幕間劇 其の二
「ぬっ!?」
「御前」の叫びに、洋子が反応する。
「どうされましたか、『御前』」
洋子の問い掛けにも「御前」は答えず、リングの上の王美眉の動きを凝視する。
「『御前』?」
(王美眉・・・確かに見覚えはない。絶対に遭ったことはない。だが、あやつの使う拳、あれはまさしく・・・)
「御前」の脳裏を、若かりし日の記憶が過ぎる。武者修行に明け暮れ、海外にまで飛び出したあの十代の日々。そこで出会った最強の敵。今までの「御前」の人生でも、五指に入るほどの闘いだった。
「洋子、王美眉の素性を調べろ。田芝には内密に、だ」
「わかりました。すぐに動きます」
洋子は一礼し、超VIPルームを後にした。
(あの後壊滅したと聞いていたが・・・まだ生き残りがいたか?)
その敵が君臨していた組織。香港九龍城に巣食い、中国本土にまで勢力を伸ばしていたあの恐るべき集団。
「御前」の顔に、鬼気が宿っていた。初めて見る「御前」の表情に、裏の世界を生き延びてきたナスターシャが震えを抑えることができなかった。