【一回戦第一試合】
（八岳琉璃 対 火筒剛）
長らく中断されていた＜地下闘艶場＞。それが今日、第二回目のシングルトーナメントで再開される。
「それではこれより、第二回ＵＧＣ杯シングルトーナメント、一回戦第一試合を始めます！」
リング上、スポットライトに照らされた黒服がマイク越しにそう叫ぶと、満員の観客席から悲鳴のような雄叫びが上がった。
前回のシングルトーナメントでは数々の激闘と艶闘が繰り広げられ、大幅な選手の入れ替えがあった今回は更なる熱き闘いが期待されている。
「まずは赤コーナー、『クイーン・ラピスラズリ』、八岳琉璃！」
「八岳琉璃」。１７歳。身長１６２ｃｍ、Ｂ８９（Ｆカップ）・Ｗ５９・Ｈ８４。世に名高い八岳グループ総帥を祖父に持つ生粋のお嬢様。生まれつき色素が薄い髪を長く伸ばし、女神が嫉妬しそうな美貌を誇る。白く滑らかな肌は名工の手になる陶磁器を思わせる。美しい大輪の薔薇を思わせる外見と高い気位を持ち、それに見合うだけの才能を持つ。
前回のシングルトーナメントでは実力どおりの結果を残し、決勝に進出している。その決勝で於鶴涼子と闘い、時間切れの引き分けとなっている。
二回目の開催となった今大会も優勝候補と目されており、観客からの声援も凄まじい。
琉璃の衣装は半袖でピンク色のポロシャツと黒のホットパンツだった。手にはオープンフィンガーグローブを装着している。
「青コーナー、『ギャランドゥ』、火筒剛（ごう）！」
琉璃の対戦相手は、頭髪以外の毛が豊かな火筒剛だった。頭には一本の毛もないのに、顔の下半分、腕、胸、腹部、背中などに剛毛が密集している。しかも衣装は褌のみ。これには場内の男性客からも嫌悪の声が上がる。
「この試合を裁くのは、『ＪＪＪ』の美女レフェリー、九峪志乃です！」
コールを受けてリングに上がった志乃の姿に、観客席から歓声が起こる。
なんと、志乃はレフェリー服の柄がプリントされたセパレート水着での登場だった。驚きの衣装に、観客席から指笛が飛ぶ。
（もう！ なんでミニスカートの次は水着なのよ！）
前回のシングルトーナメントでは、志乃はミニスカートでのレフェリングを要求されていた。契約上拒むことはできなかったため、今回の大会前は「ＪＪＪ」の女社長・斉原楓に
『絶対にミニスカートは嫌です！』
と強硬に主張していたのだ。
『あー、わかったわかった。ミニスカートは却下、と。あっちに言っとくよ』
確かに楓はそう言ったのに、用意されたのはある意味ミニスカートよりも恥ずかしい水着だった。
（あんのぼさぼさ頭、ちゃんと＜地下闘艶場＞に伝えたのかしら？）
志乃の伝えたかったのはミニスカートを含むふざけた衣装は嫌だ、という意味だったのだが、楓は「ミニスカートはやめてくれ」とだけ連絡したのだろう。
（・・・まさかとは思うけど）
志乃のレフェリー報酬に上乗せを提示され、楓が嬉々として受け入れたことも考えられる。様々な想像だけが頭の中を巡り、つい強張った表情でボディチェックを行っていた。琉璃のボディチェックを終え、火筒に向かった志乃の表情が更に強張った。
「どうしましたレフェリー？ さあ、ボディチェックを・・・」
「試合開始！」
＜カーン！＞
火筒にボディチェックが行われないまま試合が始まった。志乃を残念そうな表情で見遣る火筒に、琉璃は嫌々視線を合わせた。
（・・・あまり触りたくありませんわね）
男性を見た目で差別しないようにしている琉璃だったが、火筒ほど極端だとやはり忌避感が先に立つ。
「いやぁ、琉璃お嬢さんのような本物の美少女と対戦できるなんて、おじさん嬉しくなっちゃうよ」
火筒のほうは琉璃との対戦が嬉しくて仕方ないようだ。琉璃がステップを踏むたび揺れる胸元に視線が集中している。
（言うことまで品がない・・・さっさと終わらせますわ！）
琉璃がジャブを放った瞬間、火筒の頭部が後方にぶれる。
「あぶへっ！」
常人の目には映らぬほどのスピードのジャブに、たった一発で火筒がロープ際まで後退する。
「とどめ、行きますわ！」
右ストレートを放とうとした琉璃の動きが、何故か急に止まった。火筒が顔の前に腕をかざしていたのだが、その剛毛が目に入ってしまったのだ。生理的な嫌悪感が、攻撃を躊躇させてしまっていた。
「・・・危ないねぇ。強いとは聞いていたけど、ジャブまでこんなに痛いとは思わなかったよ」
静かに距離を取った火筒が、鼻を押さえてぼやく。
（・・・情けない！）
琉璃はと言えば、絶好機を逃したことを内省していた。
（精神的に未熟な証拠。行かなくては！）
気持ちを高めた琉璃が前に出る。ジャブのフェイントを入れ、右ローキックで火筒の太ももを抉る。しかしローキックで太ももを打った瞬間、リングシューズ越しに火筒の毛の感触が伝わってしまう。
「っ・・・！」
汚辱感に肌が粟立つ。次の瞬間、琉璃の全身の毛が逆立った。
「隙ありぃ！」
なんと、火筒がいきなり抱きついてきたのだ。それどころか、琉璃の豊かな胸元に顔を埋める。
「なんと、服の上からでもこの感触とは！ これはぜひこの手で触って・・・」
「いやぁぁぁっ！」
あまりのことに、琉璃の理性が吹っ飛んだ。火筒の後頭部への肘打ち、顎への膝蹴り、顔面への裏拳を連続で叩き込み、一瞬で戦闘力を奪う。
＜カンカンカン！＞
崩れ落ちた火筒を見た志乃は即座に試合を止めた。ゴングを聞いた途端、琉璃はリングを駆け降り、花道を全速力で走る。
（この感触、早くシャワーで流して消したい！）
おぞましい感触に胸の辺りを払いながら、琉璃は控え室に飛び込んだ。
一回戦第一試合勝者 八岳琉璃
二回戦進出決定
