【一回戦第六試合】
 (稲角瑞希 対 茨木美鈴)

 栗原美緒が一回戦で姿を消すという波乱に、観客席のざわめきが収まらない。そんな騒然とした雰囲気の中、次の試合が始まる。

「一回戦第六試合を始めます! 選手、入場!」
 黒服の合図と共に、二人の女性選手がリングに上がる。
「赤コーナー、『ミス・リー』、稲角瑞希!」
「稲角瑞希」。17歳。身長162cm、B86(Dカップ)・W62・H88。太い眉、大きな瞳のボーイッシュな魅力を持つ勝気な高校生。髪型はボブカットで襟足だけ伸ばし、三つ編みにしている。左頬にうっすらと真横に走る傷があるが、これは高校一年のとき、近所を走り回る暴走族が五月蠅いからとヌンチャクを手に殴り込みをかけ、メンバーの男六人を病院送りにしたときにナイフで切られた跡である。
 今日はズボンタイプの黒い上下のカンフー着を着込み、準備運動に余念がない。
 前回のシングルトーナメントではジョーカーに敗れ、試合後に嬲られそうになったときにアシュタルト・デフォーから救出されている。
「青コーナー、『女王様』、茨木美鈴!」
 対するは「茨木美鈴」。22歳。身長174cm、B92(Fカップ)・W66・H94。髪を真っ赤に染めた、きつめの顔立ちの美人。長身にFカップの巨乳、大きなヒップという迫力ボディ。普段はSMクラブで「女王様」として働いている。
 前回のシングルトーナメントでは沢宮冬香と対戦し、セクハラに夢中になりすぎて逆転負けを喫している。今日もいつもどおりの黒革のボンデージ姿で艶然と構えている。
「この試合のレフェリーは三ツ原凱です!」
 リングに上がった凱は観客席に向かって一礼し、瑞希と美鈴に諸注意と通常のボディチェックを行うとゴングを要請した。

<カーン!>

「うわー、今日の試合は変態さんかぁ」
「誰が変態よ!」
 瑞希の素直な感想に、美鈴が柳眉を逆立てる。
「その発言、高くつくわよ!」
 タックル、というよりも体格を生かした美鈴の体当たりを、瑞希はぎりぎりでしかかわせなかった。肩を掠られ、僅かではあるが体勢を崩す。
 生まれたのは微かな隙だったが、美鈴がそれを見逃さなかった。急激な方向転換で再度タックルを出し、瑞希の両足を抱え込んでいた。
「しまっ・・・!」
 言葉を発するよりも速く、リングに背中を打ちつけられる。
「あぐっ!」
 素早く背中を丸めて受身を取ったものの、衝撃に一瞬息が詰まる。
「うふふ、捕まえたわよ子猫ちゃん。どうしてあげようかしら」
 瑞希の膝の上に乗り、マウントポジションを取った美鈴が恐い笑みを浮かべる。
(やっば! ボク、寝技苦手なのに)
 瑞希の通うジークンドー道場では寝技の練習も行われるが、瑞希は寝技よりも派手な立ち技を好み、あまり寝技に習熟していない。苦し紛れに下からパンチを放ってみるが、まるで美鈴に届かない。
「あらあら、子猫ちゃんがじゃれてくるわ。猫パンチじゃ効かないわ・・・よっ!」
 逆に美鈴のパンチで下腹を潰され、内臓の痛みに呻き声を洩らす。それでも諦めず何度もパンチを放ち、暴れるものの、上になっている美鈴が巧みに重心を移動させ、まるで隙を作らない。
「頑張るわねぇ。でも、それじゃ駄目よっ!」
「ぶげぇぇっ!」
 再び美鈴のパンチが腹部を抉る。同じところを打たれると、先程に倍する痛みが襲い掛かる。
「あっ、がふっ、げぇぇ・・・」
「あら、喜んでくれてるみたいね。なら、オマケよっ!」
 今度は鳩尾を打たれ、痛みに絶叫する。悶絶したいのに、上に乗った美鈴がそれすら許さない。
「どうしたの? 抵抗はもうおしまい?」
 美鈴がわざとらしくバストをつついてくる。
「・・・さわ、るな」
 弱々しく振った手は、美鈴によって頭上に押さえつけられる。
「まだこれで終わりじゃないわよね? 子猫ちゃん」
 美鈴の舌が瑞希の鼻の頭を舐める。
「くぅっ!」
 苦痛を堪え、瑞希がブリッジを作ろうとする。しかし美鈴にあっさりと潰され、再び押さえ込まれる。
「寝技は苦手? うふふ・・・なら、今日は私がたっぷりと教えてあ・げ・る・わ」
 熱い吐息を吹きかけながら、美鈴の手足が瑞希に絡みつく。瑞希の両手を背後に回して左手で拘束し、瑞希の太ももを両脚で挟み込む。
「はな、せぇ・・・」
「い・や・よ」
 美鈴の右手が瑞希の胸に伸び、バストをゆっくりと揉み始める。
「さ、触るな!」
 もがく瑞希だったが、美鈴の関節技はまるで解けなかった。そんな瑞希の様子を楽しげに眺めながら、美鈴はバストの感触を味わっている。
「うふふ、おっぱいもいいけど、ここはどうかしら?」
 美鈴の指が瑞希のバストから離れ、鳩尾を撫で、臍をくすぐり、恥丘を通って秘部をつつく。
「そ、そ、そんなとこ触るなぁ!」
「嫌よ、触るに決まっているじゃない」
 美鈴の指がカンフーズボンの内側に潜り込み、下着の中で蠢く。
「あひゃぅっ!」
 いきなり敏感なところを触られた瑞希が声を上げる。
「あら、可愛い反応するじゃない」
「うるさい! そんなこと・・・ふぁぁっ!」
 勝気な美少女が大柄な美女に秘部を責められ、喘ぎ声を上げる。そのシチュエーションに、観客席からは唾を飲む音も聞こえてくる。
「うふふ、可愛い」
「ひゃぅんっ!」
 美鈴の舌が瑞希の耳の穴に潜り、奇妙な吐息を生ませる。
 その後も美鈴の責めは続き、瑞希は翻弄され続けた。

 瑞希のカンフーズボンの中で指を動かしていた美鈴が何かに気づく。
「あら、濡れてきたわよ? 厭らしい子猫ちゃんねぇ」
「だ、誰がそんな・・・ひぅぅっ!」
「嘘はいけないわよ?」
 淫核を押さえて瑞希の反論を遮り、更に秘裂をなぞる。
「さて、と・・・そろそろキメてあげようかしら?」
 濡れた秘部を弄りながら、美鈴が唇を湿す。
「お断りだよ・・・変態女!」
 いきなり美鈴の肘から電気が奔った。余りの痛みに、美鈴は瑞希を解放してしまっていた。
「・・・小癪な真似するわね」
 瑞希が美鈴の肘の急所を親指で突いたのが原因だった。
「でも、ちょっとくらい抵抗してくれたほうが燃えるのよねぇ」
 立ち上がった美鈴は何度か左手を振り、唇を舐める。
「うふふ・・・素っ裸に剥いて、飛び切り恥ずかしい格好をさせてあ・げ・る・わ!」
 体当たりにも似たタックルで一気に距離を詰めた美鈴だったが、瑞希の姿が掻き消えた。
「っ!?」
「ほぅあぁぁぁっ!」
 怪鳥音と共に放たれたサマーソルトキックは美鈴の顎を捉え、一発で戦闘力を奪っていた。

<カンカンカン!>

 美鈴が意識を失ったと見て、レフェリーの凱は素早くゴングを要請していた。
「見たかこの変態!」
 気絶した美鈴に指を突きつけ、瑞希は足早にリングを降りた。


 一回戦第六試合勝者 稲角瑞希
  二回戦進出決定


 瑞希が花道を抜け、控え室へと続く廊下に差し掛かったときだった。
「瑞希!」
 自らの名を呼ぶその声に、瑞希の表情がげんなりとしたものに変わる。
「・・・なんでキミがここにいるのさ」
 瑞希にすっと歩み寄ったのは、着流し姿に短めの棒を携えた若い男だった。髪が金色でなければ、まるで違和感がなかったであろう自然な着こなしだった。
「アシュタルト・デフォー」。<地下闘艶場>で瑞希と闘い、リング上でプロポーズしたフランス人だった。
「なんでって、瑞希が心配だからじゃないか。フィアンセの身を案じるのは男の責務だよ」
「誰がフィアンセだ!」
 瑞希はそう言うが、瑞希の両親は既にアシュタルトを婚約者だと認めている。アシュタルトが自宅に顔を出すのも、月に一、二度どころの頻度ではない。
「ここから見てたけど、かなり苦戦してたね」
「・・・あれは苦戦じゃなくて、その・・・」
 反論しようとして、自分がどんなに恥ずかしいことをされたのかを思い出してしまう。
「うるさい、バカァッ!」
 真っ赤になって怒鳴る瑞希の肩に、アシュタルトは優しく手を置いた。
「大丈夫、レズビアンに目覚めても瑞希は瑞希さ。それにもしそうなっても、僕の熱いベーゼで元に戻して・・・」
 瑞希の唇目掛けて降りていくアシュタルトの唇は、掌底で迎撃された。
「バッッッカじゃないのか!」
 顔を赤らめて走り去った瑞希を見送り、アシュタルトは頬を掻いた。
「やれやれ。相変わらず照れ屋さんだなぁ、瑞希は」
 本気の口調で呟くアシュタルトの肩を、ぽんと叩く者が居た。
「やあ。次の試合、頑張ってね」
 その相手に、アシュタルトは微笑を送った。顔を真っ白に塗り、目と口には黒いペイント、黒い付け鼻をしたその人物は、シルクハットをちょいと掲げることで挨拶に代え、花道へと進んでいった。


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