二回戦第七試合
 (稲角瑞希 対 ジョーカー)

「これより、二回戦第七試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『ミス・リー』、稲角瑞希!」
 「稲角瑞希」。17歳。身長162cm、B86(Dカップ)・W62・H88。太い眉、大きな瞳のボーイッシュな魅力を持つ勝気な高校生。髪型はボブカットで襟足だけ伸ばし、三つ編みにしている。左頬にうっすらと真横に走る傷があるが、これは高校一年のとき、近所を走り回る暴走族が五月蠅いからとヌンチャクを手に殴り込みをかけ、メンバーの男六人を病院送りにしたときにナイフで切られた跡である。
 一回戦では草橋恭三と闘い、特訓の成果を見せて勝利を挙げた。
 今日の衣装も白いTシャツに黒いカンフー着のズボンだった。
「青コーナー、『マジシャン・ピエロ』、ジョーカー!」
 瑞希の対戦相手はジョーカーだった。顔を真っ白に塗り、目と口には黒いペイント、鼻には黒い付け鼻、服はだぼっとした黒いナイロン地というピエロを思わせる格好で、頭には黒いシルクハットを被り、手には白手袋をはめている。
 一回戦では夏海・マウルシア・エスカーナと対戦し、半裸に剥いただけでなく、ギブアップの後も延々と嬲って失神させた。その実力に、観客からの声援も多い。
 レフェリーはいつもの小悪党面の男だった。
「えーーーっ、またこいつ?」
「人をこいつ呼ばわりするな!」
 瑞希の本音にレフェリーが突っ込む。
「まったく・・・」
 レフェリーは一度咳払いすると、瑞希に近寄る。
「さて、ボディチェックの時間だが・・・」
「またボクの体を厭らしく触るつもりだろ! お断りだよっ!」
「そうか、わかった。今回はボディチェックはなしにしよう」
 瑞希はあっさりと引き下がったレフェリーに不信感を持ったが、それも一瞬だった。

<カーン!>

 ゴングを聞き、すぐに目の前のジョーカーへと意識を向ける。
(ピエロなのに<地下闘艶場>? なんか弱そうだけどね)
 侮りが油断を生んだ。無造作に距離を詰めた途端、ジョーカーの右手が揺らめいた。
「!」
 ジョーカーの右手刀が一閃したときだった。
「あっ!」
 Tシャツに水平に走る真一文字の切れ目が入り、瑞希のブラが顔を覗かせる。
「なんだ、今日は可愛らしいブラを着けてるな」
「見るなエロレフェリー!」
 レフェリーに目を遣ることでできた隙に、一瞬で間合いを詰めたジョーカーの手が瑞希のバストを弾ませる。
「どこ触ってんだっ!」
 瑞希のミドルキックはジョーカーを捉えたと思われたが、ぎりぎりでかわされていた。
「こんのぉっ!」
 瑞希は胸元を隠すことも忘れ、全力の攻撃を開始する。さすがのジョーカーといえども全てはかわせず、被弾しながらの防戦となる。
(ちっくしょお、ガードが堅い! なら、罠を張る!)
 そう決めると、瑞希はわざと大振りのフックを放つ。
(かかった!)
 自分の胸元に伸びてくる右の手首を掴み、引っ張り込む。
「もらったぁ!」
 トラッピングの技術でジョーカーの右腕を手繰りこみながら、右膝を振り上げる。その一撃はジョーカーの腹部を抉った、筈だった。
「えっ!?」
 頭部への衝撃に瑞希が揺らぐ。ジョーカーは引き込まれる勢いに逆らわず、更にリングを蹴って高く舞い、瑞希の側頭部に膝蹴りを叩き込んで見せた。
「くっ・・・そぉぉっ!」
 それでも両足を踏ん張り、瑞希はバックハンドブローを放った。しかしそのスピードは悲しいほど鈍かった。
「っ!」
 次の瞬間瑞希の体が宙に舞い、後頭部からリングに落とされる。
「ボ、ボクは絶対・・・負け、ない・・・」
 気持ちとは裏腹に、瑞希の意識は暗闇へと落ちていった。

<カンカンカン!>

 瑞希が意識を失ったのを確認したレフェリーが、ゴングを要請する。
「んっ? ジョーカー、お前なにして・・・ああ、そういうことか」
 失神した瑞希を抱えたジョーカーが、ロープ際へと運んでいく。そのまま両手両足をロープで拘束していくのを見て、観客席から興奮の声が上がり始める。
 ジョーカーは一回戦でも夏海・マウルシア・エスカーナをロープで磔にし、絶頂に導いている。また女性選手が嬲られる様を見られると、観客達は舌舐めずりし始めた。
 淫虐の空気が満ち始めたそのリングに、一つの影が現れた。
「はーい、そこまでにしといてね? 試合は終わったんだしさ」
 杖の長さの棒を持った男が、ジョーカーの背後を取る。声を掛けられたジョーカーはゆっくりと振り返った。
 そこに居たのは、以前瑞希と闘い、現在瑞希にアタック中のアシュタルト・デフォーだった。長い金髪を首の後ろで束ね、着流しの格好なのはいつもと同じだ。
「おいアシュタルト、お前何して・・・」
「何って、愛しのマドモアゼル瑞希が辱められてるから、救いに来たんじゃないか。ピンチのときに現れるのが王子様の役目だよ?」
 見咎めたレフェリーにも、アシュタルトはにこりと笑って見せた。ジョーカーは無表情のままでアシュタルトに相対した。
 リングの上、ジョーカーとアシュタルトが向かい合う。両者の間に高まっていく緊張に引きずられたように、会場内も静まり返っていく。しかし実力者同士の闘いが見られるかもしれないという思いが、先程までとは別種の興奮も高めていった。
 均衡を破ったのはジョーカーだった。肩を竦め、一度挙げた右手をゆっくりと下ろしながら大きく一礼する。
「不意を衝いても駄目だよ、僕油断してないから」
 アシュタルトの言葉にジョーカーはちらりと上目遣いを送る。頭を上げるともう一度肩を竦め、今度は素直にリングを降りた。
「やれやれ、恐いなぁ。おっと、それより僕のお姫様は、っと」
 アシュタルトは失神している瑞希に歩み寄り、軽く頬を叩く。幾度か叩くうち、瑞希が瞼を上げる。
「あれ・・・ボク、試合・・・」
 体を動かそうとして、ロープに拘束されていることに気づく。
「よかった、気がついた。マドモアゼル瑞希、君の王子様の登場だよ」
「アシュタルト・・・」
 アシュタルトの気障な科白に、瑞希の頬が赤らむ。
「・・・ありがと。それじゃ、これも外してよ」
 自分を拘束するロープを顎で指す。
「それなんだけど、どうせだから、ね」
 アシュタルトの手が、瑞希のバストを弄る。
「ちょ、ば、何してるのさーーーっ!」
「君がいけないんだよ、マドモアゼル瑞希。君が魅力的だから、僕を狂わせてしまうんだ」
「そ、そんな言葉で誤魔化されないよ! さっさとロープを外して・・・っ!?」
 アシュタルトは瑞希の口を自らの口で塞ぎ、文句を遮る。その間にもバストを優しく撫でている。突然始まった濡れ場に、不満が高まりつつあった会場内の空気が変わる。
「ん、んん・・・んむぅっ!?」
 差し込まれたアシュタルトの舌に、瑞希の眼が大きく開かれる。アシュタルトは固く食い縛られた瑞希の歯茎を優しく舐め、抵抗を溶かしていく。
 やがて瑞希の力も緩み、アシュタルトの舌が瑞希の口蓋に侵入した。奥に縮こまった瑞希の舌を見つけると、優しくつついて緊張を解す。瑞希の舌から不要な力が抜けると、舌を絡めて濃厚なディープキスへと移行する。
「・・・ぷぁっ」
 アシュタルトが口を離すと、二人の間に唾液の橋が掛かった。息をすることも忘れていた瑞希は荒い息で酸素を吸い込む。
「大人のキスは初めてかい?」
 バストを揉み続けながら、アシュタルトは瑞希の左頬の傷に舌を這わす。
「い、いいかげんに・・・!」
 また何か言い掛けた瑞希の口を、アシュタルトの口が塞ぐ。
「あぎゃっ!?」
 突然、アシュタルトが口を押さえて飛び下がった。
「酷いよマドモアゼル瑞希、舌を噛もうとするなんて・・・」
「うるさいドスケベ! 早くロープ外せっ!」
「わかったよ、照れ屋さん」
 一度前髪をかき上げたアシュタルトが、優しくロープの拘束を外していく。
「ほら、これで取れたごっ!?」
 瑞希の手加減抜きの顔面突きを受け、アシュタルトが引っくり返る。
「この男は・・・男って奴は・・・!」
 更に追い討ちの蹴りを入れ、瑞希は鼻息荒くリングを降りた。


 二回戦第七試合勝者 ジョーカー
  三回戦進出決定


幕間劇 其の四へ   目次へ   二回戦第八試合へ

TOPへ
inserted by FC2 system