【前 本編第三十三話】

「・・・なに、これ」
「笹塚水華 様」とだけ書かれ、住所も何もない封筒。不審に思いながらも開けた中には、数枚の写真が入れられていた。
 写真の水華は風呂上りと思しき半裸で、バスタオルとパンティだけを身に着けていた。形の良い乳房は全て見えており、乳首までもはっきりと確認できる。
 思わず取り落とした封筒から、一枚の紙が顔を覗かせる。「見たくない」という思いと、「見なければならない」という強迫観念に戸惑いながら、震える手で折りたたまれた紙を拾い、開く。
 そこに書かれていたのは、<地下闘艶場>という催し物に参加すること、参加しなければこの写真を水華の勤める小学校に張り出す、という脅迫だった。
 脳裏に教え子たちの顔が浮かぶ。あのあどけない笑顔の子供たちに、自分の裸が見られてしまう。そこには教育者としての恐怖しかない。
(何が目的なのかはわからない。でも、私にできることは・・・)
 紙をくしゃくしゃにすることも破くこともできず、水華はただ茫然と立ち尽くすのみだった。
 後に待つ、淫らな闘いの運命も知らずに。


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