【準決勝第二試合】
 (ジル・ジークムント・ヴァグナー 対 於鶴涼子)

 これから、準決勝のもう一試合が始まる。チャベス・マッコイを倒して参戦し、クリスティーナ・ローゼンメイヤー、天現寺久遠という<地下闘艶場>トップクラスの女性選手を嬲り尽くして勝利、元橋堅城にまで完勝して見せたジル・ジークムント・ヴァグナーと、<地下闘艶場>でも屈指の実力を誇る前回ファイナリストの於鶴涼子が激突する。

「これより、準決勝第二試合を行います!」
 黒服の合図と共に、二人の男女がリングへと上がる。
「赤コーナー、『シュバルツ・リッター』、ジル・ジークムント・ヴァグナー!」
 リングに佇むスーツ姿の長身の美青年に、観客から凄まじい歓声が飛ぶ。最早優勝は動かないかのような雰囲気さえある。しかし、それも当然かもしれない。
 チャベス・マッコイを倒して飛び入り参加を認めさせ、クリスティーナ・ローゼンメイヤー、天現寺久遠という実力上位の女性選手に完勝しただけでなく、三回戦ではあの元橋堅城にまで勝利したのだ。
<地下闘艶場>を猟場に定めた異邦の狩人。それがジル・ジークムント・ヴァグナーだった。
「青コーナー、『クールビューティー』、於鶴涼子!」
「於鶴涼子」。21歳。身長163cm、B85(Dカップ)・W60・H83。「御前」の所有する企業の一つ「奏星社」で受付をしている。長く綺麗な黒髪と涼しげな目、すっと通った鼻梁、引き結ばれた口元。独特の風貌を持つ和風美人である。
 ミステリオ・レオパルド、猿冠者、阿多森愚螺と男性選手を叩き潰し、今回も準決勝まで勝ちあがった。今日も長い黒髪を束ね、凛とした道衣姿でリングに居る。
(この方が、元橋様を・・・)
 敬愛する老人から文句のつけようがないほどの勝利を挙げた男。仇だと猛る闘志とジルの実力への怯懦が胸中に入り混じり、早鐘のような鼓動となる。
 この試合のレフェリーは三ツ原凱だった。凱はジルのボディチェックを終えると、涼子に歩み寄る。
「・・・ジルの左腕を」
 ボディチェックをしていた凱が、涼子の耳にだけ届くように囁いた。意味を問い返す前に、凱の合図でゴングが鳴らされた。

<カーン!>

(罠、ではないでしょうね)
 ジルは元橋を破った相手だ。ということは、主催者には排除したい選手であるに違いない。「ジルの左腕」に何があるのかはわからないが、付け入るのならばそこしかあるまい。
(しかし、なんと言う威圧感・・・)
 恐るべきはジルだった。まだ構えすら取っていないのに、その姿に気圧されてしまう。元橋と対峙したときと、否、それ以上に感じる圧迫感は異常だった。
 しかし前回のシングルトーナメントで、古池虎丸という野獣のような気を纏った強者との対戦が、涼子に僅かな落ち着きを持たせていた。
(呼吸・・・少しだけ速い、指・・・強張っていない、膝・・・固まっていない。大丈夫、行けます)
 コンディションを確認し、静かに口から息を吐き、ゆっくりと鼻から吸う。
(左腕に何が隠されているのかはわかりませんが、素直にそこを狙うわけにもいきませんね)
 ジル本人も庇うであろうし、左腕に固執すれば、自らの動きが固定されてしまう。静かに戦術を練る涼子は、凄艶な美しさを湛えていた。
「冴えた美、というやつか。まったくこの大会、カミラ様には及ばぬものの、美しい女が揃っているな」
 本心から感心したジルの口調だったが、涼子は反応を見せない。
「美貌は見せて貰った。では、実力のほどを見せてもらおう」
 一歩踏み出したジルが、ノーモーションで掌底を放つ。ボクサーのジャブ並みの速度だったが、涼子も反応していた。否、反応しただけでなく、両手でジルの手首を挟みながら体を落とすことで投げを打つ。ジルは逆らわずに投げられるが、その体は宙で反転し、リングに両足で着地する。
「やるな」
 短く呟いたジルから、闘気が迸る。
(なんという、圧力・・・!)
 先程感じた威圧感すら恐ろしかったというのに、更に倍した闘気が殺到してくる。涼子自身は気づかぬままに、その体が萎縮していた。そのため、ジルが伸ばした左手に反応が遅れた。
「くっ」
 掴まれた左袖を振りほどこうとした瞬間、もう宙を舞っていた。
(なんという技の速さ!)
 即座にキャンパスが迫ってくる。受身を取ろうとした瞬間、微妙にポイントをずらされていた。
「あがっ!」
 腹部右側面をキャンパスに強打させられ、息が詰まる。
「さて・・・」
 しゃがみ込んだジルは涼子の上着を脱がすと、サラシも外した。衣擦れの音に遅れ、涼子の美乳が露わとなる。
「日本人は肌の肌理が細かいな」
 肩を撫でたジルは、その手を乳房に下ろす。
「むぅ、手の平に馴染み、吸い付いてくるな」
 涼子の乳房を揉みながら、ジルは思わず感嘆の声を洩らしていた。過去何十人もの女性を相手にしてきたが、ここまでの感触は初めてだった。何度も揉み、弾ませる。
「やめてください」
 ようやく声が出せるようになった涼子は言葉で拒む。まだ体は動かないためだ。
「何故だ? 乳首も硬くなっているというのに」
 ジルは手を休めず、涼子の乳房と乳首を責める。
(そんな!)
 信じがたい涼子だったが、ジルの言うとおりだった。あれだけの刺激で、既に乳首が硬くしこっている。
(私がこんなに感じやすいわけがない!)
 身体の変化を認めたくなくても、ジルの指が乳首を弾き、硬さを思い知らせてくる。徐々に動くようになった体をくねらせるが、そんなことでジルの責めは止まなかった。
「物足りないか?」
 ジルが袴を結んでいた腰紐を解き、脱がしていく。
(好機!)
 前転しながらジルの手を蹴って脱出しようとした涼子だったが、ジルの反応のほうが速かった。
「おとなしくしていろ」
 ジルの掌底が背中から落ち、涼子をリングに縫いつける。
「がはっ! ごほがはっ!」
 剥き出しの背中からまともに衝撃を加えられ、涼子が悶絶する。ジルは脱がした袴を放り投げ、涼子が前を向くように胸の中へ抱きとめる。そのまま再び乳房への愛撫を開始する。
「どうしてもこの感触に誘われてしまうな。罪な胸だ」
 涼子の胸の所為にしながら、ジルは涼子の乳房と乳首を苛め続ける。
「くっ・・・うぅ・・・」
 噛み締められた唇からは、抑えようとしても抑えられない喘ぎが零れる。
「そろそろ、本格的に責めようか」
 遂に、ジルの指が下着の中に侵入する。叢の感触を楽しむように撫でてから、秘裂へと達する。
「ひぅっ!」
 涼子の腰が跳ねた。
(そんな、ここまで感じさせられるなんて!)
 淫核を的確に押さえられ、尚且つ振動を加えられる。ジルを振り払おうとする手に力が入らない。両手は拘束されていないのに、快楽でもって縛られている。
 ジルは親指で淫核を責めながら、中指で秘裂を虐める。
「濡れてきたぞ」
 冷たく告げただけで、ジルは責めを止めようとはしない。涼子から生まれた愛液を指先に塗して潤滑液とし、更に速い動きで涼子の感じる箇所を攻略していく。
「ううっ・・・くぅぁっ!」
 声を堪えようと唇を噛み、刺激を逃そうと大きく仰け反る。しかしその程度で消える快感の量ではなく、ジルの手で更に生産された快感が脳を犯してくる。
 ジルの手で責められる涼子に、観客席から幾百もの粘つく視線が集まり、会場の温度を跳ね上げる。
「どうした? もう絶頂も寸前、素直に感じろ」
 秘部から起こる水音を、ジルが更に激しくする。
「あああっ!」
 絶叫を零しながらも、涼子は絶頂を拒んだ。
(元橋様の仇を取ると決めた! 絶対に、達してなんてやらない!)
「しぶといな」
 涼子が心折れずにいることに小さなため息を吐き、ジルは下着から指を抜いた。
「見ろ。これだけ糸を引いている」
 その指を涼子の前で広げ、濡れ光る液体を見せつける。
「っ!」
 それを見まいと涼子が顔を背ける。否、明確な意志を持って顔を振った。顔の振りに体軸の回転を合わせ、リングを蹴る力も加えて無理やり脱出する。
「ほう、あそこから逃れるか。素直に快楽に溺れていれば良いものを」
 それでもジルは余裕を保っていた。ゆっくりと立ち上がり、下着一枚となった涼子を見据える。
「獲物が足掻けば足掻くほど、狩りというのは面白さが増す」
 ジルの口元には笑みが浮かんでいた。
「さて、その格好でどこまで抗ってくれる? 抵抗が止んだときには、最後の一枚も奪うとしよう」
 このジルの宣言に、観客席が大きく沸く。
「せいぜい足掻いてみせることだ」
 ジルに余裕はあったが、侮りはない。涼子が隙を衝くことも困難だった。
(どうすれば・・・どう闘えば、勝てるのでしょうか)
 ジルとの力量差は絶望的だった。
(元橋様・・・)
 しかし、元橋への想いが諦めを放棄する。身を守るのは下着一枚だけだが、心はまだ折れていない。
「!」
 ジルの動きに反応し、伸ばされたその手を払う。ジルの左手を弾いた瞬間だった。
「むっ?」
 突然ジルの動きが鈍る。
(ここしかない!)
「ジルの左腕」。凱が洩らした言葉を信じ、ジルの左側面から肉薄する。
「ちぃぃっ!」
 反射的に振ろうとしたジルの左手は、持ち主の意に反して僅かにしか持ち上がらなかった。その左腕の上から、涼子の重ねられた両手が叩きつけられる。
「うぐぁぁっ!」
 掌底が生んだ衝撃波が左腕を透過し、ジルの腹腔内を揺さぶる。
「・・・カハッ」
 涼子の<鎧通し>に、ジルが喀血する。そのまま右膝をつき、右手で体を支える。
(これで!)
 フォールに入ろうとした瞬間だった。ジルの蹴りが涼子の腹部を抉っていた。
「あっ・・・がはっ・・・」
 痛みが脳天にまで突き抜ける強烈な蹴りに、涼子は腹部を押さえたまま蹲る。
「負けられぬ・・・フロイラインのため、私は負けられないのだ!」
 文字通り血を吐きながら、ジルが叫ぶ。
「負けられないのは・・・こちらも同じ!」
 目の前の男に、元橋は敗れた。ならば自分が敬愛する人の仇を討つ、これこそ自分の使命!
 立ち上がった両者が視線をぶつけ合う。しかしそれも一瞬だった。先に動いた涼子が真っ直ぐ入ると見せかけ、瞬時にジルの側面に回り込む。
「なにっ!?」
 ジルの予想に反し、涼子はジルの右側面へと回り込んでいた。驚きがただの裏拳を放たせていた。
 涼子が優しく、柔らかく、ジルの軌道を逸らし、右手首を握る。
「はっ!」
 手首を支点とした投げに、ジルの体が宙を舞う。待ち受けていたロープがジルの背中に食い込み、ダメージを負った内臓に更なる衝撃を加える。
「せぇぇぃっ!」
 反動で浮き上がったジルの体を、手首を固めたまま放った投げでリング中央に叩きつける。ジルの口からごぼりと鮮血が溢れた。そのそばに跪いた凱がジルの顔の前で何度か手を振り、立ち上がって大きく腕を振る。

<カンカンカン!>

 涼子の勝利の鐘が会場に響く。
(勝っ、た・・・?)
 それでもまだ、勝利の確信が持てなかった。涼子の技量は尽く上を行かれ、半裸に剥かれ、絶頂寸前まで追い込まれた。それでも、元橋の仇を討ちたい一心で耐えた。そして、突然訪れた勝機。
 レフェリーの凱が洩らした「ジルの左腕」という言葉。その言葉どおり、ジルは試合途中から左腕を使えなくなった。
(おそらくは、元橋様の置き土産)
 元橋がジルとの試合で、この日のために仕込みをしてくれていたのだろう。言わば、元橋と涼子による二人での勝利だった。
(初めての共同作業・・・)
 その言葉があるシーンを連想させ、涼子は一人頬を赤らめた。


 準決勝第二試合勝者 於鶴涼子
  決勝進出決定


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