【前 本編第六十五話】

 控室という響きに似つかわしくない広々とした個室の中、一人の美女が椅子に腰かけていた。
(モトハシへのリベンジ・・・簡単にはいかない、か)
 あのときの屈辱を思い出し、美女は奥歯を軋らせる。

 まだ若きアメリカ軍人であるビクトリア・フォレストは<地下闘艶場>という裏の舞台に上がり、元橋(もとはし)堅城(けんじょう)という達人に絶頂へと導かれた。
 闘いの場で性的に嬲られただけでなく、惨めな失神敗北を喫したことはビクトリアのプライドをずたずたにした。<地下闘艶場>に掛け合い、元橋への再戦を望んだものの、返答は「条件試合を課す」というものだった。

(いいわ。この試合に勝てば、モトハシと闘える、ということだもの)
 オープンフィンガーグローブを開閉させ、ビクトリアは闘争心を高めていく。
「でも・・・こんな衣装で闘えっていうのが、ね」
 どう見ても戦闘向きではないドレス姿に、ビクトリアはため息しかつけなかった。
「・・・ええい、色々考えても仕方ないわ! 勝てばいいのよ、勝てば!」
 これから淫劇の幕が上がるのだとわかっていたとしても、リベンジのためには突破しかないのだ。
 ビクトリアは、オープンフィンガーグローブで固めた両拳を打ち付けた。その途端、谷間も露わな胸が大きく揺れる。
 大きく息を吐いたビクトリアは、ドレスの上からガウンを纏い、軽いシャドーを始めた。今日の対戦相手ではなく、元橋を仮想敵として。


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