三回戦第四試合
 (ジョーカー 対 於鶴涼子)

 先程の第三試合の興奮も冷め遣らぬ中、リング下の黒服がマイクを握る。
「これより、三回戦第四試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『マジシャン・ピエロ』、ジョーカー!」
 「ジョーカー」。顔を真っ白に塗り、目と口には黒いペイントを、鼻には黒い付け鼻をしている。服はだぼっとした黒いナイロン地のもので、頭には黒いシルクハットを被り、手には白手袋をはめている。そのふざけた格好とは裏腹に、かなりの実力を秘めた猛者だ。
 一回戦で夏海・マウルシア・エスカーナを、二回戦で稲角瑞希を余裕を持って降し、その実力を遺憾なく発揮している。
「青コーナー、『クールビューティ』、於鶴涼子!」
 「於鶴涼子」。21歳。身長163cm、B85(Dカップ)・W60・H83。「御前」の所有する企業の一つ「奏星社」で受付をしている。長く綺麗な黒髪と涼しげな目、すっと通った鼻梁、引き結ばれた口元。独特の風貌を持つ和風美人。
 一回戦は試合にならず、二回戦でもマスク・ド・タランチュラから軽く勝利を得た。未だその実力を見せるような機会もセクハラの見せ場もなく、観客席の中には今度こそ、の思いを抱えている者もいる。
 今日もいつもどおり合気道用の道衣と袴、胸にはサラシを巻き、長い黒髪をポニーテールにしている。
 レフェリーはいつもの小悪党面した男だった。
「また貴方ですか。厭らしいことをすれば・・・」
「恐いことを言うなぁ。それなら、ボディチェックはなしにしておこうか」
 レフェリーの発言に肩透かしを食った涼子の眉が寄る。
「何が狙いですか?」
「どうせ俺には触られたくないんだろ? なら、してもしなくても一緒じゃないか」
 レフェリーはジョーカーにもボディチェックを行わず、試合開始の合図を出した。

<カーン!>

 ゴングが鳴らされると、ジョーカーはシルクハットを取って一礼する。涼子も礼を返そうとしたそのとき、ジョーカーの体が宙で前転する。一拍遅れて、ジョーカーの踵が上空から襲い掛かる。
(これくらいの奇襲で)
 涼子は軽く避けたが、そこにもう一方の踵が落ちてくる。
「!」
 これもかわした涼子だったが、更にジョーカーの手刀が胸元に伸びてくる。
 ジョーカーの手刀の一振りは鋭く、涼子と言えどもぎりぎりでしかかわせなかった。そのため道衣の襟をジョーカーの手刀が掠り、すぱりと切れる。
「なっ!」
 驚きの声は上げたものの、隙は作らない。
(なるほど、ボディチェックを行わなかったのはこういう理由ですか)
 手袋に何かを仕込んでいなければ、ここまで綺麗には切れない。もしレフェリーがボディチェックを行えば、凶器の存在を見逃すわけにはいかないだろう。
(まったく、いつも卑怯な手段で・・・)
 小さな怒りに僅かに気を取られた瞬間、ジョーカーの手刀が一閃し、涼子のサラシを幾本か切り飛ばす。
「くっ」
 捕らえようと伸ばした手をすり抜け、ジョーカーの手刀が手元に戻される。サラシが切られたことで、涼子の胸の谷間が僅かではあるが覗く。
 再び、ジョーカーの手刀が涼子の胸元に伸びる。しかしそう何度も奇襲を許す涼子ではなかった。
「はっ!」
 ジョーカーの手首を掴み、小手投げでリングに叩きつける。そのまま掌底を落とそうとした涼子だったが、投げられたジョーカーは涼子の手を弾いてリングを転がり、場外に転落する。
「審判、見ていないでカウントを取ってください」
「ん? ああ、そうか。ワン、ツー、スリー・・・」
 レフェリーがやる気のない表情と声で場外カウントを進めていく。ジョーカーはリングの下をぐるぐると回っていたが、18カウントになってようやくリングに戻る。
 リングに戻ったジョーカーだったが、涼子がするすると距離を詰めてくるのに気づくと再びリング下に転がり降りる。
 その後も何度かこの行為が繰り返され、観客からブーイングが起こる。
(この方、機を外すのが上手いですね)
 対戦相手の怒りを煽りながら、自らのペースに持ち込んでいる。そう分析できている涼子でさえも、冷静ではいられなかった。場外から戻ったジョーカーへと一気に距離を詰める。それを見たジョーカーが、またもリング下へと降りる素振りを見せる。
(逃しません!)
 ジョーカーを捕らえようと伸ばした手が弾かれ、道衣を留めている紐が断ち切られた。次の瞬間には、涼子の道衣はジョーカーの手に移っていた。
(今、どうやって私の道衣を?)
 疑問に思う間もなく、またもジョーカーの右手が襲い掛かる。
(そう何度も同じ手は食いませんよ!)
 手首を捕らえようと伸ばされた涼子の手が、逆に掴まれる。
「なっ!」
 ジョーカーの左手が涼子の右手首を掴み、膝蹴りが腹部を抉る。
「あぐっ!」
 正確に鳩尾を蹴られ、涼子が崩れ落ちる。その背中で、ジョーカーの右手が閃いた。涼子の背中に傷一つつけることなく涼子のサラシを切り落とし、涼子の美乳を露わにする。
「くっ!」
 苦しい体勢から手刀を振った涼子だったが、上方に逸らされ、ジョーカーの掌底で鳩尾を叩かれる。
「がはっ・・・」
 強烈な攻撃を二度も鳩尾に食らい、涼子はリングに沈んだ。
「よしジョーカー、於鶴選手が抵抗できないように拘束しろ!」
 レフェリーの指示に頷いたジョーカーはうつ伏せの涼子をフルネルソンに捉え、仰向けになってから涼子の脚にも自分の脚を絡ませて四肢の自由を奪う。観客にも涼子の乳房が晒され、その形の美しさに小さなどよめきが起こる。
 涼子が動けなくなったと見て、レフェリーは涼子の乳房に手を伸ばす。
「この感触も久しぶりだな、吸い付くような感触が堪らん!」
 涼子の乳房を揉みながら、レフェリーが唇を舐める。
「・・・審判なら審判らしく、きちんとした判定を行って貰えませんか」
 腹部の痛みと乳房の刺激を堪え、涼子が冷たい声でレフェリーに告げる。
「おいおい、於鶴選手が気を失ったら悪いと思ってマッサージをしてるんじゃないか。立派なレフェリーとしての仕事だぞ」
 にやにやと笑いながら、レフェリーは涼子の乳房を揉み続ける。乳房を揉むだけでなく乳首も弄り、その吸い付くような感触を堪能する。
「於鶴選手、ギブアップするか?」
 涼子がギブアップなどしないと見ての確認だった。
「・・・こんなことくらいで、くぅっ、負けは認めません!」
「そうだろうなぁ。次はここを・・・」
 レフェリーの右手が袴の上から涼子の秘部を押さえる。
「チェックしてやるよ」
 衣服の上からとはいえ、女性の大事な部分を弄られる不快感が涼子に屈辱を与える。
「相変わらず我慢強いな。たまには声を聞かせてくれよ。喘ぎ声なら尚いいぞ」
(誰がそんな・・・!)
 意地でも声を出すまいと、唇を結んで堪える。
「そうか、ここは嫌か。なら・・・」
 股間から離れたレフェリーの手が、再び乳房に戻ってくる。
「やっぱり於鶴選手はおっぱいが極上品だな。何度揉んでも飽きないぜ」
 再び両手で涼子の乳房を揉みながら、レフェリーが何度も唇を舐める。数々の女性選手の胸を揉んできたが、涼子ほど手に吸い付くような感触の乳房は他になかった。
「おっと、乳首も硬くなってきたぞ。感じてくれて嬉しいよ」
(何を勝手なことを・・・!)
 怒りに気を取られ、乳首を弾かれた瞬間喘いでしまう。
「あっ・・・はうっ・・・」
「いい声出すじゃないか。もっと聞かせてくれよ」
 レフェリーはここぞとばかりに涼子の乳首を弄り、乳房を揉みまくる。
(いつまで耐えれば・・・!)
 嫌悪と屈辱、羞恥が涼子を襲う。拘束され、乳房を弄られる涼子の姿に観客から卑猥な野次が飛ぶ。
 それでも負けを認めるわけにはいかない。両手を握り込んでひたすら耐える涼子が、小さな変化に気づく。僅かではあるが、ジョーカーの脚が緩んでいた。
(好機!)
 ジョーカーの脚をするりと外し、レフェリーを蹴り飛ばす。そのまま勘を頼りにジョーカーの左膝を踏み潰す。
「・・・!」
 声もなく痛みに呻くジョーカーの拘束から逃れ、逆に後ろを取って胴を両脚で締め、両腕で首絞めに捕らえる。容赦なく絞め上げ、抵抗力を奪っていく。
 もがいていたジョーカーが少しずつおとなしくなり、遂には動きを止める。ジョーカーが落ちたのを見たレフェリーは試合を止めた。

<カンカンカン!>

 ゴングを聞いた涼子は技を解き、胸の前で腕組みしてレフェリーの前に立った。
「おい、なんだ。! まさか・・・!」
「審判という立場を利用し、私の胸を触った。許されることではありませんよ」
 身を翻そうとしたレフェリーだったが、その右手首を掴まれていた。
「待て、あれは仕事で・・・っ!」
 投げられたレフェリーの体がロープでバウンドし、高く跳ね上がる。
「せいっ!」
 そこからリングに叩きつけられたレフェリーの意識は、もうなかった。
「いつ本心から反省するのかわかりませんが・・・次はありませんよ」
 胸元を隠しながら前髪をかき上げる涼子は、凄烈な美しさを湛えていた。


 三回戦第四試合勝者 於鶴涼子
  準決勝進出決定


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