【特別試合 其の十五 アリス・ギーエン:ボクシング】

 犠牲者の名は「アリス・ギーエン」。22歳。身長181cm、B90・W69・H93。癖のある金髪と漆黒の肌を持ち、左肩には渦を巻く炎のような刺青がある。切れ長の目は闘いともなると鋭い光を放つ。
 天王寺操と同じ団体に所属するプロレスラーだが、アメリカボクシングの元チャンピオンという異色の経歴の持ち主。その経歴に恥じぬほど肉体を鍛え上げており、特に肩回りの筋肉が盛り上がり、腹筋は八つに割れている。
 この女傑に、<地下闘艶場>からの招待状が届いた。
「男と試合? それも面白そうだね」
 操の制止も聞き流し、アリスは<地下闘艶場>への参戦を決めた。


 ビキニ水着の上下にアーミーパンツを重ね、足元には軍用ブーツ。ガウンも纏わず入場してきたアリスに、会場は静まり返った。アメリカボクシングの王座を自らの意志で放り投げたその経歴は、アリスの輝きを増しこそすれ決して傷とはなっていない。そのオーラは王者の風格を保ったまま、会場を圧していた。
 アリスがリングに上がり、オープンフィンガーグローブを嵌めた右手を高々と掲げたとき、ようやく呪縛が解けた。観客は怒声にも似た歓声をアリスにぶつけ、アリスも悠々とそれを受けた。
 リングに待っていたのは、三人の男だった。一人はおそらくレフェリーであろう蝶ネクタイと縦縞の半袖シャツを着た男で、残る二人は同じ覆面、同じレスリングタイツを身に着けた同じ体格の男だった。

「赤コーナー、マンハッタンブラザーズ1号!」
 コールに応えたのはアリスから見て左側の男だった。例えこちらが2号だとしても、アリスにはわからなかっただろう。
「青コーナー、『闘拳暴帝』、アリス・ギーエン!」
 アリスの名前がコールされると、またも歓声が起こる。しかし先程の賞賛の歓声とは違い、卑猥なものが含まれた下衆なものだった。
(これが操の言ってた<地下闘艶場>、か。ま、強い奴と闘えるなら我慢するさ)
 アリスはオープンフィンガーグローブをぶつけ、闘志を漲らせた。

 マンハッタンブラザーズ1号のボディチェックを終えたレフェリーが、身体をじろじろと見ながら近寄ってくる。
「結構タッパがあるんだな。しかし、こっちも結構大き・・・」
 いきなりバストに伸びたレフェリーの手首を、アリスの両手ががっちりと捕らえていた。
「おいおい、ボディチェックと言いつつどこ触ろうとしてるんだい。その厭らしい表情浮かべた顔の鼻、ぺちゃんこにしてあげようか?」
 アリスは笑顔を浮かべていたが、笑っていない眼はレフェリーに恐怖を与えた。
「ボ、ボディチェックはボディチェックだ! 触って何が悪・・・いでででっ!」
 アリスの鍛えた握力で締め上げられたレフェリーの手首が、耐え難い痛みを発してくる。それをなんとか振り解き、レフェリーはアリスを睨みつける。
「ボ、ボティチェックを受けないなら、マンハッタンブラザーズを二人とも相手してもらうぞ!」
「あー、それくらいいいよ。じゃ、始めようか」
 オープンフィンガーグローブを嵌めた拳を打ち付けるアリスに、怒気を浮かべたレフェリーは即座にゴングを要請した。

<カーン!>

 ゴングが鳴り、マンハッタンブラザーズの二人がじりじりと距離を詰めてくる。
「へぇ、思ったよりいい動きだね」
 マンハッタンブラザーズの動きは連動した見事なものだった。双子ならではのコンビネーションなのか、パートナーを見もせずにアリスに迫る。
「でも、それだけだっ!」
 アリスの左拳が閃いたかと見えた瞬間、マンハッタンブラザーズの二人は顔面の真ん中を打ち抜かれていた。動きを止めたマンハッタンブラザーズの二人に、アリスの右ストレートと左ストレートがほぼ同時に炸裂する。滝のような鼻血と共にリングに倒れ、うつ伏せで痙攣するマンハッタンブラザーズを見たレフェリーが慌てて試合を止める。

<カンカンカン!>

「なんだ、こんなもの?」
 試合終了のゴングを聞き、アリスが肩を竦める。
「こ、これだけじゃ客が満足しない! もう一試合してくれ!」
 レフェリーの必死な形相に、アリスも軽く顎を摘む。
「そうだね・・・確かに、折角観に来てくれたお客に悪いね」
 何より自分が楽しめていない。
「それじゃ、もう一試合やろうか」
 アリスの宣言に、観客席も沸いた。

 リングに上がった男性選手を見て、レフェリーが冷たい声を出す。
「・・・なんでお前なんだよ」
「酷いっすよレフェリー! いきなり第一声がそれっすか!」
 レフェリーの言葉に、新しい男性選手が大袈裟に驚いてみせる。
 その男を見たアリスも、頭に「?」マークを浮かべていた。
(・・・こいつ、まったく強そうに見えないんだけど)
 てっきり先程の二人よりも強い選手が出てくると思ったのに、アリスのセンサーにまるで引っ掛からない。しかしアリスの当惑を余所に、改めてリングコールが始まった。
「赤コーナー、『ヘタレキング』、早矢仕杜丸!」
 早矢仕のコールに、観客席からブーイングが飛ぶ。おそらく早矢仕を良く知る観客が多いのだろう。
「青コーナー、『闘拳暴帝』、アリス・ギーエン!」
 名前がコールされたというのに、アリスはまだ首を捻っていた。
(もしかしてこいつ、自分の実力を隠せるほどの奴か?)
 それらしい理由を見つけ、無理に心を納得させる。

<カーン!>

「それじゃ、挨拶代わりっ!」
 アリスの放ったフリッカージャブは早矢仕の顎を捉え、一発でリングに這い蹲らせた。前のめりに倒れた早矢仕の尻は高々と上がり、顔は右を向いていた。その目は裏返り、これ以上の闘いはできそうになかった。

<カンカンカン!>

 当然試合終了のゴングが鳴った。アリスはぽかんとし、レフェリーは呆れ、観客席からは怒号が上がった。
「・・・あれで、終わり?」
「・・・ああ」
 納得できないのはアリスもレフェリーも一緒だった。
「ストレス溜まるね」
「そ、それならもう一試合! もう一試合やってくれ!」
 アリスの呟きを聞き逃さず、レフェリーはアリスに追加試合を懇願する。
「さすがにさっきのじゃあねぇ。わかった、やるよ」
 アリスが頷いたことで、観客にも追加試合があると伝わったようだ。「今度こそ」。アリス以外は別の目的で追加試合を望んでいた。

 花道を走ってくる姿が見える。覆面を着けた男は階段を駆け上がり、トップロープも軽々と飛び越えた。その身体能力に、ようやくアリスの表情が明るくなった。

「赤コーナー、『神秘の獅子』、ミステリオ・レオパルド!」
 ミステリオ・レオパルドが両手を上げると、観客席から大きな声援が飛ぶ。マンハッタンブラザーズ、早矢仕という不甲斐ない男達とは違う、実力者に対する期待だった。
「青コーナー、『闘拳暴帝』、アリス・ギーエン!」
 今日三試合目とはいえ、アリスは少しも消耗していなかった。最初の二試合は、逆にいいウォーミングアップになったかもしれない。
(今度こそ少しはできそうだね)
 アリスはデトロイトスタイルに構え、静かにゴングを待った。

<カーン!>

「でかい姉ちゃんだな。その分他のとこもでかいけどな」
 ステップを踏むたび揺れるバストを見つめ、ミステリオ・レオパルドがにやつく。
「ったく、ここの奴らはそればっかりかい?」
 呆れたように返したアリスの左拳が、フリッカージャブとなってミステリオ・レオパルドに襲い掛かる。
「おおっとぉ!?」
 ぎりぎりではあったが、ミステリオ・レオパルドはアリスのフリッカージャブをかわして見せた。テスト代わりの一撃をかわしたことで、アリスの口に笑みが浮かぶ。
「へぇ、中々やるね。それじゃ、ギアを上げるよっ!」
 アリスのフリッカージャブが、更に速度を増してミステリオ・レオパルドを襲う。
「ぬっぐ!」
 見えないものはかわしようがない。ミステリオ・レオパルドは頭部をガードし、腹筋に力を込める。
「シィィィッ!」
 ミステリオ・レオパルドのガードなどお構いなしに、アリスは連弾を叩きつける。ガードしていたミステリオ・レオパルドの腕が赤く腫れていき、腹筋にも拳の跡が刻まれていく。
 腕と腹部の痛みに耐えていたミステリオ・レオパルドだったが、アリスの連打は止むことがなかった。
(ま、まだ続くのかよ・・・っ!)
 心が折れそうになった次の瞬間、ミステリオ・レオパルドの体が浮いた。否、アリスの腹部へのアッパーで浮かされた。
「うっ・・・げぇぇっ!」
 内臓が飛び出しそうな衝撃に、ミステリオ・レオパルドは思わず腹部を押さえていた。
「フシッ!」
 がらあきになった頭部にアリスのチョッピングライトが突き刺さり、ミステリオ・レオパルドはコーナーポストまで回転しながら吹っ飛んだ。
「とどめ、行くよっ!」
 ミステリオ・レオパルドに駆け寄ったアリスが、いきなり転んだ。
「いったぁ・・・誰だ!?」
 突然のことに、アリスは半端な受身しか取れなかった。怒りの衝動のままリング下を睨みつける。そこには、失神から目覚めたマンハッタンブラザーズがいた。アリスの足を引っ張っただけでなく、当然のような顔をしてリングに上がってくる。
「おいレフェリー! こいつらはさっきぶっ倒しただろ!?」
「いいじゃないか、面白い闘いになりそうだろ?」
 アリスの抗議にも取り合わず、レフェリーはにやついている。
「いってってぇ・・・半端ねぇな、アリスちゃんよ」
 その間にミステリオ・レオパルドも立ち上がり、アリスは三人のマスクマンに包囲されてしまう。
「三対一か・・・もう一度ぶっ倒して・・・!?」
「隙ありぃ!」
 いきなり背後から羽交い絞めにされる。しかしアリスは反射的に投げを打っていた。
「おわぁっ!?」
 情けない声を上げてリングに叩きつけられたのは、こちらも失神から覚めた早矢仕だった。情けないやられ方だったが、早矢仕はアリスの隙を作ることに成功した。
 アリスが投げを打った瞬間、マンハッタンブラザーズの二人が同時に動いていた。一人がアリスの脚一本ずつにカニばさみを仕掛ける。アリスは仰向けでダウンを奪われ、そこにミステリオ・レオパルドのセントーンが炸裂する。
「がはっ!」
 大の大人が勢いをつけて落下してきては、さすがのアリスも苦鳴を放った。反射的にお腹を押さえようとした手を、ミステリオ・レオパルドが頭上で押さえる。両脚もマンハッタンブラザーズに押さえられた。
「よし、そのまま押さえとけ。ボディチェックをするからな」
 ようやくアリスの動きを止めることができたと見たレフェリーがアリスのお腹にしゃがみ込み、バストを鷲掴みにする。
「まったく、散々抵抗してくれたな。その分たっぷりとボディチェックしてやるから、覚悟しておけ」
「・・・レフェリーの癖して、こんなセクハラボディチェックするのか」
 腹部の痛みを堪え、アリスが鋭い視線をレフェリーに突き刺す。
「触らなきゃボディチェックにならないだろうが。それとも、何か隠してるからそんなことを言うのか?」
 レフェリーはアリスの視線にも怯むことなくバストを揉み続ける。男三人に押さえられていては、幾らアリスといえども抵抗できないと考えての強気だった。
「あぅあぅあぅ・・・ボクサーって聞いてたのに、投げ技も半端ないよ・・・」
 先程まで呻いていた早矢仕が、うつ伏せの状態でぼやく。
「さっきは何してんだ、このヘタレ。不意打ちしといて力で負けそうになるかよ」
 背中を押さえて泣き言を言った早矢仕に、アリスのバストを揉んでいたレフェリーが冷たく突き放す。
「まあ、それはそれとして。俺にもアリスちゃんのおっぱい揉ませてください」
「駄目だ。お前、何もしてないじゃないか」
「そうだぞ、俺の代わりに腕押さえてろ」
 レフェリーとミステリオ・レオパルドが冷たく拒否し、マンハッタンブラザーズの二人が冷たい視線を投げても早矢仕はめげなかった。
「いいじゃないっすか! 俺も俺も!」
「あーうるせぇ! わかった、右側譲ってやるから」
「やりぃ!」
 レフェリーがアリスの右バストから手を放した途端、早矢仕が飛びつく。
(こいつら、人の胸を何だと思ってやがる!)
 沸き上がる怒りのままもがくアリスだったが、男三人の拘束は解けなかった。
「これがアリスちゃんのおっぱいかぁ。見た目よりもボインボインだね!」
 訳のわからないことを言いながら、早矢仕がアリスのバストを揉む。
「おおっ、筋肉娘なのにおっぱいは柔らかい! このギャップが中々!」
「触るなこの野郎! お前もだレフェリー!」
 アリスが幾らわめこうとも、レフェリーと早矢仕の手が止まることはなかった。
「でもレフェリー、水着の上からって、なんか勿体なくないっすか?」
 早矢仕の問いかけに、レフェリーも頷いた。
「そうだな。何もブラの上からだけ揉む必要はないなぁ」
 厭らしい笑みを浮かべたレフェリーが、アリスのブラに手を掛ける。
「なっ・・・やめろ!」
 アリスの抗議など聞き入れる筈もなく、レフェリーは紐を外し、ブラを剥ぎ取った。その途端、アリスの乳房が揺れながら開放される。
「お〜、揺れてる揺れてる。それじゃ乳揺れを楽しんだ後は、直揉みをいただきまーす!」
 アリスの揺れる乳房を観賞していた早矢仕は、揺れが収まる前に鷲掴みにしていた。
「やっぱ生の感触は違うなぁ。もうなんて言うか、サイコー!」
「おい早矢仕、代われ」
 楽しんでいる早矢仕に、ミステリオ・レオパルドが低い声で告げる。
「も、もうちょっとだけ・・・」
「いいかげんにしろヘタレ」
 レフェリーに頭を叩かれ、早矢仕の手がアリスの乳房から自分の手に向かう。
「あいたぁ・・・ひどいっすよレフェリー」
「うるさい、お前だけ楽しむな。そうだな・・・アリス選手のズボンを脱がせ」
 自分はアリスの乳房の感触を堪能しながら、レフェリーが指示を出す。
「なっ・・・!」
 まさかと思ったアリスの視線の先で、アーミーパンツのボタンが外され、膝まで下ろされる。
「うわぁ、これって後ろTバック? 色っぽいの穿いてるねアリスちゃん!」
 股間を覗き込んだ早矢仕が嬉しげな声を上げる。それどころか、手まで伸ばしてくる。
「待て、そこは・・・!」
「待てと言われても、やめられない止まらない!」
 早矢仕はアリスの言葉など気にも留めず、水着の上から撫で回してくる。
(こいつ、何してくれるんだ・・・!)
 乳房だけでなく、水着の上からではあるが秘部まで弄られる。しかも自分よりも遥かに実力の低い男に。耐え難い屈辱に、アリスの顔が赤くなる。
「あー! もう我慢できねぇ、俺にも触らせろ!」
 悶々としていたミステリオ・レオパルドがとうとうアリスの乳房に手を伸ばす。それに触発され、マンハッタンブラザーズの二人もアリスの肢体に手を這わす。
「お前らまで! くぅぅっ!」
 乳房を揉まれ、乳首を弾かれ、太ももを撫でられ、ヒップを掴まれ、秘部を弄られる。心躍る闘いを望んでリングに上がったアリスにとって、屈辱以外の何物でもなかった。
 それでも刺激を耐えてもがいていたアリスの耳に、信じられない早矢仕の言葉が飛び込む。
「ねぇレフェリー、折角だからTバックも脱がしちゃっていいでしょ?」
「そうだな・・・上も脱がしたんだ、下もいいだろ」
 それを認めるレフェリーの答えに、アリスの奥で何かが切れた。
「いいかげんに・・・しろやぁっ!」
 次の瞬間、まるで爆弾に吹っ飛ばされたかのように男達の体はリングのあちこちに転がっていた。ただ一人、アリスだけがリングに仁王立ちしていた。
「あんたら・・・人の胸は触る、ブラは脱がす、挙句の果ては大事なとこまで触るなんてね・・・お仕置きくらいじゃ済まないよ!」
 アリスの金髪が逆立ち、切れ長の目が怒りの炎を放つ。
「す、凄んだところで、こっちのほうが圧倒的に人数が多いんだ。お前ら、もう一度捕まえろ!」
 レフェリーの合図に、マンハッタンブラザーズが両サイドから、正面から早矢仕が、背後にはミステリオ・レオパルドが迫る。
 アリスの乳房が揺れた。それに気を取られる間もなく、マンハッタンブラザーズ1号、マンハッタンブラザーズ2号、早矢仕の三人がリングに這わされていた。
「・・・嘘ぉ」
 仲間三人が一瞬で戦闘不能にされた姿を見て、ミステリオ・レオパルドは口をあんぐりと開けていた。
「さて、あとはあんた一人だね」
 乳房を隠そうともせず、アリスがゆっくりと振り向く。
「た、ただじゃやられなばっ!」
 ミステリオ・レオパルドが構えを取るより速く、アリスの拳が顔面にめり込んでいた。後方に倒れ、ロープの反動で戻ってきたミステリオ・レオパルドの腹部で痛みが爆発した。
「お、ぐぇ・・・」
 アリスのボディブローに、ミステリオ・レオパルドの体がくの字に折れて動きが止まる。アリスは冷たい表情のままミステリオ・レオパルドをコーナーに投げつけ、ジャンピングニーパッドで顔面を抉る。
「・・・がはっ」
「まだだ、まだ終わらないよ」
 鼻血を流すミステリオ・レオパルドの体を抱え上げ、アリスはコーナーポストに登った。
「くたばりな!」
 ミステリオ・レオパルドをアルゼンチンバックブリーカーに捕らえたアリスが、コーナーポストを蹴った。男一人を担いで飛んだアリスが、耳を劈くほどの轟音を立てて着地する。背骨が折れたのではないか、と思わせるほどミステリオ・レオパルドの体がアリスの肩の上で弓なりになった。
「もう、いっ、ちょっ!」
 アリスは肩に担いだミステリオ・レオパルドの脳天を、垂直落下でリングに叩きつけた。リングに響いた鈍い音に、レフェリーは即座に試合を止めた。

<カンカンカン!>

「おい! 殺す気か!」
 危険な技を放ったアリスに詰め寄るレフェリーだったが、殺気混じりの視線に迎えられる。
「これで済んだと思うかい?」
 指を鳴らすアリスは、まるで灼熱のオーラを纏っているようだった。
「ま、待て、話せばわかるから・・・」
「RyyyyA!」
 最後まで言わせず、アリスの右ストレートがレフェリーに炸裂した。まるで背後に虹を背負ったかのような一撃に、吹っ飛んだレフェリーの体がコーナーポストに叩きつけられた。あまりの速度にレフェリーの死亡を考えた観客もいたが、リングにずり落ちたレフェリーの体は痙攣を繰り返していた。
 慌てて黒服と医療班がリングに上がる。レフェリーの様子を見た一人が生存を確認し、ほっと息を吐く。
 幾らアリスの怒りが大きくても、素人に本気の一撃を入れるほど愚かではなかった。とはいえ、危険な一撃であることには違いなかったが。
「こんな闘いなら、二度と御免だよ」
 アリスはそう吐き捨て、乳房を隠そうともせずに会場を後にした。


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