【二回戦第七試合】
 (櫛浦灰祢 対 阿多森愚螺)

 先程の騒動の余韻が残る中、次の試合の用意が終わった。
「これより、二回戦第七試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『マッスルビューティー』、櫛浦灰祢!」
「櫛浦(くしうら)灰祢(はいね)」。23歳。身長181cm、B121(Lカップ)・W77・H104。眉も目も跳ね上がるように鋭く、短めに切った髪を茶色く染めている。まるで化粧っ気がないが、生命力溢れるような容貌が人の目を引き付ける。また女性にしては筋肉量が多く体格が良過ぎるほど良いが、実は腰の位置が高く、手足も長い均整が取れたプロポーションをしている。
 灰祢は年の離れた弟を養うため、普段は土木作業員として働いている。殴り合い寸前となっていた同僚の男二人の首根っこを掴み、吊り上げることで喧嘩を止めたという武勇伝を持つ。
 一回戦では虎路ノ山と対戦し、巨体を誇る虎路ノ山をパワーで捻じ伏せた。今日も一回戦同様、男物のトレーナーにアーミーパンツという服装だった。
「青コーナー、『伸縮自在』、阿多森愚螺(ぐら)!」
 阿多森は黒いボディタイツの上に道衣を着込み、頭には広めに畳んだバンダナを巻いている。
 一回戦では凪谷渚と対戦し、試合終了のゴングが鳴った後まで渚を嬲っている。
 この試合のレフェリーは三ツ原凱だった。
「またあんたかい。この前はよくも人の体を触りまくってくれたね」
 凱を認めた灰祢が指の関節を鳴らす。凱は軽く首と肩を竦め、試合開始の合図を出した。

<カーン!>

「あっ、この・・・」
 ゴングが鳴れば、レフェリーに構ってはいられない。灰祢は歯噛みしながらも阿多森に向き直った。
「こりゃまたデカい姉ちゃんだな。色んなとこもデカいけどな」
 その阿多森もまた灰祢を不愉快にさせてくれる。
「・・・言ってくれるね。今機嫌が悪いんだ、死んだら地獄で後悔しな!」
 突進しようとした灰祢の頬を、何かが張り飛ばした。
「っ!」
 痛みよりも驚きに灰祢は動きを止めていた。
(なんだ、今のは)
 阿多森の攻撃が届く距離ではない。しかし、灰祢の頬を叩いたのは紛れもなく阿多森の拳だった。
「見えたか? 驚いたか?」
 阿多森が長い舌を出し、笑う。
「ちっ!」
 馬鹿にされたことを後悔させてやろうと前に出た灰祢だったが、またも頬を打たれてしまう。
「てめぇ・・・」
 阿多森は、自分の肘と手首の関節を外し、無理やり突きのリーチを伸ばしていた。そのカラクリはわからない灰祢だったが、怒りが貯まる。
「こんなこともできるんだぜぇ」
 阿多森の右手がだらりと垂れ、伸びた。
(なんだこいつ、びっくり人間か?)
 思わず息を呑んだ瞬間、視界の端から端を何かが奔った。それに遅れ、灰祢のトレーナーの胸元がぱくりと開く。
「っ!?」
「げひゃはっ、体もでかけりゃ、おっぱいもでかいな!」
 服から零れた灰祢のバストに、阿多森は下品な感想を漏らす。
「あんた、びっくり人間の分際で!」
 突進しようとした刹那、またもトレーナーが切られる。
「それくらいで!」
 胸元を隠そうともせず、阿多森に肉薄する。
「そっちから近づいてくれるとはな」
 その動きに呼応するかのように、阿多森も前に踏み出した。
(馬鹿が!)
 不用意に距離を詰めた阿多森を捕まえようと、灰祢が両手を広げる。
「フンッ!」
 その瞬間、阿多森の<螺旋突き>が灰祢の鳩尾を抉った。
「あ・・・げぅ・・・」
 特殊な靭帯を生かし、人体の駆動域を遥かに超えた関節の回転で突き出す<螺旋突き>の衝撃は、灰祢の分厚い腹筋をも貫き、内臓を揺さぶった。脳の許容範囲を超えた痛みに、灰祢の目が裏返り、リングに倒れ伏す。
「まずは試合を終わらせとくか」
 フォールに入った阿多森が凱を見上げる。
「ワン、ツー、スリー!」

<カンカンカン!>

 凱が素早くスリーカウントを取り、試合終了のゴングが鳴らされた。しかし、ゴングが鳴らされたというのに、阿多森は灰祢の衣服を剥ぎ取り始めた。
「げひゃっ、こうして見ると女らしいプロポーションじゃねぇかよ」
 灰祢をほぼ下着姿に剥いた阿多森が舌舐めずりする。
「それじゃ、この色気のねぇブラを外すと・・・」
 灰祢のバストをすっぽりと包んでいるブラをずらした瞬間、その爆乳が露わとなる。
「・・・こいつはまた」
 そのあまりの大きさに言葉を失っていた阿多森だったが、唇を舐めてから爆乳を揉み始める。
「すげぇ、こんなデカいおっぱいは初めてだ。両手でも足りねぇってどんだけだ」
 まるで子供が粘土遊びをするように、阿多森は両手で灰祢の乳房を変形させ、楽しむ。
「案外乳首も綺麗な色してるじゃねぇか。あんまり遊んでなさそうだな」
 阿多森が乳首に標的を変え、捏ね始める。やがて、両方の乳首が硬さを湛えて立ち上がった。
「げひゃはっ、立った乳首もデカいな!」
 嬉しさと嘲りとを込め、乳首を扱く。しかし灰祢はまだ失神したままで、眉だけが寄る。
「おっぱいがこんなにデカいんだ、アソコもデカいか観察してやるか」
 阿多森の手が、灰祢のパンティにまで掛かる。
「そこまでにしておきましょう」
 しかし、その手を押さえた者が居た。
「ああ!? 何してんだてめぇ!」
 レフェリーの凱だった。阿多森の手を押さえただけではなく、灰祢のパンティからそっと外させる。
「てめぇ、レフェリーなのになんで止めるんだよ!」
 阿多森の「観客も望んでいるじゃないか」という意味を込めた叫びだったが、次の凱の発言は阿多森の予想を超えた。
「この女(ひと)がタイプなもので」
 凱の物言いに、阿多森は唖然となった。
「・・・もういいや、興味が失せた」
 阿多森は意識を失った灰祢の上から退き、一度凱に視線をやってからリングを降りた。
 凱は自分のシャツを脱ぎ、優しく灰祢に掛けた。露わになった凱の上半身は、意外にも引き締まり、見事な筋肉がついていた。
 凱はそのまま灰祢の巨体を抱え、静かにリングを後にした。


 二回戦第七試合勝者 阿多森愚螺
  三回戦進出決定


幕間劇 其の六へ   目次へ   二回戦第八試合へ

TOPへ
inserted by FC2 system