【第七話 於鶴涼子:合気道 其の二】

 再び<地下闘艶場>へと引きずり込まれた犠牲者がいた。名は「於鶴涼子」。21歳。身長163cm、B85(Dカップ)・W60・H83。「御前」の所有する企業の一つ「奏星社」で受付をしている。長く綺麗な黒髪と涼しげな目、すっと通った鼻梁、引き結ばれた口元。独特の風貌を持つ和風美人である。
 前回の<地下闘艶場>では三連戦を強いられたが全てを退け、三百万円のファイトマネーを手に入れた。全額を父親に渡し、父親はそのうちの二百万を使って道場を改修し、ちらしを刷って道場生を募集した。その効果で新しい道場生も増え、道場にも活気が出てきた。
 三ヶ月が経った頃、涼子の留守中、道場にふらりと一人の老人がやってきた。ジャージ姿の小柄な老人はニコニコと練習を見ていたと思うと、父親に立会いを望んできた。最初は道場の高弟が相手をしたが苦もなく一蹴され、父親が相手をすることになった。しかし、結果は無残なものだった。父親は両肩の脱臼、両足首の靭帯断裂の重症を負い、現在は病院に入院している。父親の怪我は、涼子が<地下闘艶場>で相手に負わせたものと一致する。<地下闘艶場>からの挑発と考えていいだろう。
 そこに再び<地下闘艶場>への参加の打診があった。対戦相手は父親に重症を負わせた人物だという。しかも涼子が勝てば父の入院費も支払う。涼子はそれを受け、二度目の<地下闘艶場>への参戦を決めた。


 リング上の涼子は長い黒髪をポニーテールに纏め、白い道衣と黒い袴、胸にはサラシをつけている。今回の衣装は自前の物を用意すると言うと、あっさりと聞き入れられた。二回目ともなると我侭も通るのだろうか。対戦相手は黒い道衣を身に付け、ニコニコと微笑む老人だった。
(この方が父の仇・・・)
 一見ではそれ程の手練れとも思えないが、佇まいに風格がある。涼子の父親は達人クラスには届かないものの、街のチンピラ程度なら10人でも相手にできる。その父親に対し、楽々と関節技を極めたのだから寝技にも精通している筈。そう考えていくと、自然な佇まいが恐ろしいものに見えてくる。

「赤コーナー、元橋堅城!」
 涼子に向かって一礼する元橋に、観客から大きな歓声が起こる。ビクトリア・フォレストとの対戦を見ていた観客からのものだろう。
「青コーナー、『クールビューティ』、於鶴涼子!」
 名前をコールされた涼子が、すっ、と優雅に一礼すると、こちらにも大きな声援が送られる。前回の試合を見て涼子に魅せられた観客も多いのだろう。
 レフェリーが元橋のボディチェックを済ませ、涼子に歩み寄ってくる。また厭らしく触ってくるのかと身を堅くした涼子だったが、レフェリーは道衣と袴を軽く触って済ませ、試合開始を告げた。

<カーン!>

(・・・どんな裏があるのでしょうか?)
 衣装といい、ボディチェックといい、明らかに涼子に配慮した対応である。絶対にこれで終わる筈がない。
 と、元橋が普通に歩いてくる。普通すぎる歩みに虚を突かれ、涼子の動きが止まる。目前に迫った元橋の襟を掴もうと手を伸ばすが、そこにもう元橋はいない。
「!」
 気づいたときには後ろから足を刈られ、腹這いでマットに倒れこむ。その時、しゅるり、という布ずれの音が耳に聞こえた。
(?)
 気になったのも一瞬で、前転して距離を取り、立ち上がる。すると、袴を持った元橋がニコニコと微笑んでいた。
(あれは・・・私の袴?)
 元橋は涼子の袴の紐を外し、前転で逃げる涼子の脚から巧みに袴を抜き取ったのだった。
(そう・・・そういうことですのね)
 リングの上での強制脱衣ショー。この狙いがあったため、涼子の要望を呑んだのだろう。元橋は涼子に背を向け、戦利品よろしくコーナーに袴を掛ける。その背中に隙がなく、つけ込むことが出来ない。
「於鶴選手、今日も純白の下着が・・・ってあれ?」
 レフェリーが涼子の下半身に目をやるが、涼子はボクサータイプの白いトランクスを履いていた。前回の闘いで袴を脱がされたため、用心のために準備してきたのが吉と出た。
 元橋がつつっ、と間合いを詰めてくる。同時に前に出て投げを狙った涼子だが、その手は空を掴んだ。元橋は涼子の道衣の紐を片方外し、もう一方にも手を伸ばす。
(させません!)
 道衣を絡めるようにしてその手を巻き込み、投げを打つ。さすがの元橋もかわせず、リングに背中から落ちる。しかし落ちた瞬間にはその手を抜き、素早く立ち上がっている。しかも残った道衣の紐もしっかり外しており、道衣の前が開いてサラシを巻いた胸と白い肌が露わになる。
(この方の手並みですと、紐を結びなおそうとした瞬間が危ないですね)
 涼子は前を隠そうともせず、両手を体の前で構える。それを見た元橋は素直に感心していた。普通の小娘ならまず隠そうとし、隙ができる。そうなれば如何様にも料理することができるのだが、この相手は違う。
「本気でお相手してもよさそうですな。参りますぞ?」
 組手争いから左袖を掴み、右手を奥襟に伸ばす。
「!」
 それをさせまいと元橋の右手を払った涼子だったが、足払いで体が一瞬宙に浮く。まだ体がリングにつく前にトランクスを掴まれ、阻止しようと伸ばした右手は間に合わず、空を掴んだ先を脚から抜かれていく。純白の下着が晒され、観客から歓声が上がる。
「くっ!」
 やはり上手い。跳ね起きた涼子には目をくれず、元橋は奪ったトランクスをコーナーに掛ける。その間に道衣の紐を結び、どうにか下着を隠す。
「今日も純白の下着か。さすが清純な於鶴選手だ、白が似合うよ」
 ニヤつきながら話しかけてくるレフェリーには反応も示さず、元橋を注視する。次はおそらく道衣を狙ってくるだろう。そこに罠を仕掛ける。
 元橋が間合いを詰め、左手を伸ばしてくる。組手争いで優位に立とうとするが、まるで相手にならない。またも道衣の紐を外され、サラシと下着が晒される。
(今!)
 両手を掲げて飛び掛ると見せかけて瞬時に腕を抜き、道衣を元橋の頭の上から被せる。この奇襲に元橋も反応できず、涼子の双手刈りにリングに倒される。この光景をみた観客から、驚きの声が上がる。自ら道衣を脱いだ涼子へか、元橋が倒されたことへか、あるいは剥きだしになった純白の下着にか。
(これを逃せば後がありません、ここで仕留めないと!)
 元橋をうつ伏せにし、足首を捕って極めを狙う。しかし元橋は小柄な体格と柔軟性を生かして涼子の両足の間から上体を抜き、涼子の足を払って体勢を崩させ、脱出する。
「いやぁ、参りましたよお嬢さん。まさか道衣を囮に使うとは思いも寄りませんでした」
 元橋は頭をかきながら、それでも微笑んでいる。涼子はサラシと下着のみになってしまい、さすがに構えが小さく、頬がうっすらと紅潮している。その涼子の目の前で元橋は道衣を拾い、コーナーに掛ける。一枚、また一枚と美女が脱がされていく光景に、観客からの静かな興奮がリングにも漂ってくる。
(どうすれば・・・この方に勝てるのでしょうか)
 組手争いでも、立ち回りでも、技の掛け合いでも、奇襲でも勝てない。ついにはサラシと下着のみの姿となり、羞恥が込み上げてくる。そんな涼子に向かって、元橋が間合いを詰めてくる。下がり気味に対応する涼子はサラシへと伸びてくる手を払い続ける。
「お嬢さん、サラシではなくて下着を脱がされるのを御所望ですかな?」
 下着を掴まれ、意識がそちらに向いた涼子はつい両手で下着を押さえてしまう。その瞬間サラシの要が外され、元橋の手に巻き取られていく。
「っ!」
 それを阻止しようとサラシを押さえると、下着を引っ張られる。下着を押さえるとサラシが引っ張られ、緩められ、巻き取られてしまう。
 それを繰り返され、サラシはすべて元橋の手に移ってしまう。元橋はそのままコーナーへと向かい、サラシを掛ける。涼子は両手で自分の乳房を隠すことしかできない。涼子の下着一枚の姿に、観客から「あと一枚!」コールが起こる。
「さて、では仕上げと参りましょうか」
 すたすたと歩いてくる元橋に、右手で胸を押さえ、左手一本で応じる。しかし片手で対抗できるわけもなく、双手刈りで倒されてしまう。両脚を元橋に押さえられ、必死に両手で胸と股間を隠す。
「これは寒そうな格好だな於鶴選手、暖めてあげようか」
 そう言うと、ここまで手出ししなかったレフェリーが涼子の片手の隙間から手を入れ、剥き出しの乳房を揉み出す。
「あっ、そんな、はっ、あうっ!」
 片手では男の力に敵わず、好きなように揉まれてしまう。しかも元橋には下着の上から秘部を触られる。
「おいおい、暖めてやってるんだ、この手を外そうぜ?」
 胸を隠していた左手をレフェリーに引っ張られ、慌てて股間を押さえていた右手で胸を隠す。無防備となった秘部が元橋に愛撫される。
(こ、これくらい、我慢しなくては!)
 秘部からの刺激に唇を噛んで耐える。左手はレフェリーの足の下に敷かれ、右手にもレフェリーの手が掛かる。
「そ、それは、勘弁してください! 見えてしまいます!」
「俺は於鶴選手の乳首が見たいし、観客も見たいんだ。そうだろう!?」
 レフェリーが客席に向かって叫ぶと、大歓声がそれに応える。
「日本は民主主義なんだ、多数決で見ることに決定だな!」
 そう言い放ち、レフェリーは涼子の右手を胸から引き剥がす。美乳が剥き出しになり、淡い桃色の乳首も晒される。この光景に、観客から拍手喝采と指笛が鳴らされる。
 レフェリーは涼子の両手を足で押さえ、無防備となった美乳を揉む。相変わらずの吸いつくような感触に、下卑た笑いを漏らす。元橋は下着の中に手を入れ、秘裂を直接擦りだす。
「あぁぁぁぁっ! や、やめてくださいっ!」
 悲鳴をあげ、必死に逃げようとする涼子。しかし男二人に押さえられては動くこともままならず、首を振るくらいしかできない。その間にも乳房を揉まれ、乳首をしごかれ、秘部を愛撫される。美女が下着一枚の姿で嬲られる姿に興奮し、観客席から歓声が上がる。
 レフェリーは強弱をつけて美乳を揉み、乳輪を指で回すようにして刺激する。元橋は淫核を親指で押さえながら人差し指を秘裂に埋め、入り口付近を愛撫する。声を上げ、逃げようとする涼子だったが、逃げられる筈もなく、男二人から嬲られ続けた。

 どれだけ責められただろうか。ついに元橋の手が純白の下着に掛かる。
「あぁっ! し、下着だけは堪忍してください!」
 身をくねらせ、必死にもがく。
「下着を脱がされるのは嫌か。それはこうやって責められているほうがいいってことだな? ふん、とんだ淫乱だぜ」
「ち、違います! あ、さ、触らないでっ!」
 レフェリーに乳房を揉まれ、嫌悪感から叫ぶ。
「じゃあ下着を脱がすか?」
「それは・・・嫌です・・・」
「そうか、ならこうして厭らしく触られていたいってことだな!」
「そんな・・・あくっ!」
 レフェリーは責めを再開し、乳房を揉み続ける。元橋は股間に顔を埋め、舌で割れ目をなぞっている。乳房、秘部を責められ、とうとう乳首が立ち上がってしまう。それをレフェリーは見逃さず、親指と人差し指で挟む。
「ほーら、乳首がこんなになってるじゃないか。やっぱり触られたかったんだろ?」
「違います! ああっ! ち、違います!」
 必死に否定する涼子だったが、レフェリーはそんな涼子の態度を嘲笑いながら乳首を責める。レフェリーの指の間で乳首は益々硬さを増していく。秘部は元橋によって舐められ、下着越しにうっすらと透けて見える。
(こんなことって・・・うっ!・・・どうしたら、どうしたらいいの・・・!)
 嬲られながらも、涼子はまだ諦めなかった。必死にもがき、隙を探る。と、レフェリーが涼子への責めへ意識が行き過ぎたのか、手を押さえる力が弱くなっているのに気づく。
(これで・・・!)
 レフェリーの脛に爪をたてる。その痛みにレフェリーが腰を浮かして隙間ができ、手を引き抜いたと同時に股間を打つ。倒れ込んでくるレフェリーの体を元橋に向かって、飛び退くようにしか避けられない位置に投げる。
 初めて元橋が涼子の狙い通りに動いた。宙に浮いた元橋の体を両足で回転させ、その背中の下に潜り込む。同時に胴を脚で締め、腕で頚動脈を絞める。
「ぬぐぅ、油断を・・・!」
 元橋も暴れるが涼子の拘束を外すことができない。それでもリングを蹴り、涼子の腕を叩き、僅かでも脱出の可能性を高めようともがく。
(ここで逃せば、もう私に勝ちはない! ここで、決めます!)
 涼子も必死だった。元橋ほどの達人が見せたたった一度の隙。涼子の勝機はここしかなかった。元橋の抵抗にも耐え、頚動脈を締め続ける。
 元橋の動きが徐々に緩やかになり、小さくなり、やがて止まった。涼子は尚も暫く絞めていたが元橋が完全に落ちたと判断し、片手で美乳を隠しながら立ち上がる。
(勝った・・・)
 強敵を降したことを確認し、サラシ以外の着衣を身に付ける。リングを降りようとした涼子だったが、踵を返して元橋に歩み寄り、活を入れる。
「う・・・む・・・おや、お嬢さん。私は・・・負けたのですなぁ」
 元橋の目に焦点が戻ってくる。涼子を見るその目にもう戦意はない。
「あの、一つお願いがあるんです・・・私に、技を教授していただけませんか?」
 涼子の頼みに目を見張る元橋だったが、ゆっくりと頭を振って拒否する。
「私は人に教えられるような人間じゃありませんよ。それに、貴女は私に勝ったじゃありませんか。敗者が勝者に教えるなどおこがましい」
「そうですか・・・」
 落胆の色を見せる涼子を余所に、元橋がよっこらせと立ち上がり、首を擦る。
「いやはや、あの場面から諦めずに反撃を試みるとは、たいしたお嬢さんだ。於鶴さん、完敗ですよ」
「いいえ。あの時、審判が居たからこそ元橋様の隙をつけました。一対一なら私の負けでしたわ」
 ほんのりと頬を染め、返答する。その後ろでレフェリーが立ち上がり、涼子に詰め寄る。
「レフェリーの股間を叩くとは、とんでもない反則行為だ! このままもう一戦・・・!」
「私の負けですよ」
 レフェリーの言葉を遮り、元橋が涼子とレフェリーの間に立つ。
「もう終わったんですよ。それでいいじゃないですか」
「そんなわけにはいくか! おい、マイクを寄越せ!」
 エプロンサイドに行こうとするレフェリーに対し、やれやれと言いながら元橋が近づく。両膝を裏から蹴り、後ろに倒して胴締めスリーパーに極める。あっさりとレフェリーを落とし、涼子に向かって微笑む。
「あの・・・ありがとうございます」
「なに、儂に勝った貴女にもう一戦させるなど無粋だと思いましてな。それだけですよ」
 そう言い残し、元橋はさっさとリングを降りた。その背を、頬を赤らめたまま見送る涼子だった。

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