【外伝 夏海・マウルシア・エスカーナ】

「ここかぁ」
 あの<地下闘艶場>での闘いから二週間が経った。夏海が見上げているのは、今日オーディションを受けることになっている会社の建物だった。

 夏海・マウルシア・エスカーナ。19歳。緩いウェーブのかかった長髪をうなじで纏め、彫りの深いくっきりとした目鼻立ち。日系ブラジル人の父を持つ夏海は、肉感的なプロポーションを誇るダンサー志望のフリーターだった。
 闘いにも自信と実力を持ち、<地下闘艶場>と呼ばれる裏のリングの誘いを受け、そこで半裸にされながらも勝利を収めた。勝利の報酬にオーディションの斡旋というものもあり、夏海は今日その権利を行使し、オーディションへと臨んだ。

 まず受付で案内を請うと、控え室へと案内された。そこでスカイブルーのビキニに着替え、オーディション会場へと移動する。
 暫くそこで待っていると、もう一人の女性が現れた。白いビキニを身に纏ったその女性はかなりの美貌の持ち主で、肌は白く、出るところは出て引き締まるところは引き締まっている。思わず夏海はその女性へと歩み寄っていた。
「貴女も今日のオーディション受けるの? 私、夏海。夏海・マウルシア・エスカーナ。よろしく!」
 挨拶と一緒に握手を求める。相手の女性も微笑を浮かべ、握手を返してきた。
「私は谷邑奈南。よろしくね」
「今日はお互い頑張ろうね。でも、負けないから!」
 ウィンクをした夏海に、奈南が苦笑する。そのとき試験官が現れた。
「お二人とも揃っていますね。では、これからオーディションを行いたいと思います」
 試験官は夏海と奈南を促し、別室へと案内した。

 別室は殺風景な部屋で、会議用の机と椅子、それに座る三人の男がいた。入り口から見て左右の壁には厚手のカーテンが引かれている。
「まず、バランス感覚を見ます」
 試験官が右のカーテンを開ける。
 そこに用意されていたのは、大掛かりな装置だった。3m四方程度の床板が機械の上に乗せられている。夏海と奈南は試験官に促され、その上に乗った。
「それでは、倒れないようにバランスを取ってください」
 二人が立ったステージが少しずつ揺れ始め、かなりの振動を起こす。
「これが震度3です」
 その装置は地震の体験装置だった。試験官は装置のスイッチを触り、徐々に揺れを大きくしていく。
「震度5です」
 震度5ともなると余りの揺れに二人のGカップバストも揺れ、弾み、男性審査員の目が好色なものになる。
(うぉっと、結構揺れるわね! でも、これくらいで!)
 相手には負けたくない、その思いが夏海と奈南に必死にバランスを取らせ、結果として審査員の目を楽しませる。
「震度6です」
 二人がまだ耐えると見た試験官が更に揺れの幅を上げる。
(こ、これくらい、なんてことも・・・っと)
 かなりの揺れにバストが弾んでいるのがわかる。しかし、そんなことくらいで集中力を失うわけにはいかなかった。
「あっ!」
 叫び声が上がったかと思うと、徐々に揺れが収まっていく。声の方を見ると、奈南が両手をついて四つん這いの体勢になっていた。どうやら奈南が先に体勢を崩したことでバランス感覚の勝負が終わったらしい。
(よーっし、まずは一勝!)
 夏海が奈南に目をやると、奈南も夏海を見ていた。二人の視線が宙でぶつかり、絡まった。

「次は、柔軟性を見ます」
 次に用意されたのは、走り高跳びに使うようなバーとそれを支える一対の台。しかしマットはなかったし、棒も少し短めだった。
「少しずつ下がっていくバーの下を、仰向けの状態で交互にクリアしてもらいます。当然床についていいのは両足の裏だけですので、ご注意を」
 用意された道具は走り高跳びのものではなく、俗に言うリンボーダンス用のものだった。夏海は169cm、奈南は身長163cm。身長だけ見れば夏海のほうが不利だ。しかし、柔軟性にも自信がある夏海には丁度いいハンディとも思えた。
「では、夏海さんから始めましょう。こちらからお願いします」
 試験官は夏海を審査員と向き合うように位置取らせ、開始を告げる。
(って、なによこれ! エロ親父へのサービスじゃない!)
 審査員の正面から始めることで、夏海が仰け反る姿勢になれば自然と股間部が審査員の目に晒されることになる。
(・・・我慢、これくらいは我慢しなきゃ!)
 <地下闘艶場>ではもっと恥ずかしい思いもさせられたのだ。この程度で弱音を吐いていられない。夏海は最初の150cmを楽々とクリアした。
 気合を入れた奈南も軽々とバーをくぐる。
 その後も夏海と奈南は交互にクリアしていった。審査員に大股開きを披露しているも同然だが、それでも、相手に負けたくないという思いがその恥ずかしさを我慢させ、バーをくぐることに集中させる。
 二人とも次々とクリアし、体の柔らかさをアピールした。審査員の舐めるような視線は不快だったが、無理に抑え込んでバーをくぐり続ける。バーが下がるのに合わせて脚を大きく広げざるを得ず、審査員の視線が股間に集中する。それでも負けん気が羞恥を上回り、夏海も奈南もバーをクリアし、大開脚を披露し続けた。

 しかし、最後には身長と胸囲の差が出た。夏海は70cmの高さでバストをバーに引っ掛けてしまい、バー諸共地面に倒れ込む。
「よっしゃ!」
 奈南の声にむっとなり、起き上がって睨みつける。
「ちょっと胸が引っ掛かっちゃった。大きすぎるのも考えものね」
 立ち上がり、わざとらしく胸の下で腕組みしてみせる。
「なんですって?」
 夏海の態度にかちんときたのか、奈南も夏海を睨みつけてくる。試験官が慌てて睨み合う夏海と奈南の間に入り、二人を分ける。その手がバストに当たっていることに気づかないほど、女の意地をぶつけ合っていた。

「次で最終審査となります。最終審査は・・・これです」
 左側のカーテンを開き、そこに用意されたものが夏海と奈南にも確認できた。そこは5m四方ほどの部屋で、なぜか周囲10cmほどを残し、床が低くなっている。
「この部屋でのダンスファイト。その出来によって合格者を決めたいと思います」
(ダンスなら絶対に負けないわ! 見てないさいよ!)
 お互いに敵意のこもった視線を交わし、夏海と奈南は思い思いのポーズを取った。
 いきなり大音量で音楽が始まる。有名なダンスナンバーに、夏海は高いジャンプから入る。
(実力の差、見せつけてやるんだから!)
 負けん気の強さが身体をくねらせ、バストとヒップが淫らに弾む。
 突然得体の知れないものが床に流れ込み、夢中で踊る二人の足元を濡らす。
「足場の悪い中どれだけ踊れるか、それを見たいと思います」
 試験官が冷静に告げるが、夏海と奈南にとっては足場が悪いどころではなかった。放出された液体はやたらと滑り、立っているだけで精一杯で、踊ることなどできはしない。
(ちょっと、なによこれ! こんなんじゃちゃんと踊るなんて・・・!?)
 突然、後ろから襲い掛かられる。
「な、なに!?」
 後ろから両方のバストを鷲掴みにされ、揉みくちゃにされる。
「お姉ちゃん、いい身体してるなぁ。踊りもエロいし、もっとエロいとこ見せてくれよ」
 若い男の声だった。バストを揉みながら耳に息を吹きかけてくる。
「わけわかんないこと言ってないで、離しなさいよ!」
 後方に肘打ちを入れ、男の手から逃れる。
(<地下闘艶場>絡みだからって、こんなセクハラオーディションあり!?)
 反転した途端に足を滑らせ、尻餅をついてしまう。そのまま男に押さえ込まれ、バストを揉まれてしまう。それだけでは終わらずにブラをずらされ、乳首を舐められる。
「ライバルも楽しんでるぜ。こっちも見せつけてやろうぜ」
 その声に奈南の方を窺うと、奈南も別の男に圧し掛かられていた。後ろから押さえ込まれ、バストを揉みくちゃにされている。
「どうだ、気持ちいいか?」
「うるさい、下手くそ!」
 夏海の言葉に、男の顔が強張る。
「へぇ・・・そういうことを言うのか。なら、下手は下手なりに好き勝手にやらせて貰うぜ!」
 男の手がボトムに入り込み、直接秘裂を撫で、指を突き立ててくる。
「いたっ! いきなり何てことするのよ!」
「ああ、悪い悪い、それじゃ、ここはどうだ?」
 男の指が淫核をなぞり、微妙な振動を与えてくる。
「へ、下手くそに触られたって、気持ちよくなんかないわよ!」
 顔面を張り飛ばしてやろうとしたが、淫核を摘まれ、動きが止められる。
「あっ、くぅ・・・」
「へへ、その下手くそに触られて感じちゃってる厭らしい奴は誰だい?」
「だ、誰が感じてなんか・・・んんっ」
 敏感な場所を弄られると、その刺激に動きが止まってしまう。決して感じているわけではなかった。男の手をボトムから抜こうとしても、滑ってそれができない。夏海の抵抗が弱いと見た男の手はどんどんと大胆になり、乳房を揉み、乳首を扱き、淫核を撫で、秘裂へと侵入する。
「いいかげんに、しろっ!」
 下からとはいえ、強烈なビンタが男の顎関節を叩き、脳を揺らす。目の焦点がぼやけた男の頭を持って頭突きを入れ、止めを刺す。男は鼻血を出しながら倒れ込み、ぐったりと横たわった。
「全く、人の身体を好き勝手に触ってくれちゃって」
 ぬめる床から這い出し、全身のぬめりをこそぎ落とす。ほぼ同時に奈南も相手の男を倒し、ぬめる床から出ていた。奈南の身体は液体に塗れ光っており、女性の夏海から見ても淫靡さを感じさせた。
(・・・私も似たようなもんか)
 自分の身体を見下ろし、頭を掻く。
 審査員の三人はいつの間にか姿を消しており、試験官だけがおろおろとしていた。
「なぁ夏海・・・私、えらい頭にきてん」
 それが地なのだろう、奈南の関西弁に、夏海も頷く。
「奇遇ね、私も怒りで頭が爆発しそう」
「ま、待ってくれ二人とも。私はただ仕事を忠実に行っただけで、なんの責任も・・・」
 後ずさる試験官の後ろに夏海が、前に奈南が位置どる。
「責任がない? んなわけ、あるかぁーっ!」
 夏海と奈南のハイキックが同時に試験官の顔面を挟み込み、試験官の身体は人形のように崩れ落ちた。

 シャワールームに移動した夏海と奈南は、互いに見張りを交代しながらシャワーを浴びる。あの滑るものは石鹸で洗い流すことができた。

 荷物を置いた控え室へと慎重に移動した夏海と奈南がそっと控え室のドアを開けると、信じられない光景が広がっていた。
「なにしてるのよ!」
 夏海は思わず叫んでいた。控え室の中には先程の審査員達がおり、夏海と奈南のバッグを開け、上下の下着を取り出して匂いを嗅いでいたのだ。いや、嗅ぐだけではなく舐め回している男もいた。
「あ、いや、これはだね、その・・・」
「こんの・・・変態共ぉ!」
 怒りに手加減もできなかった。

 変態審査員達を本人達の服で縛り上げ、目隠しまでしてロッカーの中に放り込む。
 男達の唾液に塗れた下着を身に着ける気にもなれず、夏海と奈南は下着を着けずに私服に着替えた。

「今度はちゃんとしたオーディション会場で、ね」
 ライバルから戦友になった奈南に笑顔で別れの挨拶をし、手を振る。
「ええ、それじゃまたね、夏海」
 奈南の笑顔を見てから踵を返し、小股の速足で立ち去る。今日に限ってミニスカートで、その下はノーパン。
 すれ違う男性が、全て自分を見ているのではないか。そんなことがある筈もないのに、夏海は頬を染めて家路を急いだ。


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