【エピローグ−2】

 その緊張を破ったのは第三者の叫びだった。
「竜司さん、こいつは俺の獲物です!」
 河井丈だった。紛れもない殺気を漲らせ、白い手袋をした両手を握り込んでいる。第二回シングルトーナメントにおいてジルに敗北を喫しただけでなく、恋人である天現寺久遠の唇を眼前で奪われるという屈辱まで与えられた。
 意外な乱入者に、竜司が「御前」に向き直る。
「『御前』・・・」
「良い。丈に任せよ」
「御前」の指示に従い、竜司は「御前」の背後に控えた。
「ありがとうございます、『御前』、竜司さん」
 丈は深々と「御前」と竜司に一礼し、改めてジルに対峙した。その眼は焔が宿っているかのようにぎらついている。
「一度力の差を教えてやったというのに、懲りない男だ」
 突然の変更に、ジルの表情は冷ややかな侮蔑で覆われていた。
「『男子三日会わざれば刮目して見よ』。この言葉を覚えておけ」
 普段よりも低い声を投げつけ、丈は右手を顔の前にかざした。
 丈の右手が顔を撫でた瞬間、黒と白に塗り分けられていた。その途端、灼熱の殺気がふっと消えた。替わりに、底の見えない不気味な迫力が滲み出す。
「化粧で実力が変わるわけでもあるまい」
 丈の変化を察知しながらも、ジルの余裕は崩れなかった。対する丈、否、ジョーカーは、内股で自らの肩を抱き、震えながら首を振る。
「・・・何の真似だ」
 ジルが一歩踏み出すと、ジョーカーは慌てて下がった。尻を後ろに突き出し、ジルを止めるかのように前に両手を突き出した、なんとも情けない格好で。
「・・・下衆が」
 侮蔑と怒りを纏い、ジルが前に出る。
「その道化ぶり、死を以って贖え!」
 ジルの突きは怒りを乗せ、ジョーカーへと吸い込まれていく。
 地下駐車場に、血の花が咲いた。

  (続く)


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