幕間劇 其の四

「時間が掛かって申し訳ありません」
 謝罪と共に超VIPルームに入室して来たのは洋子だった。目の下にやつれがあるのは、ほぼ徹夜で作業をしていたからだろう。
「『御前』、王美眉のデータです」
 洋子が差し出したのは一枚の紙だった。
「中国公安当局からの情報ですので、信憑性は低いですが」
 悪い意味でのお役所仕事しかしない連中だ。しかもそれだけのことに多額の報酬を要求してくる。「御前」が目を落とした紙には、次のことが書かれていた。

『「王美眉」。18歳。中国福建省生まれ。農家の両親を亡くした後は客家社会を転々とし、現在は用心棒家業をしている』

「・・・これだけではなんとも言えんな」
 こんなありきたりな経歴では何の推測もできない。
(ならば、田芝はどこで王美眉と接点を持った?)
 結局そこに行き着く。「御前」の部下の中でも古株である田芝は、「面白い選手を見つけた」としか報告していない。
「ナスターシャ、今度はお前が調べよ。情報屋を使い、王美眉の名前は出さずに顔写真だけで調査させろ」
「わかりました」
 ナスターシャが一礼し、素早く超VIPルームを後にする。
「『御前』、私は何を・・・」
「洋子、お前は少し休め」
 「御前」のその声にも、洋子は下を向いたままだった。「御前」が喜ぶほどの情報を手に入れられなかったのが悔しいのだろう。
「なに、こんなこともある。休むのが嫌だと言うなら、儂の相手をせい」
「『御前』・・・」
 それ以上は何も言わせず、「御前」は洋子を引き寄せた。
「・・・ありがとう、ございます」
 その洋子の呟きは、熱い呻きへと溶けた。


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