二回戦第六試合
 (王美眉 対 エキドナ)

「これより、二回戦第六試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の女性選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『チャイニーズ・サイクロン』、王美眉!」
 「王美眉」。18歳。身長166cm、B90(Fカップ)・W58・H85。黒目がちの瞳。切れ長な目。整えられた細い眉。無造作に束ねられた黒髪。無駄な装飾を削り落としたかのような容貌だが、そこに危険な香りと妖しい美貌が同居している。
 一回戦はチャベス・マッコイと対戦し、圧倒的な実力差を見せて勝利している。
「青コーナー、『ゴーゴンシスター』、エキドナ!」
 「エキドナ」。正体不明の美女レスラー。
 一回戦はコンテ・大倉と闘い、フェイバリットホールドである<ローリングエクスキューショナー>で勝利している。
「この試合のレフェリーは三ツ原凱が務めます」
 一回戦第十五試合ではニナ・ガン・ブルトンに対して長時間のセクハラボディチェックを行った凱に対し、観客からは好意的な声援が飛んだ。
 しかし凱は観客の期待とは裏腹に、美眉とエキドナに対して紳士的なボディチェックを行ってから試合を開始した。

<カーン!>

(この人、凄い空気を持ってるわね。簡単にはいかなそう・・・)
 さしものエキドナも、すぐに攻撃には移れなかった。美眉から滲み出る闘気に押さえられたかのように足が前に出ない。
「来ないのならば、こちらから行くぞ」
 美眉が一歩足を踏み出した。その瞬間、エキドナの神速のタックルが炸裂した。
(もらったわ・・・って嘘っ!)
 鋭く厳しいエキドナのタックルだったが、美眉のバランス感覚は小揺るぎもしなかった。
「この程度の体当たりで、私を崩すことはできない」
「そう・・・それじゃあ、これでどうよっ!」
 エキドナの両腕が美眉の胴をクラッチし、腰の反動を使って無理やり美眉を持ち上げる。
「なっ!?」
「えぇいっ!」
 美眉の体をぶっこ抜き、居反り投げでリングに叩きつける。
「もう一丁!」
 それだけでは終わらず、クラッチしたままローリングし、腹筋と背筋、太ももの筋肉などを総動員してスープレックスで投げ飛ばす。
「ぐはっ!」
 受身を取り損ねた美眉の口から苦鳴が迸る。
「まずは3ポイント先取、ってとこかな」
 呟いたエキドナの視線の先で、美眉がゆっくりと起き上がる。
「・・・やってくれたな」
 美眉から発散される紛れもない殺気に、エキドナの体が畏縮する。
(何、この重苦しい感じ・・・!)
 獰猛な気を纏い、美眉が突進する。
「っ!」
 かわすのは間に合わないと判断したエキドナが、右膝のカウンターを狙う。しかし、その膝は美眉に届かなかった。美眉は左手でエキドナの膝を外側に流し、右中段突きを鳩尾に突き刺した。エキドナの体が吹き飛び、ロープに当たってリングに倒れ込む。
 とどめを刺そうと前に出た美眉を、凱が止めた。

<カンカンカン!>

 美眉の一撃で、エキドナは意識を断たれていた。それを即座に見て取った凱は躊躇なく試合を終了させた。あのまま美眉に攻撃を許していれば、エキドナは大怪我を、下手をすれば死亡していたかもしれない。
「・・・ふん」
 暫く凱を睨みつけていた美眉だったが、鼻を鳴らすとリングを降りた。
 底知れぬ実力を見せつけた美眉に、観客席からは声もなかった。


 二回戦第六試合勝者 王美眉
  三回戦進出決定


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