【第四十四話 嵯暁さくら:ボクシング】

 犠牲者の名は「嵯暁(さぎょう)さくら」。22歳。身長165cm、B85(Dカップ)・W62・H83。黒髪を肩までのショートカットにし、美しさより溌剌さを感じさせる美貌。少し吊り目気味だが優しげな目元は、闘いともなると鋭い光を放つ。
 女子プロボクシングのライセンスを持っており、新設されたチャンピオンベルトを目指し、日々トレーニングとバイトに励んでいる。走り込み、シャドーボクシング、ミット打ち、スパーリングとこなしているが、バストだけは小さくならなかった。内心嬉しくもあったが、試合で胸を打たれると激痛が奔るのが悩みの種だった。
 さくらには紫苑、スミレという妹がおり、こちらも芯の強さと美しさ、可愛らしさで評判となっている。この美しき三姉妹に目をつけた<地下闘艶場>は、まず長姉を生贄に選んだ。


「試合用の衣装、って・・・これ!?」
 さくらは用意された衣装を見て呆然としていた。手の中にあるのは極端に布地の少ない、青と白のストライプが入ったビキニだった。ブラはチューブトップタイプで、ボトムはTバック。こんな水着、彼氏の前でも着たことがない。
「異種格闘技戦も面白そうだと思ったのに・・・失敗したかな?」
 ため息を一つ吐いた後、水着に着替え、オープンフィンガーグローブを装着する。契約の段階で用意された衣装を着ることを了承した以上、まさか着ないで闘うわけにもいかない。契約は守る、プロとしての意地だった。

 ガウンを纏って花道を進んでいくと、観客席から耳を塞ぎたくなるような言葉が飛んでくる。昂ぶりを抑えて観客席を見ると、目につくのは男性の姿だった。というより、女性の姿が全く見えない。
 卑猥な衣装と男性のみの観客。それに高額のファイトマネー。これらを結びつけると嫌な事実が浮かび上がるが、意図的に考えないようにする。これだけのファイトマネーを貰えれば、暫くはバイトをせず練習に専念できる。
 勝利だけを考え、さくらはリングに上がった。

 リングに待っていたのは、レフェリーと思われる蝶ネクタイの男性と、闘いには不向きだと思われるほどに太った男性だった。
「初めての異種格闘技戦で、しかも相手は男、か・・・」
 しかし、あれだけ太った男ならスピードはないだろう。撹乱して急所を打てば倒せる筈。
「勝つ!」
 大きく息を吸い込み、さくらは気合を入れた。

「赤コーナー、『ミスターメタボ』、グレッグ"ジャンク"カッパー!」
 コールされたグレッグは、へらへらと笑いながらさくらの肢体を眺め回す。
「青コーナー、『ダンシングブロッサム』、嵯暁(さぎょう)さくら!」
 コールに応え、ガウンを脱ぎ捨てる。布地の少ないビキニ姿というその露出度の高さに、観客席から大きな歓声が沸く。
(やっぱり恥ずかしい・・・でも、あいつを倒せば終わりだもの。それまでは我慢!)
 自分をごまかすためにオープンフィンガーグローブを何度も打ちつけ、さくらはゴングを待った。

「ボディチェックだ、さくら選手」
 グレッグのボディチェックを終えたレフェリーが、さくらの前に立つ。
「ちょっと待ってよ、この格好のどこに凶器を隠すって言うの!?」
 両手を広げてアピールするさくらだったが、レフェリーは薄く笑って受け流す。
「怪しい奴ほどそう言って逃れようとするんだ。もしボディチェックを受けないなら、失格とするがそれでいいか?」
「それは・・・」
 契約書の条項の中には、試合に穴を空けた場合の賠償金の支払いの項目もあった。レフェリーの脅しはそこから来るものだろうか。
「・・・わかったわ。手早く済ませてね」
「なんだ、素直だな。それじゃ、じっとしてろよ」
 レフェリーはにやりと笑った後、いきなりバストを鷲掴みにしてくる。
「え、ちょっと、なんで胸を触るのよ!」
 突然のことにレフェリーの手を弾いたさくらに対し、レフェリーは厭らしい笑みを浮かべている。
「触らなきゃ、その下が本物か何か詰めてるのかがわからないだろ? それとも脱いで見せてくれるのか?」
「くっ・・・」
 触られるのが嫌なら見せろというレフェリーの発言に、さくらの眉が寄る。
「・・・よく見てなさいよ」
 ブラに手を掛けると、一瞬ずらしてすぐに戻す。
「これでいいでしょ。さ、試合を始めて」
「おいおい、まだ下が残ってるだろ?」
 恥ずかしさを堪えて乳房を見せたというのに、レフェリーはまだボディチェックを続ける気だった。
「下って・・・そんなところ見せられるわけないでしょう!?」
「それじゃあボディチェックは終われないな。俺が触るのを我慢するか、自分で見せるかの二択だ」
 レフェリーのにやつきながらの台詞に唇を噛みしめる。しかし、ここまできて没収試合になるのも悔しい。
「・・・さ、触って。ただし、すぐに終わらせてよ!」
「ああ、わかったわかった」
 レフェリーはさくらの前にしゃがみ込むと、股間を見つめながらヒップを両手で撫で回す。
「え、なんでお尻を」
「ここもチェックしとかなきゃな。それとも、こっちから触って欲しかったのか?」
 レフェリーの右手がさくらの前に回り、秘裂に沿って指を往復させる。
「ちょっと、どこ触ってるの!」
 さくらはレフェリーの手を振り払うが、レフェリーは冷たくさくらを見つめる。
「ボディチェックを受けないのか? 失格でいいんだな」
「そ、それは・・・」
 こんなボディチェックがある筈はない。が、高いファイトマネーには、こういうセクハラを受けることも含まれているのかもしれない。
「・・・わかったわ」
 さくらは目を逸らし、両手を下ろす。
「わかったってことは、ボディチェックを受けるってことだな?」
「ええ」
 さくらが頷くと、レフェリーはさくらの前に跪き、再び秘部を弄る。
(もうちょっとだけ、もうちょっとだけ我慢すればいいんだから。でも、こんなことなら試合を受けるんじゃなかった!)
 後悔と怒りが渦巻き、さくらの顔は赤く染まっていた。
「なんだ顔赤くして。感じてくれてるのか?」
 そんなことはないとわかっていながら、レフェリーが言葉でも嬲る。ヒップを撫でていた左手をバストに移動させ、ブラの上から揉み解す。
「そこはさっき見せたじゃない!」
「なんだ、確認されるのが嫌なのか? 嫌なら失格だぞ」
 レフェリーはバストを揉みながら軽くあしらう。
「くっ」
 屈辱に歯噛みしながらも、さくらはボディチェックという名のセクハラを耐え続けた。

「さぁて、そろそろ始めるか」
 レフェリーはたっぷりとボディチェックの時間を取った後、漸く試合開始の合図を出した。

<カーン!>

 ゴングを耳にした瞬間、さくらの頭からはセクハラのことなど吹き飛んだ。プロのライセンスを持ち、曲がりなりにも何戦かこなしてきた経験者だ。
(幾ら体格差があっても、急所は変わらない。仕留めて見せるわ!)
 オーソドックススタイルに構えたさくらが軽いステップを踏むたび、チューブトップブラに包まれたDカップバストがリズミカルに揺れる。
「うぇへへ、おっぱいが揺れてるぞぉ」
 どすどすと前に出るグレッグの顔面に左ジャブの連打を叩き込む。鼻を正確に打たれ、グレッグの動きが止まる。

 さくらのファイトスタイルはアウトボクサーだった。柔軟な体を生かしたパンチは見た目以上のリーチを誇る。フリッカー気味のジャブで相手の出足を止め、それでも前に出ようとしたところを右ストレートで打ち抜く。ボクシングではこのパターンで今まで三つのKO勝利を飾っている。

「あいてぇ、やめろぉ」
 鼻の痛みにグレッグは打たれたところを隠し、さくらから距離を取ろうとする。しかしその動きは鈍く、さくらに簡単に追いつかれる。
「ほら、いくわよ?」
 さくらは左ジャブを打つ振りをすると、まだ鼻の痛むグレッグは狙われた部位を隠そうとして、さくらの思惑通りに顎を空けてしまう。
「シッ!」
 左ジャブの牽制から狙い澄ました右ストレート。顎を打ち抜いた一撃で、グレッグが地響き立つようなダウンをする。
「ま、こんなものね」
 勝利を確信したさくらは髪をかき上げる。しかし、なかなかレフェリーのカウントが始まらない。
「レフェリー、カウントは!?」
「まずコーナーに戻れ、それからだ」
 レフェリーの指摘に、慌ててニュートラルコーナーに戻る。さくらがニュートラルコーナーに行ったのを見届けてからレフェリーがカウントを始めるが、遅々として進まない明らかに不公平なものだった。
 あからさまなスローカウントながら、グレッグはエイトカウントで漸く立ち上がった。既に全身から汗を流し、上体がふらついている。
(あと一撃いいのが入れば倒せそうね)
 さくらはグレッグが深刻なダメージを負ったと見極め、ここで決めようと前に出る。
(これで、とどめ!)
 必殺の右ストレートを放とうと左足を踏み込んだ瞬間、グレッグの汗でずるりと滑る。すぐさま体勢を整えたものの、グレッグはもう射程距離外へ逃れている。
「レフェリー、あいつの汗で滑るわ。リング整備の時間を取って」
「は? なに寝ぼけたこと言ってるんだ。プロレスの試合にそんなものはないぞ」
 ボクシングならインターバルの間に汗を拭いたりもするが、プロレスに試合中のインターバルなどない。
「で、でもこれだけ滑ると・・・!?」
「うぇへへ、柔らけぇ・・・いい感触だなぁ、お前のおっぱい」
 レフェリーに気を取られている間にグレッグがさくらの背後に回り、バストを鷲掴みにしてきた。
「どこ触ってるのよ!」
 その手首を掴もうとしたが、汗でずるりと滑る。背中にも汗まみれのお腹をつけられ、不快感が倍増する。
「ちょっとレフェリー、見てないで反則を取ってよ!」
「これが反則? 別に凶器も使ってないじゃないか」
 レフェリーはにやにやと笑って相手にしない。
「だって、こんなセクハラ・・・ちょっと、やめて!」
「うぇへへ、いやだぞぉ」
 グレッグはさくらのバストを捏ね回し、その柔らかさを味わっている。
(このドスケベ、そっちがそういうつもりなら!)
 グレッグの腕に肘を差し入れて空間を作り、左回転しながら右フックを叩き込む。
「あぐべへっ」
 左頬を打たれたグレッグはたたらを踏んで後退する。
「逃さないわよ!」
 さくらのコンビネーションブローがグレッグの頬、鼻、鳩尾、左脇腹に炸裂する。
「あいででで!」
 アウトボクサーとはいえ、さくらの至近距離弾の連打はグレッグを怯ませるのに充分だった。痛みに距離を取ろうとするグレッグに追いすがろうとしたさくらだったが、またもグレッグの汗に足を取られる。
(なんなのこの汗、えらく滑るわ。でも!)
 滑るのなら、それを逆手に取る。さくらはロープで反動をつけ、スケートの要領で滑りながらグレッグの顔面に右ストレートを打ち込んだ。しかし・・・
「うぇへへ、その位のパンチなら耐えられるぞぉ」
 軽い体重であるさくらの一撃は、グレッグの脂肪を貫くことができなかった。
「捕まえたぁ!」
 それどころかグレッグに抱きしめられてしまう。
「あっ、放して!」
「嫌なこったぁ。こいつを食らえぇ!」
 グレッグにコーナーに押し込まれ、そのまま体当たりを受ける。
「うぐっ!」
 グレッグのような巨漢に、体重を加えられた一撃を受けるのは堪らなかった。グレッグが退くと、ゆらりと前に倒れそうになる。
「おっと、これで終わりじゃないぞぅ!」
 グレッグはさくらの首と股下に手を入れ、パワースラムを掛ける。リングに叩きつけられるだけでなく、グレッグの巨体まで浴びせられては耐えられるものではなかった。
(駄目、よ。気を失っては、だ、め・・・)
 必死に繋ぎとめようとした意識が、暗黒へと沈んだ。

「ぐうぇへへ、今まで散々殴ってくれたからなぁ、こっからお返しタイムだぁ」
 グレッグはさくらのブラに包まれたバストを下から弾ませた後、鷲掴みにする。
「うぇへへ、やっぱ柔らけぇ。たまんねぇなぁ」
「どれ、俺にも触らせろ」
 レフェリーはさくらの右のバストを揉み、グレッグは左のバストを捏ねる。徐々にその手つきが荒々しくなり、さくらのバストが揉みくちゃにされる。
「うぇへへ、おっぱいおっぱい」
「ああ、いい柔らかさだな・・・ん?」
 無意識ながら刺激されたさくらの乳首が立ち上がり、水着の上からもわかるほどに立ち上がる。
「くくっ、気を失ってるくせに乳首が固くなってきたぜ」
 レフェリーとグレッグは、水着の上から乳首も弄り始めた。

「ん・・・あ?」
 意識が戻ったとき、さくらが目にしたのは自分に圧し掛かるグレッグとレフェリーの姿だった。さくらのバストを揉み、大事なところまで弄り回している。
「な、なんでこんな・・・」
「寝技は禁止されていないぞ」
「そんなこと聞いてるわけじゃないの! 変なところ触らないでよ!」
 さくらは必死になってもがくが、男二人を押し退けることはできなかった。
 ボクシングでは、ダウンした状態からは二つの選択肢しかない。一つは立ち上がって再び闘うこと。もう一つはそのままテンカウントを聞くこと。つまり、ダウンしてからの攻撃手段は一つもないということだ。
「こんなのただのセクハラじゃない! なんで自分も一緒になってしてるのよ、ちゃんとレフェリーやって!」
「・・・レフェリーに生意気な口を利くじゃないか」
 レフェリーの手がさくらのブラにかかった。
「お仕置きだ!」
「きゃぁぁっ!」
 レフェリーはブラをずらし、さくらの乳房を露出させる。その乳首は固くしこり、存在感を示している。
「ほぉぉ、これはなんだろうなぁ。嫌よ嫌よも好きのうち、か?」
「ち、違う、これは・・・あっ!」
 レフェリーから乳首を弾かれ、声が上がる。
「いい声出すじゃないか。気持ちいいんだろ?」
 レフェリーのふざけた発言に、さくらの怒りが爆発する。
「やめてって言ってるじゃない! 変態! あなたなんかレフェリー失格よ!」
 さくらの言葉に、レフェリーの顔が強張る。
「・・・レフェリーへの数々の暴言、許されるものじゃないぞ」
 レフェリーはさくらのブラを掴み、無理やりさくらの頭上へと引っ張った。
「いやぁぁっ! 返してよ!」
 チューブトップブラを腕から抜かれ、さくらはトップレス姿になってしまう。
「恥ずかしいのかぁ? なら、俺が隠してやるぞぉ」
 グレッグはさくらのバストに手を置くと、掌でもにもにと感触を楽しむ。
「誰がそんなこと言ったのよ! ブラを返してって言ったのよ! 触らないで、気持ち悪いから!」
「俺は気持ちいいぞぉ。気持ちいいから続けるんだぁ」
「うるさい! 変態デブ!」
 さくらの言葉に、普段は呑気なグレッグの目がきつく光る。
「ひでぇなぁ・・・いいさ、もっと酷いことしてやるぞぉ!」
 グレッグはさくらと胸を合わせる体勢になり、自分の体を前後に揺する。汗に塗れた身体は摩擦が少なく、まるでローションプレイのようだった。
「うぇへへ、おっぱいの感触がたまんねぇ」
 グレッグの胸の下でさくらの乳房が潰され、グレッグには快感を、さくらには屈辱と汚辱感を与える。
「いやっ、こんなのいやぁっ!」
 半狂乱になったさくらはグレッグを押しのけようとするが、汗で滑って取っ掛かりが掴めない。
「げひゃひゃひゃ、くすぐったいからやめろぉ」
 グレッグはさくらの二の腕を押さえ、前後運動を続ける。
「うぇっへっへ、乳首の感触もいいぞぉ!」
「なんださくら選手、まだ乳首硬くしてるのか。本当は気持ちいいんだろ?」
 レフェリーは身悶えるさくらの顔を眺めながら、一人にやついている。
「そ、そんなこと・・・んぅっ、ないわ!」
 グレッグの責めを耐え、さくらは否定の言葉を吐く。
「そうか・・・まだ否定するっていうなら、下も外して濡れてるか確認するか」
 そう言ったレフェリーの手が、さくらのTバックボトムに掛かる。
「そんな・・・まさかそこまでは・・・」
 ここまで嬲られてもまだ半信半疑のさくらだったが、レフェリーはサイド部分を持ち、ゆっくりとずらしていく。
「もう嫌ぁっ! ギブアップするからもうやめてぇ!」

<カンカンカン!>

 さくらのギブアップの宣言を聞き、レフェリーがゴングを要請した。ゴングが鳴ってもさくらに圧し掛かっていたグレッグを蹴飛ばし、無理やりどかせる。
「うぇへへ、触り足りないけど、しょうがねぇなぁ。じゃぁなぁ」
 グレッグはさくらのヒップをぽんぽんと叩き、のっそりとリングから降りていく。
(負けた・・・こんな奴に、負けた・・・!)
 敗北のゴングを聞かされ、さくらは悔し涙を流した。その姿はグレッグの汗に塗れ、淫らに輝いていた。


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