【第六十四話 沢宮冬香:テコンドー 其の四】

 犠牲者の名は「沢宮冬香」。21歳。身長161cm、B89(Eカップ)・W59・H91。ショートカットにされた栗色の髪。鋭い光を放つ目と細い眉。常に結ばれた唇。見る者に意志の強さを感じさせる整った顔立ち。現在大学生で、テコンドー同好会に所属している。大学対校試合で活躍し、オリンピック候補に挙がったほどの実力の持ち主。
 義姉から同居人となった潮寺琴音だったが、二人の関係は昔と全く変わらなかった。和太鼓奏者を職業とする琴音だったが、所属する集団のスポンサーが撤退し、急遽新しいスポンサーを探さねばならなくなった。スポンサー探しに奔走する琴音を見て、冬香は何か力になりたかった。そこに、四度<地下闘艶場>からの招待状が届いた。もし冬香が参戦し、素晴らしい闘いを見せれば必ずスポンサーを見つけようというのだ。
 琴音のためならば。冬香は堕淫地獄に赴く覚悟を決めた。


「・・・なんでいっつもいっつも、エロ衣装しか用意しないのよ!」
 ある程度予想していたとはいえ、今回の衣装も酷いものだった。形状としてはビキニ水着だったが、ブラのカップは威嚇する熊がアップリケされていた。ボトムのサイド部分にはフリルがついていたが、当然の如くTバックだった。しかもバックで交差している箇所に、熊の尻尾を思わせるアクセサリーまでついている。
「まったく、しかも熊をモチーフにするなんて・・・」
「お似合いですよ」
 黒髪を短めに切っている女性黒服の言葉に、冬香は思わず鋭い視線を向けていた。
「それって嫌味?」
「とんでもありません、本心です」
 そう言いながらも、女性黒服の口元には微笑が浮かんでいた。
「顔がそう言ってないわよ!」
「申し訳ありません、正直なもので」
(ああ言えばこう言うわね、ホントに!)
 女性黒服が去ってからも、冬香の怒りは収まらなかった。

 リングに上がった冬香に、いつもどおりの卑猥な野次や指笛が投げられる。
「赤コーナー、『斬拳』、津堂斬一!」
 冬香の対戦相手はやはり男だった。使い込まれてあちこちが毛羽立った道衣に黒帯を締め、底光りのする視線で冬香を見据える。その両手にはオープンフィンガーグローブが嵌められていた。
「青コーナー、『進化するテコンドー』、沢宮冬香!」
 名前がコールされ、冬香は渋々ガウンを脱いだ。露わになった冬香の水着姿に、歓声となぜか笑いが起こった。
「し、失礼ね!」
 憤慨する冬香だったが、数多くいる観客を一人一人絞め上げるわけにはいかない。唇を噛み、対戦相手を睨みつけた。

「今日は男を誘うような格好だな」
 津堂のボディチェックを形だけで終えたレフェリーが、冬香の前に立ってにやける。
「また厭らしいことするつもりでしょ! 絶対しないでよ!」
「おいおい、ボディチェックを受けないと試合が始まらないぞ。この前も言っただろう?」
「くっ・・・!」
 レフェリーの言うとおり、ボディチェックを受けない限り試合は始まらないだろう。そうなれば琴音の所属する和太鼓集団にスポンサーが付くこともなくなり、琴音の顔に苦悩が残ることになる。
「・・・わかったわよ」
「わかってくれたか。それなら早速」
 レフェリーは冬香のバストを鷲掴みにし、厭らしく揉み込んでくる。
「義姉さんのためなら、か? いや、今は同居人だったな。泣かせる話じゃないか、なぁ?」
 冬香のバストを揉みながら、レフェリーがにやつく。冬香は顔を背け、何も言わない。
「なんだ、そんなに嫌なのか? それなら、琴音奥さん本人にリングに上がってもらっても・・・」
「義姉さんには手を出さないで!」
 それだけはさせまいと、レフェリーを睨みつける。
「それなら我慢するんだな」
 レフェリーが微妙に立ち位置を変え、剥き出しになっているヒップとバストを同時に弄る。
「な、なんで隠れてないとこまで触るのよ!」
「偶然手が当たったんだ、それくらいで怒るなよ」
 そう言いつつもぴたぴたとヒップを叩き、まるで悪びれた様子がない。
(こんのエロレフェリー! いっつもいっつもこんなことばっかり!)
 怒りをぶつければ、試合は行われない。試合が行わなければ、琴音を助けることもできない。冬香には、レフェリーの欲望に満ちたボディチェックを受け入れるしかなかった。

「よーし、何も隠してないみたいだな。それでは、ゴング!」

<カーン!>

 長いボディチェックが終わり、漸く試合が始まった。
(いっつもいっつも、いーーーっつも! 厭らしいこと以外はできないのあのエロレフェリー!)
 胸の中に憤懣を並べ立てながら、冬香が構える。対する津堂は前に出した左手を手刀にしてぴんと立て、軽くステップを踏みながら距離を詰めてくる。
(こいつ・・・空手使い?)
 だとすれば、フルコン系統の空手だろう。
(それじゃあ顔面への攻撃も防御も苦手な筈・・・?)
 そう考えたのも束の間、顔面に拳が伸びてくる。
(この程度!)
 受けようとした瞬間、津堂の拳が開き、視界が塞がれていた。そうと気づく前に腹部を抉られ、リングに倒れ込む。
「がはっ・・・」
「・・・その程度か?」
 津堂の冷たい声音に、持ち前の負けん気で立ち上がる。
「たった一発入れたくらいで、調子に乗らないでよね」
「そうか」
 再び津堂の左拳が顔面に迫る。
(二度も同じ手は食わないわよ!)
 腰を落とすことで拳の軌道から逸れるが、腹部に痛みが弾ける。左拳と同時に放たれた右拳だった。正確に同じ場所を突かれ、再びリングに這う。
「ごほっ、がはっ!」
「所詮、テコンドーは空手の亜種に過ぎん。お前では俺に勝てん!」
 この言葉で、冬香の目に怒りの炎が宿った。
「テコンドーはテコンドーよ! 空手と一緒にしないで!」
 内臓が上げる不満の声を無視し、両足で踏ん張って立ち上がる。
「大人しく寝ていればいいものを・・・」
 津堂の連撃が冬香を襲う。腹部の痛みにかわすことができず、ガードだけで耐える。津堂の突きや蹴りに冬香の手足が赤く腫れていく。
(痛い・・・でも、だいぶ回復してきた)
 徐々に冬香がガードだけでなく、体移動で攻撃をかわし始める。
「むっ?」
 それに気づいた津堂が攻撃を止める。
「どうしたの? もうおしまい?」
 冬香の挑発に、津堂の目が細められる。
「言ったな・・・後悔しろ!」
 津堂の鋭い踏み込みに、冬香の反応が一瞬遅れた。
「けぇぇいっ!」
 気合と共に、津堂の手刀が一閃する。
「!」
 冬香といえども仰け反るようにしかかわせなかった。津堂の手刀が、冬香の胸の谷間の間を掠めるようにして通過していく。
(鋭い! でも、ぎりぎりでかわせたわ)
 右の膝蹴り、左の前蹴り、右の回し蹴りの連弾で津堂を蹴り離す。
「その程度かっ!」
 津堂も即座に攻撃を返す。
「っと」
 一度距離を取った冬香に、観客席からの大歓声がぶつけられる。
「えっ!?」
 ビキニのブラが、真ん中から断ち切られていた。首紐で支えられているため落ちはしなかったものの、カップ部分が左右に分かれ、乳首が顔を出す。慌てて紐を結ぼうとするが、津堂の攻撃はそれすら許さない。冬香が身動きするたび乳房が揺れ、乳首が覗き、観客の目を楽しませる。
「きゃぁっ!」
 悲鳴を上げて胸元を隠した瞬間、津堂の前蹴りが突き刺さった。鳩尾に受けた強烈な一撃に、冬香は両手両膝をリングについていた。
「げほっ、ごぇっ!」
 咳き込みながらも、せり上がる胃液をなんとか飲み下す。
「・・・ふん」
 冷たく呟いた津堂だったが、なぜか冬香のお尻側に回る。そのまましゃがみ込み、冬香の乳房を鷲掴みにした。
「ほう、思ったよりボリュームがあるな」
「な、なに触って・・・やめてっ!」
 振り払いたい冬香だったが、まだ痛みから回復していない。両手をリングにつき、津堂になされるがままだった。
「やめなさいよこんなこと! エロレフェリーじゃあるまいし!」
「所詮女だな。胸を触られたくらいでぎゃあぎゃあと騒ぐ」
「自分で触っておいて、何を勝手な・・・ふぁっ!」
 反撃しようとしても、乳首の刺激に腰が砕ける。
「ふん、口ではそう言いながら、逃げようとはしないな。本当はもっとして欲しいんだろう?」
(勝手なこと・・・言わないでよっ!)
 男の勝手な理論に、冬香の闘争心が目を覚ます。津堂の手の甲を抓り、それと同時に太ももを蹴り飛ばしてバランスを崩させる。そのまま後ろも見ずに前転し、素早く立ち上がる。
「ちっ、雌猫みたいな真似しやがって」
 悪態をつきながら、津堂も遅れて立ち上がる。
「だが、その雌猫を調教するってのも・・・」
 津堂は最後まで言葉を続けられなかった。電光のような冬香の前蹴りが鳩尾を抉ったからだ。
「お・・・ぐふっ」
「せぇぇぇいっ!」
 冬香の体が宙に舞い、津堂の顎、右頬、右こめかみへほぼ同時に蹴りを叩き込む。一瞬で頭部に三連撃を食らった津堂は崩れ落ち、そのまま立ち上がろうとしなかった。レフェリーも慌ててゴングを要請する。

<カンカンカン!>

(勝った・・・義姉さん、勝ったよ)
 これで琴音にスポンサーがつく。その筈だった。
「見事な勝利だったな、冬香選手。おめでとさん」
「・・・なによ、もう試合は終わったでしょ? もうこれで帰らせてもらうから」
 零れそうになる胸元を押さえ、冬香はレフェリーに背を向けようとした。
「おいおい、これからが本番だよ」
 レフェリーの不吉な物言いに、冬香は思わずレフェリーの顔を見つめていた。
「お前が一分間おっぱい揉まれるのを我慢すれば、十万円のスポンサー料が付く。十分間で百万だ。どうだ? 琴音奥さんのために体を張れるんだから嬉しいだろう?」
「そんな・・・話が違う・・・」
「違わないよ。こっちが提示した条件は、スポンサーを探すってだけだ。今からそのスポンサー探しをしようっていうんだから、何が違う?」
「くっ・・・」
 この試合で勝てば<地下闘艶場>側でスポンサーを用意する、と思い込んでいた冬香にとって、レフェリーの言葉は予想外のものだった。しかしここで帰ってしまっては試合に勝った意味もなくなり、なにより琴音の助けにならない!
「・・・わかったわよ。でも、十万円を払おうって人はそんなにいないんじゃ・・・」
「ほれ、見てみろ」
 レフェリーの指差すリング下を見ると、既に男達が列を成していた。
「嘘・・・」
「嘘じゃない、冬香選手のおっぱいを十万出しても触りたいって男は多いんだ。よかったな、人気者で」
 にやにやと笑うレフェリーに、冬香はその顔を睨むしかできなかった。

 レフェリーに呼び込まれ、最初の「スポンサー」がリングに上がる。
「お待たせ致しました、それでは一分間だけ冬香選手の胸の感触をお楽しみください」
 ストップウォッチを持ったレフェリーがにやつく。男は頷くと、冬香の胸に手を伸ばした。
「ほう、これはこれは・・・」
 乳房の感触を気に入ったのか、男は両手で揉み込んでいく。
(くっ・・・)
 反射的に動きそうになる手足を意志の力で抑え、冬香は唇を噛んだ。
「いやあ、冬香選手のおっぱいを揉んで琴音さんの手助けもできる。奉仕精神が満たされるね」
(な、なにが奉仕精神よ! 勝手なこと言って!)
 反論したい冬香だったが、この男がスポンサーだと思うと迂闊なことは言えない。
「はい、一分経過しました」
 レフェリーがストップウォッチを止め、男を止める。
「もう時間か? 残念だな」
「申し訳ありませんが、一分という約束でしたので。ありがとうございました」
 男に頭を下げたレフェリーが冬香を睨む。
「ほれ、冬香選手もスポンサー様にお礼を言わないか」
「くっ・・・あ、ありがとうございました」
 乳房を好き勝手に弄られた屈辱を耐え、口先だけのお礼を言う。
「次は私だね」
 次の男はいきなり、冬香の背後から両手で乳房を鷲掴みにしてきた。
「痛っ!」
「ああ、悪い悪い。さっきの試合を見てて興奮してね。しかしこれが冬香ちゃんのおっぱいか。極上品じゃないか」
(私の胸はモノじゃない!)
 男の物言いには腹が立ったが、ここで切れてしまってはスポンサー料がパァとなる。そうなれば琴音の奔走も報われず、自分がこのリングに上がった意味もなくなる。そんな冬香の思いなど斟酌せず、男は自分が好きなように乳房を揉んでいる。
「時間です。そこまでです」
 レフェリーの制止に、男は渋々冬香から離れた。ほっと息をつく暇もなく、次の男が冬香の前に立つ。男は冬香の乳房だけでなく、股間までも撫でてくる。
「む、胸だけって言ったのに・・・!」
「まあいいじゃないか、その分スポンサー料を払うから。構わないだろ?」
「そんなこと・・・!」
「勿論構いませんよ! 但し料金は倍になりますからね」
 拒否しようとした冬香を遮り、レフェリーが勝手に話を決める。
「ちょっと! なに勝手なこと・・・ひぅっ!」
「おいおい、こっちは親切からスポンサー料を上げようっていうのに、その科白はなんだ?」
 男は酷薄な笑みを浮かべ、冬香の乳房と秘部を玩ぶ。
「まあまあ、こういう気の強いところも冬香選手の魅力ですから」
「確かにな。でも、スポンサー様のご機嫌は損ねちゃ駄目だぞ」
(く、悔しい・・・!)
 男の暴言にも、冬香は逆らうことができなかった。全ては琴音のため、そう心に呟いて必死に耐える。
 屈辱の一分がようやく終わり、男が離れていく。ほっとしたのも束の間、すぐに次の男がリングに上がる。
 次の男はでっぷりと太った中年男だった。冬香の背後に回り、密着しながら冬香の乳房を揉んでくる。
「ふ、冬香ちゃん、どうだい、この後ホテルに行くというなら、と、特別に百万円出そうじゃないか!」
 乳房を揉み込みながら、耳元で中年男が声を荒げる。
「誰がそんな・・・!」
「おっと、大事なスポンサー様に手を上げるなよ。そんなことをしたらスポンサーがいなくなって、今までの我慢が水の泡だぞ」
 眉が跳ね上がった冬香を見て、レフェリーが釘を刺す。
「くっ・・・ホ、ホテルには行かない!」
「ざ、残念だなぁ。それなら、し、しっかり触っておくよ!」
 興奮のあまりどもりながらも、中年男の手は冬香の乳房と秘部から放れようとはしない。
「はい、一分です」
 レフェリーが時間を告げても、男は中々冬香から離れようとはしない。
「困りますねお客さま」
 レフェリーが合図すると、黒服が中年男を冬香から引き離し、手荒く連行していく。
(あ、あと何人我慢すればいいの?)
 すでに膝から力が抜けそうになっている。冬香の頭には、早くこの「スポンサー募集」が終わってくれという願いしかなった。
「やっと私の番かね。待たされるというのは嫌なものだね」
 次の「スポンサー」は初老の男だった。
「申し訳ありません。冬香選手は人気が高いもので」
「ま、仕方ないね」
 紳士然とした佇まいながら、その顔は欲望に歪んでいる。
「どれ、さっそく」
 男は正面から冬香の乳房を揉み始めると、冬香の表情を見ながら少しずつ揉み方を変えていく。
(まずい、こいつ巧いわ・・・あっ!)
 先程までの男達に責めに加え、初老の男の巧みな責めに乳首が立ち上がってしまう。
「お、乳首が硬くなったね。私の手で感じてくれたようで嬉しいよ」
 男は冬香の乳首を転がし、弾く。
「ひぅぅっ!」
 途端に乳首から快楽の電流が走り、冬香の膝が震える。
(もう嫌、終わって、早く終わって・・・!)
 リング下に目をやったが、まだ男達の列は続いていた。
(そんな・・・)
 それでも、逃げ出すことはできなかった。

 その後も冬香はセクハラスポンサー募集を耐え続け、三十分にも渡って男達に肢体を弄られ続けた。最後にはリングに立つこともできなくなり、乳房、乳首、ヒップ、秘部を同時に複数の男に責められた。それでも、冬香には耐えることしか選択肢がなかった。
(義姉さん・・・)
 琴音を想い、ただひたすら耐え忍んだ。


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