【特別試合 其の二十六 榊式壬:喧嘩殺法】  紹介者:JJJファン様

 犠牲者の名は「榊(さかき)式壬(しきみ)」。18歳。身長172cm。B93(Gカップ)・W63・H90。
 細い眉に切れ長の目。黒のロングヘア。前髪を左右に分け白い額を出している。特攻服に身を包んだ立ち姿には、誰にも支配されないプライドの高さが滲み出ている。
 名高いレディース暴走族の総長。鍛えた男すら退ける強さの持ち主。しかし弱いものいじめはせず面倒見がいいので、家や学校に居場所がない夜の町の少年少女には慕われている。荒摩(あらま)琉香(るか)もその一人で、以前チームに誘ったこともある。
 この琉香との繋がりが、<地下闘艶場>参戦の遠因となった。


(やっとこの日が来たか・・・)
 ガウンに身を包んだ式壬は、独り心に呟いた。

 式壬が率いるレディースチームと他チームとの抗争中、無関係の通行人に被害が出てしまった。深く憂慮した式壬は仲間が止めるのも聞かず、全ての責任を取って一人で警察に出頭した。式壬はその場で拘留され、暫く留置所で過ごすのを余儀なくされた。その間チームの仲間たちは、結託した他チームに襲われ次々と傷ついていく。
 そのことを式壬に教えたのは、初めて見る黒服の男だった。サングラスで視線を隠した男は留置所の式壬に向かい、ある場所で勝利すれば、怪我を負った通行人への手厚い援助と、式壬の仲間への攻撃を止めさせるとの条件を出す。式壬は自分のチームの抗争が原因で傷ついた人間と仲間のために承諾したが、自らも条件を出した。
「琉香とやった相手と戦わせろ」
 琉香からは<地下闘艶場>でのことを聴いている。服の弁償や慰謝料で手柄話にしていたが、雰囲気で何をされたかは察せられた。仲間を大事にする式壬は密かに怒りを燃やしていたのだ。琉香の仇討ちでもあり、未知のリングで闘うためには自らを奮い立たせる理由も必要だった。

「・・・よし、行くか」
 その一歩が淫虐へと続く道だと半ば知りながらも、式壬は花道へと踏み出した。

 スポットライトの当たる花道に式壬が姿を現すと、その美貌に観客席が沸く。様々な卑猥な野次や口笛が飛ぶ中を、式壬はただリングを見据えて進んでいく。
「お、ホントに出てきたぜ」
「今日は楽しませてもらうぜ榊ぃ!」
 最前列で口々に叫ぶのは、敵対チームの男総長たちや、以前彼女に叩きのめされたワルどもだった。彼らの口から出るのは負の言葉や感情のみだったが、式壬はまるで表情も変えず、普段と同じ足取りでリングへと上がった。

「赤コーナー、『ザ・ニンジャ』、小四郎!」
(こいつが、琉香を・・・)
 式壬は視線の先に居る小四郎(こしろう)に、激しい怒りを掻き立てられる。小四郎こそが琉香を嬲った対戦相手であり、式壬が対戦を要望した男性選手だった。忍者装束の小四郎は、式壬の激しい視線に気づいているのかいないのか、腕組みをしたままだ。
「青コーナー、『トップオブレディース』、榊式壬!」
 式壬の名前がコールされ、言われたとおりにガウンを脱ぎ去る。その下にあったのは、白を基調とし、水色のラインが入った清楚なテニスルックだった。式壬のプロフィールとは裏腹に、まるで良家のお嬢様にも見える。両手で鈍く光るオープンフィンガーグローブだけが、式壬の攻撃性を現していた。

 小四郎のボディチェックを終えたレフェリーは、間近で見る式壬の美貌に目を見張る。
「こいつは見違えたな。写真よりもまだ綺麗になってるじゃないか」
 レフェリーが驚くのも無理はないだろう。
 式壬は試合の一週間前から「御前」傘下のとある施設に移され、高級薬膳料理と、美貌を磨き上げるエステを受けさせられていた。その間チームの被害はゼロであり、それが安堵にもなったが、「御前」の持つ底知れぬ影響力に危惧も覚えたものだ。
「中身はレディースのトップのくせに、お嬢様みたいな外見か。ギャップが凄まじいな」
 レフェリーの感想に、鋭い視線を返す。式壬にできるのはそれくらいだった。
「これからボディチェックを受けて貰うが、俺への攻撃は一切認めない。もし一撃でも入れようものなら・・・わかってるな?」
「・・・ああ」
 ボディチェックと言いつつ、セクハラ目当てなのは明らかだ。それでも式壬は拒めない。仲間たちの無事が掛かっているのだ、受け入れるしかない。
「素直じゃないか、ええ?」
 レフェリーは式壬の顎を掴み、顔をじっくりと眺める。
「どこまで平気な顔で居られるか、楽しみだぜ」
 レフェリーは式壬の顎から手を離すと、剥き出しの腕を撫でていく。
「さすが『御前』、この肌の滑らかさはくせになりそうだ」
 一週間薬膳料理とエステで内外から磨き上げられた肌は、しっとりとした潤いと絹のような滑らかさを備えていた。レフェリーの手は一しきり式壬の腕を撫でた後、太ももへと移動する。
「おおっ、いい感触だ。肌の滑らかさだけじゃなく、適度な脂肪と筋肉の対比が素晴らしい」
 中年男性特有のねちっこい触り方に、式壬の眉が不快感で寄る。
「褒めてるんだ、少しは嬉しそうにしたらどうだ?」
「・・・ふん」
 レフェリーの戯言に鼻を鳴らすことで答え、そっぽを向く。
「まあいい。それじゃ、ここを調べるとするか」
 レフェリーの手が、今度は盛り上がったテニスルックの胸元を掴む。
「さすが総長、おっぱいも大きいじゃないか。チームでも一番なんだろう?」
 両手で遠慮なしに揉み込みながら、レフェリーがにやける。
(この下衆野郎が!)
 歯を食いしばり、目の前の男をぶん殴りたいという欲求を抑え込む。
「いいザマだな榊ぃ!」
「おっぱい揉まれて気持ちいいんじゃねぇのか? ああ?」
 最前席の男達が口汚い野次を飛ばす。
「反論してもいいんだぞ? それとも、あいつらが言うとおり気持ちいいのか?」
 式壬のバストを遠慮の欠片もなしに捏ねながら、レフェリーがにやける。式壬が答えないと、レフェリーは左手をバストから離し、下へと下ろしていく。
「こっちはどうなんだ? 少しは感じるのか?」
 アンダースコートの上からとは言え、秘部を弄られる。屈辱以外の何ものでもなかったが、仲間のためだとひたすら耐える。
「手を出すのは駄目だが、声を出すのは構わないからな」
 アンダースコート越しに秘裂をなぞりながら、レフェリーが耳元で囁く。式壬は鋭い視線を突き刺すが、レフェリーは肩を竦めると、バストを捏ね、秘部を撫で回す。もし仲間を守るためという枷がなければ、目の前のレフェリーなど一秒で戦闘不能にできる。それでも式壬には耐えることしかできない。卑猥な言葉を飛ばされても、胸を揉まれても、股間を触られても、反撃はできないのだ。
 精神力で攻撃衝動を抑え込む式壬から、ようやくレフェリーが離れる。
「一応何も隠してないようだな」
「・・・当たり前だろうが」
 凶器を隠し持って闘うなど、式壬のプライドが許さない。それに、もし凶器を隠していたとすれば、どんなペナルティを課されるかわかったものではない。
「そう恐い顔をするな、ゴング!」

<カーン!>

 ようやくゴングが鳴らされた。長時間のセクハラボディチェックを受けた式壬の眼は血走っていた。
「テメェは、絶対に許さねぇ。今の鬱憤も全部ぶつけるから覚悟しろよ」
 小四郎を睨む視線も凄まじい。
「逆恨みも甚だしいな。これだから不良娘は困る」
 肩を竦めた小四郎だったが、油断していたわけではない。それなのに、式壬の右ストレートをまともに食らっていた。ロープまで吹っ飛び、反動で跳ね返る。
「オラァッ!」
 式壬のボディブローが小四郎の体をくの字にし、アッパーの追撃がとどめとなる。
 倒れ込んだ小四郎に、式壬は尚も追撃を加えようとする。

<カンカンカン!>

 それを見たレフェリーが素早く試合を止めた。
「おい、やめろ。さっさと次の試合の準備をしろ」
「ハア? これで終わりだろ」
 憎い相手を叩きのめし、勝負は着いた。それはレフェリーも自分の目で見ていた筈だ。
「何を言ってるんだ? お前が闘いたい相手が居るって言うから、わざわざ試合を組んだんじゃないか。本番はこれからだよ」
 レフェリーの言い草に、式壬は思わず絶句した。仮にも暴力を日常とし、多少なりとも裏の社会にも通じた式壬は、ずるく、汚い人間を幾人も見てきた。しかし、最初から二重三重の卑劣な罠を張るような相手は初めてだった。
「ここで帰ってもいいが、仲間はどうなるんだろうな?」
 レフェリーの科白をハッタリだとは切り捨てられない。式壬にできるのは、新たな対戦を受け入れることだけだった。

(なんだ、あのドデブは)
 花道に姿を現したのは、規格外の太り方をした男だった。式壬が少し心配になるほど脂肪が全身につき、頬までも弛んでいる。その脂肪が歩くだけで派手に揺れ、観客の低俗な笑いを誘う。
 ようやくリングに辿り着いた男は、既に顔中汗だらけだった。

「赤コーナー、『ミスターメタボ』、グレッグ"ジャンク"カッパー!」
 コールを受けたグレッグは、面倒臭そうに右手を上げる。
「青コーナー、『トップオブレディース』、榊式壬!」
 二度目のコールにも応じず、式壬はレフェリーを睨んだままだ。そのレフェリーはグレッグのボディチェックを簡単に終えると、式壬の前に歩いてくる。
「それじゃ、ボディチェックをするぞ。動くなよ」
「ふざけんじゃないよ! さっきもアタシの身体を弄繰り回しただろうが!」
 予想外の命令に、式壬が声を荒げる。
「レフェリーである俺がすると言った以上、受けるのが当然だ。それとも、また仲間に怪我人が出てもいいのか? 今度は怪我くらいじゃ済まないかもしれないぞ」
「・・・テメェ」
 仲間を人質に取られているも同様の式壬が、ボディチェックを拒める筈もない。
「わかったようだな。なら、ボディチェックを始めるぞ」
 式壬の背後に回ったレフェリーは、脇の下から手を回し、両手でバストを鷲掴みにしてくる。
「お前みたいな生意気な女を好き勝手にするのは、本当に堪らないな」
「・・・下衆が」
 それでも仲間を守るために、この下衆に身を任せるしかない。犯されるよりはマシだとは言え、屈辱が身を焦がす。
「レフェリーにそんな言葉遣いをするもんじゃないぞ」
 レフェリーは腰を式壬のヒップに密着させ、ゆっくりと擦りつけながらバストを揉み込んでくる。
「まったく、黙ってれば美人だってのに勿体ない。少しは淑やかさってやつを身に付けたらどうだ?」
「余計なお世話だ」
「お節介なもんでな」
 レフェリーは左手を下ろし、秘部を弄り始める。右手はバストから離さない。
「ちょっとだけ、あいつらにもサービスしてやるか」
 レフェリーは式壬のスカートの裾を持ち、大きく持ち上げる。途端に指笛が鳴らされる。
(こいつは・・・こいつらは・・・!)
 アンダースコートだとはいえ、この行為は式壬の羞恥を煽る。頬が赤みを帯びてしまう。
「安心しろ、脱がしたりはしないからな」
 左手で太ももを撫で回しながら、レフェリーが耳元で囁く。
「何も言わないってことは、脱がして欲しいのか?」
「・・・そんなわけあるか」
「そうか、それなら服の上からボディチェックを続けなきゃな」
 レフェリーの両手が再びバストへと移動し、捏ね回してくる。
「・・・いつまでそうやってるつもりだよ」
「いつまで? 俺が飽きるまでだよ」
 右手で式壬の頬を撫でてから、レフェリーは再びバストを揉み始める。
(こいつ・・・! どこまでアタシの身体をいたぶるつもりだ!)
 歯噛みする式壬の心中など気にも留めず、レフェリーはGカップのバストを揉み続ける。時折持ち上げるようにして弾ませ、再び揉みしだく。
「おっぱいはいい感触だが、こっちはどうだ?」
 バストから手を離したレフェリーはスカートの下に手を滑り込ませ、ヒップを鷲掴みにする。
「尻も女らしいのになぁ。どこをどう間違えてレディースになんかなったのやら」
「うるせぇ! テメェには関係ねぇ!」
「おお恐い恐い」
 尻肉を揉み回しながらレフェリーがおどける。それがまた式壬の怒りを煽るが、レフェリーへの手出しはできない。もし手出しすれば、それは仲間を破滅させることに繋がるのだ。
 音が出そうなほどきつく拳を握り締める式壬から、ようやくレフェリーが離れた。気を抜きかけた式壬の前に、唇を歪めたレフェリーが立った。
「よし、次で最後だ。足を広めに開いて、スカートを捲れ」
「なっ・・・!」
 レフェリーのあまりの言葉に、式壬は絶句してしまった。
「どうした? 聞こえなかったのか? それとも、俺の言うことが聞けないのか?」
 レフェリーが伸ばした人差し指で、式壬のバストをつついてくる。荒っぽくその指を払った式壬は、唇をきつく噛み締めたまま、スカートを捲る。頬を染めた式壬に、会場中から野次と指笛が飛ぶ。
「そうやってると女っぽいぜ榊ぃ!」
「照れてるのかよ式壬ちゃ〜ん?」
 野次を飛ばしてくる男達を睨みつけるが、それが逆に男達の興奮を誘う。口々に卑猥な言葉が投げられるが、式壬はそのたびに鋭い視線で応戦する。
 しかし、その目が急に見開かれる。しゃがみ込んだレフェリーが、アンダースコートの上から秘部を弄ってきたのだ。
「テメェ・・・!」
「ここが一番調べないといけないところだからな」
 先程も触ったというのに、レフェリーはしゃあしゃあと言ってのける。
「よく見えないぞ、スカートをもっと高く上げろ」
「くっ・・・!」
 スカートを引き裂いてしまいそうなほど握り締め、それでも式壬は更にスカートを捲り上げた。
「そうそう、最初からそれくらい上げればいいんだ」
 わざとらしく頷いて見せ、レフェリーは秘裂をなぞる。
(どこまで・・・どこまでアタシを辱めれば気が済む!)
 スカートを持つ手が怒りで震える。しかし下ろすことも放すこともできず、式壬は姿勢を崩さない。
「よし、そろそろいいだろう」
 最後に太ももを撫で回し、ようやくレフェリーが立ち上がる。
「それじゃ、本番の開始と行くか」
 嫌な笑みを浮かべたレフェリーは、今日二度目のゴングを鳴らさせた。

<カーン!>

(レフェリーは殴れねぇ・・・なら、このドデブにぶつけるまでだ!)
 あまりの怒りに目を吊り上げた式壬が、突進から強烈なボディブローを突き刺す。
「へっ、どんなもん・・・」
「うぇへへ、そんなパンチ、効かねぇぞぉ」
 式壬の手首までがめり込んだと言うのに、グレッグは平気な顔だ。
「ちぃっ!」
 伸ばされたグレッグの手をかわし、もう一度ボディブローを叩き込む。
「無駄だって言ったぞぉ」
 手加減などしていない。緊張で威力が落ちたわけでもない。それなのに、グレッグは平然と手を伸ばしてくる。
(くっそ、自信なくすぜ)
 今まで数々の喧嘩自慢の男達を沈めてきた式壬の拳だというのに、グレッグにはまるで通じない。
「うぇへへ、諦めたのかぁ?」
 グレッグが汗に塗れた右腕を伸ばすが、式壬は余裕を持ってかわす。
(打たれ強いけど、スピードは全くないな)
 このまま避けながら攻撃を続ければ、いつかは倒せる筈。そう考え、パンチを放とうとした瞬間だった。
「っ!?」
 突然足元が滑る。グレッグの手を自ら倒れ込むことで避け、転がってから立ち上がる。
「なんだってんだ、一体!」
 再び突進しようとした式壬だったが、またも足元が滑り、自ら転がる。
(・・・汗か!)
 リングの上には、いつの間にかグレッグの汗が振り撒かれていた。立ち上がろうとついた手まで滑ってしまう。
「滑るってんなら・・・こうだっ!」
 ロープに背中から倒れ込むようにして反動をつけ、前方への推進力へと変える。スカートが捲れるのも気にせず、スライディングキックでグレッグの足を刈る。
「あうお?」
 これが狙い通りにグレッグのバランスを崩し、ダウンを奪う。
「どぉだっ!・・・っ!?」
 勢いがつき過ぎ、ロープ際まで一気にすっ飛んでいく。
「ちぃっ!」
 反射神経を生かして一番下のロープを掴むが、それすら汗で滑る。
「しまっ・・・っ!」
 勢いが止まらない体はロープ下をすり抜け、観客席との間に設置されている鉄柵へと激突する。
「あっ・・・ぐぅっ・・・」
 痛みの余り声も出ない。
「なんだ、わざわざ自分から来てくれたぜ」
 最前列に座っていた式壬に因縁のある男達が、グレッグの汗に濡れた式壬に手を伸ばす。
「やっぱいい身体してんなぁおい」
「榊ぃ、ここはどうだぁ? ああ?」
「式壬ちゃんよ、こんないいおっぱい隠してちゃもったいないぜ」
 ワルたちは口々に勝手なことをいいながら、式壬の身体を弄り回す。
「テ、テメェら、アタシから離れな!」
 叫ぶことはできても、痛みに体が自由にならない。
「なんだ、逃げないのかよ?」
「榊はローションプレイが好きなのさ」
「いや、男に触られるのがたまんねぇんだろ」
 男達は下品な会話を交わしながら、式壬の剥き出しの腕、お腹、太ももや、バスト、ヒップ、秘部などを欲望のままに弄っていく。
「ここでこのままマワシてやりてぇ!」
「殺されていいならヤレよ」
「テメェら根性ねぇな、俺が見本を」
 一人の男がベルトを外し、ズボンを下ろす。その瞬間だった。いつの間にか男の背後に立っていた黒服が、男の首根っこを掴み、流れるように持ち上げ、手すりに顔面を叩きつけたのだ。男の上げる悲鳴と噴き出る鼻血など気にも留めず、もう一度同じ行為を行う。痛みと衝撃に気絶した男の首根っこを掴んだまま、黒服はそのまま無言で花道を引き上げていく。弛緩したままの男の口から、折れた前歯が零れた。
 他の男達は、自分が攻撃されたわけでもないのに手が止まっていた。
「・・・離せっ!」
 生まれた隙を見逃さず、式壬は男達の手を振り払い、鉄柵から離れる。
(くっそ、ヘマした!)
 ぶつけた痛みだけでなく、男達から逃れようともがいて余計な体力を使ってしまった。
「どうした、早く上がらないとリングアウトで負けになるぞ」
「・・・わかってる」
(とは言っても、ちょっとでも休まないとな)
 グレッグを睨みながらゆっくりと呼吸を整える式壬は、背後の人影に気づかなかった。
「リングに上がれないのか? ならば、手伝ってやろう」
「んなっ!?」
 式壬の体が腰を軸に回転させられ、背中に衝撃が奔る。
「ぐはぁっ!」
 突然の風車投げに、更に背骨を痛めた式壬は背中を押さえて呻く。
「済まぬな、手が滑ったようだ」
 卑怯な奇襲は小四郎だった。小四郎は式壬をリングの中に転がし入れ、自分もリングに上がる。
「お、復活したか」
「待たせた。なに、その分はきっちり働くよ」
 レフェリーに小四郎が頷く。
「それじゃぁ、俺はちょっと休憩だぞぉ」
 いまだ大量の汗を噴き出すグレッグは、リングの隅に座り込み、コーナーポストにもたれかかった。しかしポストも汗で滑り、結局はずり落ちてリングで大の字の状態になる。これには会場から苦笑が起こる。
「まったくグレッグの奴は」
 レフェリーも苦笑し、「お前は気を抜くなよ」と小四郎に釘を刺す。
「一緒にするな」
 むっとした様子の小四郎は、式壬の手足を掴む。
「むっ・・・ちと滑るが、むんっ!」
 小四郎はオープンフィンガーグローブに指を引っ掛け、リングシューズに自らの足を絡め、ロメロスペシャルを完成させる。荒摩琉香にも掛けた羞恥技だった。
「おーっ! 榊の大股開きだぜ!」
「式壬ちゃーん、恥ずかしくないんですかぁ?」
(くそっ、うるせぇ奴らだ!)
 怒りが湧き上がるが、痛みも同時にぶり返す。小四郎が式壬の体を揺するたび、痛めた背骨から鈍痛が広がる。
「さて、レディース総長のブラはどんなエロいやつだ?」
 暫く式壬の美貌が歪むのを堪能していたレフェリーが近寄ってくる。その手がテニス衣装の胸元にかかり、引き裂く。
「・・・これはこれは」
 その下に隠されていたのは、エグいほど面積が小さい三角ビキニだった。辛うじて乳首を覆うほどの大きさしかない。
 これは、本来ならば荒摩琉香が身に付ける予定だった極小ビキニだった。琉香の仇討ちを望む式壬は、テニスルックの下にこのエグいビキニの着用を強制されていたのだ。
「もしかして、下もそうか?」
 レフェリーがグレッグの汗に濡れたアンダースコートを破りながら脱がしていく。
「おいおい、ほとんど紐じゃないか!」
 ビキニのブラも凄かったが、ボトムもまた驚くほど面積がなかった。辛うじて式壬の秘裂を隠してはいるが、すぐにもはみ出そうだ。
「だが、このままじゃ良く見えないからな」
 レフェリーはスカートも外し、式壬を極小ビキニ姿にしてしまう。
「恥ずかしいだろう、榊選手? 俺が隠してやるからな」
 レフェリーは手の平を秘部に当て、押しつけながら撫で回す。
「くそっ、やめろ、触んな!」
「なんだ、観客に見て欲しいのか?」
「そんなわけあるか!」
 式壬とレフェリーのやり取りの間に堪らなくなったのか、小四郎が生唾を飲み込む。
「どれ、胸の感触を確かめ・・・」
 小四郎が式壬の腕のフックを解いた瞬間だった。式壬は腹筋の力で上体を持ち上げ、体を捻ることで脚のフックからも逃れると、倒れ込みながらも小四郎の金的を蹴りつける。
「おごふぉっ!」
 脳天まで突き抜けた痛みに、小四郎は股間を押さえ、悶絶するしかできなかった。
「おらぁぁっ!」
 体重を乗せた式壬の一撃が、小四郎の顔面を捉える。
「おい待て、今のは反則・・・」
「アアッ!?」
 怒りで沸騰寸前の式壬の視線は、それだけで人が殺せそうだった。レフェリーは後を続けられず、口をぱくぱくと開閉させる。
「ふん」
 鼻を鳴らし、片膝をついて立ち上がろうとした式壬に、何かが勢いよく覆い被さってきた。
「そぉらぁ!」
 先程まで寝転がっていたグレッグが、いつの間にか式壬の背後に忍び寄り、体当たりをかましてきたのだ。
「がはあっ!」
 グレッグの巨体をまともに浴びせられては、素人の式壬に耐えられる筈もなかった。目を閉じ、横たわった姿勢のまま動かない。
「うぇへへ、それじゃぁ、俺の新しい責めを味わってもらうぞぉ」
 失神した式壬を軽々と持ち上げたグレッグは、自ら横たわり、脂肪の山ができている腹の上に式壬を跨らせる。しかし意識のない式壬の体はすぐに前へと倒れてしまう。
「よし、俺が支えてやる」
 レフェリーが式壬の顎を抱えるようにして体勢を保持する。
「ん・・・」
 そのとき、式壬の瞼が開いた。
「うぇへへ、行くぞぉ」
 それを合図としたのか、グレッグが自らの腹を叩く。すると脂肪の波が起こり、式壬の太ももを撫でる。グレッグが不規則に叩くと太ももだけでなく、数多の波が秘部へと殺到する。
(な、なんだ、これ!?)
 柔らかい脂肪の波は、繊細な刺激を多重奏で送り込んでくる。
「みょ、妙なことはすんな!」
 足を動かそうとした式壬だったが、まるで泥沼に嵌ったかのように自由に動かせない。グレッグの大量の脂肪が式壬の自由を奪っていたのだ。ならばとレフェリーを振り払おうとしたとき、またもグレッグの脂肪から波が送られる。
「くぅぅぅっ!」
 その波に晒されると、下腹部の力が抜ける。
「凄いじゃないか、そんなこともできるのか」
「うぇへへ、これだけじゃないぞぉ。こいつはどぉだぁ」
 グレッグが腹を叩くのに加え、腰を振り始める。
「あひぃぃっっ!」
 脂肪が複雑なうねりを見せ、式壬の秘部を襲う。
「や、やめ・・・てへぇっ!」
 柔らかい顎に捕らえられ、下腹部を重点的に責められる。今まで感じたことのない快感責めに、式壬は体をくねらせる。Gカップのバストが派手に揺れ、三角ビキニのブラは、あまりの揺れにすぐにずれてしまう。
「随分感じてるようじゃないか」
 我慢ができなくなったのか、式壬の頭を抱えていたレフェリーが乳房へと手を伸ばす。
「榊選手、ギブアップか?」
 剥き出しの乳房を揉みながら、レフェリーがギブアップの確認をしてくる。
「や、やめ・・・ひぃぃぅっ!」
 グレッグの汗に塗れた乳房はまるでローションを塗っているようで、レフェリーの指が乳房を責めるたび、弾けるような刺激が胸に広がる。
「生のおっぱいの感触も抜群じゃないか」
 磨かれれたのは肌だけでなく、乳房もエステを受け、感触と柔らかさと適度な弾力を増していた。男の手を夢中にさせる逸品とされた乳房が、レフェリーの手によって変形させられる。
「は、離せ・・・手を離してくれ・・・ひああっ!」
 乳房だけでなく、下半身への責めも間断なく続けられている。秘部だけでも堪らないというのに、乳房への責めも加えられては耐え切れるかわからない。
「なんだ、おっぱいは嫌か?」
 レフェリーは乳房から手を離し、下へと下ろしていく。
「こっちはどうだ? ほら、気持ちいいだろ?」
 淫核を探り当てたレフェリーが、細かな振動を送り込んでくる。
「はひぃっ、ひぎぅっ!」
 人生で初めて感じるほどの快感量に、式壬の意識が耐えられなかった。視界一杯が白く変わり、意識までも白く染まる。
「おいおい、起きろ!」
 失神した式壬だったが、淫核を強く潰され、無理やり覚醒させられる。
「あぎぃっ! あっ、はぁ、はぁ・・・」
「勝手にお寝んねするなよ。まだギブアップなのかどうかを聴いてないぞ」
「だ・・・誰が・・・」
 望まぬ快楽なのに、圧倒的な量は式壬を追い詰めてくる。それでも決意を込めて首を振る。
(ぜ、絶対に、負けない・・・あいつらを守る、のは・・・アタシ、なんだから・・・)
「頑張るなぁ榊選手。仲間思いのいい総長じゃないか」
 レフェリーの指が、硬く尖った乳首を素早い振動で細かく弾く。
「あはぁあああぁぁっ!」
 胸の先端から迸った電気が、脳まで届いて火花を散らす。
「いい反応をしてくれるじゃないか。男を誘う方法をよく知ってるな」
 今度は親指と人差し指で乳首を扱きながら、残りの指で乳房を揉み込んでくる。その間にも、秘部にはグレッグの脂肪から振動が送られる続ける。
(駄目、だ・・・耐えきれない!)
 一度絶頂に達した身体は、あっさりと快楽の彼方へと飛んだ。反応が鈍くなったことに気づいたレフェリーが、式壬の顔を覗き込む。
「さっき寝るなって言ったばかりなのになぁ。まあいい、グレッグ」
 再び失神した式壬は、グレッグのお腹の上で四肢を拘束された。
「さぁて・・・まだまだこれからだぞ、榊選手」
 レフェリーは式壬の腹の上に跨り、荒い息を吐く唇をなぞる。その指をゆっくりと下げ、乳房を鷲掴みにする。グレッグの汗に塗れた乳房は、レフェリーが軽く力を加えるだけで手から逃げようと揺れ、式壬に快感を押しつけてくる。
「あぅっ・・・ふわぁっ?」
「お目覚めか? 試合中に寝るのは感心しないな」
 乳輪ごと乳首をくすぐるように愛撫し、レフェリーが口の端を上げる。
「どれ、寝覚めのおっぱい責めだ。はっきり目を覚ませよ」
 レフェリーの手が動くたび、指を埋めるたび、乳房が変形し、乳首が愛撫され、ひりつくような快感が押し寄せる。
「い、いつまで、こんなこと・・・!」
「いつまで? 決まってるじゃないか」
 レフェリーは笑みを浮かべたまま、乳房への責めは途切らせずに式壬の顔を覗き込む。
「俺が満足するまでだよ」
 そう告げると同時に、乳首を素早く扱き上げる。
「ひぁぅああぁぁっ!」
 これ以上ないくらい立ち上がった乳首は、微妙な刺激も快感へと変えて式壬を追い詰めていく。
「お願いだよ、もう、やめて・・・」
 快感が、無意識に弱音を吐かせていた。
「やめてもいいが、仲間はどうなるんだ?」
 レフェリーの指摘に、式壬は折れそうになった心を引き締める。
(そうだ・・・アタシは、仲間のために勝たなきゃいけないんだ! こ、これくらいのことで・・・)
 精神は屈服を拒んでも、肉体に力はほとんど残っていない。試合開始直後なら逃れられたであろうグレッグの拘束も、弱々しくもがく抵抗しかできない。
「どうしたもじもじして。気持ちいいんだろう?」
 既に硬く立ち上がっている乳首を扱かれると、心ならずも腰が跳ねる。
「ほら、お前の身体は喜んでるぞ」
 レフェリーは尚も激しく乳首を責め、快感で式壬を追い込んでいく。
「も、もう、感じたくない・・・」
「残念ながら、俺たちはお前を感じさせたいんだよ。それともギブアップするか?」
 レフェリーが洩らした一言に、式壬は縋るように叫んでいた。
「ひいあああぁぁぁっ! する! するから! もうするから許してぇっ!」
 遂に、式壬の口から屈服が放たれる。
「何をするのかな? 榊選手。まさか、仲間を見捨てて負けを認めるのか?」
 式壬が首を振りたくって悶えても、レフェリーは尚も乳房を揉み続ける。
(あいつらを、守りたい・・・でも・・・!)
 一度傾いた心の天秤は、容易には戻らない。それでも、式壬は躊躇した。
「そうか、やっぱりこっちがいいのか」
 レフェリーは、既にたっぷりと濡れた式壬の秘部へと指を突き立てる。
「あひぃぃぃっ!」
 式壬の口から、悲鳴とも嬌声とも取れる叫びが上がる。
「うぇへへ、俺ももう我慢できねぇぞぉ」
 グレッグが式壬の両腕を捕らえていた手を外し、式壬の乳房を揉み始める。
(そんな! 胸とあそこ、一度に責められたら!)
 ただでさえ限界を超えさせられているというのに、敏感なところを同時に刺激される。
「うぇへへ、大きいおっぱいが気持ちいいぞぉ」
「どうした、本当はこういうのが好きなんだろう?」
 グレッグの太い指が式壬の乳房を無遠慮に捏ね回し、乳首を扱く。レフェリーの指が秘裂に突き立てられ、音が出るほど掻き回される。全身から汗が噴き出し、グレッグのそれと混じり合う。
(もう駄目だ、これ以上は!)
「ギ、ギブあああっ!」
 叫びたかった言葉も、快楽に遮られてしまう。
「ギブア? 意味が通じないぞ」
 式壬が何を言いたいのか、本当はレフェリーもわかっている筈。その証拠に、レフェリーの口元に浮かんでいるのは嘲りの笑みだった。
「まさかとは思うが、ギブアップを言いかけたのか? 総長ともあろう榊選手が、ギブアップを?」
 人差し指で膣を、親指で淫核を責めながら、レフェリーは言葉でも式壬を責める。
(総長・・・アタシは総長・・・でも、もう・・・)
 何度も腰を跳ねさせ、髪を振り乱し、咽喉が露わになるほど仰け反る。自分の身体だと言うのに、もう式壬にはコントロールできなかた。
(ごめん、皆・・・)
 一度心の中で詫び、たった一言を発するために力を振り絞る。
「・・・ギブ、アップゥ・・・」

<カンカンカン!>

 式壬が屈服の言葉を洩らした瞬間、甲高い鐘の音が鳴り響いた。
「随分頑張ったな。ま、負けたら同じか」
 レフェリーの声も、もう式壬には届かなかった。何度も無理やり絶頂を迎えさせられ、もう式壬の体力は限界だったのだ。目を閉じ、リングに横たわる式壬の身体はグレッグの汗に塗れ、磨かれた肌はスポットライトの下で輝く。観客は飽きることなく式壬の肉体を視姦していた。

 このときまだ、式壬は知る由もなかった。修羅が待つ、肉欲と言う名の祭壇に自らが饗せられることを。


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