【前 本編第四十話】

 控室は、一人の女性の発する熱気が渦巻いていた。金髪と彫の深い顔立ちが、彼女が日本の国籍ではないことを教えてくれる。紺色のサウナスーツは胸元が凄まじい盛り上がりを見せており、彼女の豊かな肢体を想像させる。
 女性は黙々と柔軟運動をこなし、体が解れた頃にシャドーボクシングを始める。ゆったりとした動きから始まったシャドーボクシングは、徐々にスピードを増し、鋭い風切り音を響かせる。
「・・・良し」
 満足のいくパンチが打てたのか、女性の唇が笑みを形作る。
(そろそろ準備しなきゃ)
 タオルで汗を拭き、ちらりと机の上に視線を投げる。
(仕方ないわよね・・・)
 視線の先にあったのは、ダークパープルの水着だった。それを水着と呼ぶには、女性には抵抗があるが。喉元から臍の下まで大きなカットが入れられているだけでなく、側面にも殆ど布地がなく、背中側は丸出しとなっている。ハイレグ仕様なのがまた腹が立つ。
 女性は水着から視線を外すと、躊躇うことなくサウナスーツを脱ぎ捨て、グレーのTシャツも脱ぎ去った。ブラも外し、肩から抜く。すると、凄まじい質量を誇る乳房が姿を現した。
 女性はタオルを取ると汗を拭う。乳房もゆっくりと拭き、谷間だけでなく汗の溜まった乳房の下も丁寧に拭く。
 一通り汗を拭き終わると、最後に残った下着も脱ぎ、水着を身に着けていく。
(プロレスの衣装ってセクシーなものがあるとは聞いていたけど・・・セクシー過ぎない?)
 鏡で自分の姿を確認し、更に思いを強くする。
「相手が強ければいいけどね」
 オープンフィンガーグローブを装着し、両手を開閉させる。その眼は、闘いを待ち焦がれるアマゾネスの光を放っていた。


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