【特別試合 其の四 天王寺操:プロレス】

 犠牲者の名は「天王寺操」。21歳。身長166cm、B96(Hカップ)・W62・H91。長く艶やかな黒髪、ぱっちりとした鮮やかな瞳、桃色の唇。麗しい顔立ちと素晴らしいプロポーションが男性の視線を惹きつける。
 天王寺財閥の娘として何不自由ない暮らしを送っていたが、親が敷いたレールの上を動くだけのような人生が嫌になり、プロレス界へと身を投じた。生真面目な性格で日々練習を積む操だったが、一向に芽が出ず、リングでは敗戦を重ねる毎日だった。
 そんな操に、対外試合の申し込みがあった。迷った操だったが、これも経験だと考えて承諾した。まさか自分が向かう先が淫猥なリングだとは思いもせずに。

 花道を進む操のコスチュームは、白色に統一されたいつものものだった。リングシューズ、レガース、リストバンド、首にはレースをあしらったチョーカーを巻いている。水着は上乳が丸出しになったようなワンピースタイプで、胸元をレースが飾り、中央部に臍下までのスリットが入れられているセクシーなものだった。操が歩を進める度にその特盛りのバストが揺れ、観客から卑猥な野次が飛ぶ。
(は、恥ずかしい・・・!)
 普段の試合でも自分のバストのことで野次が飛ぶことはあるが、ここまで露骨なものは受けたことがない。
 操は羞恥を堪えてリングへと辿り着いたが、これから更なる羞恥が待っていようとは、この時点では夢にも思わなかった。

(え・・・今日の対戦相手って、男性なの?)
 リングの上で待っていたのは、レフェリーらしき蝶ネクタイ姿の男ともう一人の男だった。対戦相手と思しき男は汚らしい長髪に無精ひげをぼうぼうと生やし、レスリングタイツを着けた体も締まりがなく、もっさりとしている。ただ、操を見る目は鋭い。否、鋭いと言うよりは欲望に塗れており、操の全身を、特に巨乳をしつこく眺め回してくる。その視線に嫌悪を感じ、操は両手で体を庇った。

「赤コーナー、サンダー・桝山!」
 リングコールに応えた男に、以前の桝山を知る観客から驚きの声が上がる。観客の知る桝山は短髪を金色に染め、バランスのとれた格闘家らしい体格の男だったからだ。
 「サンダー・桝山」。
 <地下闘艶場>には過去二回出場し、一度目は於鶴涼子に右足首の靭帯を壊されてギブアップし、二度目は天現寺久遠にハイキックでKOされた。
 それ以来<地下闘艶場>に上がることはできず、元所属していた団体にも「女に二度負けた男」とのレッテルを貼られ、リングに上がることができなくなった。収入の道を絶たれた桝山は酒に逃避し、遂にはホームレスにまで落剥していた。今回は天王寺操にあった実力の者を、という「御前」の意向でダンボールハウスから連れ出され、三度の登場となった。
「青コーナー、『みさおっぱい』、天王寺操!」
 自分の名前の操とおっぱいを掛けた「みさおっぱい」というあだ名は、操が嫌う呼び方だった。自然と操の眉が寄る。だが観客からは「みさおっぱい」コールが起こり、嘲笑と共に暫く繰り返された。

「ボディチェックだ、天王寺選手」
 やけにあっさりと桝山のボディチェックを終えたレフェリーが、操の前に立つ。
「は、はい・・・」
 レスラーがボディチェックを受けるのは当然だとは言え、男性から触られるということが本能的に拒否感を生む。返事をしながらも、操は自分の体を隠すように両手で胸元を押さえていた。
「おいおい、ボディチェックを受けて貰わないと試合が始められないんだけどな」
「わ、わかってます。どうぞ」
 視線を外し、手を下ろす操。
「わかればいいんだ。それじゃあ、ボディチェックだ」
 レフェリーは肩を押さえることから始め、二の腕、前腕部を触った後リングシューズに移り、徐々に上へと動かしていく。太ももを撫で回すようにしたあと腰の横側を辿り、バストを下から弾ませるようにしてにやつく。
「随分でかいな。上半分は見えてるが、下半分は何か詰めてるんじゃないか?」
「私、そんなことしません!」
 言葉では抗議しても、視線は逸らしたままだ。
「そうか? だけどここまで大きいんじゃあ、ちゃんと調べないとな」
 レフェリーは両手の指を蠢かせ、バストの感触を味わうように揉み解す。ボディチェックとは言いながらもその手はバストの剥き出しの部分にまで移動し、ボディチェックという名のセクハラを行う。
(こ、ここまでされなきゃ駄目なの?)
 操は半泣きの表情で厭らしい手つきを堪える。その表情すら、観客の興奮を誘った。

 三分以上もバストを揉んで漸く満足したのか、レフェリーが操から離れ、ゴングを要請する。

<カーン!>

 操に取っては長いボディチェックの時間が終わり、漸くゴングが鳴った。
(男性相手に、どこまでできるか・・・)
 不安が操の胸を貫く。対峙する桝山は鼻息も荒く、オープンフィンガーグローブを嵌めた両手をわきわきとさせている。徐々に両者の距離が詰まり、桝山の大振りの右ボディが操を襲う。
「!」
 見えてはいたものの、緊張が操の動きを鈍らせていた。ブロックもかわすことも間に合わず、お腹の中心から熱と衝撃が昇ってくる。
「ぶぐぇぇっ!」
 桝山に腹部を打たれ、操の口から苦鳴が漏れる。桝山が如何に長い間トレーニングしていないと言っても、男性のパンチ力は容易に操の腹筋を打ち抜いた。動きの止まった操をタックルで倒し、馬乗りになる桝山。
「へへへ、女だ、女だ・・・!」
 血走った目で操を視姦し、その盛り上がったバストを鷲掴みにする。
「ちょっと、なにを・・・」
 抗議しかけた操の鼻に、嗅ぎ慣れない臭いが届く。ホームレス生活で染み付いた桝山の体臭だった。試合前にシャワーくらいは浴びたのだろうが何ヶ月もの垢を落とすまでには到らず、男の体臭がむっと臭ってくる。
「こんな綺麗なお姉ちゃん、好き勝手にできるとはな」
 桝山は操の顔に自分の顔を寄せ、その美貌を見詰めながらバストを揉み回す。
(く、臭い!)
 桝山の吐く息はアルコール臭と口臭が入り混じり、形容できない臭いとなって操の嗅覚を犯す。思わず鼻を押さえるが、その間にもバストは桝山の手の中で形を変える。
「やめてっ!」
 ぱぁん、と乾いた音が鳴り、桝山が頬を押さえて倒れこむ。その隙に操は逃れ、素早く立ち上がる。
「レフェリー、今あの人私の胸を・・・!」
「胸がどうした? 触られたから反則とでも言うつもりか?」
「え・・・?」
 思ってもみないレフェリーの反応に、操は固まってしまう。
「だ、だって、あんなセクハラ・・・」
 なんとか言葉を続けようとした操の背後から、桝山がバストを鷲掴みにする。
「おっぱいお姉ちゃん、いや、みさおっぱいだったか? ビンタは酷いじゃないか。もう少し楽しませてくれよ」
 もにゅもにゅと操の巨乳を揉み回す桝山。
「は、放して・・・!」
 桝山から逃れようとする操だったが、突然動きを止める。
「おっと、そう言えばここはさっきチェックしてなかったな」
 レフェリーが操の秘部に右手を当て、撫で回してきたからだ。
「レフェリー、そこは!」
「ん? ここに武器を隠す選手もいるらしいからな。当然のチェックだ」
 バストと秘部を弄られ暴れる操だったが、男二人の力には敵わず、いいように触られ続ける。この光景に、観客席から歓声が起こった。

「さて、ボディチェックも済んだことだし、一旦ブレイクしろ」
 秘部の感触を堪能したレフェリーは操と桝山を離させ、「ファイト!」の合図を掛ける。
(散々セクハラしておいて・・・でも、これでもうボディチェックもしてこない筈。真っ当な試合ができるわ)
 深呼吸で気持ちを切り替え、最近練習に励んでいる打撃を繰り出す。
「えいっ!」
 ぺちり、という軽い音。
「・・・なにやってんだみさおっぱい?」
 操のローキックは、桝山に痛痒すら与えていなかった。
「えいっ! えいっ!」
 必死にローキックを連打するが、悲しい程に効いていない。前に出てくる桝山への牽制にすらならず、思わず身を引く。
「みさおっぱい、ローキックはこう蹴るんだよ!」
 骨が肉を打つ鈍い音が鳴り、操の口から苦痛の叫びが発せられる。
「あぐぅっ!」
 一撃で動きの止まった操は、ベアハッグに捕らえられた。
「あぅっ!」
「へへへ、いい匂いだ、おっぱいの感触も堪らねぇ・・・!」
 桝山は自分の顔が操のバストに当たるような位置取りにし、上下に揺すって感触を楽しむ。ベアハッグされた操にしてみれば楽しむどころの話ではなかった。胴を絞められる苦しさ、バストに当たる無精ひげの気持ち悪さ、桝山の体臭のきつさ、そして、レスリングタイツの下で硬くなった男性自身の感触・・・
 必死になってもがく操にレフェリーが近づき、ヒップを掴む。
「ひっ!」
「天王寺選手、ギブアップか?」
 レフェリーがギブアップの確認をしながらヒップを擦ってくる。
(ボディチェックも終わったのに、なんでまた触ってくるの!?)
 操の心中の抗議など届かず、レフェリーはヒップを撫で回し、桝山はバストの感触を堪能している。体を弄られることに怖気を振るい、男達の欲望から逃れようと手足を振り回す。すると偶然急所に当たったものか、桝山の拘束が緩んだ。
「え?」
 逃れようと踏ん張っていたために操の体は後方に倒れ、レフェリーを下敷きにしてしまう。
「ご、ごめんなさい」
「・・・ごめんで済んだら警察はいらんわっ!」
 レフェリーが怒りの声を上げ、下から操のバストを握り締める。
「いたっ!」
「俺はもっと痛かったんだよ!」
 バストを乱暴に揉まれ、操が痛みに眉を寄せる。
(レフェリーに手を上げたら反則になるかも。でも、このままじゃ・・・)
 逡巡する操に桝山が圧し掛かってくる。
「へへへ、今度はこっちを触らせて貰うぜぇ」
 桝山は操の秘部のスリットに沿って指を上下させ、その感触を味わう。
「きゃぁぁぁっ!」
 再び男の手で秘部を弄られ、操が悲鳴を上げる。しかし操が悲鳴を上げることで男達は一層興奮し、バストを捏ね回し、秘部を強く弄ってくる。
(このままじゃ、どこまでされるかわからない)
 女性としての恐怖が頭を掠め、操に行動を急かす。
「こうなったら・・・」
 操は右手で秘部を這いずる手を払うと同時に両脚で桝山の胴を捕らえ、渾身の力で締め上げる。
「なんだ? 誘ってるのか?」
 しかし、桝山に効いたような様子は見えなかった。
(そんな、力一杯絞めてるのに・・・それなら!)
 両脚のフックを外すと同時に膝を抱え込み、思い切り蹴飛ばしてやる。その勢いで後転し、レフェリーの手からも逃れて立ち上がる。
「痛ぇな。ちょっと油断したよ」
 お腹を掻きながら歩み寄ってくる桝山に、水平チョップを放つ。ぺちぺちと連打するものの、桝山のラリアート一発でリングに倒される。
「うぐぅ・・・」
 鎖骨辺りを押さえて呻く操を、桝山が見下ろす。
「ちょっとプロレスらしいこともしてみるか」
 操の髪を掴んで無理やり立たせ、コブラツイストに極める。
「いたぁぁぁっ!」
 見た目は効いていなさそうにも見えるコブラツイストだが、完璧に決まると各部に痛みが奔る。しかも男性の力で極められた操には泣きそうになる程の激痛が襲う。
「おっと、強く掛け過ぎたか。悪かったなみさおっぱい、気持ちいいこともしてやるよ」
 桝山はフックしていた右手を外し、操のバストへと移動させるとそのまま右のバストを揉み込んでいく。
「天王寺選手、ギブアップか?」
 レフェリーも操に近づき、左のバストと秘部へ手を伸ばして弄くる。
「や、やめて、触らないで・・・いやぁっ!」
 痛みにもがき、望まぬ刺激に身を捩る。それでも、ギブアップだけはしたくなかった。
(変わらなきゃ、変わるって決めたんだもの、ギブアップしたら今までと同じだもの・・・!)
 明確な意思を持って振られた肘が、桝山の頬骨を打つ。
「ぐぉっ!」
 突然の反撃に、桝山は技を解いて打たれた部分を押さえる。この隙にレフェリーからも逃れ、操はファイティングポーズを取る。
「・・・やってくれたな」
 怒りの形相で桝山が近づいてくる。それでも怯まず、視線を逸らさない。
「変わるんだからっ!」
 タックルに行こうとした操の鳩尾に、桝山の爪先が突き刺さる。
「ぐぇぇっ!」
 鳩尾を押さえ両膝をついた体勢で、こみ上げて来たものを必死に堪える。
「折角気持ちよくしてやろうっていう、人の好意を無にしやがって・・・」
 見上げた桝山の顔が、途轍もなく恐い。
「お仕置きが必要だな!」
 桝山は操をヘッドロックに捕らえ、コーナーへと引きずっていく。そしてセカンドロープに操の額を当て、こすりつけながらゆっくりと次のコーナーへと向かう。
「あぁぁっ! 熱い熱い熱いぃぃぃっ! もうやめてぇ!」
 痛みよりも熱さが操を襲った。泣きながら許しを請う操だったが、桝山は笑うだけだった。
「あれだけのことを、俺にしといて、簡単に止められるわけが、ないだろうが」
 だが、何ヶ月にも及ぶ不摂生は桝山から基礎体力を奪っていた。抵抗する操を無理やり引きずることでスタミナを消費し、かなり息が荒い。
「ぶはぁ、ぶはぁ・・・」
 遂には口で大きく呼吸をしだし、ヘッドロックの締め付けも緩む。
(・・・もう、ここしかない!)
 締め付けが緩んだ瞬間、操は立ち上がると同時に桝山の腰を抱えていた。
「ええい!」
 気合と共に桝山を持ち上げる。
「んんん・・・っ!」
 バックドロップを狙ってなんとか桝山を抱え上げた操だったが、そこまでだった。アルコール太りした桝山を後ろに投げるまでは行かず、痛みを思い出した左脚が膝から崩れ、前のめりになってしまう。
 そこに、ロープがあった。
 桝山の両足がロープに当たり、しなったロープは反動で弾き飛ばす。
「きゃぁっ!」
 悲鳴を上げながらも桝山を放さなかったのは、レスラーとしての本能か、急激な変化にしがみつくものが欲しかったためか。
 ロープで勢いをつけられた桝山の体は歪んだ弧を描き、後頭部からリングへと叩きつけられる。自分も頭を打って足をバタつかせていた操だったが、桝山が動かないことに気づき、覆い被さるようにしてフォールする。もう悪臭も気にならなかった。
「レフェリー、カウントを!」
「まさか、こんなことが・・・」
「レフェリー!」
 再度の操の要請に、レフェリーが渋々カウントを始める。
「ワン・・・ツー・・・」
 ゆっくりとしたカウントが、しかし着実に進んでいく。
「・・・スリーッ!」

<カンカンカン!>

「やった・・・やったわ」
 終了のゴングが鳴り、勝利の感触がじわりと沸いてくる。
「私、勝ちました!」
 嬉しさの余り、跳ねるように立ち上がって両手を高く突き上げる。その反動でバストが大きく弾み、上下し、最後には衣装から零れ落ちる。この光景に観客席からどよめきと指笛と大きな拍手が起こる。レフェリーも目を丸くし、乳首まで晒した操の乳房を凝視する。
(皆喜んでくれてる・・・これが勝つってことなのね)
 バストが丸出しになった解放感を勝利した故の高揚感だと勘違いした操は、トップレス状態のまま観客に手を振り、尚一層の拍手を浴びる。リングで歩く度に開放されたHカップバストが揺れ、見えない側の観客から操コールが起こる。これに律儀に応えることで、また大きな歓声と拍手が起こる。
(ああ、レスラーになってよかった・・・)
 操は、快感に身を震わせた。

 操が自分の格好に気づいたのは、控え室に戻り、鏡を見たときだった。操の羞恥の絶叫は、観客席にまで届いたという。

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