【第八十七話 高良森香:忍術】

 犠牲者の名は「高良(たから)森香(もりか)」。19歳。身長166cm、B88(Eカップ)・W60・H88。漆黒の髪はサイド部分を長く伸ばし、後ろはばっさりとカットしている。前髪から覗く目はどこか冷たく、顎の線はシャープで、全体として硬質的な印象を与える美貌の持ち主。しかし、身体の線は女性特有の丸みを柔らかく帯びている。
 八岳(やたけ)琉璃(るり)の専用ボディガード。琉璃本人はボディガードの必要性を感じていないが、琉璃の祖父であり、八岳グループ総帥の八岳(やたけ)将玄(しょうげん)が無理に護衛として付けている。琉璃に危害を加えるために八岳グループの敵対企業に雇われた人間や、琉璃本人に獣心を抱くような人間から、密かに琉璃を護衛してきた。
 影働きに徹してきた森香に、<地下闘艶場>からの魔手が伸びた。


「・・・これが、衣装?」
 森香の疑問は当然だったろう。用意された衣装は、ゲームの中でしか見ないような忍び装束だった。胸元、脇、太もも横などが必要以上に大きく開き、その部分には鎖帷子を模した格子模様が入っているのみ。裾は膝上までしかなく、サイドには切れ目まで入れられている。
「観客の皆様の目を楽しませることも<地下闘艶場>の趣旨となっております。そのための衣装だとご理解下さい」
 女性黒服の説明に、森香はただ頷くだけだった。女性黒服が控え室を後にすると、躊躇うことなく衣装へと着替えた。

 花道を進むガウン姿の森香に、観客席からは卑猥な野次、指笛、あからさまな猥雑な単語などが飛んでくる。しかし森香は表情を変えず、淡々と歩いていく。
 恥辱が待つと知りながら、それでも闘いの場へと向かって。

「赤コーナー、『ザ・ニンジャ』、小四郎!」
 小四郎はいつものように忍者装束に身を包み、腕組みをして佇んでいる。その目が少しだけ大きく開かれているのは、相手が本物の忍者だからだろうか。
「青コーナー、『ガードオブシャドウ』、高良森香!」
 自分の名前がコールされ、森香は指示通りにガウンを脱いだ。男の欲望が生んだかのようなくの一衣装に、観客席から欲望の視線が飛んでくる。しかし森香は表情を変えず、じっと小四郎を見つめていた。
 その冷たい視線で。

 小四郎のボディチェックをおざなりに終え、レフェリーが森香の前に立つ。
「さ、高良選手もボディチェックを受けてくれ」
 レフェリーの表情を見れば、何が目的なのか容易く理解できる。しかし、森香は抵抗を見せない。

 八岳将玄は、森香が性的に責められた経験がほとんどないことを危惧していた。もし仮に敵の手に落ちたとき、森香は痛みには耐えられるだろう。だが、快楽にはどうか? その懐疑が、将玄が森香に<地下闘艶場>へと出場させた最大の理由だった。
 だからこそ、将玄は森香に<地下闘艶場>への出場を命じただけではなく、セクハラが主目的であるボディチェックも受け入れさせたのだ。

 森香が動かないと見て、レフェリーが舌舐めずりする。
「物わかりがいいじゃないか。へへ、それじゃさっそく・・・」
 森香へと左手を伸ばしたレフェリーは、いきなりバストを鷲掴みにする。
「やっぱり大きいと揉み応えがあるな」
 思うままに揉み込みながら、レフェリーが一人にやける。
「今までの任務で、何人も相手にしてきたんだろ? おっぱい揉まれるのは俺で何人目なんだ?」
 バストを揉みながらレフェリーが尋ねるが、森香は何も答えない。
「言えないのか? なら・・・」
 レフェリーの右手が低く動く。
「ここはどうだ? 俺で何人目だ?」
 股間を軽くつつき、それでは終わらずに撫でていく。
「その質問に答えろ、という指令は受けていません」
 森香の感情の篭らない答えに、レフェリーが舌打ちする。
「ああそうかい。まあいい、ボディチェックを続けるぞ」
 その後もレフェリーの手が森香の体の上を這いずる。それでも森香は表情を変えず、じっとボディチェックが終わるのを待っていた。

「つまらないボディチェックだったぜ」
 そう吐き捨てたレフェリーは、ゴングを要請した。

<カーン!>

「くの一との対戦・・・心密かに願ってはいたが、実現する日がこようとは」
 小四郎の呟きには、隠せない興奮が混じっていた。対する森香の表情は、ボディチェックのときと同様に乏しい。
「想像とは違うが・・・だが、くの一というだけで構わん!」
 小四郎が一気に距離を詰める。迎撃しようとした森香の目の前で、小四郎がいきなり両手を打ち合わせる。思わぬ猫だましに、森香の動きが一瞬止まる。
「隙ありっ!」
 小四郎が森香のバストを掴む。
「このボリュ・・・ぬぐあっ!」
 何か続けようとした小四郎だったが、気づいたときにはリングに這いつくばらされて居た。肘関節を極められた痛みに喚く。
「折ろうと思えば折れますが、どうしますか?」
 森香の淡々とした問いかけに、小四郎が迷う。しかし迷いは一瞬で、靭帯が損傷する痛みにキャンパスを何度も叩く。

<カンカンカン!>

「ちっ、見せ場もなく負けやがって」
 舌打ちしたレフェリーだったが、森香に近寄る。
「八岳総帥から聴いているだろ? もう一試合だ」
 レフェリーの確認に、森香は静かに頷く。森香に取って、雇い主である八岳総帥の命は絶対だった。

 数分が経過し、やがてリングに一つの影が上がる。
「赤コーナー、『ハンドフット』、串縞連太郎!」
 二試合目の相手は、<地下闘艶場>初登場となる串縞(くしじま)連太郎(れんたろう)だった。面長で髪は短く刈り込み、手足がしなやかに長い。縦に長い足には何も履かず、裸足の指もかなり長い。
「青コーナー、『ガードオブシャドウ』、高良森香!」
 二度目のコールだったが、森香は応えようとはしない。ブーイングが起こる中、レフェリーは即座にゴングの合図を出した。

<カーン!>

 ゴングが鳴っても、串縞は前に出ようとしなかった。両手をだらりと垂らし、全身をぶらぶらと揺らす。警戒してか、森香も不用意に距離を詰めようとはしない。動きのないリングに、観客席からのブーイングが降り注ぐ。
「やれやれ、やかましい客だな」
 肩を竦めた串縞は、軽く何度か飛び跳ねる。
「ま、体も解れたし・・・そろそろ、行こうか」
 その言葉が終わる前に、串縞の長身が森香の前に出現していた。
「っ!?」
 串縞の爆発的なダッシュ力だった。反射的に体を庇おうとした森香の両手首を、串縞が捕らえる。
「ふっ!」
 即座に左膝を跳ね上げた森香だったが、串縞の右足のガードのほうが速い。ならば逆の膝でと考えたとき、右足首を掴まれ、投げを打たれていた。両手首は掴まれたままで。
「へへ、捕まえたぜ」
 串縞は「ハンドフット」の異名どおり、裸の足指で森香の足首を掴み、投げを打っていたのだ。そのまま両脚を捕らえたことで、森香の四肢は全て動きを封じられた。
「へへへ・・・それじゃ、たっぷり味わうとするか」
 森香をリングの上で大の字に捕らえた串縞の口から、不健康な色の舌が突き出される。その舌が、森香の耳を舐る。
「んっ」
 生臭い感触に、森香は首を竦める。串縞の舌は右耳を離れ、頬を通り、鼻を舐め、反対側の耳も舐める。
「へへ、形のいい耳じゃないか。どれ、今度はっ!?」
 突然、左目を押さえた串縞が仰け反る。そこに森香が横手裏剣打ちの要領で右手刀を叩き込む。左頬を捉えた一撃は串縞を揺らがせるが、串縞は倒れ込みながら蹴りを放つ。森香は素早く後転してから立ち上がる。
「・・・唾か」
 何度も瞬きした串縞の左目は涙と唾液に濡れ、赤く充血していた。森香は口内に唾を溜め、勢い良く吹き出して串縞の目にぶつけたのだ。
「結構えげつない真似するんだな。くの一ってのは恐ろしいぜ」
 串縞の表情に、もう緩みは見られなかった。対する森香も冷徹な表情を崩さない。
「お遊び感覚で出場したが、本気出さなきゃいけなくなっちまった」
 赤い左目を細め、串縞が軽く跳ねる。三度目の跳躍から四度目に繋げるかと見えた瞬間、一気に森香へと肉薄していた。しかし森香は冷静に串縞の右突きを上段に逸らし、瞬時に右突きを放つ。
「っ!?」
 森香の右拳が、串縞の右足に掴まれていた。否、それだけでは終わらず、引っ張り込まれる。
「はぐふっ!」
 森香の右腹部で痛みが弾ける。串縞は森香の拳を引っ張り込みながら、鋭い飛び後ろ蹴りを放っていたのだ。引く力も加わった蹴りの凄まじい威力に、森香はリングへと倒れ伏していた。
「へへっ、それじゃ、俺独特の責めを味わって貰おうか」
 一度唇を舐めた串縞は、森香を抱きかかえるとロープ際へと連れて行く。
(な、何を?)
 森香はロープに押しつけられ、両腕を背後に回される。串縞は森香の胴に両脚を巻きつけ、森香の両手首を自分の両足で握って器用に拘束する。森香の両脚は一番下のロープから外に出されているため、上手く力が入らない。
「くっ、ううっ・・・!」
 しかも胴に串縞の体重が掛かり、痛みと苦しみを与えられる。
「へへへ・・・」
 舌舐めずりした串縞は、森香のバストを鷲掴みにし、思い切り揉み始める。
「くうっ・・・」
 森香は痛みしか感じない。それほど乱暴な揉み方だった。
「本物のくの一のおっぱい揉んでるかと思うと興奮するな」
 そんな森香の様子など気にも留めず、串縞は森香のバストを揉みしだく。そこにレフェリーが近寄り、森香の下腹部へと手を伸ばす。
「高良選手、ギブアップか?」
 レフェリーは森香の秘部を弄りながら、わざとらしくギブアップの確認を行う。
「・・・ギブアップして良いとの許可は出ていません」
 今回の指令の一つに、ギブアップすることなく勝利する、という項目がある。森香に取って、八岳総帥の指令は絶対だった。
「そうか、なら好きにさせて貰おうか」
「レフェリーの仕事ではありませんね」
「おいおい、ここは<地下闘艶場>だぞ? レフェリーの仕事に決まってるだろ」
「そうそう、そしてお前の仕事は、厭らしい格好をお客さんに見て貰うことだ」
「違いますね。私の仕事は、貴方に勝利することです」
 辱められているというのに、森香のクールさは崩れなかった。
「こいつは参った。くの一ってのは精神的にも強いな」
 森香のバストから手を離した串縞は、森香の頬を撫でる。
「服を引き裂いてやる。それでもまだ澄ました顔ができるか?」
 森香の頬を舐め、串縞が笑う。それでも森香は何も返さない。
「反応なし、ならやるだけだ!」
 森香の衣装の胸元を掴んだ串縞は、躊躇なく引き裂いた。
「そら、ブラが剥き出しになったぜ。どうだ?」
 ブラの上からバストをつつきながら、串縞が森香の顔を覗き込む。返ってきたのは冷たい視線だった。
「いい顔するじゃないか。ぞくぞくするぜ」
 串縞はバストを掴み、改めてブラの上から揉み始める。と、いきなり串縞が大口を開く。
「また唾飛ばしか。もうその手は食わないぜ」
 唾の固まりを口で受け止めた串縞は、森香の唇を舐めようと、長い舌を伸ばす。
「おっと! 危ない危ない」
 その舌に、森香が噛みつこうとした。舌を引っ込めた串縞は、嘲笑うかのように森香の鼻頭を舐める。
「噛みつこうとした罰だ。おっぱい丸出しにしてやる」
 言うが早いか、串縞は森香のブラを上にずらす。その途端、Eカップを誇る森香の乳房が派手に揺れる。
「くの一の生乳だ。やっぱでけぇな」
 二度三度と下から弾ませた串縞は、徐に鷲掴みにする。
「感触も最高、くの一様々だな」
 強く握り締めた串縞の指の間から、森香の乳肉がはみ出る。
「やらしいおっぱいだぜ」
 唇を歪めた串縞は、音が出るほどに強く揉む。森香には痛みしか感じられないが、眉を寄せるだけでそれに耐える。
「ちったぁ反応してくれよ。な?」
 串縞は狙いを乳首に絞り、引っ掻くように刺激する。
「確かに、何の反応もないとつまらんなぁ」
 レフェリーは森香のヒップと秘部を弄りながらも鼻を鳴らす。
「・・・おっと、少し反応が出てきたぜ」
 串縞の指の下で、森香の乳首が硬くなっていく。硬くなることで乳首が立ち上がり始め、串縞の指を引っ掻きやすくしてしまう。やがて、森香の乳首は完全に立ち上がってしまった。
「どれ、直接弄ってみるか」
 レフェリーは森香の下着の中に指を侵入させ、秘裂をなぞる。
「こっちは反応なしか。まあいい、反応が出るまで弄るだけだ」
「それじゃ俺は、反応が出た乳首を弄り回してやる」
 串縞は両方の乳首を摘み、細かく振動を送り込む。レフェリーは秘裂と共に淫核を捉え、粘っこく弄り回す。
「くぅ・・・ん・・・」
 やがて、森香の口から小さな喘ぎが洩れる。
「お? 少しお顔が赤くなってないか?」
 森香の頬を唾液の音がするほどに舐め、串縞が嘲る。
「くくっ、下の口が濡れてきやがった。高良選手、正直になれよ」
 レフェリーの指が動くたび、湿った厭らしい音がする。
「あっ、はぁっ・・・ふぅんっ」
 小さくはあったが、森香の口から喘ぎが零れる。その艶っぽさに、レフェリーも串縞も思わず生唾を呑んでいた。
「・・・ぉ・・・ぃ」
 束の間できた静寂。そのとき二人の耳に、森香の囁きが届く。
「・・・お願い、痛みで・・・体が・・・」
 森香の震え声に、串縞とレフェリーの動きが止まってしまう。
「い、今更何言ってやがる」
 串縞の返しもどこか弱い。
「も、もう、腰が・・・限界、なの・・・」
 森香の瞳は潤み、吐息は荒い。
「・・・おい、串縞、少しくらいなら楽にしてやったらどうだ?」
 レフェリーは責める手を止め、串縞を見遣る。
「・・・まあ、ちょっとは緩めてやるか」
 串縞も仏心が出たのか、抱きつく力を緩める。その瞬間、森香の両膝が串縞の臀部と太ももの境目に突き刺さる。
「ごっ!」
 予想もしなかった急所への攻撃に、串縞の体がリングに落ちる。素早く自分の体をロープから抜いた森香は、ロープの反動を使って高く舞う。仰向けの串縞に落下した森香は、串縞の鳩尾に右拳を、下腹部に左膝を落としていた。
「・・・げはっ」
 血を吐いた串縞を見て、レフェリーが即座に試合を止める。

<カンカンカン!>

 落下の威力を上乗せされた攻撃は、一撃で串縞の意識を奪っていた。それほどの攻撃を繰り出した森香の表情に、先程までの可憐なものはない。
 服装の乱れを直した森香の視線が、ゆっくりとレフェリーに向けられた。
「総帥から禁じられているので、今日は手出しをしませんが」
 そう、八岳将玄の指令の一つに、レフェリーへの攻撃の禁止があった。
「私は、今日のことを絶対に忘れませんので」
 森香が浮かべた笑みは、見た者に戦慄をもたらす恐さがあった。


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