【外伝 ナスターシャ・ウォレンスキー 其の一】

 ナスターシャは、ベッドの上で目を覚ました。覚醒と同時に、KGB時代に叩き込まれた状況把握を行う。
(手足は・・・動く。持ち物は・・・持ち物どころか衣服も無しか。私は・・・そうだ、『御前』に捕らえられ、見世物にされた)
 <地下闘艶場>で勝てば賞金と放免、負ければ「御前」の慰み者になるという条件で闘い、元橋堅城に裸に剥かれ、散々嬲られた。途中からレフェリーも加わり、ギブアップしないナスターシャは好きなように弄ばれた。その筈だが、途中からの記憶がない。失神してしまったのだろうか。
「漸く目覚めたか」
 その声に、反射的に構えるナスターシャ。その視線の先に、和服に身を包んだ白髪の男がいた。
(私がこんな近くに居た男に気付かなかっただと? 莫迦な!)
 男を睨みつけるナスターシャだったが、悔し紛れの行動だった。声から判断すると高齢の域に差し掛かっているようにも感じるが、肌の張りや強い視線が年齢を感じさせない。なにより、男の纏う雰囲気が並みのものではない。暴力に慣れたロシアンマフィアのボスと言えども、足元にも及ばないだろう。
「貴方が『御前』か」
「その通り。お前の契約相手だ」
 椅子から立ち上がる「御前」。そのとき初めて、ナスターシャは「御前」が椅子に座っていたことに気付く。
「負ければ儂の慰み者になる。その約束でリングに上がった筈だ。さ、そこで足を開け」
 ナスターシャはシーツを身体に巻きつけ、「御前」を睨む。
「私はギブアップをしていない。それは負けていないということだ」
「くく、失神して無防備な様を晒しておいて負けていないとは、ようも言えたものよ」
 「御前」が含み笑いを洩らす。
「だが、それも面白い。では、今から儂と闘ってみるか? 儂に勝てば逃げ出すことは簡単だぞ。さて、どうするね?」
(この部屋には他に気配がない。ということは、脱出のチャンスも高い、か)
「・・・受けよう」
「実戦は久しぶりなのでな、手柔らかに頼むぞ」
 羽織を脱ぎ、椅子に掛ける「御前」。ナスターシャはシーツを巻きつけたまま、静かにベッドを降りる。前に出ようとするが、足が進まない。
「どうした? 来ぬのか?」
 「御前」が間合いを詰めてくるが、それに圧されるように下がってしまう。鍛錬を重ね、肉体を追い込んだ者にしか判らない相手の実力を測る力。野生の獣も持つその能力が、「御前」とナスターシャの彼我の差に警報を鳴らす。
(くっ・・・この年齢でこのプレッシャーか・・・化物め!)
 頭では前に出ようとしても、体が前に行かない。足が出ない。気付けば壁を背負っていた。
「もう後ろには下がれんぞ。元KGBの実力はそんなものか?」
「・・・ふっ!」
 左のジャブを放つと同時に右手で「御前」の左袖を取る。取ったと同時に崩しを行うが、まるで重心が動かない。
(ままよ!)
 崩しができないまま巻き込み背負い投げを狙ったが、「御前」に胸元と股間のシーツを掴まれ、抱え上げられる。
「!」
 次の瞬間には投げられていた。反射的に受身を取るが、ベッドのスプリングによりダメージはない。
「・・・わざとだな」
 床か机に投げ付けていれば、それだけで勝負は決まっていたかもしれない。しかしベッドの上となればダメージなどまるでない。
「もう少し楽しませてくれ。久しぶりの実戦だと言っただろう、簡単に終わっては面白くないわ」
(くっ・・・)
 唇を噛み、屈辱を耐えるナスターシャ。<地下闘艶場>での闘いで体力を奪われたとは言え、「御前」との実力差は如何ともしがたい。例え万全の状態だったとしても勝機は乏しかっただろう。
「こうなったら・・・」
 少しでも勝機を上げる努力をするしかない。自らシーツを外し、裸身を晒す。これで掴む部分が少なくなったため、投げは躊躇する筈。裸を見せることで少しでも動揺が誘えれば良いが、「御前」には通じまい。
「ほう、自ら裸になるとは、覚悟を決めたということか?」
「貴方程の男だ、そうではないことはわかっている筈だ。言葉でも嬲るか」
「くくっ、性分かの、女を嬲るのが楽しくて適わんのよ。さて、どう足掻いてくれる?」
「そうだな・・・こんなのは、どうだっ!」
 フェイントのジャブから右のハイキックと見せかけ、足元のシーツを引っ掛けて「御前」に被さるように狙う。成功云々は考えず、足元へタックルに行く。しかし、「御前」の脚に届く前に、ナスターシャの身体は宙を舞っていた。「御前」はシーツを一瞬で巻き取り、左手一本でナスターシャを投げ上げたのだ。そのまま無防備な鳩尾と右の脇腹を同時に掌底で打ち抜く。
「がはっ!」
 その衝撃に、肺の空気を吐き出すナスターシャ。落ちたベッドの上で痛みに身悶える。
「そろそろ負けを認めんか? 儂は女を嬲るのは好きでもいたぶるのは嫌いでな」
「・・・お断りだ!」
 最早意地でしかなかった。ベッドから転がるように降りると、技とも言えない突進から右ストレートを放つナスターシャ。しかしその勢いは逸らされ、右背部、肝臓の裏側を掌底で打たれ、完全に動きが止まる。
「がふっ、がふふっ、あぐふぅ・・・」
 呼吸すら満足にできず、投げ上げられたベッドの上でのたうつ。「御前」は悠々とナスターシャの上に被さるが、ナスターシャは苦痛を堪え、喉元へと喰らいつく。
「おっと」
 「御前」はナスターシャの喉を押さえることでそれを阻止し、組み伏せる。
「これ以上暴れられるのも面倒じゃな」
 「御前」はナスターシャを捕らえたまま携帯電話を取り出し、コールする。
「今すぐ来い」
 それだけ言って携帯を切り、ナスターシャを改めて押さえつける。
「私はまだ負けていない! 放せ!」
「ふむ、どこまでも負けを認めぬか。それならこのまま犯すまでよ」
 そのとき、部屋に誰かが入ってきた。おそらく「御前」が携帯で呼んだ部下だろう。
「お呼びでしょうか」
 女性の声だった。男の部下が来ると思い込んでいたナスターシャが視線をそちらに向けると、肩まで届かない短めの黒髪にスーツ姿の美人が佇んでいた。
「来たか。両手を括れ」
 女性は頷くとゴム製の拘束具を用意し、ナスターシャの両手を拘束してしまう。自由な両脚で「御前」を蹴ろうとするが、上から乗られてはそれも適わない。
「さて、味わう前に身体を清めてやろう。汗の匂いと男の唾液の臭いがきついわ。洋子、拭いてやれ」
 洋子と呼ばれた女性がおしぼりを手に近づき、ナスターシャの全身を拭き上げていく。それが思いの他気持ちよく、つい身を任せてしまう。さすがに乳房を拭われるときには暴れたものの、二人掛かりで抑えられては抵抗も弱い。洋子は上半身を拭き終わるとおしぼりを変え、秘部から拭っていく。秘部からお尻、太もも、ふくらはぎへと下がっていき、足の指を一本ずつ拭くことで終わる。拭き終わると「御前」に一礼し、ベッドから降りる。
「さて、ではどこから触るのがいい?」
「どこもごめんだ!」
「そうか、こちらに任せると言うことだな。では、まずはここから行くか」
 「御前」はナスターシャの乳房を優しく掴むと、回すようにして愛撫する。乳首を人差し指で刺激しながら揉んでいく。
「くっ・・・」
「これくらいの力でいいのか? それとももう少し強めがいいか?」
「触らないでくれ! それが一番いい!」
 噛み付くように言うナスターシャに、やれやれと首を振る「御前」。
「では儂は休憩するとしよう。洋子、ナスターシャを愛撫してやれ。服を脱いでな」
「はい」
 洋子はその指示に躊躇することなく従う。上着を脱ぎ、シャツのボタンを外してズボンも脱ぎ、下着姿になる。下着も淀みなく外し、鍛えられつつも女性らしい裸身を晒す。そのまま「御前」と入れ替わるようにしてベッドに上がる。
「くっ、やめろ! 私に触るな!」
 洋子を蹴ろうとした足は簡単に掴まれ、上に乗られることで動きを止められる。
「『御前』の命令は絶対です。それを貴方の体にも刻み込んであげましょう」
 冷笑と共にナスターシャへの愛撫を開始する洋子。乳房の縁をなぞるように指を滑らせながら、舌で鎖骨を舐める。
「そ、それくらいの責め、なんてことはないな」
「あら、そうですか。では、こんなのはどうですか?」
 洋子はナスターシャの顎を掴んで顔が動かせないようにし、耳を舐めしゃぶり、耳の穴に舌を侵入させる。その間も乳房を優しく愛撫する。
「くぅっ・・・」
「声が抑えられませんか? ではもう少しここを・・・」
 暫くナスターシャの耳を嬲った後、洋子はナスターシャの上に重なり、乳房をナスターシャの乳房に擦り付ける。
「ふふっ、乳首が硬くなっているわね。感じてくれたようで嬉しいわ」
「た、ただの生理現象だ。感じているわけではない!」
「そうですか。なら、ここはどうですか?」
 洋子は人差し指を立て、顎から始まり喉、胸の谷間、鳩尾、臍、銀色の翳りを通って秘部へと達する。
「やめろ、触るな!」
「『御前』の命令は絶対だと言ったでしょう? 貴女を愛撫し、感じさせるのが私の任務です」
 洋子の指が優しく秘部を撫でてくる。<地下闘艶場>での試合と違い、同性の責めは柔らかくもポイントを巧みに点いてくる。
「くっ、くぅぅっ・・・」
「我慢は体に毒ですよ」
 声を洩らすナスターシャに、洋子の指と舌が絡む。乳首を舐められ、秘部を弄られる。最初はひやりとした指の感触が、熱を持ったそれへと変わっていく。柔らかな舌の感触が、優しく快楽を掘り起こしていく。
「な、なんてことはないな」
 不適に笑ってみせるナスターシャだったが、洋子の指が淫核を押さえると思わず甘い吐息を洩らす。
「あら、ここは気に入ってくれたようですね。では、こんなのはどうかしら?」
 洋子は親指で淫核をあやしながら、人差し指で秘裂をなぞり、中指を膣へと進入させていく。
「ぐぅぅっ」
 右の乳房と乳首は洋子の左手に愛撫され、左の乳首は洋子の舌に舐られ、股間は洋子の右手に翻弄されている。喘ぎ声だけは洩らすまいと、きつく歯を食いしばる。
(負けるものか・・・これしきの責めで、感じてなどやるものか!)
 ナスターシャの思いとは裏腹に、洋子の巧みな愛撫にナスターシャの体は反応していた。
「だいぶ感じているようだが、まだ儂に抱かれる気にはならんか?」
 身悶えるナスターシャを覗き込み、「御前」が揚々と聞いてくる。
「くっ・・・感じてなどいない、お前などに抱かれてたまるか!」
 湧き上がる官能の火を必死に抑え、拒絶の言葉をぶつける。視線で「御前」が殺せたならどんなにいいか。
「そうか・・・儂はもう我慢できんのだが、そう言われては仕方あるまい。洋子、相手をせい」
「はい、喜んで」
 先に抱いて貰えるとは思っていなかったらしく、洋子の顔が喜びに輝く。
「よし、尻をもう少し上げろ。そうだ、では行くぞ」
 「御前」は洋子の腰を抱え、逸物で貫く。
「あぁっ、『御前』、嬉しいです・・・ふぁぁっ!」
 ナスターシャを責めることで高ぶっていた洋子は、易々と「御前」の逸物を飲み込む。後背位で貫かれることで洋子の乳房が揺れ、ナスターシャの乳房に当たる。予期せず乳首通しが擦れ合うこともあり、洋子の乳首も硬く立ち上がっているのがわかる。ナスターシャの目の前で乱れる洋子。その快楽に蕩けた表情が、ナスターシャを嫉妬へと誘う。
(ずるい・・・)
 自分がこんなに我慢しているというのに、目の前の女は思う様乱れている。その思考は論理的におかしいのだが、快楽への不満が不条理を受け入れる。
「あぁぁぁっ! 『御前』、もっと、もっと突いてください! いいです、『御前』、中が抉られるようで・・・ひぐぅっ!」
 「御前」の突き込みが少しずつ激しくなっていき、洋子はナスターシャに抱きつくようにして耐える。そのため「御前」の腰の動きが、洋子の体を通じてナスターシャにも届く。「御前」の突き込みを想像してしまい、膣の中が疼く。隙間を埋めて欲しいと浅ましく欲する。
「あっ、あっ、あっ、あっ・・・『御前』、も、もう駄目です、申し訳ありません・・・!」
「なんじゃ、今日は早いの。見られているから興奮するのか?」
 「御前」は一段と激しく突き込みながら、洋子を絶頂へと導いていく。
「くぁぁぁん・・・!」
 絶叫と共に、洋子の体が脱力する。荒い息を吐きながら、ナスターシャにもたれかかる。
「さて、どうする?」
 ナスターシャを見据え、「御前」が声を掛ける。
「もしお前が嫌だと言うのなら、やめてやってもいい」
「え・・・」
 望んでいた筈の答えに、今は失望感が湧く。
「そのときは洋子を抱くだけよ。こやつは儂が言えば限界でも奉仕するからの」
 「御前」はそう言うと、一度洋子から逸物を抜く。勃起したままの逸物を見たナスターシャの喉が鳴る。
(なんて大きさだ・・・あれを私のここにぶち込まれたら・・・)
 想像しただけで秘部が潤むのがわかる。
「ふむ、返答は無しか。ならば、洋子に・・・」
「ま、待ってくれ!」
 ここまで焦らされ、肉の喜びを知る女には耐えることができなかった。
「抱いてくれ、私を抱いてくれ!」
「言葉遣いがなっとらんな。人に物を頼むときにはそう言えとKGBで習ったか?」
 最早立場は逆転していた。先程までなら怒りに震えたであろう「御前」の物言いに、ナスターシャの方が謝罪する。
「ごめんなさい、いえ、申し訳ありません! 私を抱いてください、グチャグチャにしてください!」
「くくっ、所詮は女か。快楽を知っていると、焦らされることでも高まってしまう」
 「御前」は嘲笑いながらもナスターシャの上から洋子を下ろし、ナスターシャの腰を掴む。
「もう一度聞くぞ。どうして欲しい?」
「入れてっ! 私のヴァギナに突っ込んで! お願いします!」
 もう恥も外聞もなかった。ただひたすら秘部の疼きを沈めて欲しかった。
「では、行くぞ」
「あふぅぅぅっ!」
 声が抑えられなかった。「御前」のゆっくりとした抽送に、快楽中枢が電流を発する。男を待ち望んでいた膣が逸物をきゅうきゅうと締め、奥に引き込もうと律動する。
「ぬぅっ、中で心地良く締め上げてくるわ。そんなに欲しかったのか?」
 「御前」の逸物が膣壁をかきわけて進み、子宮口へと辿り着く。
「ああっ、と、届いてる・・・」
「儂のものを全て呑みこむとは。こんなに膣が深いおなごは初めてだ」
 ナスターシャにとって、子宮口を男の逸物で叩かれたのは初めての経験だった。「御前」にとっても、逸物を全て呑み込んだ女は初めてだった。まるで刀と鞘のように、二人のサイズはぴたりと合っていた。その間にもナスターシャの膣壁が蠢き、「御前」の逸物を撫で回す。
「これはいい。暫くこうしているとしようか」
「そんな、動いて、動いてください!」
 焦らされたナスターシャが腰を揺すり、「御前」にせがむ。
「仕方が無い奴だ。では、動くぞ」
 苦笑した「御前」が、力強い抽送を開始する。逸物が往復する度に、膣壁が削られていくような感覚がナスターシャを襲う。
「あぁぁっ、中が、中がごりごりと・・・くぁぁっ!」
 それだけでも堪らないのに、「御前」が腰の回転も使い始めると一気に快楽の上限へと飛ばされた。
「ああっ、なんだこれは、иметь хорошее настроение!」
 思わずロシア語で叫ぶ。「御前」の激しい突きこみに翻弄され、喉から嬌声が迸る。
「どうした、もうイクのか?」
「は、はい、もうイキます、こんなに感じるのは初めてで・・・あああっ!」
 ナスターシャは本能的に「御前」の腰に両脚を巻きつけ、僅かでも奥に引き込もうとする。
「むぅぅっ、そんなに欲しいか、ならばくれてやる、一番奥で受け止めい!」
 「御前」の逸物が律動し、ナスターシャの子宮へと精を吐き出す。
「ひうっ、イク、イクぅぅぅ・・・っ!」
 子宮に精液を浴びせ掛けられ、絶頂に達したナスターシャ。何度も体を痙攣させ、ぐったりとベッドに沈み込む。

 僅かな時間とは言え、意識を失っていたらしい。絶頂に達したことで身体を渦巻いていた官能が収まり、冷徹な判断力も戻ってくる。身動きしようとして両腕が拘束されていることに気づく。
「あ・・・私は・・・」
 瞬時に自分が置かれた状況を思い出し、目の前にいた「御前」を見つめる。
「色の波は去ったか。ではお前の今後を選ばせてやろう」
 「御前」は洋子にナスターシャの拘束を解かせ、ナスターシャの目を見据える。
「お前の選べる選択肢は三つだ。一つ目は、儂の忠実な部下になること。二つ目は、客を取り、一億円で自由を買うこと。三つ目は、お前に与える一軒の家の中のみで生活すること。さて、どうするかね?」
「私は・・・」

「『御前』、貴方の忠実な部下になります」

「自分の体で稼ぐ。必ず一億円をお前の前に積み上げてやる!」

「飼育されるということか。それもいいかもしれない」

番外編 目次へ

TOPへ
inserted by FC2 system