なら本気でオリンピック代表を狙えるかもしれない、そう指導者に思わせるほどだった。

「ぬぐおぉぉぉ・・・」
「どう? 降参したほうがいいんじゃない?」
 鳩尾を押さえて呻くマスク・ド・タランチュラに、余裕たっぷりに告げる。
「・・・まだ始まったばかりなのに降参はできないぜ。それに、俺には秘策があるからな」
「へぇ、じゃ見せてみてよ」
 先制攻撃で気を良くした冬香がマスク・ド・タランチュラに手招きして見せる。
「それは・・・こうだっ!」
「きゃっ!」
 マスク・ド・タランチュラが長い腕を伸ばしてスカートの前垂れを捲り、冬香は反射的に前を押さえてしまう。その隙を衝かれ、マスク・ド・タランチュラのタックルでリングに転ばされる。
(しまった!)
「へへっ、捕まえたぜぇ」
 お腹の上に乗られるマウントポジションを取られ、両手を押さえつけられる。
「放してっ!」
「いやだね。それじゃ、久しぶりにおっぱい触らせてもらおうか!」
 マスク・ド・タランチュラは左手だけで冬香の両手を押さえ、右手でバストを掴む。
「くっ、触らないでよ、変態マスク!」
「相変わらず口が悪いなぁ。ま、そこが冬香ちゃんらしいけどな」
 変態マスク呼ばわりに堪えた様子もなく、マスク・ド・タランチュラは冬香のバストを揉み続ける。
「いい感触だなぁ。何度も対戦させてくれって頼んでた甲斐があったぜ。でも気のせいかな、少しサイズアップしてるような・・・」
「触らないでって言ってるでしょ! 放して・・・あっ!」
 言い募ろうとした冬香だったが、強くバストを掴まれることで言葉を止められる。
「いい感触でも、生乳の感触知ってると物足りないな・・・」
 マスク・ド・タランチュラは冬香を引き起こし、背後から首に腕を巻きつける。
「ふふふ〜ん♪」
 鼻歌交じりのマスク・ド・タランチュラにブラのホックが外され、バストとブラの間に僅かな隙間ができる。
「ちょっと、なにして・・・」
「ほぉら、冬香ちゃん待望の生乳揉みだ!」
「誰も望んでない! ふぁっ、触らないで!」
 乳房を直に揉まれ、冬香の腰が引ける。
「柔らかいのに張りがあるこの感触も久しぶりだぜ! 戻ってきてくれてホントに嬉しいぜぇ」
 マスク・ド・タランチュラはにやけながら、冬香の乳房を捏ね回す。
「どうした冬香選手、腰が引けてるぞ?」
 レフェリーは股間に手を這わせ、冬香の顔を覗き込む。
「あ、また変なとこ触って・・・いやっ!」
「なに、気を失ったら悪いと思ってな、気つけ替わりだ」
「何が気つけよ! やめて! 放して!」
「そうか、それじゃおっぱい揉むのはやめて・・・」
 マスク・ド・タランチュラは冬香の首元を留めているフックを外し、チャイナドレスの前面を大きく開く。
「なにするのよ! 変態!」
「ああ、俺は変態だからな、こうするのさ!」
 マスク・ド・タランチュラは冬香の襟首を掴むと腕から抜けるまで無理やり後ろに引っ張り、上半身はブラのみの姿にしてしまう。冬香はレフェリーの手を弾いて身を翻し、漸くマスク・ド・タランチュラの手の中から逃れる。
「ちょっと、なんてことするのよ!」
 胸元を隠してマスク・ド・タランチュラを睨む冬香だったが、衣装を元に戻そうとした隙を衝かれ、マスク・ド・タランチュラに担ぎ上げられる。
「その科白はまだ早いぜ、次は・・・こうだ!」
 ボディスラムでリングに叩きつけられ、動きが止まった冬香はマスク・ド・タランチュラに馬乗りになられる。
「レフェリー、冬香ちゃんの腕を押さえてくれ」
「ああ、わかった」
 マスク・ド・タランチュラの手がブラに掛かり、上へとずらそうとする。
「まさか・・・やめて、それは!」
「そのお願いは聞けないなぁ。冬香ちゃんのトップレス姿、ご披露といこうぜ!」
 首を振る冬香の表情など無視し、マスク・ド・タランチュラは一気にブラをずらした。
「きゃぁぁぁっ!」
 マスク・ド・タランチュラはブラを冬香の肘までずらし、そこからはレフェリーが持って腕から抜く。露わになった冬香の乳房に、観客席がどっと沸く。
「返して! 私のブラよ、返してよ!」
「ああ、試合が終わったらブルマと一緒に返してやるよ。だから安心しておっぱい揉まれてな」
 レフェリーは冬香ににやけた笑みを見せると、ブラを持ってリング下の黒服へと向かう。
「そうそう、見られるのは嫌なんだろ? 俺が手で隠してやるから安心しろよ」
 そう言ってマスク・ド・タランチュラは冬香の剥き出しになった乳房を掴み、揉み回す。
「いやっ! 触らないで!」
「ってことは、観客に見られたいってことか?」
「違うわよ、そんな意味じゃ・・・あぁっ! だから触らないでって言ってるでしょ!」
 マスク・ド・タランチュラの手の甲を思い切り抓ってやると、マスク・ド・タランチュラは顔を顰め、冬香の両手を押さえてにやりと笑う。
「そんなに触られるのが嫌ならしょうがないな。じゃあ・・・」
 マスク・ド・タランチュラは徐々に顔を下ろしていくと、冬香の乳首をぺろりと舐める。
「ひぃっ! あ、あんた、なにしてるのよ!」
 その鳥肌が立つような嫌悪感に、冬香が暴れる。それでもお腹の上に乗ったマスク・ド・タランチュラを跳ね除けるまでは行かず、左の乳首を唾だらけにされてしまう。
「片っぽだけじゃ可愛そうだからな、反対側もベトベトにしてやるよ」
「訳わかんないこと言わないでよ! やっ・・・嫌だってばぁ!」
 マスク・ド・タランチュラは冬香の拒絶など気にも留めず、右の乳首も舐め回す。
「どうだい冬香ちゃん? 舌の感触も・・・お、身体のほうが正直だな」
 マスク・ド・タランチュラの指摘したように、冬香の乳首が立ち上がっていく。
「嘘・・・こんなの嘘・・・」
「嘘じゃないって。よーし冬香ちゃん、折角だから観客の皆さんにトップレス姿をよーく見て貰って、乳首が立ってるのも確認して貰おう!」
 マスク・ド・タランチュラは冬香を引き起こそうとしたが、その頬を冬香の膝が抉る。
「・・・いいかげんにしなさいよっ!」
 胸板を蹴ってその反動で距離を取り、手早くチャイナドレスを着直し、首元のフックを留める。しかし、穴のせいで下乳が半分以上見えてしまっている。加えてマスク・ド・タランチュラの唾でべとつき、不快なこと極まりない。
「あいてて・・・おっ、ブラチラもよかったけど、生乳が半分見えてるのもそそるなぁ。冬香ちゃんも罪作りだぜ」
「あんた達が用意した衣装でしょ!? 人のせいにしないでよっ!」
 強がって見せた冬香だったが、嫌悪と羞恥から無意識に胸元を庇っていた。
「用意したのは俺じゃないって。罪を着せるのはよくないぜ」
 言葉と共に、マスク・ド・タランチュラの両手が振り回される。普段なら余裕を持って避けられる攻撃も、剥き出しにされた下乳が気になってぎりぎりでしかかわせない。
「どうした冬香選手、動きが鈍いが、調子が悪いのか?」
 レフェリーが後ろから胴を抱えてくる。
「え? なにして・・・」
「おっと、レフェリーに手を出しちゃ駄目だぜ冬香ちゃん」
 思わずレフェリーに攻撃しようとした手を、マスク・ド・タランチュラに掴まれる。
「なに? レフェリーを攻撃しようとしただと? そんな悪い子にはお仕置きだな」
 レフェリーは胴を抱えていた手を上にずらし、冬香のバストの剥き出しになった部分を揉み始める。
「なっ、ちょ、どこ触ってるのよ!」
 やめさせようとした手は、マスク・ド・タランチュラに押さえられて動かせない。
「怒った冬香ちゃんの顔も魅力的だぜ。こんなことしたくなるくらいな・・・」
 冬香の両手首を強く握り、マスク・ド・タランチュラの唇が迫ってくる。
「!」
 反射的な行動だった。
「ぎゃぁぁぁっ!」
 気づけばマスク・ド・タランチュラの下唇に噛みついていた。噛み付かれたマスク・ド・タランチュラは口元を押さえ、ロープ際まで後退する。
「あんた・・・なんてことしてくれようとしてくれてんのよ!」
 怒りの余りおかしな日本語で冬香が叫ぶ。怒りにまかせてレフェリーを振りほどき、口を押さえて棒立ちになっているマスク・ド・タランチュラにダッシュする。
 上体を捻りつつ右の飛び後ろ蹴り、ブロックされた右足を引きつけ、まだ空中にあるうちに左の上段前回し蹴り。更に追撃の右前蹴り。一つの跳躍で三つの蹴りを出したコンビネーションに場内から驚きの声が上がる。着地のときにはスカートの後ろ部分が捲れ、ラベンダー色の下着に包まれる張り出したヒップが一瞬覗く。
 冬香の連撃にふらついていたマスク・ド・タランチュラだったが、仰向けで音高くリングに倒れ込む。
「これで決まりね! レフェリー、カウント取って!」
 マスク・ド・タランチュラを押さえ込んだ冬香がレフェリーを急かす。
 冬香は甘く見ていた。プロレスラーの耐久力を舐めていた。
「・・・まだ、終われないね」
 目を開けたマスク・ド・タランチュラが、無理な体勢から巴投げを打つ。威力はなかったものの、立ち上がった冬香は背後を取られる。
「まずい!」
「逃がすか!」
 マスク・ド・タランチュラの左腕が首を絞めつけてくる。右手は冬香のバストを揉んでいる。
「ま、また変なことして・・・!」
「これくらいで嫌がるなよ。そうだな、ここはどうだい?」
 マスク・ド・タランチュラの右手が下へと移動し、スリットから侵入する。そのまま下着の上から秘部を撫でてくる。
「そこはやめてよ! ひぁぁっ!」
「好きなくせに、今更やめてなんて言うなよ」
 マスク・ド・タランチュラの手は下着の上を這いずり回り、不快中枢を刺激する。
「ほーら冬香ちゃん、ここをこうして・・・直責めだ!」
「いやぁぁぁっ! 触らないで、やめてぇっ!」
 マスク・ド・タランチュラの手が下着の中に突っ込まれ、秘部と淫核を責めてくる。
「どうした冬香選手、ギブアップか?」
 レフェリーは冬香の剥き出しになったバストを触り、揉んでくる。その手は衣装の隙間から進入し、乳首を摘む。
「ひぐっ!」
「ん? まだ固いまんまだな。相変わらず感じやすい身体だなぁ冬香選手」
 冬香の乳首を刺激しながら、レフェリーがにやける。冬香は乳首、乳房、秘部を直接弄られ、望まぬ刺激で快楽の温度を上げられていく。
「や・・・いやぁ・・・」
「嫌ならギブアップすればいいじゃないか。そうだろ?」
 レフェリーの言葉に頷くわけにはいかなかった。冬香が諦めれば、義姉の一生は不幸なままになってしまう。
「なあ冬香ちゃん、俺冬香ちゃんが大好きなんだよ。もし俺と付き合ってくれるっていうなら、わざと負けてやってもいいんだぜ?」
 マスク・ド・タランチュラが耳をしゃぶりながら、冬香に囁きかける。その言葉が聞こえた瞬間、冬香の羞恥が吹き飛んだ。
「ふっ・・・ざけるなぁっ!」
 レフェリーを蹴り飛ばした冬香の右足が跳ね上がり、肩越しにマスク・ド・タランチュラの顔面を打つ。冬香の正面に位置した観客にはパンチラの大サービスだった。
「ぐごっ!」
 意表を衝かれたマスク・ド・タランチュラの体が後ろによろめき、コーナーにもたれる。
「せぃやぁぁぁっ!」
 気合と共に冬香の体が宙へ跳び、顔面への飛び横蹴り、顎への前蹴り、脳天への踵落し蹴りを瞬時に叩き込む。更に着地と同時に後ろ回し蹴りを鳩尾に突き刺すと、マスク・ド・タランチュラのマスクは赤く染まり、その体がずるずると崩れ落ちていく。

<カンカンカン!>

 完全に動きの止まったマスク・ド・タランチュラを見たレフェリーが試合を止め、リングに担架が運びこまれる。
(義姉さん、勝ったよ!)
 冬香は笑みを浮かべ、大きく息をついた。勝利が、義姉との別れを意味しているとわかっていながら。


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