【アンジェリーナ、舞う】

 木立に囲まれた小道を、人の荒い息が移動していく。服の上からでもわかる胸部や腰の膨らみは、明らかに女性のものだった。陽光に照らされた顔はまだ若く、サングラスを掛けているというのに輝く美貌が見て取れる。若い女性は野戦服を身に着け、手にはハンドガンがある。左の大腿部にはベルトが巻かれ、鞘付きのナイフが装着されている。
 背後から迫る重量感ある足音に時折振り返りながらも、女性は走ることをやめようとはしない。
 この女戦士の名を、アンジェリーナと言った。

***

 アンジェリーナはれっきとした王女だった。高貴な血筋に生まれつきながら、女性のみの特殊部隊を率い、ときには自らも戦場に赴く女戦士としての一面も持っている。

 突然、王国のとある村から緊急依頼が届いた。
 小型のネズミに似たモンスターが現れ、穀物を食い荒らす、糞を撒き散らす、遂には人的被害まで出てしまった。この小さいながらも凶悪なモンスターの群れを退治して欲しい、というのが依頼の内容だった。
 この依頼が届いたとき、特殊部隊のメンバーは全て他の任務で出払っていた。アンジェリーナに苦しむ国民を放っておくことなどできる筈もなく、自身での依頼遂行を決めた。当然周囲からは反対も起こったが、決意したアンジェリーナを引き留めることは誰にもできなかった。
 アンジェリーナは兵士の付き添いすら断り、たった一人での出撃となった。

***

 小型モンスターの駆除ということで、アンジェリーナは軽装備だった。サブマシンガンを一丁、マガジンラックを三本、ナイフを一本、予備としてハンドガンを一丁とマガジンを二本。
 村への到着は早朝だった。肉感的な肢体を野戦服に包み、軍用ブーツを履いたアンジェリーナを、村人たちは諸手を上げて歓迎した。まさか王女本人が出向いてくれるとは思ってもみなかった、という驚きもある。
 アンジェリーナは挨拶もそこそこに、モンスター駆除へと向かった。

 しかし、事態は甘くなかった。巣だと思われる洞窟に到着したアンジェリーナを出迎えたのは、予想を遥かに超える数の小型モンスターだった。サブマシンガンの弾薬は瞬く間に尽きた。もしものときのためにハンドガンは使わず、アンジェリーナはナイフと軍用ブーツでの蹴りだけでモンスターを屠っていった。
 確実にモンスターの数を減らしていくアンジェリーナだったが、小型モンスターは雲霞の如く湧き出し、次々にアンジェリーナに襲い掛かった。肌への傷は許さなかったものの、丈夫な野戦服が噛み破られていく。モンスターの硬い体皮を斬り続けたナイフの刃は零れ、斬れ味が落ちる。小型モンスターの傷口から迸った体液がアンジェリーナの美貌を汚す。
 それでも、アンジェリーナは村人のために戦い続けた。

 果てしなく続くかと思われた戦いにも終わりが来た。最後の一匹を刃毀れしたナイフで斬り捨て、アンジェリーナがようやく安堵の息を吐く。
 アンジェリーナは洞窟に油を撒き、火を点けてモンスターの死骸ごと消毒した。

 洞窟を出たアンジェリーナは、何故か村には向かわなかった。洞窟の近くにある廃屋を通り、川へと出た。

***

「ふぅ・・・」
 清水の流れる川の浅瀬に、アンジェリーナの姿があった。装備や洗った衣服などは全て川縁に置き、一糸纏わぬ姿で川に身を沈めて流れに身を委ねる。モンスターの返り血が洗い流されていき、陽光をはね返して輝く白い肌が目を打つ。
 アンジェリーナは滑らかに水を掻き、ゆっくりと泳ぎ始めた。

 ようやく気が済んだのか、泳ぎ続けていたアンジェリーナが川面から身を起こす。豊かな乳房も、その頂点に息づく乳首も、括れた腰も、膨らんだ尻も、股間の淡い翳りまでもが陽光の下に晒される。
 裸体から水を滴らせながら、アンジェリーナは大きな岩の上に横になった。真昼の強い日差しと岩からの熱が、肌に残った水を蒸発させていく。アンジェリーナは荷物からサングラスを取り出し、切れ長の目元を隠した。
 太陽だけが、アンジェリーナの裸体を鑑賞していた。

***

「さて、と。そろそろ・・・」
 岩から起き上がったアンジェリーナの表情が引き締まる。素早く下着と服を身に着け、左の太ももにナイフをベルト付きのホルダーで装着する。マガジンをポケットにねじ込んでからハンドガンを手に取ると、音も立てずに岩陰に身を隠す。
 アンジェリーナが姿を隠してから幾呼吸かを置いたとき、川辺に姿を現した者があった。川原の石を粉砕するかのような音を立てながら、水辺に歩み寄っていく。
 そっと窺うと、手首と足首に布を巻きつけ、それ以外には腰布しか身に着けていない二足歩行の人型モンスターだった。手足ともに指は三本しかない。
 特徴的なのが四本の腕と、前方に湾曲した二本の黒い角だった。角まで含めると、その大きさは人間の大男を更に凌ぐだろう。
(こんなモンスターが居たなんて!)
 その肉体が発する迫力に、アンジェリーナの肌が粟立つ。上腕と下腕を交互に使って水を飲む姿ですら恐ろしい。
(でも、ここで倒しておかねば。村人に被害が出る前に!)
 もしこのモンスターが村を襲えば、皆殺しという事態に成りかねない。アンジェリーナはハンドガンを握り締めた。
 突如、モンスターの顔がアンジェリーナの隠れた岩に向く。
「っ!?」
 素早く顔を引っ込めたアンジェリーナだったが、四腕のモンスターの咆哮に見つかったことを確信する。確信した瞬間、立ち上がると同時にハンドガンを連射する。しかし着弾した小口径の弾丸は、モンスターの怒りを煽っただけだったようだ。凄まじい形相でこちらへと突進してくる。
(やはり、ハンドガン程度では致命傷を与えられないようね)
 ならばどうするか。アンジェリーナは身を翻し、目的の場所へと走り出した。走りながらも素早くマガジンを入れ替える。
(ここでは私のスピードも生かせない。あそこなら・・・)
 目的の場所ならスピードをフルに生かせる。しかし、小石の敷き詰められたような川原では機動力が阻害される。
(でも、それは向こうも同じ・・・)
 後方に一瞬目を遣ったアンジェリーナが驚愕する。
「なっ!?」
 モンスターの素早さは予想以上だった。アンジェリーナの二倍以上はありそうな体躯だというのに、アンジェリーナの全力疾走に遅れることなく付いてくるのだ。地軸を揺るがすような迫力と音に、アンジェリーナの背筋を冷たいものが這う。
(それでも、あそこに行けば!)
 アンジェリーナは更に速度を上げた。

***

 目的の場所である廃屋が見えてくる。屋根はなく、崩れかけた石壁と無数の杭が残っている。
「もう少し・・・っ!?」
 僅かな気の緩みだった。一瞬速度が落ちた瞬間、モンスターの手が上着を掴んでいた。
「くっ!」
 振り払おうとした途端、小型モンスターの噛み跡から上着が裂けた。丈夫な野戦服だというのに、ぼろ布のように引き裂かれていく。ズボンにも同様にモンスターの手が掛かり、音高く引き裂かれる。
「あっ!?」
 服を引かれたことでバランスを崩し、土の上を転がる。水浴びで清めた体が土で汚れていく。立ち上がったアンジェリーナは服を剥ぎ取られ、ブラとTバック姿になっていた。その姿を見たモンスターの顔に、欲望の色が浮かぶ。



「しまった・・・」
 アンジェリーナの手にはハンドガンがなかった。受身を取ったときに、無意識に放り出していたのだろう。左大腿部に巻いていたナイフも、ズボンを破られたことでベルトが外れ、今はモンスターの足元にある。モンスターが一歩踏み出したことで、踏みつけられたナイフが鞘ごと曲がった。
(こうなれば、格闘で抗うしかないわ)
 巨体を誇るモンスターと言えども、急所は人間と変わらない筈だ。覚悟を決め、構えを取る。アンジェリーナの覚悟が伝わったのだろう、モンスターが咆哮する。近距離での咆哮は、空気をも震わせた。
 突進が来た。地を転がってかわし、立ち上がると同時に体重の乗ったローキックで太ももを抉る。
「GUOOO!」
 怒りの声を上げたモンスターが、右の二本の腕をアンジェリーナに向かって振り抜く。これをかわすアンジェリーナに、左上腕が迫る。これもぎりぎりでかわしたアンジェリーナだったが、もう一本の腕が死角から襲い掛かった。
「あぐっ!」
 腹部に強烈な一撃が叩き込まれた。アンジェリーナの腹部を叩いた腕は、そのまま腰に巻きついた。
「この! 離しなさい!」
 モンスターの腕に肘打ちを入れるアンジェリーナだったが、腹部への圧力に苦鳴を放つ。
 痛みに呻くアンジェリーナの体が高く上げられる。下を見たアンジェリーナは思わず息を呑んだ。モンスターの頭上に掲げられていたアンジェリーナからは、地面が遠く見える。
「GURAAA!」
 モンスターが四本の腕でアンジェリーナを地面に投げつける。
「がはぁっ!」
 受身を取ったアンジェリーナだったが、衝撃を完全に殺すことはできなかった。下が土でなければ、内臓破裂を起こしていたかもしれない。
 完全に動きの止まったアンジェリーナを、モンスターが引き起こす。先程の投げで、アンジェリーナのブラがずれて乳房が露わになっていた。モンスターは一度じっくりとアンジェリーナの肢体を眺めた後、剥き出しの乳房を揉み始める。
「GUHUU・・・」
 アンジェリーナの乳房を揉みながら、モンスターは満足げな息を洩らす。その澱んだような悪臭に、アンジェリーナは思わず咳き込んだ。
 突然顎を掴まれた。モンスターはアンジェリーナが口を閉じられないようにした上で、長い舌を口腔に侵入させてくる。
「ぐむぅっ!?」
 悪臭に加え、唾液交じりのモンスターの舌がアンジェリーナの口内を蹂躙する。モンスターはアンジェリーナの口を犯しながら、乳房を揉むこともやめない。
「むっ! うむぅっ!」
 必死に足で蹴りを入れるが、モンスターの巨体はびくともしない。それでも煩くなったのか、モンスターは顎を掴んでいた手を放し、アンジェリーナの足を掴む。
「げぁっ、ごほっ!」
 ようやく口から舌が抜かれ、モンスターの唾液を吐き出しながら息を吸う。その間にも乳房はモンスターのごつい手に揉まれ続けている。
「や、やめなさい無礼者・・・!」
 儚い抵抗だとはわかっていたが、モンスターの腕や体を殴る。モンスターは気にした様子もなく、アンジェリーナの乳房を揉むことをやめようとはしなかった。

(い、いつまでこのようなことを続けるつもり?)
 アンジェリーナが乳房を揉まれ始めて、もう五分以上が経過している。それでもモンスターは飽きることなく、アンジェリーナの乳房をひたすら揉み続けている。
 やがて、アンジェリーナの意思に反し、刺激され続けた乳首が硬度を増していく。
「GUHAHAHAAAA」
 それに気づいたのか、モンスターが嬉しげに叫ぶ。アンジェリーナの両手首、足首を掴んで持ち上げ、自分の顔の前に乳房がくるようにすると、口を開けたモンスターは乳首と言わず乳房と言わず舐め回す。
(気持ち悪いことを!)
 先程口腔を犯した舌が、今度は乳房を責めてくる。硬くなった乳首を転がすように、弾くように舌の先を当ててくる。大きな口を開き、乳房を丸ごと頬張って舌を回転させる。乳房に傷がつかない程度に噛んでくる。アンジェリーナがもがこうとしても、動かせるのは首だけだった。
「くぅっ」
 王女に生まれついたアンジェリーナと言えども、女性であることに違いはなかった。敏感な部位を長時間責められれば身体が反応してしまう。モンスターの舌により、乳房から快感に似たものが広がっていく。
「GAHUUU・・・」
 ようやく満足したのか、モンスターがアンジェリーナの乳房から口を離す。しかし、それで終わりではなかった。
「ああっ!?」
 モンスターはアンジェリーナの身体を放り上げるようにし、回転させる。次の瞬間、アンジェリーナはモンスターに背中を向ける状態で四肢を掴まれていた。しかも逆さまで。



 舌舐めずりしたモンスターは、アンジェリーナの身体を引き上げた。アンジェリーナの股間が口元に来るように調節し、長い舌を垂らす。
「あぁぁぁっ!」
 アンジェリーナの悲鳴が廃屋に響く。モンスターは下着の上からとは言え、アンジェリーナの秘部を舐め回していた。秘部だけでなく、ほぼ丸出しのヒップにまで舌が伸びる。股間を舐め回される屈辱と汚辱感は心身を汚す。
 それだけでは終わらず、二本の下腕がアンジェリーナの腕を放し、乳房を揉み込んでくる。乳房、乳首、秘部といった女性の急所が好き勝手に責められる。
(ぶ、無礼なことを!)
 せめて乳房を揉んでくる手を外させようとするが、アンジェリーナが両手を使ってもモンスターの片手すら外せなかった。
 必死に抵抗するアンジェリーナだったが、モンスターの力には敵わず嬲られ続ける。それでも諦めないアンジェリーナの視界に飛び込んだ物があった。
(これだわ!)
 不快な刺激を必死に耐え、地に落ちたハンドガンに手を伸ばす。
「あ、あと少し・・・っ!」
 しかし触れたのも束の間、モンスターに体を揺らされ、またハンドガンが遠くなる。
 揺らされた拍子に、背中に硬い物が当たる。
(これは何?・・・まさか!)
 想像してしまった。その想像が力を振り絞らせた。
「くぅぅぅっ!」
 肩が外れそうなほど手を伸ばし、グリップに触れる。
 ハンドガンを掴んだ瞬間、立て続けにトリガーを引く。アンジェリーナは五発全ての弾丸を一箇所に集中させていた。
「AGOOOORUUUU!」
 さすがのモンスターも、神経が集中した敏感な足先を打ち抜かれては堪らなかった。アンジェリーナを放り出し、屈み込んで呻く。
 次の瞬間、華麗に下り立ったアンジェリーナが疾走に移っていた。モンスターの左側面に回り込んでモンスターの角を掴み、そのまま廃屋の壁を駆け上がる。
「はっ!」
 壁を蹴り、望む方向にモンスターの頭部を持っていく。後方へと倒すようにモンスターの角を掴んだまま、落下エネルギーに自重を加えて加速する。
 その先に、ささくれ立った杭があった。
 骨を削る音と共に杭はモンスターの後頭部を抜け、口から突き出た。杭に遅れ、どす黒い血が溢れ出す。
 それでもまだモンスターは息絶えていなかった。アンジェリーナを逃すまいとするかのように、右上腕を伸ばす。その手が、アンジェリーナのブラを掴んでいた。
「何をしているのです! 放しなさい!」
 幾らアンジェリーナが振り解こうとしても、最期の力を振り絞ったモンスターの手は放れようとはしなかった。
「ええいっ!」
 アンジェリーナが無理に引っ張った途端、ブラの各繋ぎ目が引き千切れた。ブラはアンジェリーナの胸元から外れ、モンスターの手の中に残ったままとなった。
 あまりのことに、アンジェリーナはモンスターの死骸の前で暫し呆然としていた。
「・・・どうしましょう」
 今アンジェリーナが身に着けているのは、Tバックの下着と軍用ブーツのみだ。仕方なくぼろぼろになった野戦服を胸と腰に巻き、肢体を隠す。
「村の皆に挨拶をしないと不義理になるし、でもこの格好では・・・なぜ着替えを持ってこなかったのかしら」
 迷うアンジェリーナだったが、王女として、また特殊部隊の隊長として、依頼主である村人に一言も言わずに帰ることは憚られた。
「・・・よし!」
 無理に気合いを入れ、アンジェリーナは重い足取りで歩き始めた。村へではなく、川へと向かって。

 半裸のような格好で(それでも川で汚れを落として)村に戻ってきたアンジェリーナを、村人は心配と好色の目で出迎えた。アンジェリーナは小型モンスターの駆除と四本腕のモンスターを退治したことを告げ、着替えを所望した。
 用意された質素な服に着替えたアンジェリーナは、そそくさと村を後にした。

***

 後日、隠し撮りされた半裸のアンジェリーナの写真が、闇ルートで大いに出回ったという。この写真がプチョー王国の王・プチョーの目にとまったことで、アンジェリーナの運命は激変することとなる。
 しかし、それはまた別の物語である。


***


アンジェリーナの活躍が見たいという方は、こちらからご覧ください。


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