【第四十八話 嵯暁スミレ:アクション】

 犠牲者の名は「嵯暁(さぎょう)スミレ」。17歳。身長160cm、B87(Eカップ)・W59・H86。嵯暁三姉妹の末っ子。黒髪を肩で切り揃え、その容貌は輝くような生命力に溢れている。明るい性格だが、末っ子特有の甘え上手。アクション女優を目指してヒーローショーのバイトをしているが、本物の戦隊ヒロイン以上のプロポーションが災いし、大きなお友達からの粘っこい視線を独り占めにしている。
 大好きな姉二人が嬲り者にされた<地下闘艶場>を知ったスミレは、自分から<地下闘艶場>に連絡し、参戦を直談判した。そのことが自分の身に何をもたらすのか、この時点のスミレは正確には理解していなかった。


 試合当日、<地下闘艶場>控え室。
「さー姉がビキニ、しー姉がメイド服。あたしの衣装はなにかな、っと」
 スミレが袋から取り出した衣装は、戦隊ヒロインを思わせる黄色の服だった。ただの衣装ではなく、戦隊モノ特有のマークや細かいパーツがつけられているが、冷静に見ればミニスカワンピースである。黄色いマフラーも用意されているのは冗談のつもりだろうか。
「ほんとにエッチぃ衣装なんだね。しかし凝ってるな〜。結構高いんじゃないの? これ」
 衣装を広げて繁々と眺め、スミレは一人呟いた。衣装を身に着け、マフラーを巻き、ハイソックスとブーツを履く。スミレは黄色のオープンフィンガーグローブも嵌めて入場を待った。

 スミレが姿を現すと、観客から下世話な冗談が投げつけられる。中には姉のことまで含まれた野次まで飛び、スミレは固い表情でリングに上がった。

 リングにはレフェリーと、姉である紫苑から聞いていたとおり顔に猿を思わせる白と赤のメイクをし、侍を思わせる薄水色の裃と白足袋を身に着けた男がいた。まるで仮面を着けているように無表情なのも聞いたとおりだ。
(さー姉の敵はしー姉が取った。しー姉の敵は、私が取るんだから!)
 スミレは一度頬を叩き、気合を入れた。

「赤コーナー、猿冠者(さるかじゃ)!」
 コールされた猿冠者はスミレに顔と体の正面を向けたまま、後ろ向きにロープを蹴ってコーナーポストの上へと上がり、そのまま鮮やかな前方宙返りでリングに着地して見せる。
「青コーナー、『アクションヒロイン』、嵯暁スミレ!」
 コールと同時に、スミレは予備動作なしでバク転してみせる。姉である紫苑を辱めた相手に負けてたまるか、という思いがそうさせた。
(しー姉、敵はとるからね!)

 猿冠者のボディチェックを手早く終えたレフェリーがスミレの前に立つ。
「じゃあ次はスミレ選手のボディチェックだ」
「どーぞ!」
 スミレがわざとらしい大きな声で答えると、レフェリーはしゃがみ込んでスカートの中を覗いてくる。
「可愛い下着だな」
「ふふーん、今日のは見せパンだからね。別に見られても恥ずかしくないし」
 姉たちから聞いていたため、卑猥な衣装が用意されることは予想がついていた。念のために見せパンを穿いてきたのも吉と出た。得意気な表情を浮かべていたスミレだったが、レフェリーの指が秘部に伸びると飛びのく。
「ど、どこ触ろうとしてるのよっ!」
「どこって、ここに何か隠しているかも知れないだろ? だからチェックするのさ」
「お・こ・と・わ・り! 触るのなんてのは論外! ドスケベ!」
 スミレのテンポのいい言葉に、レフェリーの表情が変わる。
「そうか・・・そういうことなら、お前のお姉さん方にもう一度リングに上がって貰おうか? 妹の罪は姉に払って貰ってもこっちは構わないからな」
「え、ちょっと待って、そんなの駄目!」
 姉二人がどんな酷いことをされたのか、具体的には教えてくれなかった。それでも、もう二度と<地下闘艶場>に参戦したくないと思っているのは伝わった。
(私が・・・私がやらなきゃ、さー姉としー姉の敵を討たなきゃ!)
 しかし、そのためにはボディチェックと称したセクハラを受けなければならない。迷いは一瞬だった。
「・・・わかった、ボディチェックを受ける」
「わかってくれたか、ならいいんだよ」
 レフェリーはわざとらしく頷きながら、スミレのバストを撫でてくる。
「くっ・・・」
「ボディチェックを拒もうとしたんだ、念入りに調べさせて貰うぞ」
 そう言うと、レフェリーはバストを鷲掴みにし、力強く揉み込んできた。
「・・・」
「さくら選手よりも大きいな。紫苑選手には負けるが」
 姉二人と比べられ、頭に血が上る。それでも姉の敵を討つためだと自分に言い聞かせ、拳を強く握り込んで屈辱に耐える。
「それじゃ、さっき調べられなかったここを調べようかな」
 レフェリーは見せパンの上から大事なところをつついてくる。
「勝手にすれば!」
「ボディチェックだといっただろ? 俺も仕事でしてるんだよ」
 レフェリーはスミレの右側から体を密着させ、見せパンの上から右手の指を秘裂に沿って往復させる。左手は腰を回り、バストを揉んでいる。
(く、悔しい! こんな最低男に好き勝手に触られるなんて!)
 それでも、抵抗はできない。このセクハラを耐えなければ、姉の敵と闘うこともできない。レフェリーは悔しさを堪えているスミレが嬉しいのか、にやつきながらバストを、秘部を弄り続ける。
「も、もういいでしょ?」
「ん? 今ここを触っているときに止めさせようとしたな。なにか隠しているだろ、ちゃんと調べるぞ」
 スミレがボディチェックを切り上げさせようとするたび、レフェリーはなにかと理由をつけてボディチェックを続ける。結局、スミレは五分以上もセクハラボディチェックを受け続けた。
「よーし、なにも隠していないみたいだな。試合を始めるか」
 レフェリーは漸く満足したのか、スミレの身体から手を放した。
(・・・後で覚えてなさいよ!)
 言葉にはせず、レフェリーを睨みつける。

<カーン!>

 やっとゴングが鳴ったものの、スミレは小さな異変を感じていた。
(あ、まずい、私あがってる)
 普段のヒーローショーのバイトでも、最近では緊張することはない。久しぶりに味わう感覚に、どうすればいいのかわからない。
(取り敢えず・・・攻撃!)
 上段への膝の伸びたスピンキックから水面蹴り。しかしそんなオーバーアクションの蹴りが当たる筈もなく、水面蹴りを軽く跳んでかわした猿冠者の踵が腹部を抉る。
「あぐぅっ!」
 お腹の中が潰されたかと思うほどの痛みを堪え、転がって追撃を防ぐ。素早く立ち上がったスミレの目の前に、宙に浮く猿冠者の姿が映る。
「え!?」
 避ける間もなく右頬を蹴飛ばされ、リングに倒れ伏す。
「あ・・・つぅ・・・」
 膝をついて上体を起こしたところで、お腹を蹴り上げられる。
「おぐっ!」
 猿冠者はお腹を押さえて呻くスミレを無理やり立たせ、ロープでスミレの両手を真横に伸ばして拘束する。
「いい格好だな」
 それを見たレフェリーがにやつきながらスミレを見る。
「・・・うるさい、エロ親父」
 腹部の痛みは未だに消えないが、スミレは口を結んでレフェリーを睨む。
「レフェリーに対して暴言は吐くとは・・・お仕置きが必要だな」
 レフェリーの手がスミレの胸元に伸びる。衣装の胸元がずり下ろされ、ブラに包まれたバストが飛び出す。
「ほぉ、可愛いブラだな」
「こ、これも見せブラ! 恥ずかしくなんかないんだから!」
 スミレの言葉も強がりにしか過ぎなかった。
「そうか、恥ずかしくないか・・・なら、これはどうだ?」
 レフェリーの手が見せブラに掛かる。
「え、ちょっと、なにするつもり!?」
「こうだよ!」
 レフェリーがブラをずらし、スミレの乳房が晒される。当然乳首も露わになった筈だったが・・・
「・・・これはなんだ?」
 スミレは乳首にニプレスを貼っていた。
「ニプレスはつけちゃ駄目だ。契約書にも書いていただろ?」
「そんな細かいとこまで読まないもん! いいじゃんちょっとくらい!」
「ちょっともなにも、駄目なものは駄目だ」
 レフェリーがニプレスを掴む。
「くくっ、姉二人と同様・・・おっぱい丸出しの計だ!」
 レフェリーがニプルを剥ぎ取る。無理に剥がされた痛みを感じないほど、羞恥が込み上げる。
「ちょっと、なんてことするのよ! 返して! 隠して!」
「わかった、返すのは無理だが、隠してやるよ」
 レフェリーは乳房を鷲掴みにし、掌で乳首を隠す。
「なにやってんのよっ! 放せっ! 触んないでよっ!」
「なんだ、乳首を隠してやったのに見せたいのか? なら、こうしてやるよ」
 レフェリーは人差し指と親指でスミレの乳首を摘み、引っ張る。
「痛い! 痛いってば!」
「そうか、それならこういうのはどうだ?」
 レフェリーは乳首を扱きながら、乳房も揉んでいく。
「幾ら触られてもね、気持ち悪いだけなの!」
「・・・そうか、だが、俺は気持ちいいからな」
 レフェリーはスミレの衣装の裾を捲り、見せパンを全開にする。そのまま見せパンの中に手を突っ込み、直接秘部を撫で回す。
「わーーーっ! ど、ど、どこ触ってるのよ!」
「わかってるくせに聞くなよ。お前の一番大事なところだよ」
 レフェリーはねちっこく秘裂を撫で回し、淫核を刺激してくる。
「触るな変態! そこは駄目・・・んんっ!」
「触るなって言う割には、気持ちよさそうだな?」
「気持ちいいわけあるかぁっ! このっ、このっ!」
 レフェリーをぶん殴ろうとしたスミレだったが、幾らもがこうがロープから腕は抜けなかった。足は拘束されていなかったが、レフェリーはスミレに密着しており、蹴り上げることもできなかった。
(それでも・・・こうだっ!)
 体をロープに預けるように傾かせ、膝を立てる。
「ぬぐっ!」
 軽くではあるが金的を攻撃でき、急所を蹴られたレフェリーがよろめく。スミレは両膝を引きつけて蹴り飛ばし、そのまま後方回転してロープを捻り、見事にエプロンに脱出する。
「行くよ、これからヒロインの反撃なんだから!」
 猿冠者から攻撃され、レフェリーから短くない間セクハラされたというのにスミレはまだ元気一杯だった。バイトのときには真夏でも全身タイツを身に着け、頭部をすっぽりと覆う仮面を被って何十分ものショーを行うのだ。体力は人一倍あった。
(とは言っても、こいつ強いし、レフェリーもセクハラしてくるし・・・)
 衣服の乱れを直してリングに戻ったスミレに、猿冠者が上体を揺らしながら距離を詰めてくる。
(それでも、やるしかないんだから!)
 肝が座った途端、猿冠者の前蹴りが見えた。否、前蹴りの軌道が見えた。スミレの鳩尾目掛けて伸びてくる軌道から体を外し、猿冠者の側面に回り込む。不思議に思う間もなく猿冠者の回し蹴りの軌道から体を除ける。
 次には顔面に真っ直ぐな軌道を描く掌底を、更に飛び蹴りまでもかわしていく。
(あれ? なんだろこの感覚。そっか、バイトのときの感覚だ!)

 スミレはヒーローショーのバイトをしている。
 普段から同じ相手と稽古を繰り返しているが、怪我や都合で急にメンバーが抜けるときがある。そういうときは急遽人を集め、稽古が不十分なままぶっつけ本番でいくこともある。そういうときは連携ミスや動きのズレが出やすいが、スミレは瞬時に相手に合わせて動くことを覚え、ショーを成功させていった。

 ヒーローショーのバイトを二年近く続けた経験が、スミレに相手の動きを読む能力を身につけさせていた。猿冠者の鋭い突きを、蹴りをぎりぎりでかわしていく。
「おおっ、我ながら凄い・・・ひぐっ!」
 自分の動きに驚き気が逸れた途端、猿冠者の蹴りが脇腹を抉る。
(いかんいかん、集中!)
 痛みを意識的に無視し、猿冠者の動きだけを捉える。また攻撃の軌道が見える。
(でも、かわし続けても勝てないし・・・そうだ!)
 相手の動きの軌道がわかるのなら、その急所の軌道上に自分の攻撃を置けば! 鳩尾に伸びてくる掌底の軌道から体を逸らしながら、猿冠者の顔面が来るであろう位置に肘を置いておく。
「てぇい!」
 スミレの肘に顔面を抉られた猿冠者の顔が驚愕に歪む。痛みに歪んだのかもしれない。見事なカウンターを決めたスミレに、観客席から驚きの声が上がる。
「なにやってるんだ! さっさと捕まえろ!」
 レフェリーの叱咤に奮起したのか、猿冠者の顔が無表情に戻り、両手を軽く上げて構える。その体が、予備動作もなしに宙を舞う。
「うわっ!?」
 突然の飛び蹴りだったが、スミレはきちんと反応していた。しかし飛び蹴りの軌道を読んでかわした筈なのに、後頭部を衝撃が襲う。
「あぐっ!」
 猿冠者は飛び蹴りから踵落としに繋げていた。見えていれば動きが読めたとしても、視界の外からの攻撃には反応できなかった。後頭部への一撃に体が揺らぐ。するといきなり衣装の胸元が引き下ろされ、再び乳房がまろび出る。
「きゃっ!」
 スミレの背後に回った猿冠者の仕業だった。剥き出しにしたスミレの乳房を下から掬うようにして弾ませ、揉みしだく。
「またHぃことして・・・触るなっ! ふぁぁっ!」
 身を捩るスミレに、レフェリーが近づく。
「レフェリーの金的を蹴るとは、到底許されることじゃないぞ」
 猿冠者に揉まれている乳房の中心にある乳首を摘み、力を込める。
「痛いっ! 潰れちゃう!」
「男の急所を蹴られたときの痛みはこんなものじゃないぞ。少しは反省できたか? うん?」
 レフェリーが何度も力を入れたため、スミレの乳首は赤く充血してしまう。
「反省したから! だからもう放して!」
「そうか、ならやめてやるか」
 レフェリーが乳首から手を放す。しかし次の瞬間、レフェリーはスミレの衣装の裾を捲り上げ、見せパンに手を突っ込んで秘部を直接触っていた。
「きゃーーーっ!」
 悲鳴と共にレフェリーの手を押さえるスミレ。しかしレフェリーは気に留めた様子もなく、スミレの秘裂を弄り続ける。
「ま、ま、またそんなとこ触って! Hぃのもいいかげんにしてよ!」
「人の急所を蹴っておいて、自分の大事なところが触られたら怒るのか? 我侭娘め」
 レフェリーはスミレの言葉など聞く耳持たず、秘裂と淫核を同時に弄る。レフェリーとスミレが言い合いをしている間にも、猿冠者はスミレの乳房をひたすら揉み続けていた。
「いやだ、放せ! こんなの・・・こんなのいやーーーっ!」
 叫んでも喚いても、男達はスミレを嬲ることをやめようとはしなかった。それどころか、スミレが声を出すたび余計に嬲ってくる。
「う、うう・・・」
 スミレの目の端に、涙が浮かぶ。それを見たレフェリーが、秘裂をなぞりながら話し掛ける。
「くくっ、結局お姉ちゃんたちの仇は取れなかったなぁ」
 レフェリーの不用意な一言で、スミレの瞳に力が戻る。
(そうだ・・・私は、さー姉としー姉の仇を取らなきゃいけないんだ!)
 姉二人の顔を思い出したとき、スミレの体に力が湧いた。
「このっ!」
 レフェリーの足を踏みつけ、スミレから離れたところを胸板目掛けて両脚でキックする。猿冠者の両手首を握り、レフェリーを蹴った勢いで後方に倒れ込む。この攻撃で猿冠者の手がスミレの乳房から放れ、漸くスミレは自由を回復することができた。
「ピンチ脱出! こっから決めるよ!」
 衣装の乱れを直し、スミレが元気一杯に構える。
「このアマぁ・・・何度レフェリーに攻撃すれば気が済むんだ! もう許さん、徹底的に嬲ってやる!」
 レフェリーの怒号に背を押されたように、猿冠者が前に出る。
(来る!)
 集中したスミレの目前で、猿冠者が今までとはまるで違う速度で飛び蹴りを繰り出す。
「くっ!」
 それでも、スミレの反応の方が速かった。
「てぇぇぇいっ!」
 カウンターのサマーソルトキックが猿冠者の顎を捉え、猿冠者の意識を飛ばす。猿冠者の目が裏返り、膝がリングに落ちる。そのまま顔面からリングに倒れこんだ。
 猿冠者の戦闘能力が奪われたと見たレフェリーが、悔しさに顔を歪ませゴングを要請する。

<カンカンカン!>

「うっし! さー姉、しー姉、勝ったよっ!」
 スミレがポストの上に駆け上がり、そのまま後方宙返りを決めて見せる。勝利のバク宙を決めたスミレに、観客席から拍手が起きる。
「くそっ・・・」
 レフェリーの舌打ちは小さなものだったが、それを聞いたスミレが体ごとレフェリーに向く。
「ねえレフェリー、私、散々セクハラされたよね?」
「いや、それは俺の仕事でしょうがなくだな・・・」
 スミレの口調に何かを感じ、レフェリーが逃げ腰になる。
「私だけじゃなくて、さー姉にも、しー姉にもセクハラしたよね?」
 笑顔で指を鳴らすスミレは、可愛い顔立ちだけに迫力があった。
「いや待て、あれも仕事で、俺がしたくてしたわけじゃ・・・」
「嘘つけ、このド変態レフェリー!」
 スミレの華麗なスピンキックがレフェリーの顎を捕らえた。両眼が裏返ったレフェリーの体が、ロープ際まで吹っ飛ばされる。
「正義のヒロイン・スミレ、お仕置き完了!」
 Vサインをしたスミレの姿は、まるで本物のアクション女優のようだった。


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