【一回戦第三試合】
 (カミラ・アーデルハイド・バートリー 対 恵比川福男)

「それでは、一回戦第三試合を行います!」
 黒服の合図と共に、対戦する二人がリングに上がる。
 先にリングに登場した魔性の美少女を見た瞬間、会場が恍惚のため息に包まれた。ため息の余韻が消えた頃、ようやく選手コールが行われる。
「赤コーナー、『ドラキュリーナ』、カミラ・アーデルハイド・バートリー!」
「カミラ・アーデルハイド・バートリー」。19歳。身長172cm、B102(Jカップ)・W60・H89。内側から輝きを発しているかのような亜麻色の髪。長い睫毛。妖艶な瞳。赤くぬめる唇。「魔王が祝福を与えたような」人間離れした美貌に、万人が惹きつけられてしまう。
<地下闘艶場>には初登場であり、その出場の経緯は様々な憶測を呼んでいる。
 カミラは和服を着ていた。しかし完璧な着付けではないため、胸元はくつろいで胸の谷間がはっきりと見え、裾は割れて太ももが半ばまで見えている。
「青コーナー、『壊し屋柔道家』、恵比川福男!」
 カミラと対戦するのは、鬼瓦を思わせる風貌の恵比川だった。着古した柔道着に黒帯を締め、カミラの美貌に唇を舐めている。
 前回のシングルトーナメントではダークフォックスと対戦し、寝技で追い込んだもののフォール負けを喫している。
「この試合を裁くのは、三ツ原凱です!」
 レフェリーの凱がリングに上がると、観客席からはまばらな拍手が起こる。優男の凱はしつこいくらいのセクハラボディチェックを行うことも、紳士的なボディチェックを行うこともあり、観客は中々単純には支持できなかった。
 凱は恵比川のボディチェックを終えると、カミラの前に移動する。カミラの格好に眉を顰め、素早く着付けを整えていく。
「これで宜しいでしょう」
「あら、これが正式な着方? 体が締め付けられるようね」
 カミラは一度全身を見渡した後、襟元を緩める。
「折角直して貰ったけれど、胸が苦しいの。悪いわね」
 胸の谷間を見せつけるようにしながら、カミラが艶然と微笑む。
 凱は一つ咳をしてから、ゴングを要請した。

<カーン!>

 闘いの始まりを聞いたカミラは、恵比川に視線を送る。
「貴方、ジュードー? カラテ?」
「・・・柔道だ」
 カミラの胸の谷間に見入っていた恵比川の答えが一拍遅れた。
「ならば、私も投げだけで応じてあげますわ。楽しませなさい」
 カミラの小指から曲げていくような手招きに誘われたように、恵比川がじわりと前に出る。
「くくっ、言われてなくても楽しませてやるわ。寝技でたっぷりとな」
 恵比川が組もうとした瞬間だった。まるで魔法に掛かったかのように恵比川のごつい体が宙を舞った。腕を支点に回転し、背中からリングに落ちる。
「あら、こんなものなの?」
 右腕一本で恵比川を投げて見せたカミラが、口の前に手を当てて軽やかな笑い声を上げる。
「ぬがぁぁぁっ!」
 怒りの咆哮を上げた恵比川が突進する。低く速い双手刈りだったが、僅かに腰を屈めたカミラが優しげに見える動きで左手首を捕らえていた。
 カミラは流れるように恵比川の左肘を逆関節に極めながら投げを打つ。投げの勢いと自重に、恵比川の肘関節が耐えられなかった。鈍い音がリングに響き、リングに落とされた恵比川の絶叫が続く。

<カンカンカン!>

 凱は素早く試合を止めた。恵比川の左肘は捻れ、有り得ない角度に曲がっていた。痛みにのたうつ恵比川を無理やり押さえつけ、担架に括りつけた医療班が急ぎ足で退場していく。
 余りにも鮮やかで残虐な勝利に、観客席からは声もなかった。
「日本の正装というのは、とても動きにくいものなのね」
 場違いな感想を洩らし、カミラは静まり返った会場を後にした。


 一回戦第三試合勝者 カミラ・アーデルハイド・バートリー
  二回戦進出決定


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