【第四十五話 須座久菊奈:プロレス & 都修麗羅:プロレス】

 犠牲者の名は「須座久菊奈」と「都修麗羅」。

 菊奈は21歳。身長167cm、B89(Eカップ)・W64・H92。垂れ目で童顔という癒し系の容貌ながら、プロレス団体「JJJ」(トリプルジェイ)に所属するトップレスラー。

 麗羅は22歳。身長171cm、B86(Dカップ)・W65・H89。黒い短髪、切れ長の目、長い睫毛、常にへの字に結ばれた唇という気の強さを見せつけるような容貌。菊奈と同じく「JJJ」(トリプルジェイ)に所属するトップレスラー。

 過去に<地下闘艶場>に出場経験がある二人に、同時に招待状が届いた。今度はタッグマッチの誘いだと言う。
「お前ら、しっかり稼いできな!」
 社長の斉原楓に尻を叩かれ、菊奈と麗羅は再び<地下闘艶場>へと赴くことになった。


「今回の衣装はこれかよ・・・」
 麗羅がうんざりとした声を出す。
 二人に用意された衣装は、丈の長いセーターだった。丈が長いと言っても、これだけだと超ミニのワンピースと変わらない。
「また下着が見えちゃいそうね〜」
 緊張感が感じられない口調で、菊奈が答える。
「菊奈、お前・・・」
 付き合いの長い麗羅だから、菊奈の今の発言から<地下闘艶場>で闘うことを嫌がっているのがわかる。前回、散々セクハラされたことが心のしこりとなっているのだろう。
「安心しな、あたしがお前の分まで闘ってやるよ!」
 麗羅の宣言に、菊奈はにへら、と笑いを返した。

 ガウンを纏って花道に登場した菊奈と麗羅に、観客席から凄まじいまでの卑猥な野次が飛ぶ。両者とも前回の<地下闘艶場>でプロとしての強さを充分見せつけており、この強くも美しい女性が嬲られることに、観客は今から興奮していた。
 眉を寄せた麗羅に続く菊奈の表情は硬く強張っていた。

 リング上で待っていたのは、蝶ネクタイ姿のレフェリーと二人が知っている覆面レスラー、もう一人新顔の男もいた。

「赤コーナー、『地に潜む蜘蛛』、マスク・ド・タランチュラ! & "クラーケン"伊柄(いがら)克彦!」
 マスク・ド・タランチュラはその長い腕を伸ばしてコールに応え、伊柄は何をするでもなくロープにもたれていた。
「青コーナー、"フェニックスナイツ"、須座久菊奈! & 都修麗羅!」
 菊奈と麗羅の名前がコールされると、二人同時にガウンを脱ぐ。リングシューズの他には菊奈は白、麗羅は赤のセーターのみを身に着けている。セーターを盛り上げるバスト、鍛えられ、引き締まった脚線美が観客の興奮を誘う。
「ったく、相変わらずうるせぇなぁ」
 麗羅がうんざりとした口調で吐き捨てる。菊奈は対照的に、硬い表情でただ下を向いていた。

 レフェリーは菊奈と麗羅に厭らしいことをするでもなく普通のボディチェックを行うと、そのまま両チームをコーナーに下がらせ、開始のタイミングを窺う。

 コーナーでも菊奈の表情は硬かった。
「菊奈は黙って見てな。大丈夫だよ、あいつらくらいあたし一人で叩きのめしてやるから」
「・・・うん」
 「儀式」を終わらせたというのに、菊奈の闘争心は眠ったままだった。沈んだ表情の菊奈に笑いかけ、麗羅はリングに立った。

<カーン!>

「よぉ麗羅ちゃん、この前は世話になったな」
 穏やかな口調とは裏腹に、マスク・ド・タランチュラの目は鋭かった。
「世話した覚えはないけどね」
 麗羅は鼻を鳴らし、オーソドックススタイルに構える。そのまま左足を軽く上下させ、キックに行くぞと見せる。
 キックを打つ振りをするたび、麗羅の下着がチラチラと見えそうになる。つい男の本能でそこに目が行き、マスク・ド・タランチュラが気づいたときには麗羅の肘が眼前にあった。
「危なっ!」
 これはぎりぎりと避けたマスク・ド・タランチュラだったが、続く膝蹴りに腹部を抉られる。
「ぐふっ!」
 しかしそのまま後転し、素早く伊柄にタッチする。
「まったく、そのすぐ油断する癖はなんとかならんかぃや」
 伊柄が呆れながらリングに出てくる。
「まあそう言うなよ。パンチラのチャンスには目が行くだろうが」
 入れ替わりにコーナーに下がりながら、マスク・ド・タランチュラが弁解する。
「へえ、今度は優男かい。あんた、ちゃんと闘えるのかい?」
 麗羅が挑発するように、伊柄を手招きしてみせる。
「姉ちゃん・・・後悔するなや」
 伊柄の目が僅かに細くなる。
「させてみろよっ!」
 麗羅のいきなりのエルボーを、伊柄は軽くかわして見せる。そのまま麗羅と組み合い、ロックアップの体勢になる。
(ぐっ・・・嘘だろ、こんな優男に、あたしが・・・!)
 筋骨隆々の大男にならまだしも、麗羅よりも細い体つきの伊柄に押し込まれ、膝をついてしまう。
「どうしたぃ姉ちゃん。簡単に膝をついて・・・のぉっ!」
 伊柄の右膝蹴りが、麗羅の鳩尾を正確に抉る。
「ぐぁっ!」
 一発では終わらなかった。二発、三発と鳩尾に膝がめり込み、麗羅の顔が苦悶に歪む。もうロックアップの形も崩れていた。
「なんやぁ、もう仕舞いか?」
 わざとらしく上から覗き込んでくる伊柄に、麗羅の気力が復活する。
「この・・・野郎!」
 麗羅のアンダーブローが伊柄の金的を打つ。膝をついた伊柄の目が、狂猛な光を帯びた。
「・・・痛いのぅ姉ちゃん・・・なにしてくれとんじゃぃッ!」
 咆哮と同時に、伊柄のボディブローが麗羅を襲う。
「おぐっ!」
 体がくの字になるほどの威力に、絶大な耐久力を誇るプロレスラーの麗羅がダウンしてしまう。
「誰のぉ、金的をぉ、殴ってくれよんじゃぃ!」
 倒れた麗羅に、伊柄の爪先が容赦なく突き刺さる。
「おい伊柄、やり過ぎだ。交代して頭冷やせ」
 荒い息を吐く伊柄にレフェリーが声を掛けるが、その眼光に動きが止まる。
「・・・そうじゃのぅ。ちぃと張り切り過ぎたわぃ」
 爽やかな笑みを浮かべ、伊柄はコーナーに下がる。それと入れ替わりにマスク・ド・タランチュラがリングに入り、リングに倒れたままの麗羅に近寄る。
「まったく、女の子は優しく扱わなきゃ駄目だろうが」
 伊柄に話し掛けながら、マスク・ド・タランチュラは麗羅を髪の毛を掴む。
「・・・触んなっ!」
 麗羅の膝がマスク・ド・タランチュラの金的を捉えた。
「がごぉっ!」
 男にしかわからない痛みに、マスク・ド・タランチュラがリングの上でのたうつ。
(くそっ、ここで行かなきゃ駄目なんだよ! 動けよ、くそぉっ!)
 マスク・ド・タランチュラに追い討ちをかけたい麗羅だったが、先程までのダメージに足が前に出ない。
「いっつっつ・・・れ、麗羅ちゃん、前回の時から、ここを何度攻撃すれば気が済むんだよ・・・」
 ファウルカップの上からとはいえ、衝撃はかなりのものだった。
「さすがに優しい俺でも頭にきたぜ・・・これでも食らいな!」
 マスク・ド・タランチュラは長い腕で麗羅を高々と抱え上げ、そこからチョークスラムでリングに叩きつける。
「がはぁっ!」
 その威力に、麗羅はリングに大の字になる。
「あてー・・・やっぱすぐには回復しない・・・な・・・」
 小刻みに跳ねていたマスク・ド・タランチュラの目に、上半身を起こした麗羅の姿が飛び込む。
「おいおい、いいかげんに諦めようぜ」
「レ、レスラーが簡単に諦めてたまるかよ・・・!」
 KOされてもおかしくない攻撃を何度も食らいながら、それでも麗羅は立ち上がった。
「そうだな、麗羅もプロレスラーだ・・・俺の本気の技を受け止めてくれよ!」
 マスク・ド・タランチュラは麗羅のエルボーをかわして背中合わせになると、脇の下に手を差し入れて高々と持ち上げる。
(た、高い・・・!)
 プロレスラーの麗羅も怯むほど、天井のライトが近くに見える。
 <ハイタワー・スプラッシュマウンテン>。
 マスク・ド・タランチュラのフェイバリットホールドの一つ。異様に長い両腕を伸ばし、リングの上からにも関わらず雪崩式のようなスプラッシュマウンテンを繰り出す独自の技。女性選手を傷つけまいと今まで封印してきたが、麗羅がプロレスラーであること、前回、今回と散々な目に遭わされたことがマスク・ド・タランチュラの封印を解かせた。
(これを喰らったらまずい!)
 麗羅はなんとか脱出しなければともがいてみるが、脇の下を押さえられていては力が出せない。
「死んでも恨むなよ!」
 本心からの言葉と共に、マスク・ド・タランチュラが麗羅を後頭部からリングに叩きつける。この一撃でリングが軋み、3m近い高さから勢いをつけて頭から落とされた麗羅は、ぴくりとも動かなかった。
「・・・大丈夫かな?」
 さすがに心配になったマスク・ド・タランチュラは、セーターの上から耳を当て、心音を確認する。
「おー、生きてる。プロレスラーだからな、よかったよかった。さて・・・これからリベンジの本番だ!」
 マスク・ド・タランチュラは麗羅の上に馬乗りになり、バストを揉みくちゃにする。
「なんだ、こうして寝てると可愛いじゃないか。それじゃこっちも・・・」
 麗羅の秘部にも手を伸ばし、撫で回す。麗羅はその刺激にも目を開けず、なすがままにされている。
「完全に伸びてるなぁ。そうだ、折角だから・・・」
 マスク・ド・タランチュラは意識のない麗羅からセーターを脱がし、下着姿にしてしまう。勝気な暴れ馬のような麗羅の下着姿に、観客席から歓声が起こる。
「白か。意外だな、黒とか紫とか赤とか、派手派手なのかと思ったのに」
 色は白で、スポーツブラにブリーフタイプのボトムで色気は感じられない。
「へへ、ブラの上から、っと」
 マスク・ド・タランチュラは麗羅の上に馬乗りになり、改めてバストを揉み始めた。

(麗羅、麗羅が・・・!)
 菊奈はコーナーでロープを握り締めていた。助けに行かなければ、そう気持ちは焦るが体が動いてくれない。自分がセクハラされた場面がフラッシュバックし、菊奈を縛る。
 ロープを握る手には、血の気が引いて白くなるほど力がこもっていた。

「おいタランチュラさんよ、折角おとなしゅぅしとるんじゃ、ブラの上から乳揉むだけってのぁもったいなぁと思わんかぃ?」
 伊柄のコーナーからの提案に、マスク・ド・タランチュラの表情が緩む。
「へへっ、確かにブラの上からじゃ物足りないな。こいつも取って・・・」
 マスク・ド・タランチュラの手が麗羅のブラに掛かった瞬間、菊奈を縛っていた鎖が千切れた。コーナーを飛び出し、麗羅の元に走る。
「でぃやぁぁぁっ!」
 菊奈のフライングニールキックが、麗羅のブラに手を掛けたマスク・ド・タランチュラの後頭部を直撃する。ダウンしたマスク・ド・タランチュラを確認もせず、横たわる麗羅に跪く。
「麗羅、起きて麗羅!」
 麗羅の頬を叩きながら呼びかける。それでも麗羅の目は開かず、刺激への反応もない。
「麗羅・・・」
「姉ちゃん、相方の心配しとる場合か?」
「須座久選手、今試合の権利があるのは都修選手だ。いつまでもリングにいるのは感心しないなぁ」
 前後を挟まれたことに気づき、立ち上がる。
(まずい、ここは一旦離れて・・・)
「おぉっと姉ちゃん、そう簡単に逃がしゃぁせんよ」
 伊柄の両腕が逃れようとした菊奈に絡みつき、動きを止める。
「あてー・・・後ろから不意打ちはないだろ菊奈ちゃん」
 後頭部を擦りながら、マスク・ド・タランチュラまで立ち上がってくる。
「くっ・・・放して!」
 もがく菊奈だったが、男達から囲まれ、リングの上で両手両足を押さえられてしまう。
「姉ちゃんいいおっぱいしとるのぉ。じゃぁけど芯が固い、男に揉まれ慣れとらんな?」
「確かにそんな感じだな。今時三禁守って処女だったりするのか?」
「ヒップも引き締まってる上に薄っすらと脂肪が乗ってて、いい感触だぞ」
 バストとヒップが男達の手に蹂躙され、揉みしだかれる。
「麗羅ちゃんも下着姿披露してくれたんだ、パートナーの菊奈ちゃんもしなきゃ不公平だぜ!」
 マスク・ド・タランチュラからセーターの裾を首元まで捲り上げられ、ブラまで露わにされてしまう。
「いやぁっ!」
 首を振って拒否しても許される筈がなく、両方のバストは違う男から捏ね回され、秘部にまで手が伸ばされる。
「そうそう、そうやって嫌がってくれた方が男は燃えるんだよ。もっと声聞かせてくれよ」
 マスク・ド・タランチュラは下着の上から秘部を撫で回し、菊奈から悲鳴を引き出そうとする。伊柄とレフェリーは菊奈のバストを揉み、撫で、形が変わるほど強く握り締める。
「痛いっ!」
 菊奈の痛みを告げる言葉にも男達は笑うだけだった。
「ごめんな菊奈ちゃん、痛かったか? それじゃ、優しくここを触ってやるよ」
 マスク・ド・タランチュラの手が下着の中に潜り込み、菊奈の秘裂をなぞる。
「いやぁぁぁっ! やめて! ・・・・麗羅ぁっ!」
「麗羅ちゃんは今お寝んね中だよ。後で二人仲良く可愛がってやるから、安心しな」
 菊奈の秘部を直接弄りながらにやけるマスク・ド・タランチュラの背後で、ゆらりと立ち上がる影があった。
「・・・そこまでにしとけよ、てめぇら!」
 伊柄の横面を蹴り飛ばし、菊奈から離れたところをリング下に放り投げる。マスク・ド・タランチュラの顔面にはエルボーを叩き込み、レフェリーを凄まじい眼光で睨みつける。失神していた筈の麗羅だった。
「今止めたら、てめぇが死ぬぞ」
 麗羅の迫力に、口を開きかけたレフェリーはそのままの姿勢で固まってしまう。麗羅は顔面を押さえて呻いていたマスク・ド・タランチュラのマスクを掴んで無理やり立たせる。
「行くぜ菊奈!」
 合図を送り、マスク・ド・タランチュラの背後から長い両腕ごと胴をクラッチする。
「おらぁっ!」
 気合と共に麗羅のアトミックドロップ、否、リバース式のマンハッタンドライバーが炸裂する。
「あごぉっ!」
 男の急所を打たれた痛みに呻くマスク・ド・タランチュラの顎に、菊奈のシャイニングウィザードが突き刺さる。
「はぁぁっ!」
 菊奈の体がマスク・ド・タランチュラの肩を蹴ってそのまま宙に舞い上がり、落下する勢いを利用して脳天に踵落しを見舞うという変形のフェニックスダイブへと繋げる。
「うぉらぁっ!」
 マスク・ド・タランチュラの腰だけを素早くクラッチし直した麗羅は、ジャーマンスープレックスでリングに美しい橋を掛ける。救出に行こうとロープをくぐった伊柄を菊奈がドロップキックで再び蹴落とし、男性チームを分断する。
「おらレフェリー、カウント!」
「ぬぐぐ・・・ワーン・・・ツーゥ・・・」
「ほら、あと一つだ。諦めて数えな」
「くそっ・・・スリーッ!」

<カンカンカン!>

「っしゃあ! ざまぁみやがれ!」
 右腕を掲げ、麗羅が咆える。
「麗羅ぁ、下着姿だけど、いいの?」
 菊奈ののほほんとした指摘に、麗羅の顔が珍しく少し赤らむ。
「・・・忘れてた」
 麗羅はリングに落ちていたセーターを拾い、頭から被る。さすがに下着姿を晒し続けるのは恥ずかしかった。
「ようもやってくれたのぅ」
 リングへと上がった伊柄が、鋭い、と言うより人を殺しかねない色合いの目で麗羅を睨みつけていた。
「姉ちゃん、ワシはしつこいでぇ。覚悟しとけぇや、のぅ」
 鬼すら避けそうな伊柄の眼光だったが、麗羅は鼻を一つ鳴らしただけで犬を追い払うように手を振る。
「こっちは金にならないことはしないんだよ。うちの団体でミックスファイトはしないしね。あたしと闘いたけりゃ、大金を用意してから話をつけな」
「なんじゃと・・・?」
 今にも麗羅に襲い掛かりそうな伊柄だったが、リング下の黒服から制止されると、意外にもあっさりとリングを降りる。
「・・・まぁええわぃ。ほなのぉ」
 一度麗羅を睨み、花道を後にする。麗羅は伊柄の後ろ頭に中指を立てて見せ、菊奈へと振り向く。
「さてと! 帰るぜ菊奈!」
「・・・うん!」
 菊奈は久しぶりに満面の笑顔を浮かべ、麗羅に腕を絡ませて退場していった。途中麗羅から振り払われながらもまた腕を絡ませる様子は、子犬が飼い主にじゃれついているようにも見えた。


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