【外伝 カミラ・アーデルハイド・バートリー】

 夜の車道を何処かへと向かい、黒塗りの高級外車が滑らかに疾駆する。
 その車内、広々とした後部座席。豊かな白髪の男が、自分の膝の上に、横たわる金髪の美少女の頭を乗せていた。
 男は裏の世界では知らぬ者のない「御前」と尊称される存在だった。美少女の名はカミラ・アーデルハイド・バートリー。「御前」と自らの肉体を賭けた闘いを行い、惜しくも敗北を喫した。現在は失神したまま、静かな呼吸を繰り返している。
「『御前』、縛り上げたほうが宜しいかと」
 そう言ったのは、同席していた鬼島(きじま)洋子(ようこ)だった。「御前」の最側近であり、常に傍らに寄り添う存在だ。
「その必要はない」
 洋子の提案を「御前」は切り捨てた。
「このおなごは誇り高き血族よ。自らの賭けに敗れた以上、儂との約定は決して破らぬ」
 失神していても美しいカミラの美貌を眺めながら、「御前」は額に掛かったほつれ毛を直してやる。
「・・・出過ぎた真似をしました、申し訳ありません」
 深々と頭を下げた洋子は、もう一度「御前」と目を合わせる。
「せめて、怪我の手当てを」
「なに、これくらい怪我の内には入らん。痛みも己への戒めとなる」
 腫れた小指に一瞥をくれただけで、「御前」は何もしようとはしない。否、どこから取り出したのか、一本の針を右手に摘んでいた。針を腫れた患部に刺し、一息で抜く。忽ち赤い雫が膨れ、垂れた鬱血がカミラの口元へと落ちる。元より赤いカミラの唇が、「御前」の血で彩られる。
 赤い唇を割り、舌が覗く。無意識の内にカミラは「御前」の血を舐め取っていた。血化粧を施した美少女は魔性を纏い、更なる美貌へと変貌していた。

          ***

 とある一室。部屋の中央に鎮座したキングサイズのベッドが、その部屋の用途を教えてくれる。
「御前」は豪奢な椅子に腰かけ、胸の中にカミラを抱き、その凄まじいほどの胸の膨らみを真紅のドレスの上からゆったりと揉んでいる。
 小さな呻き声を洩らしたカミラが、ゆっくりと瞼を開いていく。
「目が覚めたか」
「御前」の呼びかけに完全に覚醒したカミラは、自分の胸を好きにしていた「御前」の手を払う。
「人が寝ている隙につけ込むなど、紳士道に反しますわよ」
「儂は紳士などではないのでな。賭けで手に入れたお気に入りを早速愛でていただけよ」
 手を払われても焦ることなく、「御前」は余裕を崩さない。
「ま、そのようなことはどうでも良い。お前に見せたいものがある」
「御前」が合図を出すと、壁際に控えていた洋子が何かのスイッチを操作する。するとカミラの前方の壁に映写機の光が当てられ、何かの映像が浮かび上がる。
「まさか、この映像は!」
 カミラが、驚きの声を上げた。

          ***

「ああ・・・愛しの瑞希が、僕以外の男に厭らしいことをされていないか心配だ」
「あんな男女、誰も好き好んで触ろうとはしないだろう」
「いやいや、瑞希の魅力は男を狂わせるんだよ」
「それはお前だけだろう、ロリコンめ」
「あはは、面白い日本語を知ってるねぇマダム・ナスターシャ」
「誰がマダムだ!」
 まるで緊張感のない会話を繰り広げるのは、金髪のアシュタルト・デフォーと銀髪のナスターシャ・ウォレンスキーだった。
 フランス出身のアシュタルトは英語を話したがらず、ロシア出身のナスターシャは片言のフランス語しか話せない。従って、フランス人とロシア人である二人の間の会話は日本語、ということになる。
「お前ら、いいかげんにしろよ!」
 そう叫んだのは、ノート型の端末を操作していた真崎(まさき)零次(れいじ)だった。高度に入り組んだセキュリティシステムの解錠目指して必死に作業しているというのに、隣で漫才をされていては気も散るというものだ。しかし怒鳴りながらも両手の指はまるで止まろうとしない。
「ほら、マダムのおかげで怒られちゃった」
「ロリコンのくせに人のことを変な呼び方で呼ぶからだろう? 人の所為にするとは、器の小さい男だ。○○○も小さいんだろう?」
「そうだねぇ、人並みのサイズくらいかな? なんなら見せようか?」
「ふん、小さいモノになど興味はないな」
「良かった、僕も瑞希以外に見せる気はないからね」
 それでもアシュタルトとナスターシャの言い合いは続く。もう真崎は何も言わず、端末の操作に没頭した。真崎が指を躍らせるたび、モニターが次々と文字で埋まっていく。それに合わせ、部屋の照明、電話、機器などが反応を示す。それは、その場所が真崎の支配下に置かれていく証だった。
 誰も入り込むことを許されない筈の、カミラ・アーデルハイド・バートリーの居城が。

          ***

「そんな・・・私の城は我が社の最新鋭設備で護られているのに・・・」
「確かに最新設備だった。でも、最新設備だからこそ忍び込めたんだけどな」
 カメラの向こうのカミラにウインクを投げ、真崎は再び端末操作に戻った。

 真崎は手始めに外部監視カメラをジャックし、監視カメラの映像を保存する機器に侵入した。後はサーチ&ハックを繰り返し、最後には監視システム全体を自分の管理下に置いたのだ。配置されていたガードたちはアシュタルトとナスターシャによって「優しく眠らされた」。

「さーて、残るは中枢システムか・・・こいつはさすがにガードが固い」
「無駄ですわ。軍事システムも組み込んでいる、我が社の最新鋭システムの塊。簡単に破れるものですか」
「まあそう慌てないで、フロイライン。お手並みをご覧頂きたく」
 もう一度ウインクを投げ、真崎が指を躍らせる。端末を操作するその整った顔立ちは、女を惹きつける吸引力に満ちていた。あのカミラが思わず口を閉じたほどだ。しかし、動き続けていた真崎の指がぴたりと止まる。
「ふふっ、やはり無理でしたか」
 カミラの嘲笑に、真崎が髪を掻き上げる。
「確かに手強い。でも、障害が高ければ高いほど、落としたときの感動は大きいものでね」
 一度指を鳴らした真崎は唇を結び、表情を引き締める。
「ほう・・・」
 軽い感嘆を洩らしたのはナスターシャだった。それほど真剣な表情の真崎は男の魅力に溢れていた。二度深呼吸を繰り返し、徐にキーボードへと指を躍らせる。凄まじい速度でコマンドを打ち込む。その速度は衰えるどころか時間が経つほどに速度を増していく。
「・・・当たりがついた」
 それは、突破口を見つけた者の笑みだった。
「どれ・・・ここを、こう攻めて・・・柔らかくなったところで、気持ちよくしてあげて、と・・・よし!」
 真崎の指が音高くキーボードを叩く。
「任務完了。この城のセキュリティシステムを完全に支配下に置きました」
 真崎の報告と共に、カミラの居室に設置された巨大モニターに十字架が浮かび上がる。カミラに対する皮肉であることは明らかだった。
「儂の一言でお前の帰るべき場所は無くなる。さて、どうするね?」
 カミラは唇を噛み締め、「御前」を睨みつける。その視線すら男を蕩けさせる蟲惑に満ちていた。
「・・・元より、賭けの結果には従いますわ。このような小細工などせずとも、私は誇り高き血族なのですから」
 カミラの宣言に、「御前」が笑みを浮かべた。
 獲物を前に、肉食獣が浮かべる笑みを。

          ***

「まずは服を脱いで貰おうか。生まれたままの姿にな」
 ゆっくりと呼吸を吸い、ゆっくりと吐いたカミラは、ドレスの肩紐に手を掛けた。そのまま白く滑らかな肌の上を滑らせる。露わとなった真紅のブラは肩紐もなく、胸の谷間も露わなカップとバンドだけの作りだ。カミラは次に腰を巻いていた帯を外し、手を放す。帯と一緒にドレスも床に落ち、カミラは真紅の下着を纏う姿となった。
 大きく美しい円で形作られた胸部。引き締まった上に薄っすらと脂肪が乗った腹部。見事な曲線を描く臀部。そこから伸びる完璧な脚線美。下着姿でも、否、下着で飾る肢体は凄惨さすら覚える美しさだった。
 カミラは腰に左手を軽く当て、「御前」を睨みつける。
「どうした? いつまでもその格好でいるつもりか?」
「こういうときに余裕を見せるのが大人の男ですわよ」
 鋭い視線はそのままに、カミラは背中に手を回し、ホックを外す。肩紐のないブラは、それだけで床へと落ちた。カミラは凝ったレースで装飾された真紅の下着に手を掛けると、張り出したヒップのカーブを滑らせるようにして脱ぎ下ろす。
 凄まじい質感を誇る乳房。鍛えられ、引き締まった腹部。腹部と反比例した豊満さの尻。金色の叢。脂の乗った太もも。蠱惑的な肢体は隠すものもなく、「御前」の前に屹立している。
「さて。儂も準備をするか」
「御前」は帯を外し、着物を脱ぐと褌一丁となる。その褌も外し、一糸纏わぬ姿となる。露わになった男の証は、黒光りする雄大なモノだった。まだ立ち上がっていないというのに、その存在感は凄まじい。
「・・・なんという・・・」
 息を飲むカミラの姿に、「御前」は小さく笑みを浮かべる。そのままキングサイズのベッドの縁に腰掛け、手招きする。
「まずは、儂のモノを立たせて貰おう」
「私に娼婦の真似をせよと・・・!」
「賭けに負けた敗者が言い訳か?」
 カミラはぐっと唇を噛み、ゆっくりとベッドに歩み寄ると、「御前」の逸物に手を伸ばす。
「ウタマロ・・・短小が多い日本人の劣等感の裏返しだと思っていましたのに」
 逸物に触れたカミラは、その熱さにびくりと指を引く。
「どうした? 一度触れただけで終わりか?」
「御前」の揶揄に、カミラが唇を噛む。

 生まれついての支配者であるカミラは、他人に奉仕をしたことなどない。これから先もない筈だった。しかし、生まれて初めて賭けに負けた。その約定を破るには、カミラのプライドは高過ぎた。

 カミラは「御前」の逸物を両手で掴むと、ゆっくりと上下させる。既に熱を帯び、ある程度の硬さとなっているそれを、機械的に扱いていく。
 やがて、徐々に硬さを増した逸物が立ち上がっていく。
「次は、その大き過ぎる胸で挟んで貰おうか」
「御前」の指示に、カミラは鋭い視線を投げる。常人ならばそれだけで気死してしまいそうな視線だったが、「御前」は悠然と見返す。賭けの負け分を支払うにはそうするしかないのだと、声には出さずに語る。
 カミラは両手にも余る乳房を自ら支え、立ち上がった逸物を谷間に挟む。雄渾な「御前」の逸物も、カミラの乳房に挟まれてはほとんどが隠れてしまった。
「挟むだけで終わりではないぞ」
「でしょうね」
 平板な口調で返したカミラは、支えていた乳房を上下させる。
「引っ掛かって、不快ですわ」
「一々教えねば駄目か。お前の唾を落とし、滑りを良くすればよい」
 もうカミラは言葉を返さず、口中に溜めた唾液を「御前」の逸物に掛け、その上で再び乳房を上下させていく。単調な奉仕の故か、「御前」が問いを投げる。
「お前の使う格闘技、誰から習ったものだ?」
「・・・ある程度予測はついているのではなくて?」
 仏頂面で乳房での奉仕を続けながら、カミラが言葉を紡ぐ。
「我が師の名は、テオバルト・ゲルツァー」
 カミラの出した名前に、「御前」はたいした反応を示さなかった。失望、とまではいかないが、当てが外れたように唇を結ぶ。それに気づいたのかどうか、カミラは言葉を継ぐ。
「ヘル・ゲルツァーは、神賀西雄という日本人から教えを受け、技術を授かった、と」
「『死神』か!」
 その名を聴いた瞬間、「御前」は思わず声を上げていた。

 神賀(かみが)西雄(にしお)。
 裏の世界では伝説の人物だった。常に素手で諸国を巡り、武器術の道場を片端から破り歩いて無敗。遂には陸軍に招聘され、兵の訓練を任されたほどだ。
 第二次世界大戦前、鉄の匂いが立ち込めていたヨーロッパ。神賀西雄は日本の同盟国となるナチスドイツへと、日本からの使節団の一員として武術武官の肩書きで同行。現地で行方不明となっている。
 真相はわからず、失踪したとも、陸軍から粛清されたとも噂されたが、泥沼の太平洋戦争とその終戦によって、その名を知る者は徐々に数を減らしていった。

「日本人ではないか、とは考えていたが、まさか『死神』の名が出ようとは」
 実際に会ったことはない。しかし、裏の武術界では未だにその名が忘れられることはない。
「ノイエ・トートとは、日本語に訳せば『新たな死』、否、『新たなる死神』とも読める。あの『死神』が、異国で武術の花を咲かせたか」
 カミラの乳首を玩びながら、「御前」は一人笑いを洩らす。
「悪戯はやめなさい」
「褒美だ、気にするな」
「御前」の指の先で、カミラの乳首が硬くなっていく。徐々に「御前」の逸物も硬度と熱さを増し、立ち上がっていく。
「もう良い」
「御前」の言葉に、カミラが乳房から手を放す。「御前」は逸物を屹立させたまま、広いベッドの上で横になった。
「では、儂の上に跨って貰おうか。当然、お前の穴に儂のモノを入れながら、な」
「御前」の命に、カミラが怯む。
「こ、この大きなモノを?」
「うむ。自ら迎え入れよ」
 カミラの表情には、明らかな躊躇があった。
「できぬと言うのか? 賭けに負けておいて、そのような理屈が通るとでも?」
 しかし、「御前」は容赦などしない。
「エリザベート・バートリーの名に誓ったのは誰だ?」
「・・・私、カミラ・アーデルハイド・バートリーですわ」
 カミラの目が鋭く引き締まる。
「偉大なる祖の名に誓った以上、違えることなどありませんわ」
 怒りにすら満ちた瞳のまま、「御前」の逸物を自らの秘裂に当て、自らの体重を掛けていく。
「ひっ・・・ぎぐぅっ・・・!」
 秘肉を裂きながら、「御前」の巨大な逸物がカミラに潜り込んでいく。
「やはり処女か」
 自らの逸物に垂れる鮮血を見て、「御前」が呟く。
「・・・わかっていながら、このような・・・!」
 カミラが血を吐くような形相で「御前」を睨みつける。

 カミラは、常に傍らに立つジル・ジークムント・ヴァグナーに性的な奉仕こそさせたものの、直接的な交わりは許さなかった。おなじノイエ・トートを学んだ同門だとはいえ、所詮は使用人に過ぎない。奉仕をさせるのは当然でも、快楽の褒美をやるつもりはなかったからだ。
 加えて、自らが支配階級であることを自覚しており、くだらない男に操を捧げる気もなかった。

 それが今。自ら処女を散らしながら、男の逸物の上にゆっくりと腰を落としていく。文字通りに内側の身を引き裂かれる痛みは、格闘によって与えられる痛みとはまるで違った。
「も、もう、これ以上は・・・」
 カミラは全身から冷たい汗を噴き出させながら、「御前」に許しを乞うていた。
「まだ儂のモノはお前の奥まで届いておらぬぞ」
 しかし「御前」は許さない。生まれついての支配者たる美少女に、屈辱的な破瓜を命じる。
「ぐぅぅっ・・・」
 断末魔のような呻き声を洩らしながらも、カミラはじりじりと腰を落としていく。
 やがて、「御前」の先端が、カミラの最奥まで届いていた。
「くっ、うぅっ、ふぅっ・・・」
 あのカミラが痛みと披露に身を震わせる。それに合わせ、大きく実った乳房も細かく震える。
「絶景よな」
「御前」が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「これがお前の破瓜の血だ」
 淫核を弄いながら掬ったカミラの初めての証を、「御前」はカミラの唇へと塗り込んだ。
「私の、初めての証・・・!」
 突如、カミラが淫蕩の気を纏った。
「ああ・・・偉大なる祖エリザベート・バートリー・・・また一歩近づくことができたのですね」
 その途端、今まで凌辱されていた膣壁が突如反撃を開始した。まだ青さの残る硬さのまま、「御前」の逸物を蠕動運動で刺激してきたのだ。
「あはぁ・・・」
 カミラ本人も熱い吐息を洩らす。
「これが、本物の快楽・・・」
 カミラの腰が揺らめく。揺らめきは強烈な快感の波動を放ち、「御前」を密かに戦慄させた。
 つい先程まで処女だった筈だ。破瓜の血がそれを証明している。しかし、カミラの膣襞は「御前」の逸物を包み込み、膣道は淫らに蠢いて「御前」を愛撫する。まるで年季の入った娼婦のように。
「くぅっ、くふぅぅん・・・」
 カミラは痛みに吐息を洩らしながらも、ゆっくりとではあるが腰を持ち上げていく。そして「御前」の逸物が抜ける寸前、今度はゆっくりと腰を落としていく。
「ふわぁ・・・痛みの奥にある、甘い疼き・・・この心地よさは、初めて味わいますわ・・・」
 カミラの赤い唇が淫らに割れ、唾液に濡れ光る赤い舌が湿らす。ただそれだけの光景が、色事の経験豊富な「御前」を昂らせていた。


   (続く)


番外編 目次へ

TOPへ
inserted by FC2 system