【一回戦第十五試合】
 (沢宮冬香 対 猿冠者)

「一回戦第十五試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の選手がリングに上がった。
「赤コーナー、『ベアパンツ』、沢宮冬香!」
「沢宮冬香」。21歳。身長161cm、B88(Eカップ)・W59・H91。ショートカットにされた栗色の髪。鋭い光を放つ目と細い眉。常に結ばれた唇。見る者に意志の強さを感じさせる整った顔立ち。現在大学生で、テコンドー同好会に所属している。大学対校試合で活躍し、オリンピック候補に挙がったほどの実力の持ち主。
 前回のシングルトーナメントでは一回戦で茨木美鈴に勝利し、二回戦では元橋堅城に敗れている。
 今日もWTF系のテコンドー着を身に着け、手にはオープンフィンガーグローブを装着している。
「赤コーナー、『フライングモンキー』、猿冠者(さるかじゃ)!」
 猿冠者とコールされたのは、顔に猿を思わせる白と赤のメイクをし、侍を思わせる薄水色の裃と白足袋を身に着けた男だった。まるで仮面を着けているように無表情で、目だけがぎょろりと動く。
<地下闘艶場>では二戦を行い、嵯暁紫苑を失神KOに追い込み、その妹である嵯暁スミレにKO負けを喫している。高い身体能力を有し、決して弱者の部類には入らない。
 この試合を裁くのは三ツ原凱だった。猿冠者にボディチェックを終えると、冬香の前に立つ。
「それでは、ボディチェックを行います」
「ええ、どうぞ」
 前回のシングルトーナメントでは、たいしたことはされなかった。その記憶が冬香にあっさりと受け入れさせたが、凱がいきなりバストを掴んできたことでその手を振り払っていた。
「ど、どこ触ってるのよ!」
「どこと言われても、触らなければボディチェックを行えませんが?」
「だから、触る場所が問題なの!」
「わかりました。では、胸には触りませんので」
 この凱の言葉に、冬香は渋々ボディチェックを受け入れた。今度は凱は普通のボディチェックを行い、冬香の体を押さえていく。
(まったく、最初っからこうすれば・・・!?)
 いきなり股間を触られた。
「ちょっとぉ!」
 叫ぶ冬香を余所に、凱はゴングを要請した。

<カーン!>

「あ・・・もう、後で覚えてなさいよ!」
 ゴングが鳴らされればそれ以上は追求できず、冬香は猿冠者を睨みつけた。
(・・・なんか、不気味)
 一見したとき、猿のようなメイクは笑いを誘われたものだが、実は表情が読みづらい。また上体を揺らしていることで、地味に間合いが測りづらい。
(待ってるのは性に合わないわ、行く!)
 間合いを計り、鋭い踏み込みから横蹴りを放つ。
 冬香の横蹴りは猿冠者に届かなかった。否、届かなかっただけでなく、猿冠者の踏み台とされていた。
「あぐっ!」
 驚愕と同時に痛みが弾ける。二段の跳躍を見せた猿冠者は、冬香の右脇腹を蹴って更に跳躍し、冬香の後頭部へ鋭い一撃を入れていた。
 冬香の視界が揺らぎ、リングに倒れていた。
「う・・・ぐぅっ・・・」
 呻く冬香を猿冠者が押さえつけ、バストを揉み始める。
「な、なにして・・・」
 その手を払いたい冬香だったが、後頭部への一撃は脳を揺らしていた。上げかけた手に力は入らず、再びリングに落ちる。すると猿冠者は冬香の上着の裾を掴み、脱がし始めた。
(ちょっと!)
 心の中で叫ぶが、口からは吐息となって洩れるだけだった。
 遂に猿冠者が冬香の上着を脱がしてしまい、リング下に放り投げる。
「・・・くぅぅっ!」
 奥歯を強く噛み締め、リングを殴りつけ、ようやく冬香が立ち上がった。
(しゃきっとしなきゃ! 一撃食らっただけで負けなんて、情けないことできない!)
 ふらつく足を踏みしめ、両頬を思い切り叩く。気持ちのいいくらい高い音が鳴り、冬香は構えを取った。しかし上着を脱がされ、ブラを露わにされた姿に対して観客席から野次が飛ぶ。
「・・・サァァッ!」
 自らに気合いを入れ、猿冠者への攻撃を開始する。
 距離を詰めながらの左前蹴り、右上段回し蹴り、左飛び後ろ回し蹴り、左横蹴り。凄まじいキレとスピードの乗った猛襲だったが、猿冠者はその連撃を尽くかわして見せた。
(なんで! なんで当たらないの!)
 焦る冬香だったが、原因は冬香にあった。基本に忠実な冬香の蹴りは、逆に言えば至極見切りやすかったのだ。
(でも!)
 息も継がせぬ連続技が、猿冠者をコーナーへと追い詰めていた。
「イヤァッ!」
 狙い澄ました右前蹴り。猿冠者のドテッ腹を抉る筈の一撃は空を切った。
「あっ!」
 目前に迫る飛び蹴りを転がることで辛うじてかわし、立ち上がった冬香が猿冠者を睨む。コーナーに追い詰められた猿冠者は背後を見もせずにロープを蹴って上空に舞い、冬香の蹴りをかわすのと同時に攻撃に転じていたのだ。
(なんて奴なの・・・でも、ジャンプ力なら絶対に負けない!)
 猿冠者の華麗な飛び蹴りが、冬香の闘志に火を点けた。軽くステップを踏みながら間合いを計り、細かいフェイントを入れて機を窺う。
「せぇぇぇいっ!」
 気合いを込めた飛び横蹴りは、ほとんどタメを使わなかったというのに猿冠者の顔面を狙っていた。しかし、一瞬で標的が消失する。
「・・・そんな」
 猿冠者の跳躍は冬香の頂点を更に上回っていた。愕然とする冬香の側頭部を猿冠者の蹴りが叩く。
「あぐっ!」
 側頭部への蹴りでバランスを崩し、背中からリングに落ちる。
「ひっぐ・・・ううっ・・・」
 落下の衝撃が内臓を揺さぶり、立ち上がるどころか丸まることしかできない。
 呻く冬香に歩み寄った猿冠者が、冬香のズボンを脱がしてリング外に捨てた。下着姿とされた冬香に対し、観客席から卑猥な声援が飛ぶ。
 まだ動けない冬香を、猿冠者が引きずってロープまで連れて行く。そこで無理やり立たせ、両腕をロープに拘束する。両足も同様にしてから、猿冠者がブラをずらした。そのまま乳房を揉み始める。
(ま、またこんなこと・・・)
 セクハラを受けることは覚悟して上がったリングだったが、覚悟していたとしても不快感が減るわけではない。
「や、やめな、さいよ・・・」
 ようやく出た声には迫力の欠片もなかった。聞こえないのか、聞く耳を持たないのか、猿冠者は冬香の乳房を揉み続ける。
「やめろって、言ってるでしょ・・・」
 思うように動かない体でもがいても、ロープの拘束は外れてくれない。
「ギブアップしますか?」
 レフェリーの凱が聞いてくるが、冬香は首を振った。勝って高額のファイトマネーを手に入れ、義姉が、琴音が所属する和太鼓集団に寄付するのだ。簡単に諦めるわけにはいかない。乳房から与えられる感覚を堪え、唇を噛む。
 しかし、冬香の身体は猿冠者の行為に反応してしまっていた。乳房を揉まれ続けたことで乳首が硬度を増し、立ち上がってしまった。
 その硬くなった乳首を、猿冠者が撫で、弾く。
「ひぐぅっ!」
 いきなり上がった感度に、意図せぬ声が洩れていた。
「駄目、それ・・・ひぃぃっ!」
 しかし、更に追い討ちがきた。硬くなった両乳首を摘まれ、同時に振動を送られる。
「うっ、くぅっ、ひぃぐっ!」
 手足を動かして快感を逃がしたいが、ロープに拘束されていてはそれもままならない。
 それでも耐える冬香から、何故か猿冠者が離れた。
「あ・・・ふ・・・」
 それを疑問に思うこともなく、冬香は荒い息を吐く。
「まだギブアップはしませんか?」
 そう聞いてきた凱が、冬香に手を伸ばす。レフェリーである筈の凱までもが冬香の乳房を揉み、乳首を捏ねてくる。
「し、しないって言ったじゃない! と言うか触らな・・・ひぁぁっ!」
 凱の優しい手つきが冬香を高めてくる。
(な、なんで! なんでこんなにされちゃうの?)
 凱の手に翻弄される冬香に、再び猿冠者が近寄る。冬香のむっちりとした太ももを撫で回してから、下着に守られた股間を撫でてくる。
「いやっ!」
 激しく首を振り、猿冠者の手から逃れようとしても、凱と猿冠者の責めがそれをさせない。
 乳房を優しく揉まれ、乳首を扱かれ、下着の上からとは言え秘部を撫でられる。屈辱と望まぬ快感に、冬香の口からは喘ぎが零れる。
(駄目、このままじゃ・・・あっ!)
 遂に、猿冠者の手が下着の中にまで潜り込んできた。
「きゃぁぁぁっ!」
 悲鳴を上げた冬香など気にも留めず、猿冠者は直接秘裂をなぞってくる。
「あ、ぃや・・・!」
 必死に腰を引こうとする冬香だったが、猿冠者は容赦なく秘裂を責めてくる。
「んっ、あふっ・・・んんぅっ!」
 いきなり猿冠者が指を抜き、冬香の目の前に突き出す。その指はなぜか濡れ光っていた。
「おや、冬香選手は感じているようですね」
 乳房をあやしながら、凱が真面目な口調で語りかけてくる。
「違う・・・そんなんじゃないの・・・」
 弱々しく首を振り、否定する冬香だったが、猿冠者の指についた証は消えなかった。猿冠者は自分の指で冬香の頬をなぞる。まるで、冬香に認めさせようかとでも言うかのように。
「違う、ちがうぅぅっ!」
 それでも拒む冬香に苛立ったのか、猿冠者は冬香の頬を両側から掴み、口が閉まらないようにして指を突っ込んだ。
「んっ、ぐぶっ、うぶぇ」
 冬香が苦しげに呻いても、猿冠者は指を何度も前後させ、味を堪能させる。その様は別の行為を想起させ、会場のあちこちから生唾を呑む音が聞こえてくる。
「・・・ぷはぅ」
 猿冠者が指を抜くと、冬香の唇との間に唾液の橋が掛かる。咳き込む冬香など気にも留めず、猿冠者はしゃがみ込んだ。
「・・・まさか」
 猿冠者の手がパンティにまで掛かった瞬間、冬香が叫んでいた。
「ギブアップするから! もうしないでぇ!」

<カンカンカン!>

 冬香のギブアップ宣言を聞き、凱はゴングを要請した。ゴングを聞いた猿冠者はゆらりと立ち上がり、リングを後にした。
 自ら敗北を請うた冬香は、唇を噛み締め、悔しさを堪えていた。半裸で拘束された姿のままで。


 一回戦第十五試合勝者 猿冠者
  二回戦進出決定


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