【第七十話 芦鷹アウラ:自衛隊式格闘術 其の二】

 犠牲者の名は「芦鷹アウラ」。19歳。身長164cm、B86(Dカップ)・W60・H90。陸上自衛隊第三師団に所属する二等曹長。祖父がスウェーデン人のクォーター。黒髪をベリーショートにしているが、逆にその生命力溢れるような容貌を際立たせている。
 過去に一度<地下闘艶場>に上がったアウラに、またも上官から出場命令が下った。上官の命令に逆らうことはできず、アウラは敬礼で復唱した。


「またこんな衣装・・・」
 アウラに用意された衣装は、迷彩柄のレオタードだった。前回はビキニ水着にTシャツも付いていたが、今回はレオタードのみだという。
(でも、命令には逆らえない。私は自衛官なんだから)
 上官から、<地下闘艶場>が用意する衣装は必ず身に着けるよう命じられている。上意下達は自衛官には当然のことだ。アウラは私服を脱ぎ、レオタードを身に着けた。

 花道を進むガウン姿のアウラに、前回の対戦を知っている観客から胸のことを揶揄した言葉が飛ぶ。しかしアウラは表情を変えず、リングへと上がった。

 リングで待っていたのは、アウラも良く知る男達だった。蝶ネクタイを着けたレフェリーと、全身が水脹れしたような異形の男。
「赤コーナー、『ミスターメタボ』、グレッグ"ジャンク"カッパー!」
 グレッグは前回もアウラの対戦相手だった男で、異様に滑る汗を掻く特殊体質の持ち主だった。アウラは前回の試合でその汗に足を取られ、水着のブラを取られたものの最後はなんとか勝利を飾っている。
「青コーナー、『キューティーソルジャー』、芦鷹アウラ!」
 コールと同時にガウンを脱ぐ。アウラの身体にぴたりと張り付いた迷彩柄のレオタードに、観客席から野次と指笛が飛んだ。

「久しぶりだな芦鷹選手」
 グレッグのボディチェックをおざなりに終えたレフェリーが、にやけた表情でアウラの前に立つ。
「さ、ボディチェックだ」
 にやつきながら伸ばされたレフェリーの手を、アウラは避けようとしなかった。これも「ボディチェックを拒むな」という上官の命令のためだ。
「相変わらず素直だな」
 前回同様アウラがボディチェックを拒まないのをいいことに、レフェリーはいきなりバストを揉み始める。
「芦鷹選手、今日はブラしてないんだな」
 レフェリーの指摘どおり、アウラはブラを着けずにレオタードを着ていた。そのためDカップのバストがレオタードにぴったりと包み込まれている。
(いくら上官命令とはいえ、これは無視してもよかったのでは・・・)
 上官は試合の際、ブラの着用を禁じていた。さすがに反論しそうになったアウラだったが、上官の重ねての命令に不満を飲み込み、指示通りにブラをせずにリングに上がっていた。
「レオタードの生地が薄いから、感触が生とほとんど変わらないな」
 レフェリーはにやつきながらバストを揉み続ける。
「お、ここが乳首か。ブラをしてないとわかりやすいな」
 レフェリーの指がアウラの乳首をつつく。アウラは沸き上がりそうになる感情を噛み殺し、じっと直立していた。
「なんだ、乳首じゃないのか? それじゃあ、これは凶器か?」
 沈黙しているアウラに対し、レフェリーはわざと尋ねてくる。しかも乳首を捏ねることはやめない。
「・・・乳首、です」
「なんだ、やっぱりそうじゃないか。もっと早く教えてくれよ」
 乳首を責めていた指が離れ、下へと降りていく。
「・・・っ」
 前回同様、秘部とヒップにもレフェリーの責めが始められた。
「さすがに下は穿いてるな」
 レフェリーの指が、レオタードに浮かび上がったパンティのラインをなぞる。
(あ、当たり前です!)
 心の中で反論するアウラだったが、口には出さない。レフェリーの言葉に一々反応していれば、図に乗ることがわかっているからだ。
 アウラは不快感を堪え、ひたすらセクハラボディチェックを耐え続けた。

「おっと、そろそろ試合を始めなきゃな」
 レフェリーのボディチェックもようやく終わり、試合が開始された。

<カーン!>

「ぐうぇへへ、今日もおっぱい揉んでやるからなぁ」
 下品な手つきで指を開閉させながら、グレッグがアウラに迫る。前回かなりアウラを苦戦させたことで、自信を持っているのだろう。既にその体からは汗が滴り落ち、リングの上を覆っていく。この汗は摩擦係数を減らし、対戦相手のバランスを崩してしまう。アウラも前回の対戦では成す術がなかった。
 グレッグの汗が振り撒かれたリングの上を、アウラが前に出た。体勢を崩すことなく距離を詰める。
「んおぉ?」
 意外だったのだろう、グレッグが妙な声を上げて左手を伸ばす。

 前回の<地下闘艶場>では、アウラは衛生科部隊に所属しているという甘え、自分の訓練不足を認識させられた。帰隊後は、他部隊よりも少ない時間しかなかった格闘訓練を自分から望み、地獄の猛特訓に耐えた。

 グレッグの手を掻い潜り、アウラが更に距離を詰める。
 グレッグの左脇を上腕で叩き上げるのと同時に、内股で体勢を崩して投げを打つ。重量級のグレッグの巨体が一瞬宙に浮き、側頭部からリングに落ちる。自重が首に掛かったグレッグは、一発の投げで動きが止まった。
 まるで動こうとしないグレッグに歩み寄ったレフェリーが目の前で何度か手を振り、反応がないと見て両手を大きく振る。

<カンカンカン!>

 試合終了のゴングが鳴らされ、リングで大の字になったグレッグが担架で運び出される。
「・・・ふぅ」
 アウラは思わず安堵の息を吐いていた。前回あれほど苦戦した相手に完勝と言っていい勝ち方ができたが、心の内は決して平静ではなかったのだ。
「腕を上げたな、芦鷹選手」
 そこにレフェリーが声を掛けてくる。
「どうだ、まだ汗も掻いてないだろ? もう一試合してみないか?」
「もう一試合・・・」
 本来なら任務は終わった筈だが、自分がどこまで強くなれたのか、それを試したい気持ちが湧き上がる。
「・・・わかりました。お受けします」
「そうか! さすが自衛隊員、歯切れのいい返事だな」
 レフェリーは大袈裟に頷くと、すぐにリング下に居た黒服に近寄って何か話し出した。レフェリーの顔はアウラからは死角となり、そのほくそえんだ表情は見えなかった。

 グレッグの汗が掃除されたリングに、アウラの対戦相手が上がる。
「なっ・・・」
 リングに上がった対戦相手を見て、アウラが絶句する。もう一試合というから一対一の対決だと思っていたのに、二人の男性選手がリングに上がったのだ。
「レフェリー、これはどういうことですか」
「どういうことって、こういうことだよ。芦鷹選手が強いから、それに見合った対戦相手を選んだらこうなったのさ。なに、実力的には丁度釣り合いが取れてるよ。心配するな」
 心配するなと言われても、なんの慰めにもならない。それでも一度受けた試合を反故にはしないため、アウラはそれ以上抗弁しなかった。

「赤コーナー、『ブリザード』、コンテ・大倉! &『ヘタレキング』、早矢仕杜丸!」
 アウラの対戦相手は大倉と早矢仕のコンビだった。大倉も早矢仕も、レオタード姿のアウラを舐めるように見つめている。
「青コーナー、『キューティーソルジャー』、芦鷹アウラ!」
 鮮やかな勝利を挙げたアウラに対し、観客席から拍手が起こる。その拍手にも、アウラは素直に喜べなかった。

「さて、それじゃもう一度ボディチェックを受けて貰おうか」
 レフェリーの言葉に、アウラはつい反論していた。
「ボディチェックは先程受けました。なぜもう一度受けなくてはいけないのでしょうか?」
「なぜって、それが決まりだからだよ」
「納得できません」
 考えるよりも先に、アウラはきっぱりと断っていた。
「そうか。それじゃぁ、手伝って貰うしかないな」
 レフェリーがそう言った途端、両腕を掴まれていた。足も踏みつけられ、自由を奪われる。
「!」
 大倉と早矢仕だった。
「な、何を!」
「ボディチェックを拒むというから、手伝ってもらうのさ」
 レフェリーは両手でアウラのバストを鷲掴みにし、ゆっくりと揉んでくる。
「くくっ、やっぱり生に近い感触だ。何度揉んでもたまらんな」
「拒むも何も、先程調べたではありませんか!」
「さっきも言ったじゃないか、試合前のボディチェックが決まりだからだよ」
 アウラのバストを揉み回し、レフェリーが下品な笑みを浮かべる。
「そんな詭弁には納得できません!」
 もがくアウラだったが、幾ら鍛えているとは言え、男性レスラー二人に捕まっていては脱出は難しかった。
「・・・大倉さん、そろそろ我慢できなくないですか?」
「そうだな、俺らもボディチェックを手伝うか」
 いきなり、早矢仕と大倉までもがアウラの身体に触れてきた。アウラの身体に密着し、レフェリー共々セクハラしてくる。
「レ、レフェリー! 対戦相手の二人が・・・!」
「おいおい、ボディチェックの最中に動くなよ。しっかり調べられないだろう?」
 アウラの股間を撫で回しながらレフェリーが釘を刺す。
「自衛隊って言うから、どんなマッチョ姉ちゃんが来るかと思いましたよ! まさかこんな可愛い娘だなんて、嬉しい誤算ってやつですね!」
 アウラのバストを揉みながら、早矢仕がへらへらと感想を洩らす。
「確かにな。自衛隊ってだけで偏見持っちゃいけないってことだな」
 アウラのヒップを撫でながら、大倉が嘯く。
「レフェリー! ボディチェックならせめて二人をコーナーに・・・あうっ」
 アウラの正当な抗議も、男達のセクハラによって遮られる。嫌悪感に身を捩ることが、アウラのせめてもの抵抗だった。

 三人掛かりのセクハラボディチェックも五分を過ぎた。
「それじゃ、ボディチェックを終わるとするか」

<カーン!>

 アウラが大倉と早矢仕に捕まったままゴングが鳴らされた。
(まさか、ここまでするなんて!)
 追加試合を受け入れたものの、一対二のハンデ戦、三人掛かりのセクハラボディチェックが待っているとは思ってもみなかった。しかも一度コーナーに下がらせることもせず、そのまま試合を始めるとは!
「・・・んぅっ!」
 身体の上を這い回る男の手の刺激を堪え、早矢仕の膝を横から蹴って体勢を崩し、大倉の顎に掌打を叩き込んで怯ませて脱出する。
「うわぁ、アウラちゃん巧い」
「くそっ、顎が痛ぇ」
 早矢仕と大倉はぼやきながらもアウラとの距離を詰めてくる。
「レフェリー! 二人ともリングに残っています!」
「ああ、この試合はそういう試合だ」
 つまりアウラ一人に男性選手が二人掛かりで来る、ということだ。否、レフェリーも含めると三人の男性を相手にしなければならない。
(落ち着いて、アウラ。一対多数の訓練も積んだんだから)
 このような場合も想定し、多人数を相手とする闘い方も学んだ。複数の敵が居るときの基本として、早矢仕が大倉を背後に背負うような位置取りに動く。
「逃がさないよアウラちゃーん!」
 飛び出してきた早矢仕のタックルに、落ち着いて膝を合わせる。これで沈んだ早矢仕に気を抜きかけたところで、早矢仕の背を蹴って大倉が現れた。
「!」
 ドロップキックで頭部を蹴られ、反動で吹き飛んだ先のコーナーポストに側頭部をぶつける。
(あ・・・)
 頭部への攻撃で意識が飛ぶ。その意識も、布が裂ける鋭い音で覚醒する。
「んっ・・・えっ!?」
 目の前に、破れた布地を持った大倉が立っていた。反射的に蹴りを出し、コーナーを脱出する。
「あっ!」
 アウラは慌てて胸元を隠した。レオタードの胸元が裂け、乳房が露出していたのだ。
「おいおい、折角見えるようになったんだから隠すなよ」
 破り取ったレオタードの一部を放り出し、大倉が皮肉る。
「ま、隠すのは勝手だが、おっぱいを守ったまんまで闘えるのか?」
 大倉の言葉に応じるように、アウラは左手を乳房から放し、片手だけで構える。
「なんだ、片手で相手してくれるってのか? 優しいなぁ自衛官さんよ」
 大倉の挑発に、アウラの眉がぴくりと動く。
「・・・」
 アウラが両手を乳房から放したことで、観客の目にアウラの乳房が晒される。自分で手を放したというのに、アウラを羞恥が襲う。
「おっと、サービスがいいな。おっぱいがよく見えるぜ」
 挑発に釣られたわけではなかったが、アウラが一気に距離を詰める。
 突然、足首を掴まれた。
「!」
 視線の先でアウラの足首を掴んでいたのは、倒した筈の早矢仕だった。
「っ!」
 逆の足で蹴飛ばそうとした瞬間、首に衝撃が奔った。遅れて背中に衝撃が来て、自分がリングに倒れたことを知る。
「よくやった早矢仕」
 ラリアートでアウラを倒した大倉が早矢仕を誉める。
「へへ〜、見事な死んだフリだったでしょ?」
「何言ってやがる、本気で失神してたくせに」
 言葉を交わしながらも、大倉と早矢仕はアウラを立たせていた。
「いくぜっ!」
「あいよっ!」
 背後からアウラの両手首と両太ももを抱え、ツープラトンのバックドロップで宙を舞わす。
「あぐぅっ!」
 後頭部をリングに叩きつけられ、アウラの口から望まぬ痛みに苦鳴が洩れた。
 後頭部を押さえて痛みを堪えるアウラを見て、早矢仕が手を叩いた。
「いいこと思いついた! 大倉さん、こんなのどうですか?」
 早矢仕の思いつきに、大倉が頷く。
「面白いな。やれ」
「アイアイサー!」
 早矢仕はアウラの両足を掴むと、その間に自分の足を入れた。
「それじゃ・・・いきまーす!」
 そのままアウラの股間に足裏を当てると、いきなり連続で踏み込んだ。
「ひぃぃぃっ!」
 早矢仕の電気アンマに、アウラが高い声を上げる。
「そーれそーれ!」
「あぐぅぅぅ! や、やめ・・・ひぐぃぅ!」
 股間に細かい振動を送られ、羞恥と屈辱、強烈な刺激に声が裏返る。
「色っぽい声出してくれるじゃねぇか」
 アウラの腕を拘束していた大倉が、乳房を鷲掴みにしてくる。
「触らな・・・ひやぅぅぅっ!」
 乳房を守ろうとしても、股間に与えられる振動がさせてくれない。
「いいねぇ、あの芦鷹選手が電気アンマに悶えてるぜ」
 アウラのそばにしゃがみ込んだレフェリーが、アウラの姿態に唇を歪める。
「折角だ、もっと色っぽくしてやるぜ」
 レフェリーの伸ばした手がアウラの身を隠すレオタードを掴み、破く。レフェリーの手が動くたび、レオタードが面積を減じていく。
 遂には、アウラの肢体を隠すのはレオタードの成れの果てと飾り気のないパンティだけとなった。その間にも早矢仕からは電気アンマで責められ、大倉からは乳房を揉まれ続けている。
「も、もうやめ・・・いぎぃぅぅっ!」
 アウラが言葉を発しようとしても、股間に与えられる無慈悲な振動が遮る。
「そろそろ限界っぽいな。それじゃ、本番と行くか!」
 レフェリーの叫びを契機として、男達がアウラの身体に群がる。
 レフェリーはアウラの右乳房を揉み、大倉は左乳房を捏ね回し、早矢仕はアウラの股間に顔を埋めた。
「くんかくんか・・・アウラちゃんのここ、いい匂いがする!」
「そうかそうか、俺も後で調べてやろう」
「嗅ぐのはいいが、舐めるなよ」
 アウラの身体を弄りながら、男達が下品な笑い声を上げる。
(こ、こんなことまでされるなんて!)
 前回の試合のときもセクハラはされたものの、今試合は前回の比ではない。男達の手が、指が、呼気が、アウラの身体を辱める。
(・・・それなら)
 アウラの太ももが早矢仕の後頭部に巻きつき、抱え込んだ。
「ふむほーっ!」
 アウラの秘部に密着した早矢仕が喜びの声を上げる。荒くなった鼻息が下着越しにアウラの秘部に届き、不快感を煽る。
「なんだ、芦鷹選手も感じてきたのか」
 これを見たレフェリーが笑う。しかしそれに反応を見せず、アウラは更に太ももに力を込めた。
「そういうことなら、俺も頑張って気持ちよくしなきゃな」
 大倉は乳首に狙いを定め、細かい振動を送ってくる。アウラは唇を噛み締め、身体に与えられる刺激を堪えた。
「ふんぐ? んむふ、ふむーっ!」
 いきなり早矢仕が手足をバタつかせ始める。
「おいおい早矢仕、そこまでハッスルしなくてもいいんだぞ」
 レフェリーが笑い、大倉は負けじとアウラの乳首を弄る。
「んっ、んんっ!」
 乳房、乳首、秘部に与えられる男達の責めを、アウラは声を洩らしながらも必死に耐えた。
「芦鷹選手がこんなに好きものだったとはなぁ」
「そのくせ声を抑えようとするのは、俺達を誘ってるんだろ?」
 レフェリーも大倉もアウラの乳房を好きなように変形させながら、下品な笑いを洩らす。
 その二人とは違い、いつしか早矢仕が動きを止めていた。
(・・・今!)
 アウラの目に意志の光が宿る。早矢仕を手荒く蹴飛ばすと、素早く膝を引きつける。
「はっ!」
 気合いと共に放たれたアウラの蹴りで、レフェリーと大倉がリングに転がる。
「いってぇ・・・」
「早矢仕の野郎、相変わらず肝心なところで!」
 レフェリーと大倉の視線の先で、早矢仕がリングに倒れ込んでいた。アウラが早矢仕の頭部を脚部で抱え込んだのは、早矢仕を呼吸困難による酸素不足に追い込むためだった。
「これで、一対一」
 低く呟いたアウラが大倉との距離を縮める。
「ちっ!」
 大倉は舌打ちしながら立ち上がり、構える。しかし、視線はアウラの剥き出しの乳房に注がれていた。
「まあいい、また押さえ込んでひたすら嬲ってやる」
 唇を舐めた大倉は、無造作に距離を詰めた。
「そら、捕まえ・・・」
 アウラに向かって伸ばした左手が空を掴んだ。と、その腕に柔らかい感触が巻きつく。
「んおっ?」
 その柔らかさに警戒心が緩む。
「はっ!」
 大倉の左腕を抱え込んだアウラが、腕ごと巻き込むような投げを打つ。堪らず投げられた大倉を、アウラが腕を決めたまま押さえ込んだ。
「せいっ!」
 アウラの気合いと同時に、リングに鈍い音が響く。
「ぐぁぁぁっ!」
 左肘の靭帯が伸ばされた痛みに、大倉がリングを叩いて絶叫する。
「まだ続けますか? 続けると言うのなら肘を折るしかありませんが」
「ギブアップだ! ギブアップする!」
 アウラの冷たい声音に、大倉は敗北の言葉を叫んでいた。

<カンカンカン!>

 大倉のギブアップに、アウラの勝利を告げるゴングが鳴らされた。
「・・・勝った」
 連戦、しかもハンディキャップマッチを勝利で終え、アウラは大きく息を吐いた。
「後は・・・」
 アウラの鋭い視線がレフェリーを探すが、当の本人は既にリング外へと姿を消していた。
「・・・逃げ足の速い」
 憤懣の表情を浮かべたアウラだったが、胸元を庇い、静かに立ち上がった。


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