【特別試合 其の十二 天王寺操:プロレス 第三戦】

 犠牲者の名は「天王寺操」。21歳。身長166cm、B96(Hカップ)・W62・H91。長く艶やかな黒髪、ぱっちりとした鮮やかな瞳、桃色の唇。麗しい顔立ちと素晴らしいプロポーションが男性の視線を惹きつける。
 天王寺財閥の娘として何不自由ない暮らしを送っていたが、親が敷いたレールの上を動くだけのような人生が嫌になり、プロレス界へと身を投じた。生真面目な性格で日々練習を積む操だったが、一向に芽が出ず、リングでは敗戦を重ねる毎日だった。
 過去二回<地下闘艶場>に参戦し(させられ)、拙いファイトながら観客の目を(別の意味で)楽しませた。
 セクハラ三昧の対戦にもう二度と参戦しないと誓った操だったが、<地下闘艶場>から三度目の招待状が届いた。もう出たくないとごねた操だったが、団体の決定には逆らえなかった。渋々承諾した操に待っていたのは、淫らな罠と意外な出会いだった。


「今日の衣装はこれ、か」
 操に渡された衣装は、俗に言うチャイナドレスだった。肩口から袖がなく、漆黒のドレスは両サイドに深いスリットが入れられており、胸元には菱形に切り取られた穴が開けられている。
「・・・着なきゃ駄目ですか?」
「はい。契約事項はお守りください」
 黒髪の女性黒服ににこやかに言われ、操は諦める。
 女性黒服が退室した後でチャイナドレスを身に着け、鏡を見る。大きすぎる胸は布地を押し上げ、菱形の穴からは豊かな胸の谷間が覗く。スリットを割ってむっちりとした太ももが顔を出し、よく見るとパンティのサイド部分が僅かにではあるが見えてしまっている。
「前回の振袖といい、今回のチャイナドレスといい、なんでこんなのばっかりなの?」
 操の疑問に答えてくれるのは誰もいなかった。もし女性黒服が聞いていたら、こう答えたかもしれない。「ここが<地下闘艶場>だからです」と。

 花道に現れた操に、前回、前々回と同じように卑猥な声援が飛ばされる。もうそれに一々反応することもなく、操はリングに上がった。

 リング上に待っていたのは、いつもの厭らしいレフェリーと二人の男性選手だった。
「え、ちょっと待ってください! 二人も一度に相手しろってことですか!?」
 この不条理さにレフェリーへと詰め寄る操だったが、レフェリーは顔色すら変えることはなかった。
「まあちょっと待てよ。もう来る筈だ」
「何が来るんですか!?」
「ほら、来たぞ」
 レフェリーの指差す方向を見ると、花道を歩いてくる人影があった。くせっ毛を肩の長さでぶつ切りにし、鋭い眼差し、すらりと通った鼻梁、太い眉という、縛られることを嫌う野性的な美貌の持ち主だった。操が着させられた漆黒のチャイナドレスと同じものを身に着け、卑猥な野次を飛ばす観客達に鋭い視線を送る。その手にはオープンフィンガーグローブが装着されていた。
「誰ですか、あの人は」
「操選手のパートナーだよ。今日はタッグマッチだからな、聞いてるだろう?」
「・・・聞いてません」
 操とレフェリーとの遣り取りの間に、今日のパートナーがリングに上がる。初めて会う筈なのに、奇妙な既視感があった。
(会ったことはないのに、なぜかしら?)
 操の疑問を余所に、タッグマッチに出場する選手が全員揃ったところで、リング下の黒服がマイクを持つ。
「赤コーナー、『喧嘩相撲』、虎路ノ山! &『へたれキング』、早矢仕杜丸!」
 対戦相手は髷を結い、スパッツの上からまわしを締めた巨漢だった。もう一人はチャラい髪型の若い男で、体つきも細い。
「青コーナー、『みさおっぱい』、天王寺操! &『闘う歌姫』、天現寺久遠!」

 操のパートナーとしてリングに上がったのは、「天現寺久遠」だった。17歳。身長166cm、B87(Eカップ)・W60・H90。過去二回<地下闘艶場>に上がり、二勝一敗の成績を収めている。
 今回、久遠には現金が必要だった。バイトで親しくなった友人が尿管結石で倒れ、病院に運び込まれた。家出少女で身寄りがない彼女は緊急手術を受けたが、手術代など支払うことなどできず、久遠は動けない彼女の代わりに金策に走った。しかし久遠とて貯金も身寄りもなく、窮したところへ<地下闘艶場>から誘いが掛かった。今回はタッグマッチで、パートナーは因縁のある天王寺操。ただし、<地下闘艶場>の用意した衣装を着てボディチェックもきちんと受けること。その条件を守れないときは、ファイトマネーは一切払わない。
 背に腹は替えられず、久遠は条件を呑んだ。

 天現寺久遠の名前を聞き、操の脳裏にある情報が瞬く。
「天現寺・・・って言ったら、もしかして・・・」
「・・・ああ。天王寺に仕える家の出だよ。で、あんたに仕える筈だったのがあたしだ」
 天王寺家と天現寺家は古くから続く家柄で、天王寺家の分家である天現寺家の子供は、同年代の天王寺家の子供に仕える慣習があった。操と久遠が運命を受け入れていれば、二人は主従の関係だった筈だ。
 両者とも別種の感慨を噛み締めていると、男性選手のボディチェックをさっさと終えたレフェリーが二人の前に立つ。
「身体の線が出てて色っぽいなぁ二人とも」
 チャイナドレス姿の操と久遠をじろじろと眺めながら、レフェリーがにやけた顔になる。操は嫌悪感から、つい両手で身体を庇っていた。
「ボディチェックの時間だ、いいな?」
「そんなの・・・!」
「・・・わかった」
 セクハラだと抗議しようとした操を遮り、久遠が頷いた。その表情は強張り、決して望んでボディチェックを受けるのではないと教えてくれる。
「そうかそうか。それじゃぁ、久遠選手から調べようかな」
 レフェリーは久遠の前に立つと、いきなりバストを掴む。
「今日は素直だなぁ久遠選手。過去二回ともボディチェックを拒んだのに、こうやって素直になってくれると俺も嬉しいぞ」
 バストを揉みながらのレフェリーの呼び掛けに、久遠は顔を背けて何も言わない。
「おいおい、少しは反応してくれよ。寂しいじゃないか。なぁ?」
 そう言いながらもレフェリーは気にした様子もなく、久遠のEカップバストを揉み続ける。
「あれだけ嫌ってた人間におっぱい揉まれる感想はどうだ?」
「くっ・・・!」
 レフェリーの揶揄に久遠の顔が屈辱に歪む。
「感想もないか? ま、気持ちよくはなさそうだな」
 強気な美少女が抵抗もできず、レフェリーのセクハラを受けている状況に観客席から卑猥な冗談が飛ぶ。
「ま、まだ終わらないのかよ」
「ああ、終わらんよ。ほら、こんなとこも調べないとな」
 レフェリーは久遠に体を寄せ、右手でバストを揉みながら左手でヒップを撫で回す。
「くそっ・・・」
「結構お尻もいい感触じゃないか。大きさも揉み応えも堪らんな」
 レフェリーはにやつきながら、久遠の身体の感触を楽しんだ。

「よし、次は操選手だ」
 一通り久遠の体を触って満足したのか、レフェリーが久遠から離れて操に近寄る。
「い、いやです! そんなセクハラ・・・!」
 身体を庇って後退りした操の腕を、真剣な表情の久遠が掴む。
「頼む、金がいるんだ。ボディチェックがされなきゃ試合も始まらない。ダチを助けるためなんだ、少しだけ我慢してくれ!」
 久遠の必死な頼みに、操の嫌悪感を憐憫の情が上回った。
「・・・わかりました。そこまで言われたら、嫌とは言えませんね」
「わかってくれたか。なら早速!」
 横で聞いていたレフェリーが、いきなり操の特盛りバストを鷲掴みにする。
「!」
 反射的にビンタしようとした手を、久遠が慌てて押さえる。
「気持ちはわかる、でも、堪えてくれ!」
「・・・もう大丈夫。こ、これくらい・・・んんっ!」
「どうした、二人でこそこそと。作戦会議は後でやってくれ」
 レフェリーは両手で操のバストを掴み、捏ね回す。
「相変わらずでかいおっぱいだな。前回は触れなかったから、今回はじっくりと揉んで、じゃない、じっくりと調べさせて貰うぞ」
 レフェリーは左手でバストを揉みながら、胸元の穴に右手の人差し指を入れ、みっしりと詰まった操の谷間に埋める。
「これだけでかいと谷間の深さも凄いな。おっぱいが寄せられてるから尚更だ」
(こ、このような屈辱を耐えなければいけないなんて・・・!)
 大き過ぎるバストを好き勝手に弄られ、操の頬が赤みを帯びる。しかし、久遠の必死な視線が抵抗を我慢させていた。
「くくっ、堪らんな、この感触。おっとそうだ」
 レフェリーは右手で操のバストを揉みながら、左手を久遠のバストに伸ばす。
「てめぇ、なにして・・・!」
「ん? レフェリーに逆らうのか? その場合は試合が中止ってことに・・・」
「くっそぉ・・・!」
 久遠の悔しげな表情を見ながら、レフェリーは操と久遠のバストを同時に揉みしだく。
「これだけの美人のおっぱいを同時に揉めるなんてこと、滅多にないからな。暫く楽しませてもらうぞ」
 レフェリーの宣言どおり、操と久遠は五分にも渡ってバストを揉まれ続けた。

「さぁて、それじゃそろそろ・・・」
 漸くレフェリーの手がバストから離れる。これで試合が始まるのかと思った二人の耳に、とんでもない言葉が飛び込む。
「よし、次で最後だ。前を捲れ」
「・・・え?」
 レフェリーの言った言葉が理解できず、操はまぬけな返答をしてしまう。
「チャイナドレスの前を捲れ、と言ったんだ。何か隠していないかどうか調べなきゃならん」
「なんでそこまでしなきゃならないだよ! いいかげんにしろっ!」
 この要求に、久遠が叫ぶ。
「なんだ、ボディチェックを受けないのか? ファイトマネーはいらないってことだな?」
「ぐっ・・・」
 ファイトマネーのことを出されては、久遠は反論できなかった。
「・・・くそっ、わかった。あんたも頼む、こいつの言うとおりにしてくれ」
「・・・」
 羞恥と怒りに言葉も発せず、操の顔は紅潮していた。
(でも・・・私が拒めば、久遠も久遠の友達も困る)
 操は覚悟を決め、久遠と一つ頷いた後、チャイナドレスの前垂れの半ばを掴む。

(ぉぉぉぉぉ・・・)

 美少女二人が恥じらいながらも自らスカートを捲る光景に、観客席からどよめきが起こる。
「・・・いい光景だな」
 しゃがみ込んで二人の股間を見つめるレフェリーが、生唾を飲み込む。操も久遠も、今日の下着は純白だった。
「そのまま動くなよ」
 レフェリーは二人の股間へと手を伸ばし、秘部を触る。
「ひっ!」「くっ!」
 そのおぞましい感触に、操と久遠の体がびくりと跳ねる。しかし逃げ出しはせず、レフェリーのセクハラをじっと耐える。
「いい感触だ・・・いやいやそうじゃなくて、ここはしっかりと調べないとな。しかしいい感触だ・・・」
 レフェリーは女性の一番大事な部分を撫で回し、柔らかな感触を味わう。操と久遠は羞恥と屈辱に顔を赤らめ、その表情に対戦相手の男二人は欲情を刺激され続けた。

「よーし、なにも隠してないみたいだな」
 操と久遠にとっては永遠にも近いほどの長い時間が過ぎ、漸くレフェリーが二人から離れる。
「それでは、ゴング!」

<カーン!>

(こんな、こんな許しがたいセクハラを受けるなんて!)
 前回、前々回の比ではないセクハラに、操の怒りが沸騰する。
「えへへ、宜しくねみさおっぱい」
 先発は早矢仕と操だった。
「・・・うるさいっ!」
 散々ボディチェックで身体を弄られた屈辱が、操を突き動かしていた。早矢仕に対し、体ごとぶつかるようなラリアートを繰り出す。
「あいたっ!」
 これをまともに喰らい、早矢仕が倒れる。
(なにこの人・・・こんなに簡単に倒れて)
 操に呆れられるほど早矢仕の実力は低かった。
「お前は・・・相変わらずヘタレだな」
 レフェリーも低い声で呟く。
「ひどいっすよレフェリー。今のはちょっと油断しただけ! これから反撃がはっ!?」
 立ち上がった早矢仕に、再び操のラリアートが当たる。腕を振り抜いた拍子にバストが大きく揺れ、観客の視線が集中する。
(行ける、今日の私は行けるわ!)
 リングに倒れこんだ早矢仕を見て、操が拳を握る。普段は攻められるばかりの自分が攻めている快感に、操はうっとりとしていた。
「いてて・・・チャンス、みさおっぱいのおパンツはいけーん!」
 握り拳でにやけていた操を見て、早矢仕がチャイナドレスの前垂れを捲る。
「ちょっと、なにしてるのよっ!」
 下着が全開になるくらいに捲られ、慌てて前垂れを押さえる。この隙に早矢仕は素早く自陣コーナーへと逃れた。
「すいません虎路ノ山さん、ちょっと交代してください」
「まったく、ここまでヘタレだとは思わんかったぞ!」
 元力士の虎路ノ山が呆れながらリングインする。
(・・・!)
 間近で見ると、虎路ノ山の肉体そのものに迫力があった。操よりも頭二つほど高く、横幅は倍以上ある。
「むふぅ、こんなでかい乳は見たことがないわ。さぞかし揉み甲斐がありそうだわい!」
 虎路ノ山は操のバストを繁々と眺め、唇を舌で湿らす。
(この人も私の胸を・・・全く、男の人ってこれだから!)
 怒りを込め、虎路ノ山の胸を空手チョップで叩く。

(ぽいん)

「ん? 何かしたか?」
 操の空手チョップは、虎路ノ山の脂肪に跳ね返された。
「えいっ! このっ!」

(ぽいん ぽいん)

 諦めずに再び空手チョップを繰り出すが、まるでダメージが通らない。
「そんな攻撃があるか! 打撃というのは、こういうのを言うんじゃぁ!」
 虎路ノ山の頭部への張り手一発で操が吹っ飛ぶ。リングに肩から落ち、体をびくつかせる。
「あ・・・が・・・」
 軽い脳震盪を起こし、すぐには立ち上がれない。
「む? もうおねんねか? それなら、気付けをせねばのぉ!」
 虎路ノ山は操の側にしゃがみ込み、特盛りのバストに手を伸ばす。
「むっふぅ! このでかさにこの弾力! これは堪らんわ!」
 虎路ノ山は操のバストを掴み、思い切り揉みしだく。虎路ノ山の力が強く、チャイナドレスの布地ごと歪まされる。
「い、痛い! そんなに強く握らないで!」
 バストを強く揉まれる痛みに操の意識が戻る。虎路ノ山の手首を握ってバストから引き剥がそうとするが、力ではまるで敵わない。虎路ノ山は操の儚い抵抗など気にも留めず、特盛りバストを揉み続ける。
「こんなおっぱいは反則じゃぁ! とことんまでお仕置きしてやるごっ!?」
 いきなり虎路ノ山の頭部が揺らぐ。リングに飛び込んできた久遠の飛び蹴りだった。
「ったく、どいつもこいつもエロいことばっかりしやがって!」
 更に左ミドルキックで虎路ノ山の顔面を蹴り飛ばし、久遠が吐き捨てる。
「ほら、今のうちだ。交替しようぜ」
「・・・ええ」
 自力で苦境から脱出できなかった悔しさはあったが、操は久遠と交替し、コーナーに下がる。
「ぬっぐぅ・・・人の顔を蹴飛ばすとは、中々やってくれるのぉ」
「へぇ、タフだな」
 手加減抜きの攻撃にも立ち上がってきた虎路ノ山に、久遠は素直に感心していた。
「相撲取りを舐めると、痛い目に遭うぞっ!」
 一発四股を踏んだ虎路ノ山が握った両拳をリングに軽くつけ、立会いの構えを取る。
「はっけよぉい・・・のこったぁ!」
 そのまま巨漢に似合わぬスピードで突進する。
「せぇいっ!」
 その虎路ノ山の顔面を、久遠のカウンターのストレートが捕らえる。
「なんのこれしきぃっ!」
 しかし、虎路ノ山の耐久力は並みではなかった。鼻血を吹き出しながらも突進は止まらず、体当たりから久遠の胴を抱え込む。
「ぐぁぁっ!」
「どうだ? これがサバ折りよぉっ!」
 虎路ノ山が久遠の胴を激しく絞めつけ、久遠の口から苦鳴が零れる。
「えへへ、久遠ちゃんが動けない今がちゃーんす!」
 コーナーから出た早矢仕が久遠の後ろ側に回り、後ろ垂れを捲る。
「久遠ちゃんも純白パンティーなんだね。実は清純派だったりする?」
「てめ、ぇ、ふざけろ・・・ぐあぅ!」
「見てるだけってのは勿体無いよね。それじゃ、たーっち!」
 早矢仕は久遠のヒップに触り、撫で回す。
「ぐふふ、おっぱいの感触が堪らんわい。服の上でも充分柔らかいぞ!」
 虎路ノ山は自分の胸と久遠のバストが密着するように位置取りし、その感触を楽しむ。

「ちょっとレフェリー、あれって二人掛かりじゃない! 反則を取って!」
 コーナーから操が叫ぶが、レフェリーは取り合おうとしない。
「あれはツープラトンってやつだ。反則にはならんだろ」
「あれだけずっと出ずっぱりのツープラトンなんかないわよ!」
「うるさい、レフェリーに指図するな!」
 コーナー付近で、操とレフェリーはロープ越しにぎゃあぎゃあとやりあっていた。

「久遠ちゃんのお尻、引き締まってるけどボリュームもあって、触り心地満点!」
「そうか、おっぱいの感触も満点だぞ」
 男二人は久遠の体を責めながらにやける。
「いいかげんに・・・しろよっ!」
 胴を締め上げられる苦しさに耐え、久遠が掌底で虎路ノ山の耳の穴を叩く。
「ごぁぁぁっ!」
 鼓膜まで響く衝撃に、虎路ノ山が両耳を押さえてもがき苦しむ。
「あ、やべ」
 早矢仕はすぐに危険を悟り、さっと自軍のコーナーへと帰る。
「ちっ、逃げ足だけは速いな」
 久遠は一つ舌打ちすると、脇腹を押さえて操の元に戻る。
「・・・ちょっとやられ過ぎた。頼む」
「ええ、任せなさい!」
 操がリングに飛び出したところで、虎路ノ山と交替した早矢仕もリングに出てくる。
(この男になら、負けないんだから!)
「えいっ!」
「あぐぇっ!」
 操のバックハンドブローが、早矢仕の顔面を捉える。試合では常にやられ役と言ってもいい操だったが、何度も技を食らうことにより、過去に受けた技を徐々に自分のものにしつつあった。
「もう一回!」
「ひぇっ!」
 強引に放った一撃は空を切った。大きく振られた右腕に追随するように、衣装の下のバストも大きく揺れる。その激しい動きに、チャイナドレスの布地が不平を洩らす。その不平は、思いも寄らない形を取って表れた。

(ビィィィッ)

「え・・・きゃぁぁぁっ!」
 胸元に開けられた穴の縁が裂け、ブラに包まれた規格外の巨乳が突き出る。
「おおっ! なんだそれは!」
「それはこっちの科白よ! なんでこんな簡単に破れるような衣装を用意したのよ!」
 胸元を隠しながら、操がレフェリーに向かって叫ぶ。
「操ちゃん、レフェリーに文句言ったらいけないよ」
 いつのまにか早矢仕が操の背後に回り、ブラの上から特盛りバストを掴む。
「ちょっと、どこ触ってるの!」
「どこって、操ちゃんのおっぱい」
「そういう意味じゃなくて! って、なんでレフェリーまで触ってくるのよ!」
 早矢仕だけでなくレフェリーにまでバストを揉まれ、操が身を捩る。
「気にするな、ボディチェックの続きだ」
「あれだけ散々触っておいて、続きも何もないでしょう!? 触らないでっ!」
 しかし両腕を男達に抱え込まれ、逃れることができない。
「うわー、ブラの上からだと感触がよくわかりますよレフェリー!」
「ああ確かにな。だが、なに食ったらここまで育つんだろうな」
「・・・触らないでって、言ってるでしょうっ!」
 操は早矢仕の頭を肩越しに抱えて軽くジャンプし、自分の肩にぶつける。
「はぶっ!」
 油断しきっていた早矢仕はまともに食らい、リングに倒れて痛みに転げ回る。しかしただ転がるだけでなく、自軍のコーナーまで転がっていく。
「こ、虎路ノ山さん、あとは頼みます・・・」
「全く、本当にお前と言う奴は」
 ようやく鼻血が止まった虎路ノ山が、早矢仕のタッチにコーナーを出る。その間に操は無理やりバストをチャイナドレスに押し込め、ファイティングポーズを取る。
「ぬふぅ、隠そうとして隠しきれとらんぞ」
「う、うるさいわよ!」
 虎路ノ山の指摘どおり、裂けてしまった布地は操のバストを全ては隠してくれなかった。辛うじてバストの下半分だけを覆い、胸の谷間の殆どと純白のブラの半ばまで見えてしまっている。
(恥ずかしいけど、今は試合中。気にしてたら勝てないわ)
 無意識に胸元を隠そうとする両手を制し、虎路ノ山に向かい合う。
(巨漢の弱点は膝、だったわね)
 闘いのセオリーを思い出し、操の表情が引き締まる。
「どぉれ、またそのでかいおっぱいを放り出してくれよう」
「お断りよっ!」
 操の低空のドロップキックが、虎路ノ山の右膝を抉る。
「ぐぁっ!」
 操のバストに伸びようとしていた虎路ノ山の手は、痛みから自分の右膝に当てられる。
「チャンスだ!」
 その言葉と共に、久遠がコーナーから飛び出してくる。
「待て、今試合の権利を持っているのは・・・」
「ツープラトンの間はリングに出ても構わない、ですよね?」
 先程のお返しとばかりの操の科白に、レフェリーが悔しげな表情で黙り込む。
「よし、行くぜっ!」
 久遠の合図で虎路ノ山の腕と頭を持ち、二人で虎路ノ山を抱え上げる。
(んんっ、お、重い・・・!)
 並みの女性選手でも持ち上げるのに苦労する操にとって、虎路ノ山のような巨漢を持ち上げるのは二人掛かりでもきつかった。
(でも、ここで決めるっ!)
 卑猥な衣装、観客からの厭らしい野次、ボディチェックと試合中にしつこくセクハラされた屈辱が操に力を与えた。
「「せぇぇぇいっ!」」
 久遠と共に頭上高く掲げた虎路ノ山の巨体を、垂直落下式のブレーンバスターで脳天からリングに突き刺す。
「なにやってんですか虎路ノ山さん!」
 慌てて救出に出ようとした早矢仕だったが、久遠の顔面への喧嘩キックでリング下までもんどり落ちる。
「レフェリー、カウント!」
 その間に操が虎路ノ山をフォールし、レフェリーを呼び込む。
「ちっ・・・ワーン・・・ツーゥ・・・」
 レフェリーも渋々スローテンポでのカウントを進めるが、自分の体重が脳天に掛かった虎路ノ山がフォールを返す様子はなかった。
「・・・スリー!」

<カンカンカン!>

 操たちの勝利を告げるゴングが鳴らされる。
「勝った・・・」
「ああ、勝った。これでダチの入院費も払えるよ。サンキュ」
 操は久遠の差し出した右手を掴み、立ち上がった。そのときには、もうリング上にレフェリーの姿はなかった。
「ったく、逃げ足が速いな」
 舌打ちした久遠の表情に、操は吹き出していた。久遠の年相応の反応が可愛らしかった。
「それよりあんた、胸出てるぜ」
「え・・・きゃっ!」
 久遠の指摘どおり、折角隠したバストが再び裂け目から飛び出していた。それだけでなく、激しく動いたためかブラもずれ、乳首まで顔を覗かせている。慌てて胸元を両手で隠した操に、観客から冷やかしの声が飛ばされた。


 <地下闘艶場>での闘いから数週間が経ち、操の元にあるものが届いた。寮の管理人からB5サイズの封筒を受け取り、自室に戻る。
「これは・・・CD?」
 中にはケースに入れられたCD−Rと手紙が一枚入っていた。差出人はと見ると、「天現寺久遠」とぶっきらぼうに書かれていた。

『この前はサンキューな
 あんたがエロレフェリーどものセクハラ我慢してくれたお蔭で
 ダチの手術代と入院費を払うことができた
 お礼と言っちゃなんだけど、あんたの応援ソングを作ってみた
 気に入ってくれるかわかんないけど、一度聴いてみてくれ
 それじゃまた』

「応援ソング、か」
 嬉しさと気恥ずかしさを半分ずつ抱え、操はCD−Rをプレイヤーにセットした。激しくかき鳴らされたアコースティックギターの前奏の後、久遠の迫力ある低音の歌声が響く。

『今日も闘いの時が来た 絶対諦めない君の
 身体が痛い? 相手が強い?
 そんなの言い訳にはしない
 どんなときでも ぶつかるだけだ!』

「へぇ・・・」
 所詮素人だろうと思っていたが、かなり上手い。アイドル歌手など問題にならないほどだ。
(歌詞の方は、まだ練り込みが足りない気がするけど)
 そんな感想を持ちながらも、久遠の声と演奏に惹き込まれていた。

『Fight! どんなにやられても
 Fight! どんだけ倒されても
 きっと立ち上がる
 だって それが君だから
 諦めを知らない 君だから』

 およそ三分ほどの短く激しい演奏が終わり、CD−Rも止まった。
(今度の入場、これでしてみようかな)
 もう一度再生ボタンを押しながら、操はこの曲に合わせて入場する自分を思い浮かべた。
 自然と、聴いたばかりの歌を口ずさんでいた。


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