【一回戦第十二試合】
 (チャベス・マッコイ 対 クリスティーナ・ローゼンメイヤー)

「一回戦第十二試合を行います!」
 黒服の合図と共に、一人の女性がリングに上がった。
「クリスティーナ・ローゼンメイヤー」。愛称クリス。21歳。身長169cm、B98(Jカップ)・W62・H86。肩の下まで伸びた金髪には緩いウェーブがかかり、シャープな顎の線を柔らかく縁取っている。ドイツ人の父とノルウェー人の母を持ち、ノルウェーの一流大学に飛び級で入学、現在は大学院に籍を置く才女。古代ローマの研究を専攻しており、中でも<コロッセオ>で行われた闘いに惹かれ、自分でパンクラチオンを学ぶほどにのめり込んだ。ゲルマン民族とヴァイキングの血は彼女の中で交じり合い、至上の強さを求めていたのかもしれない。
<地下闘艶場>ではミステリオ・レオパルドと対戦し、見事に叩き潰している。
 今日は体にぴったりと張り付いた半袖短パンのスウェットスーツの上から、バストが揺れないようにとサポーターを巻いている。

 暫く時間が経ったが、リングの上に変化はなかった。
「今日の相手はどこ?」
 クリスが疑問に思うのも当然で、対戦相手であるチャベスの姿がリングにない。レフェリーであるワンピース水着姿の志乃も花道を見遣るが、チャベスの姿は見えない。
「どうしたのかしら、このままじゃ試合が・・・」
 そのとき、花道でざわめきが起こる。中背ながら屈強な肉体を誇るチャベスが失神したまま、長身の美青年に引きずられてきたのだからそれも当然だろう。
 まるで、ミケランジェロが造形したかのような硬質的な美男子だった。黒い長髪を首の後ろで纏め、歩を進めるたびに微かに揺らしている。美青年はチャベスの猪首を掴み、身じろぎ一つしないチャベスの体を悠々と運んでくる。
 美青年がリングまで僅かの位置まで来たとき、その前を数人の黒服が塞ぐ。その黒服の前に、美青年は筋肉質なチャベスの体を投げ出した。
「醜い、それだけで罪だ」
 美青年の傲然とした口調に、黒服たちの表情が僅かに強張る。
「貴様、何者だ」
「私の秘書ですわ」
 その問いに答えたのは、いつの間にか現れたドレス姿のカミラだった。自然、場内の視線がカミラに集中する。更に言えば、その美貌と露わにされている深い胸の谷間へと。
「<地下闘艶場>とは、強者の集まりだと聞きました。ならば、その強者を倒してのけた我が秘書は更なる強者。リングに立つ資格は十二分にあると思いますが、如何?」
 血の色を思わせる真紅のドレス姿のカミラに、黒服の一人が片手を上げた。
「・・・少し待て」
 スーツの襟に付けられたマイクと耳に装着されたイヤホンで、黒服はどこかに報告を始めた。

 マイクとイヤホンで誰かと会話をしていた黒服が、美青年に向き直る。
「・・・チャベス・マッコイに替わり、貴様がリングに上がることが了承された。まず、名前を聞いておこうか」
「ジル・ジークムント・ヴァグナー」
 自らの名を告げた美青年・ジルは、滑らかな足運びで黒服の群れをすり抜け、優美な動作でリングへの階段を上がり、ロープを潜った。

「皆様にお知らせ致します。チャベス・マッコイに替わり、ジル・ジークムント・ヴァグナーがこの試合を闘います!」
 突然の選手変更だったが、リング外の遣り取りを注視していた観客にとっては頷ける変更だった。
「赤コーナー、ジル・ジークムント・ヴァグナー!」
 スーツ姿のジルに、観客席から数多の視線が突き刺さる。チャベスを倒したその実力に、俄然観客の興味は高まっていた。
「青コーナー、『ウーマンヴァイキング』、クリスティーナ・ローゼンメイヤー!」
 突然の対戦相手の変更のためか、クリスの顔には緊張がある。それでも油断なく手首をほぐし、闘いに備えている。
 レフェリーの志乃はジル、クリスにボディチェックを行い、諸注意を行ってからゴングを要請した。

<カーン!>

(あの筋肉質の男を片手で引きずってきた。となれば、生半可なパワーじゃないわね)
 軽くステップを踏みながら、クリスは冷静にジルを観察していた。ジルの佇まいには隙がなく、パワーだけではないことがわかる。
(でも!)
 倒せない相手など居ない。自分より実力上位だとしても、必ず勝って見せる!
「シィィッ!」
 鋭く呼気を吐きながら、クリスがマシンガンのようなジャブを繰り出す。クリスの高速ジャブを、ジルも叩き落していく。
「フシッ!」
 突如リズムの変わったクリスのストレートが、ジルのガードをすり抜けた。しかし、ジルもぎりぎりで顔を傾け、頬を掠らせただけで終わらせる。
 一度距離を取ったジルの左頬に、一筋の血線が浮いた。ジルはその跡をなぞり、微かに頬を緩める。
「ふむ、やる」
 突然リング内の空気が変わった。闘いに張り詰めていたものが、硬質なそれへと変化したのだ。まるで硬い空気に押し出されたように、クリスは一気に距離を詰めていた。
「シィッ!」
 ジャブを囮として組み付いたクリスだったが、ジルの腰は重かった。否、重いどころではない、まるで巨木を抱えているような錯覚すらある。
(まさか、ここまで体の軸がぶれないなんて!)
 タックルでも微動だにせず、投げを打とうとしてもまるで崩れない。投げを諦め、咄嗟に距離を取ろうとした瞬間だった。クリスの意志とは別に両足がリングを離れた。
(な、なに!?)
 浮いた、と意識する間もなく、体が回転させられていた。
(くぅっ!)
 凄まじい回転に、鍛えた筈の平衡感覚が乱されていた。
「がはぁっ!」
 体の右側面がリングに叩きつけられ、肺から空気が絞り出される。
「げはぅっ」
 更に鳩尾へ掌底の一撃を食らい、完全に戦闘力を奪われる。内臓への衝撃に、クリスはのたうつこともできなかった。
「さて・・・」
 片膝をリングについたジルが、クリスの顔を覗き込む。
「カミラ様以外の女は、屈服させるべき存在。しかし私は紳士。暴力ではなく、快楽によって屈服させてやろう」
 ジルの手がクリスのバストを覆っていたサポーターに掛かり、外した。このジルの行為に、観客席が一瞬静まり、すぐに大歓声が起こる。
 ジルの手が動くたび、クリスの衣装が剥がされていく。
「な、なにしてる、のよ・・・」
 ようやく言葉を発したクリスだったが、そのときにはスウェットスーツも脱がされ、胸部と股間部を覆うアンダーサポーターのみの姿にされていた。
「お前に、本物の快楽を刻んでやろうと言うのだ」
 ジルがクリスのJカップを隠していたアンダーサポーターを外し、直接乳房に触れる。
「勝手なことを・・・んぅっ!?」
 ジルの手がクリスの美巨乳を撫でるたび、甘美な稲妻がクリスの身中を奔る。
(嘘、こんな恥ずかしいことをされて、嫌な筈なのに!)
 観客の前で半裸にされ、乳房を揉まれる。ほとんどの女性が望まぬその状況だというのに、クリスの身体は快感を感じていた。ジルの手が乳房を責めるたび、脳と子宮に熱が生まれてしまう。
「も、もうやめて・・・」
「何を言う。お前の乳首はそうは言っていないぞ」
 既に硬くなっていた乳首を指で挟まれ、細かい振動を送られる。
「あふぅぅぅっ!」
 あられもない嬌声がクリスの口から迸る。
(う、うそ・・・)
 そのことを一番信じられないのはクリスだった。自分は露出狂でも快楽狂でもない。それなのに、官能の炎はどんどんと大きくなっていく。
「一度、達しろ」
 ジルの右手がクリスの右乳房と右乳首を、左手がクリスの秘部を繊細に、しかし大胆に責める。
「あ、ん・・・ふぁぁぁぁぁっ!」
 クリスの官能は一気に危険水域を越えた。屈服の叫びを上げたクリスは、ジルの胸に体を預けるようにして脱力していた。
 荒い息を吐くクリスを見下ろし、ジルが冷たく告げる。
「さて、最後の一枚だ」
 ジルの手がクリスのアンダーサポーターに掛かる。観客の目が、次に来るであろう瞬間を凝視していたときだった。

<カンカンカン!>

 突如ゴングがなった。これには会場内が凄まじいブーイングに包まれる。そのブーイングの矛先は、レフェリーである志乃に向けられていた。
「・・・なぜ止めた?」
「これ以上はレフェリーとして認めることはできないわ。さ、リングを降りなさい」
 冷たいジルの視線を平然と受け止め、志乃はリング下を指差した。
 ジルが緩やかに立ち上がった。その長身から見下げられると、更に圧迫感が増した。
「レフェリーには従わねばなるまいな」
 ジルは右手を胸に当て、優雅に一礼してみせた。そのまま滑らかに体の向きを変え、リングを降りて花道へと姿を消した。
 ジルの後ろ姿を見つめる志乃の頬を、汗が一筋撫でていった。


 一回戦第十二試合勝者 ジル・ジークムント・ヴァグナー
  二回戦進出決定


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