【第九十三話 森下恋:柔道 其の三】

 犠牲者の名は「森下(もりした)恋(れん)」。23歳。身長167cm、B90(Eカップ)・W65・H92。普段は黒ぶち眼鏡をしており、肩まで届く髪をひっつめにし、主にトレーナーにパンツルックという色気のない格好で過ごすことが多いが、眼鏡を外した素顔はモデル並みで、そのプロポーションは抜群。新進気鋭のカメラウーマン(本人談)だが、大学卒業からこの業界に入った恋にそうそう仕事などある筈もなく、バイトで食い繋ぐ日々が続いている。
 過去に二度<地下闘艶場>のリングに上がり、初戦では男三人に散々嬲られて失神し、二度目の参戦では笹塚水華とのタッグマッチで勝利を挙げている。三度目となる誘いに躊躇する気持ちも強かったが、背に腹は替えられず、恋は淫闘のリングへと戻ることを決意した。


「・・・やっぱり、またこんな衣装」
 目の前の用意された衣装に、眼鏡姿の恋は思わずため息を吐いていた。
「これを着るのもファイトマネーの一部ですよ」
 いつもの女性黒服がにこやかに、しかし冷たく指摘する。
「・・・わかってるわ、着るしかないんでしょ?」
「物わかりが良くて助かります。では、入場のときにまたお呼びします」
 一礼してから部屋を出て行く女性黒服に眼鏡越しのきつい視線を投げた恋だったが、また一つため息を落とし、私服のボタンに手を掛けた。

 花道に登場した恋に、観客席から盛大な声援、否、卑猥な野次が飛ばされる。それを硬い表情ながらも黙殺し、眼鏡を外している恋はレフェリーと男性選手が待つリングへと向かった。

 リングに両選手が揃い、リングコールが行われる。
「赤コーナー、『ギャランドゥ』、火筒剛!」
 コールを受けた火筒だったが、ガウンは取らず、両手を高々と上げただけだった。
「青コーナー、『カメラウーマン』、森下恋!」
 自分の名前がコールされ、覚悟を決めた恋はガウンを脱ぎ捨てた。途端、場内がどよめく。
 恋が身に着けているのは、ミニのチャイナドレスだった。上は胸元までしかなく、紐で首から吊っている状態のため、鎖骨どころか胸の谷間が覗き、肩が剥き出しだ。背面は腰まで何もなく、背中が丸見えで、ブラの紐がまるで隠れていない。下は膝上までもなく、下着が簡単に見えてしまいそうだ。
 この露出度の高い格好に、観客席からの野次が止むことはなかった。

「よう、久しぶりだな」
 ガウン姿の火筒のボディチェックを適当に終えたレフェリーが、片手を上げて挨拶してくる。恋は何も返さずにそっぽを向く。
「おいおい、レフェリーにそんな態度取っていいのか?」
「・・・どうせセクハラするつもりなんでしょ?」
「セクハラじゃない、ボディチェックだ。受けなきゃファイトマネーはやれないからな」
 恋が抵抗しないのをわかっているように、レフェリーは恋のバストを鷲掴みにした。
「この生意気おっぱいも久しぶりだな」
 そのまま揉み込みながら、にやにやと笑う。
「なんでもいいから、早く終わってよ」
「いいや、駄目だな。早く終わらせようとする奴に限って、凶器を隠してたりするんだ。じっくりたっぷり、俺の気が済むまでボディチェックしてやる」
 レフェリーは恋のバストを揉みながら器用に背後へと回り、体を密着させてくる。
「ちょっと、くっつかないでよ!」
「気にするな」
「するわよ! 離れて!」
「おいおい、ボディチェックの最中のレフェリーにそんなことを言っていいのか?」
 レフェリーの左手がチャイナドレスの裾を割り、秘部で蠢く。
「ど、どこ触って・・・!」
「ファイトマネー。いらないのか?」
 思わず振り解こうとした恋の耳に、レフェリーの言葉が突き刺さる。
「返事は?」
「・・・我慢するわよ! 我慢すればいいんでしょ?」
「わかればいいんだ、わかれば」
 一人頷いたレフェリーは、恋のバストを両手で鷲掴みにした。
「それじゃ、改めてこの生意気おっぱいをチェックだな」
(この変態レフェリー・・・!)
 投げ飛ばしたくなる気持ちを必死に堪え、恋は拳を握り締める。
(たった何分間じゃない、それだけで三箇月分以上の収入なんだから! 我慢しなきゃ!)
「相変わらず、服の上からでもいい感触だ。揉んでも揉んでも飽きないな」
 そんな恋の気持ちなどまるで知ろうともせず、レフェリーは自らの欲望のままに恋のバストを揉み続ける。まず上部、次に中央部、そして下部。揉む位置を変えながら、万遍なく揉み込んでいく。
(ああもう、相変わらず変態チックに触るんだから!)
 どんなに不快であったとしても、ファイトマネーを得るためには我慢しかない。唇を噛む恋だったが、レフェリーはバストを揉むだけでは終わらず、再び秘部を弄り始める。
「さっきも触ったじゃない!」
「おいおい、触っただけでチェックが終わりなわけないだろ。それに、レフェリーに楯突くような選手はたっぷりと時間を掛けて調べなきゃな」
 恋が何と言おうとも、レフェリーは自分の欲望のままにボディチェックを続ける。
(我慢、我慢、我慢・・・っ!)
 恋は心の中で呪文のように繰り返し、屈辱のボディチェックが終わるまでひたすら耐えた。

「さて、それじゃそろそろ試合を始めるかな」
 最後とばかりにバストを下から弾ませたレフェリーが、ようやく恋から離れる。そのレフェリーをきっ、と睨んだ恋だったが、跳ね上がったままの心拍数に危惧を抱く。
(冷静に、冷静にならなきゃ)
 レフェリーのセクハラに逆上気味となっている。これでは冷静に試合ができないと考え、恋は大きく深呼吸した。

<カーン!>

 ゴングが鳴らされた瞬間、火筒はガウンを脱ぎ、リング下に放った。
「ひぃぃぃぃっ!」
 突進しようとしていた恋が悲鳴を上げる。火筒の体は頭部とは違い、頬、鼻下、顎、胸、腕などにたっぷりと毛が生えていた。しかもそれを見せつけるかのように、褌一丁という格好だったのだ。近眼の恋にもはっきりとわかるほど、その体毛は濃かった。
「ちょっと待って、こんなの反則・・・」
「どこがだ。馬鹿を言ってないで、ファイト!」
 呆然と呟く恋につっこんだレフェリーが、改めて両者に合図を送る。
(我慢して闘わないと、ファイトマネーが手に入らない! そうでしょ、恋!)
 自分自身を鼓舞し、火筒を投げようと身構える。
(・・・無理無理無理っ!)
 本能的な拒否反応が、火筒に背を向けさせていた。
「捕まえた〜」
「ひゃあああっ!」
 背中側から抱き締められた恋が裏返った声で叫ぶ。剥き出しの背中に火筒の胸毛が当たり、異常なまでの嫌悪感が背筋を這い登る。
「お嬢さん、おっぱい大きいね。おじさん感激だよ」
 火筒はただ抱き締めるだけではなく、恋の右バストを揉み始める。
(ああもう、毎回毎回、試合中に人の胸を触ってきて! でもでも、下手に動いたら毛の感触が!)
 下手に動けば、火筒の剛毛の感触が剥き出しの部分を陵辱する。恋はじっと耐えるしかできなかった。
「どうした森下選手、動きを止めて。体調でも悪くなったか?」
 そこにレフェリーが近づき、恋のバストをつつく。
「ま、また試合中に・・・ひぃっ!」
 反射的に逃げようとして、火筒の剛毛に背を擦られる。
「変な声まで上げるとは、これは心臓マッサージが必要だな」
 にやけた笑いを浮かべたレフェリーは、恋の左のバストを鷲掴みにし、好き勝手に捏ね回す。
「ちょ、やめて・・・ひぃいっ!」
 その手を振り払おうとすると、剛毛が肌を撫でててしまう。
「やっぱり体調が悪そうだな。どれ、念入りに心臓マッサージをするか」
 恋の抵抗が弱いと見て、レフェリーは衣装の間から手を差し込み、ブラの上からバストを揉みくちゃにする。
「ふふふ、これだけおっぱいが大きいと、おじさん興奮してきちゃうな」
 火筒は恋を抱き締めながらバストを揉むだけではなく、尻に密着させた腰を振り始める。
「な、な、な、何してるのよ!」
 叫ぶ恋だったが、身体は硬直したままだ。
「いやいや、お嬢さんがあまりにも色っぽくてね、申し訳ない」
 形だけは恐縮しながらも、火筒は腰の動きを止めようとはしない。
「服の上からでもいいが、どうせなら生で生意気おっぱいを揉みたいな」
 レフェリーの独り言に、火筒も頷く。
「同感ですな、ではまず・・・」
 左腕で恋の腰を抱いたまま、火筒が背中側のブラのホックを片手で器用に外す。
「それじゃ、俺はこっちを」
 レフェリーは恋のうなじに手を伸ばし、ミニチャイナドレスを吊っていた紐を外す。そのため、一応は前面を隠していた布地がはらりと垂れる。
「あ、こらぁ!」
 思わず胸元を庇おうとした恋だったが、剛毛の感触に動きも鈍い。
「次は万歳して貰いましょうか、お嬢さん」
 ブラを掴んだ火筒が耳元で囁く。
「お、お断りよ!」
「そう言わずに。ほら、万歳」
 火筒が恋の胴に回していた左腕を、そのまま上へとずらす。バストを押し上げるようにして恋の脇まで到達する。
「ひぃぃぃっ!」
 火筒の腕の剛毛の感触から逃れようとすれば、両腕を上げるしかなかった。
「良くできました、お嬢さん」
 そう言った火筒はブラを引き上げて恋の腕から抜き、満足気に頷く。
「どれ・・・」
 そのまま奪ったブラを鼻に持っていき、匂いを嗅ぐ。
「やっぱり若い子は匂いもいいねぇ」
「やめてよ変態!」
「仕方ないじゃないか、お嬢さんが魅力的なんだから。だから、これはお嬢さんの罪になるねぇ」
「何馬鹿なこと言って・・・ひぅっ!」
 火筒が左腕の位置を下ろしたため、剥き出しとされた乳房を剛毛が撫でる。そのおぞましい感触に、続けようとした言葉が遮られる。
「それじゃ早速、生意気おっぱいを生堪能だ」
 レフェリーは左手を伸ばし、恋の左乳房を鷲掴みにする。
「やっぱり生の感触はいいな」
 恋の乳房を揉みながら、レフェリーがうんうんと頷く。
「では、おじさんはこちらを」
 火筒は恋の右乳房を掴み、揉み回す。
(ううう、毛が、毛の感触が胸にぃ!)
 肌に触れるだけでおぞましいのに、乳房にまで剛毛が押し寄せる。そこから逃れようとしても毛の感触が肌を擦り、身動きを封じてくる。
「ほら、こっちはどうだ?」
 レフェリーが右手でヒップの側面を撫で回し、左手を秘部へと下ろす。そのまま下着の上から秘部を弄る。
「あ、こら・・・ううっ」
 反射的に手を動かそうとし、火筒の剛毛に阻まれる。大きく動けない恋の身体を、レフェリーと火筒の手が這い回る。火筒は背後から抱きついて肌を密着させ、恋の身体を全身で味わっている。
「ああ、若い子の肌はたまらないねぇ。しかもおっぱいの感触もばっちり。いつまでも揉んでいたくなっちゃうよ」
 火筒は左腕で恋の腰を抱えたまま、右手で右乳房をいたぶり続ける。撫で、揉み、弾ませ、乳首を弄る。
「ここも気持ちいいんだろ? ええ?」
 レフェリーは下着の中に手を突っ込み、直接秘部を弄る。叢を掻き分け、秘裂を丹念に撫で、淫核をつつく。
「やめて、もう・・・気持ち悪いからぁ・・・」
 ロープを強く握り締めた恋は、か細い声を洩らす。
「どうした、柄にもなく弱々しい声を出して」
 秘部をいたぶりながら、レフェリーが恋に尋ねる。
「嫌なの、もう・・・いやぁ・・・」
 剛毛の感触が恋を縛り、男たちの責めをただ耐えるしかできない。逃げようとは思うのに、身体が動いてくれない。これ以上剛毛の感触を味わう面積を広げたくない、と。
「本当に嫌なのか? ええ?」
 乳房と乳首を同時に嬲りながら、レフェリーが問いかける。火筒は腰を振りながら、恋の右乳房を揉み続けている。
「嫌だって・・・言ってる、でしょ・・・」
 レフェリーの言葉に、僅かに負けん気が蘇る。
「そんなこと言いながら<地下闘艶場>にまた上がったのは、ファイトマネーのためじゃなくて・・・」
 一度言葉を切ったレフェリーは、恋の顔を覗き込む。
「こうして、男に好き勝手にされるのがいいんだろ?」
 レフェリーの下卑た笑みに、恋の心の奥底で何かが切れた。
「・・・そんなわけ、あるかーーーっ!」
 一声咆えた恋は火筒の腕を、否、腕に密生した剛毛を掴むと、一気に毟り取った。
「うぬああああっ!」
 毛根から引き抜かれた痛みに火筒が絶叫する。慌てて毛を失った腕を擦り、息を吹きかける。突然の事態に、レフェリーも恋から離れていた。
「ここにもたっぷり生やして・・・」
 恋が今度は胸倉、否、胸毛をむんずと掴む。
「この毛が悪いのよーーーっ!」
 そのまま背負い投げの体勢になる。
「待った待ったお嬢さん! 抜ける抜けいぎゃぁぁっ!」
 ぶちぶちと毛の切れる音と抜ける音と共に、火筒の体が宙を舞い、リングに叩きつけられた。
「まだ動くわね、とどめを刺さなきゃ!」
 火筒を袈裟固めで押さえ込んだ恋は、乳房をぎゅうぎゅうと押しつけるように首を絞め上げる。
「こ、これは極楽、苦しさも忘れる柔らかさ!」
 思わず叫んだ火筒だったが、徐々に動きが鈍くなっていく。
「ああ・・・おっぱいに潰され、る・・・」
 その言葉を最後に、火筒の動きが完全に止まる。

<カンカンカン!>

 苦り顔のレフェリーがゴングを要請し、試合が終わる。
「思い知ったか、この剛毛魔人! だいたい・・・ひぃぃっ!」
 試合が終了し、徐々に落ち着きを取り戻した恋は、自分が火筒の胸毛をまだ掴んでいることに気づいた。
「あっ、やっ、汚い! ばっちい! やだ、取れない!」
 慌てて手を払うが、火筒の剛毛は恋の手に絡みつき、離れようとしない。落ち着けば取れるだろうに、焦った恋はただ手を振るだけでまるで取れる気配がない。
「もういやぁぁぁーーーっ!」
 半分パニックになった恋は、リングを転がるように降り、花道を走り抜けていく。自分が乳房丸出しなのにも気づかず、派手にEカップの乳房を揺らしながら。
 観客はその様を目で楽しみながら、大きな野次と歓声を送っていた。


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