【幕間劇 其の九】
「・・・師匠」
直々に応急処置を施し、骨格の歪みも直した「御前」の呼びかけに、ベッドに横たわった元橋は上を向いたまま呟いた。
「やれやれ、儂も鈍った」
既に齢は七十を超えている。それでも幼い頃からの修練と日々の弛まぬ鍛錬が元橋を達人たらしめていた。しかし今、紛れもない敗北という事実と共にベッドの上で横たわっている。
「ジル・ジークムント・ヴァグナー、それほどの男だったか」
「それ以上、だの」
「御前」の確認に、元橋は修正を加えた。
「儂よりもか」
「・・・さぁて、の」
これには明確な答えを返さず、小さく息を吐いた。「御前」もそれ以上は追求しようとせず、話題を変える。
「点穴を突いたか」
「うむ」
常人には解されないやりとりだったが、二人の顔は真剣だった。
「久しぶりだからの。完璧に入ったかどうか、自信が持てん」
しかも相手はあのジル・ジークムント・ヴァグナーだ。元橋の弱気とも取れる発言を、「御前」は仕方なしとでもいうように緩く首を振った。
「上手くいけば、発動するのは・・・」
そこまで呟いて目を閉じた元橋に、「御前」は頷きを返してから立ち上がった。