一回戦第四試合
 (マンハッタンブラザーズ1号 対 天現寺久遠)

「続きまして、一回戦第四試合を行います!」
 黒服の合図と共に、対戦する二人がリングに上がる。
「赤コーナー、マンハッタンブラザーズ1号!」
 マンハッタンブラザーズ1号は中肉中背の男で、隣に身長、体格、リングタイツやシューズまでが一緒で、お揃いのマスクを着けた2号が立っている。個々の実力はたいしたことがないものの、コンビネーションは一級品。それが「マンハッタンブラザーズ」だった。
「青コーナー、『闘う歌姫』、天現寺久遠!」
 「天現寺久遠」。17歳。身長166cm、B87(Eカップ)・W60・H90。鋭い眼差し、すらりと通った鼻梁、太い眉、肩の長さでぶつ切りにされた髪、縛られることを嫌う野性的な美貌。普段はバイトをしながらストリートライブを行っている。
 過去二回<地下闘艶場>に参戦し、二勝一敗の好成績を収めている。勝気な性格と美貌にファンも多い。今日はゆったりとしたサイズのトレーナーに綿パンを穿き、足元はスニーカーという飾り気のない格好だった。手にはオープンフィンガーグローブを嵌め、肩をぐるぐると回している。
 レフェリーはいつもの小悪党面の男だった。久遠を見ると、厭な笑みを浮かべた。

「さあ、ボディチェックだ。今日はおとなしく受けてくれるな?」
 マンハッタンブラザーズ1号のボディチェックを終えたレフェリーが、久遠の前に立ってにやつく。
「前も言っただろ? 触るなってな」
「お前、反則負けにするぞ!」
 声を荒げたレフェリーに、久遠は肩を竦めて見せる。
「すればいいじゃないか。あたしも今はそんなに貧乏してないんでね」
 久遠が犬でも追い払うような手つきで手を振ると、レフェリーの顔に怒気が浮かぶ。
「・・・そうか。それならこっちにも考えがあるぞ」
 レフェリーは捨て台詞を吐くと、ボディチェックを行わずにゴングを要請した。

<カーン!>

(ったく、あのエロレフェリー。相変わらずだな)
 コーナーにもたれたまま久遠がやれやれと首を振ると、隙があると見た1号がタックルを仕掛ける。
「ふぅ・・・んな甘いタックルなんか喰らうかよっ!」
 久遠のアッパーが綺麗に1号の顎を捕らえ、ダウンを奪う。
「長引いたら何されるかわかんないからな、さっさと決めるぜ!」
 1号に止めを刺そうとした久遠だったが、いきなりリングでこける。
「いって・・・なんだ?」
 受身を取ったものの胸を打ち、久遠が痛むそこを擦りながら後方を見ると、マンハッタンブラザーズ2号の姿が目に入った。
「てめぇか! 人の足引っ張りやがったのは!」
 久遠が蹴りを入れようとすると、2号は素早くエプロンサイドから離れていた。
「セコンドへの攻撃は反則だぞ」
 レフェリーに言われ、久遠の眉が跳ね上がる。
「セコンドだろうがなんだろうが、あいつはあたしに攻撃しただろうが! レフェリーならレフェリーらしく・・・!?」
 レフェリーに食って掛かった久遠の後ろから、1号が抱きついた。ただ抱きついただけでなく、その両手はバストを掴んでいる。
「てめ、どこ触ってんだ!」
 久遠の後方への頭突きを喰らい、1号がよろける。
「あたしの胸触っといて、これくらいで済むと思うなよ!」
 1号へ追撃しようとした久遠の後ろから、またも胸を触ってくる者がいた。
「!」
 攻撃しようとしたときには、そのマスクを被っていた男は既に久遠から離れていた。そのマスクはマンハッタンブラザーズ1号と全く同じもので、タイツもシューズも一緒。どう見てもマンハッタンブラザーズ2号だった。
「なんでてめぇまでリングに・・・」
 2号を睨む久遠の視界の端に、1号が立ち上がる姿が入る。
「おい、これじゃ二対一だ! こんなのいいのかよ!」
「ふん、ボディチェックを受けなかったんだ、これくらいのペナルティは当然だろう?」
 久遠の抗議にもレフェリーは取り合おうとしなかった。
「そうかい・・・なら、二人纏めてぶっ倒してやるよ!」
 マンハッタンブラザーズの二人に前後を挟まれながら、久遠の勝気な態度は崩れなかった。
「それじゃ行く・・・ぜっ!」
 自分の前面にいる1号にではなく、後ろも見ずに2号の鳩尾を蹴り飛ばす。即座に1号にフェイントのジャブを見せて間合いを詰め、頭を抱えて顔面に膝蹴りを入れる。
 瞬く間にマンハッタンブラザーズの二人はリングに這わされ、蹴られた部分を押さえて呻く。
「ふん、二人掛かりでこんなもんか?」
 例え相手の方が人数が多くても、まだ久遠には余裕があった。しかし、その余裕が墓穴を掘った。マンハッタンブラザーズのコンビネーション攻撃を知らなさ過ぎた。
「まだやるのか?」
 起き上がってきたマンハッタンブラザーズに、久遠が確認する。返答はなく、1号も2号もファイティングポーズを取った。
「弱い者苛めは好きじゃないんだけどね」
 それに応じ、久遠も構える。
「おらぁっ!」
 先程簡単にダウンを奪ったことが、久遠の油断に繋がった。目の前の2号に、大振りのハイキックを放つ。しかし久遠がハイキックの体勢になった瞬間、1号が水面蹴りで久遠の脚を刈り、2号がギロチンドロップで首を狩る。
「がはぁっ!」
 喉元を抉られた久遠の口から苦悶の声が洩れる。喉元を押さえて咳き込む久遠に、1号は首四の字固めを、2号は足四の字固めを掛ける。
「くそっ・・・はな、せ・・・」
 もがく久遠に、レフェリーがにやつきながら近寄る。
「くくっ、ようやくのボディチェックだ。じっくりと調べまくってやるからな」
 レフェリーはいきなり久遠のトレーナーを引き上げ、ブラを剥き出しにする。
「なんだ、今日はスポーツブラか。色気がないな」
「うるせぇ、この・・・うぐっ!」
 なにか喋ろうとすると、1号が首四の字で締め上げる。
「まあ、ブラに色気がなくても、中身がこれだけ育ってれば問題ないな。揉み応えも相変わらずだ」
 レフェリーは久遠のEカップバストを鷲掴みにし、スポーツブラの上から揉みしだく。
「触んな、畜生・・・!」
 久遠もレフェリーの手を払おうとするが、苦しい体勢では力が入らず、レフェリーから簡単に弾かれてしまう。
「おとなしく揉ませてくれないな。それじゃあ・・・」
 レフェリーはにやりと笑うと、スポーツブラを鎖骨にまでずらす。今までスポーツブラに押さえつけられていた乳房が、跳ねるように姿を現す。
「テメェ、なにして・・・あぐっ!」
 慌てて乳房を隠そうとした久遠だったが、マンハッタンブラザーズ1号が首を締め上げ、抵抗力を奪う。
「相変わらず綺麗な乳首じゃないか。ん?」
 レフェリーは久遠の乳首を軽く弾きながら、久遠の顔を覗き込む。
「テメェ・・・いいかげんにしやがれ!」
 屈辱が、久遠の力となった。首を絞められる苦しさを堪え、マンハッタンブラザーズ1号の両脚に手を掛ける。
「ぬっ・・・ぐぉぉっ!」
 久遠は力任せに首四の字を外し、素早く体を反転させる。これで足四の字を掛けていた2号は逆に自分の脚を締め上げられてしまい、痛みにリングを拳で叩く。また久遠はすぐに立ち上がろうとした1号の足首を捕らえ、ヒールホールドに極める。
「ギブアップしないと、二人とも足の骨へし折るぞ!」
 久遠は容赦なくマンハッタンブラザーズの二人の脚を責め、ついにマンハッタンブラザーズの二人は同時にギブアップを叫ぶ。

<カンカンカン!>

 観客席にまで聞こえるギブアップを言われては、レフェリーも試合を終了せざるを得なかった。そして終了のゴングを要請したレフェリーは、すぐにリングから姿を消した。
「ちっ・・・あの野郎、逃げ足は速いな」
 レフェリーにもセクハラのお返しをしてやろうと考えていた久遠は、レフェリーの姿がないことに舌打ちする。服装を整えてリングを降りた久遠に、観客から声援が飛ぶ。それらに適当に手を振りながら、久遠は花道を下がっていった。


 一回戦第四試合勝者 天現寺久遠
  二回戦進出決定


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