【外伝 四岐部亜衣紗】

 生暖かい感触と水音。亜衣紗の意識はそれらによって覚醒していった。
(・・・なんだ?)
 疑問に思うのと同時に瞼が開いた。感触と音の発生源に目をやると、剛(こわ)い頭髪に覆われた人の頭が微かに動いていた。
「っ!」
 亜衣紗の股間が、男の舌に舐められていた。その男は先程まで闘っていた相手、古池虎丸に違いなかった。
「何してやがる!」
 反射的に蹴り飛ばそうとした足は掴まれ、大きく広げられる。
「シッ!」
 上半身を起こしながら、虎丸の眼に指を突き刺す。否、突き刺さる前に虎丸は離れていた。その隙に体を捻りながら足を抜き、膝立ちになる。
(ここは・・・リングじゃないな)
 虎丸とはリングの上で闘っていた筈だが、亜衣紗が今居る場所は室内だった。視界の端々からの情報から、入場前に居た控え室だと見当をつける。足元と膝の感触から、どうやらベッドの上に居るらしい。
「あんだけ人を玩具にしてくれただけじゃなく、今度は犯そうっていうのかい?」
「違う」
 一度首を振った虎丸だったが、腕組みをして首を捻った。
「・・・そういうことになるのか?」
「なるに決まってるだろ」
 質問を疑問で返され、亜衣紗は呆れた。虎丸の真面目な口調に面食らったこともある。このとき、虎丸の声を初めて聞いたことに気づいた。
「なら、頼む」
 亜衣紗の眼をじっと見つめたまま、虎丸が頭を下げた。
「『御前』に勝てるほどの子を産んで欲しい」
「はぁ?」
 普通ならば子を産む道具扱いかと激昂するところだが、この男の口から出た言葉は真摯だった。
「・・・他の女に頼んだらどうだい?」
「お前ほど強い女は居ない」
 こういうストレートな物言いしかできない男なのだ。そう理解した途端、亜衣紗の女の部分が疼いた。
「・・・お前、『御前』からかなりの給料貰ってるんだろ? 毎月半分寄越す、ってことならいいよ」
「そんなことでいいのか?」
 かなり吹っ掛けた要求だったのだが、虎丸はあっさりと受け入れてしまった。
「う・・・ん・・・いや待て、子供の養育費だとか、他にも色々と・・・」
「全部俺が持つ。心配するな」
 更に言い募ろうとした亜衣紗だったが、虎丸に先回りされてしまう。また、女の芯が疼いた。
「・・・しょうがないね」
 白く色を抜いた髪をかき上げ、苦笑する。自分に勝った男がこうまで求めてくれるのだ、応えてやろうではないか。
「あんたみたいな男なら、こういう獣みたいな体位がいいだろ?」
 ベッドに手をついて尻を突き出し、秘裂を自ら広げて見せる。振り返ったとき、虎丸の既に立ち上がっている逸物が目に入る。
(・・・なんだ)
 そのサイズになぜか安心した。本人の太ももに比べると、随分と可愛いものだった。
 虎丸が無言でベッドに上がり、亜衣紗の腰を掴んだ。
 秘裂に当たる物があると感じた次の瞬間には、虎丸の逸物が潜り込んできた。
「あぐぅっ!」
 亜衣紗の秘裂を押し広げ、ゆっくりと侵入してくる。
(そんな・・・苦しい)
 亜衣紗は自分が見誤っていたことに気づかされた。虎丸の逸物を見たとき、虎丸の丸太のような太ももを比較物にしたため、実際のサイズよりも小さく判断してしまったのだ。
(で、でも、これならまだ・・・っ!?)
 亜衣紗の膣の中で、虎丸の逸物が更に硬度と大きさを増す。
(くっそ、まだでかくなるのか!)
 焦りと痛みにもがく亜衣紗を気にも留めず、虎丸が前後運動をし始める。
「ちょっと待った! きつい! 動くな!」
 腰を掴んでいた虎丸の手を叩き、一旦動きを止めさせる。
「・・・なぜだ?」
 律儀に動きを止めた虎丸が、心底不思議そうな声を出す。
「まだ準備ができてなかったんだよ!」
 怒りと痛みに曇った声に、虎丸が頭を撫でてくる。
「済まん」
「・・・餓鬼じゃないっての」
 どうも虎丸にはペースを狂わされてしまう。ゆっくりと息を吐き、ゆっくりと吸って呼吸を整える。
「ここを揉んでくれ」
 虎丸の手を導き、乳房に触れさせる。
「優しくだぞ」
「・・・」
 虎丸が無言で亜衣紗の乳房を揉みだす。体格からは想像できない繊細さだった。
「ああ、それくらいなら丁度いい・・・んぅっ」
 いきなり乳首を転がされた。熱い吐息が零れ、自分の高まりを思い知らされる。
(な、なんでこれくらいで感じる・・・くぅぅっ)
 乳房と乳首への刺激が、亜衣紗の膣を潤ませていく。もう疑問を浮かべるのはやめ、虎丸から与えられる刺激を素直に受け入れる。

 やがて、亜衣紗の準備が整った。
「んっ、い、いいぞ、動いても」
 その言葉を待っていたのか、虎丸がゆっくりと律動を開始する。先程のような攻めではなく、あくまでも優しい動きだった。
「だ、大丈夫だから、もっと激しくしてくれ」
 亜衣紗がそう呟いた途端、子宮口まで一気に侵入された。
「あふぅぅぅ!」
 亜衣紗の口から洩れたのは苦痛の声ではなく、快楽の叫びだった。虎丸が突き込むたび、断続的に嬌声が上がる。
「あっ、はっ、んぅっ、あぐぁ!」
 獣の体勢で貫かれ、亜衣紗の口からも意味をなさない獣の声が洩れる。亜衣紗はシーツを掴み、虎丸が与えてくる悦楽の波を必死に堪えていた。
(こ、こんなになるなんて・・・!)
 準備が整う前は苦しみしかなかった虎丸の逸物が、今は逃れようのない快感を叩き込んでくる。人並みに経験がある亜衣紗だったが、ここまで昂ぶらされたのは初めてだった。
 虎丸のピッチが更に上がった。
「ごっ・・・ぐぅおぉぉぉ!」
 獣の咆哮と共に、体内の一番奥に契約の証が注ぎ込まれる。灼熱の塊が子宮を叩き、燃え上がらせる。逸物が膣内で脈動し、尚も精を叩きつけてくる。
(・・・嘘だろ、まだ出るのか!)
 虎丸の放出は中々終わりを告げなかった。何度も震え、精を吐き出す。
 長い長い射精がようやく終わった。亜衣紗の子宮内で、虎丸の精が渦を巻く。亜衣紗は苦しい息の中で呼吸を整えようとするが、その呼吸が再び乱れた。
「えっ? 待て、なんでまた動く」
 亜衣紗の言葉どおり、虎丸がまた律動を開始したのだ。
「今出したばっかりじゃ・・・」
「まだ出る。出なくなるまで中に出す」
(そんな・・・)
 慄く亜衣紗を気にも留めず、虎丸が再び逸物を突き込んだ。

 結局その後、後背位で一回、側位で一回、正常位で一回、対面座位で一回、計五回の射出が終わるまで、虎丸の逸物が亜衣紗から抜かれることはなかった。

「んっ・・・ふぅ・・・あ、んぅ」
 何度も貫かれ、最奥に注ぎ込まれ、そのたびに達していた亜衣紗は息も絶え絶えだった。虎丸の肩に頭を乗せ、やっとのことで息を継いでいる。
 虎丸が優しく亜衣紗を横たえ、離れた途端、亜衣紗の秘裂から虎丸の精液が大量に零れた。
「・・・だいぶ漏れたな」
「出し過ぎなんだよ、バカ」
「・・・済まん」
 亜衣紗の一言で、虎丸が子供のようにしょげる。
「ああもう、私に勝った男がそんなことで情けない顔するな!」
 それが腹立たしく、どこか愛おしく、思わず叱咤していた。
 頭を掻いた虎丸は、亜衣紗を見つめた。
「次はいつだ?」
 虎丸の問いに、亜衣紗は呆れるしかなかった。
「次ってお前、これだけやっといて・・・」
「駄目か?」
 真っ直ぐ見つめてくる瞳に、亜衣紗はつい首を振っていた。
「来週なら、いいかな」
「なら、一週間後だ」
 即座にそう言われ、疑問もなしに頷いていた。
「どこで待ち合わせる?」
 虎丸の問いは性急だった。
「電話するから」
「番号を教える」
「紙にでも書いといてくれ。もういいだろ、シャワーを浴びたいんだ」
「そうか」
 頷いた虎丸が、亜衣紗の首の後ろと膝裏に手を差し込み、抱き上げてくる。
「おい、まさかもう一回する気か!?」
「違う」
 言葉少なに否定した虎丸は、亜衣紗をシャワールームまで運ぶとそこで下ろした。
「・・・」
 そのまま無言で立ち上がり、亜衣紗をじっと見つめる。やがて方向転換し、シャワールームを後にした。
「・・・とんでもない男の頼みを聞いちまったね」
 まだ完全には力の入らない腰に喝を入れ、壁を伝いながら鈍々と立ち上がり、シャワーのハンドルレバーを捻る。温かい湯を頭から浴びると、やっと安堵の吐息が洩れた。
 シャワーを浴びている最中も、亜衣紗の秘裂からは未だ熱さを失っていない粘液が溢れてくる。亜衣紗はそれを人差し指で掬い、口に含んだ。
 虎丸の味がした。


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