二回戦第一試合
（八岳琉璃 対 ミステリオ・レオパルド）
３２名を集めて開始したシングルトーナメント。いよいよ、今日から二回戦が始まる。屈指の好カードが幾つも組まれており、会場の興奮も既に高まっていた。
「皆様、大変お待たせ致しました。それではこれより、二回戦第一試合を行います！」
黒服の合図と共に、花道を進んだ二人の選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『クイーン・ラピスラズリ』、八岳琉璃！」
「八岳琉璃」。１７歳。身長１６２ｃｍ、Ｂ８９（Ｆカップ）・Ｗ５９・Ｈ８４。世に名高い八岳グループ総帥を祖父に持つ生粋のお嬢様。生まれつき色素が薄い髪を長く伸ばし、女神が嫉妬しそうな美貌を誇る。白く滑らかな肌は名工の手になる陶磁器を思わせる。美しい大輪の薔薇を思わせる外見と高い気位を持ち、それに見合うだけの才能を持つ。
一回戦はジグ・ソリタードと対戦し、たいしたピンチもなく一蹴している。今日はピンク色のポロシャツに白のホットパンツを身につけている。
「青コーナー、『神秘の獅子』、ミステリオ・レオパルド！」
対するはルチャ・ドールのミステリオ・レオパルド。一回戦は暮内ゆかりと闘い、全裸に引ん剥いてギブアップを奪っている。
レフェリーはいつもの小悪党面だった。
「琉璃お嬢さん、今回はボディチェックを受けてくれるな？」
ミステリオ・レオパルドのボディチェックをあっさりと終えたレフェリーが、今度は琉璃にボディチェックを行おうとする。
「触らないで頂けますか？」
「またボディチェックを受けないというんだな？」
「ええ、貴方からは指一本触れられたくありませんから」
琉璃の軽蔑を込めた科白に、レフェリーの顔が強張る。
「なら、ハンディをつける。いいな？」
「ええ、構いませんわ」
あくまでもボディチェックを拒むという琉璃に、レフェリーはリング下の黒服に何かを合図した。
黒服がリングに上がったとき、その手にはビニール製の足枷があった。足枷を受け取ったレフェリーは琉璃の足元に跪き、レスリングシューズの上から両足に掛ける。この足枷のため足の間が３０ｃｍも開かず、キックどころかステップすら厳しい。
（これは・・・思ったよりもきついペナルティですわね）
ちらりと後悔の念が過ぎるが、顔には出さない。
「今ならまだボディチェックをしてやってもいいぞ？」
「いりません」
琉璃がきっぱりと断ると、レフェリーは仏頂面でゴングを要請した。
＜カーン！＞
ゴングと同時に、ミステリオ・レオパルドのタックルが迫る。
「それくらいのスピードで・・・！？」
反射的に膝を合わせようとして上げかけた右足が、左足に繋がった紐に引き戻される。
「しまっ・・・」
両足が揃ってしまい、ミステリオ・レオパルドのタックルでダウンを奪われる。
「わざとらしいタックルだっただろ？」
ミステリオ・レオパルドがにやつきながら、両手をわきわきと蠢かせる。
「それじゃ、琉璃お嬢さんのおっぱいを堪能させて貰おうかな」
「そんなことを許すわけが・・・なっ！？」
反撃しようとした手が、レフェリーに押さえつけられる。
「貴方、何をしているんですか！」
「何って、琉璃お嬢さんの手を押さえ込んでるんだよ。琉璃お嬢さんくらい強かったら、両足を結んだだけじゃハンディ不足だろ？」
「ふざけないで！ 尋常に勝負を」
続けようとした琉璃の言葉は、ミステリオ・レオパルドがバストを鷲掴みにしたことで止められた。
「うっは、やっぱ琉璃お嬢さんのおっぱいの感触は堪んねぇ」
「放しなさい！ 私の身体が魅力的なのはわかりますが、貴方が好きに触っていいわけではありませんよ！」
琉璃は身を捩るが、ミステリオ・レオパルドは巧みな体重移動でマウントポジションを崩さない。
「お次は、ブラジャー拝見といこうか」
ミステリオ・レオパルドがポロシャツの裾を引き上げ、ブラを露出させる。
「今日も白か。琉璃お嬢さん、白以外は持ってないのか？ 黒とか赤とかさ」
琉璃のバストを揉みながらの言葉に、琉璃の目が吊りあがる。
「私の下着の趣味にケチをつけるとは・・・くぅっ！」
「いやいや、別にケチをつけたわけじゃないぜ。いつも白だな、って思っただけさ」
琉璃の極上のバストを揉み続けながら、ミステリオ・レオパルドの顔が緩む。
「さて、今日こそは琉璃お嬢さんの生乳を・・・」
ミステリオ・レオパルドが琉璃のブラに手を掛けた瞬間だった。
「そのようなこと、許しませんよっ！」
激昂した琉璃が叫ぶと同時にレフェリーの手首を握り、急所を押さえる。
「ぬがっ！」
大の大人でも耐えられない痛みが奔り、レフェリーの手から力が抜けた。琉璃はレフェリーの手から腕を抜き、突き飛ばす。自由になった手でミステリオ・レオパルドの両手首の急所を握り、強烈な力で締め上げる。
「ぐぁぁぁっ！」
「私が駄目だと言っているのに、よくも胸を好き勝手に弄ってくれましたわね。あまつさえ、生で拝もうなどと！」
琉璃が怒りの表情でミステリオ・レオパルドの手首を極める。そのまま巴投げで宙を舞わせる。
「その罪、体に刻みます！」
立ち上がった琉璃はミステリオ・レオパルドの手首を極めながら立ち上がらせ、鳩尾に拳を突き刺す。
「おぐぉ・・・」
呻くミステリオ・レオパルドに更にボディブローを入れていく。しかも失神できないぎりぎりの痛みを与えられるように計算し、地獄の苦しみを与え続ける。
「えぐっ！ も、もうギブアッ・・・」
敗北の宣言をしようとしたミステリオ・レオパルドの顎が、琉璃の掌底で下からかち上げられる。
「ぎぃっ！」
素早く衝撃を逃したため歯が折れることはなかったが、上下の歯がぶつかり不快な痛みが脳に届く。ミステリオ・レオパルドが顎を抱えて転げまわる隙に、琉璃は素早くレスリングシューズを脱ぎ、両足の自由を回復する。
「さて、と」
琉璃の手がミステリオ・レオパルドのマスクを掴み、９０度右回転させる。目も鼻も口も覆われたミステリオ・レオパルドは、慌ててマスクを元に戻そうとする。しかし、琉璃がそれを許す筈がなかった。ミステリオ・レオパルドの両手首を捉え、背中側に回す。そのまま背中に右足を置き、サーフボードストレッチに移行する。その様はまるで、罪を犯した臣下を罰する女王のようだった。
「ばぁぁぁっ！ びぶ、びぶあぶ！」
ミステリオ・レオパルドが何かを必死に訴えようとしていたが、自らのマスクで口を塞がれているため何を言っているのかわからない。恐らくギブアップを叫んでいるのだろうが、はっきりと聞き取れないためレフェリーも迂闊に試合の終了を宣言できない。
「何を言っているのかわかりませんわ。ちゃんと聴き取れるように言ってくれません？」
琉璃はミステリオ・レオパルドの両手首を更に引き上げ、背中に置いた足を後頭部に移動させて踏み込む。ミステリオ・レオパルドにしてみれば、痛みを逃そうとすれば前に倒れるしかない。そのため、ミステリオ・レオパルドはリングに頭をつけて上から踏み躙られている。
「る、琉璃お嬢さん、そろそろ勘弁してやって・・・」
「駄目ですわ。それに、貴方も同罪ですから」
琉璃がにこりともせずにレフェリーに告げ、ミステリオ・レオパルドの両手を更に前に倒す。そのとき、ミステリオ・レオパルドの肩から異音が鳴った。
「ぬびゃらぁぁぁぁ！」
関節の駆動域を超えたため、肩が脱臼したのだった。だらりと垂れ下がるミステリオ・レオパルドの両腕を見たレフェリーが、即座にゴングを要請する。
＜カンカンカン！＞
ゴングが鳴らされると、琉璃もようやくミステリオ・レオパルドの手を放し、足を退けた。
「一度ならず二度までも私の身体を触るなんて・・・本来なら死刑ですわよ」
そう言って髪をかき上げた琉璃は周囲を見渡すが、すでにレフェリーの姿はリングから消えていた。
「・・・逃げ足が速いですわね」
自分の身体に触った罰を与えてやろうと思っていたが、いない者には何もできない。
「次に会ったときは、地獄に沈めてあげますわ」
琉璃の微笑は、背筋が凍えるほどに美しかった。
二回戦第一試合勝者 八岳琉璃
三回戦進出決定
